第11話

作:薊(超芝村的制作委員会)




1.体育倉庫の情事

(すみれ)

「ハァハァハァ・・・」

私は息を切らせて裏口から体育倉庫に駆け込みました。

「・・・はぁはぁ・・・なんとか・・・間に合ったみたい・・・」

体育館の中から聞こえる歓声を聞くに、まだ朔夜さんの試合中みたいです。

次はもう私の試合なのに、どうしてこんなにバタバタ走り回ってるのかというと・・・その・・・・・・マスクを家に置いてきてしまって・・・・・・(泣)

距離としては自転車で片道15分弱程度ですが、ウチの神社も学校もそれぞれ別の山の上にあったりするので・・・もう大変です。

動悸と息切れで目の前がくらくらします。これから試合なのに・・・

ちょっとやすませて・・・と思った時、壁の向こうから一際大きい歓声が聞こえてきました。

そしてその歓声は収まるどころか波打つようにだんだんと盛り上がっていって・・・


                         カンカンカンカンカン!!!


その合間からゴングの音が聞こえてきました

「ふええ・・・もう終わっちゃったの・・・」

よく考えれば、もう試合開始から30分以上経っていてもおかしくないので、当たり前かもしれません。

試合結果も気になりますが、それより早く着替えを済ませないと!!

アワアワとしながらとりあえず服を脱ぎます。

スウェードのベストを脱ぎながらスカートのジッパーをおろしストンと下に落とし、ベストを脇に抱えながらもう片手でブラウスのボタンをはずして・・・と

片方のカフスにボタンが4つずつ、カラーも少し高さがあってボタン二つどめのボタンダウン、合わせもやわらかいレースフリルのまえたての裏に隠しボタンになっていて・・・

「あああ、どうして、こんなボタンいっぱいで脱ぎにくいブラウスなんか着てきちゃったのよう・・・」

そう口にし出してみたものの、朔夜さんが来るからと何を着ていこうかドキドキしながら考えた昨日の夜の事がありありと思い出されます。

そうこうしながらなんとかブラウスのボタンを外しおえて、ベストと一緒に後ろにあるとび箱の上に置きにいこうとしたのですが・・・


                          どてーん!


脱ぎ落としたままのスカートに足をひっかけてしまい思いっきり転んでしまいました

「いったぁ・・・」

脱いだ服はもちろん、転ぶときに引っ掛けたバックの中からも試合用の衣装が散乱して、あたり一面大変な事に・・・

脱ぎ散らかした服に囲まれて下着姿で転げている様は、とても人には見せられません

「もうっ知らないっ!」

半ば自暴自棄になった私は、散乱した服をほっぽらかしたままで着替えを続ける事にしました

まずは、丁度頭に乗っかっていたマスクを被ります。

試合中に外れてしまわない様に割とぴったりした作りになっているので、つけるときは結構大変です

何とか被ってマスクの内側に挟み込んでしまった髪の毛をマスクの外に出し、位置決めが終わったら頭の後ろでしっかり紐を結んで・・・と・・・あとは猫耳をつけて取れないようにマスクと固定して・・・と

それから首輪をつけます。これは市販品を流用しました。

ペットショップで自分に合うサイズを選ぼうと首に巻いてるのを、他のお客さんに見られた苦い思い出が・・・

それはさておき・・・・残るは下着を脱いで水着を着ればOKです。

ブラを外す為背中に手を回します

「んしょ・・・っとと・・・と・・・・・・ん」

まだ慣れないのもあって背中のホックを外すのが苦手です。

急がなければとあせればあせるほど、うまくいきません

「フロントホックにしとけば良かったなぁ・・・」

ちょっと泣きがはいった所でようやくカチとホックが外れました

ブラを外した時の、すうっとする独特の開放感にひたって・・・いる場合じゃありません!

そのまま手早くパンツも脱いじゃいます。

まだくつしたを脱いでいませんが、裸のままでいる時間は短いほうがいいかも・・・

そう思って落ちていた水着を手に取りました。

ラ・ガティータのコスチュームは、市販の水着をベースに私が改造したものです

シッポを取り付けるための補強などもあって、型紙を起こしなおしていたりするので、ほぼイチからの作り直しみたいな物ですが。

「しっぽの位置決めが結構難しいのよね・・・」

取り外し式に作り直したほうがいいかなぁ〜・・・などと思いながら水着に足を入れようとしたとき、

ガラガラガラ・・・

後の方で倉庫の扉が開く音がしました!!

心臓が口から飛び出しそうになりながらも、とっさに、ボールかごの陰にしゃがみました・・・

ガラガラガラ・・・ガン

重い音をたてて扉がしまり、また倉庫特有の薄暗さが戻ってきました。


ズズッ・・・ズッ・・・ズズ・・・

どうやら気づかれはしなかったみたいですが・・・、何かを引きずるような音がだんだんコチラに近づいてきます

私は慌てて脱ぎ散らかした服を抱えるとボールカゴと跳び箱の物陰に這って移動しました。

(誰・・・?)

いえ・・・例え相手が誰であっても・・・猫マスクと靴下と首輪だけしか身に着けていない今の私は・・・どこから見ても変質者でしょう・・・

ぜったいに見つかるわけには行きません・・・!

情けない格好のまま、物音を立てないよう息を潜めて様子を伺います。

すると、とび箱二つはさんだ向こう側あたりで引きずるような音が止まりました。

コチラからも死角になっていて向こうは良く見えません

と、その時、

ボスン!

少し離れたところにあるエアマットに、音の止まったほうから何かが投げ出されるように飛んできました。

(・・・・・・・何?・・・・?・・・あれ?・・・!さ朔夜さん?!)

顔は良く見えないけれどそれは確かに朔夜さんでした。

(ええっ?・・・気絶・・・してる・・・みたい・・・でもなんで?)

とその時とび箱の死角からゆらりと人影が現れました。

(あ・・・・綾乃さん・・・! いったい何を?)

コチラからだと丁度後姿になりますが、間違いなく綾乃さんです。

どうやら、綾乃さんが失神した朔夜さんを引きずってきたという事のようです。

でも朔夜さんをこんな所に連れて来てどうするつもりなのかしら?

あれこれと考えているウチに、綾乃さんんは投げ捨てた朔夜さんの元に近づいていきました

失神した朔夜さんを見下ろしてふふんと笑う綾乃さん・・・

(あ・・・朔夜さん・・・試合・・・負けちゃったんだ・・・)

勝ち誇った綾乃さんの表情がそれを物語っていました。

と、いきなり綾乃さんは朔夜さんの上にかぶさるようによつんばいになりました!

(な!・・・何やってるのよっ!・・・)

あまりに事に大声をあげそうになりましたが、自分のとんでもない格好を思い出しなんとか言葉は飲み込みました

腕を朔夜さんの頭の横と脇の下に・・・膝を朔夜さんの腰の横あたりに揃えて置いた姿勢のまま、失神したさくやさんの顔を眺め満足そうに微笑む綾乃さん・・・

と、いきなり!・・・・ささ・・朔夜さんに・・・きき・・・キスしてるぅぅ!!!!

(な・・・なな・・・な・・・な・・・!!!!)

なんてうらやましい!!・・・じゃなくて、とんでもない事を!!!

と思う間もなく開いた片手が朔夜さんの下半身に・・・!!

(ふにゃぁあああうぅあうぅうにゃあぁあ○×△!!!!!)

     
          ぷち


頭の奥の方で何かが切れる音がしました

さんざんぱら長く深いキスを繰り返し、撫で回すだけでは飽き足らなかったのか・・・今度は朔夜さんの水着の紐を解こうとしてる不埒者の背後に忍び寄ります

(天誅ぅ!!)

背後からの怒りのセメントチョークスリーパー!

「・・・!!・・・!!!!っっ・・・・・・・・・っくく!!!っっっ!!!!・・・・・・・・・・」

不埒者Aに何が起こったか気づかせる間も与えず絞め落として瞬殺!成敗!

「全く・・・油断も隙も無いんだから・・・」

脱力した綾乃さんをずるずる引きずって朔夜さんから十分離して床におろします。

その段になってようやく自分が裸だという事に気がつきました。

早くこの場を立ち去らないと・・・

と、その時・・・


「んん・・・ん・・・」

背後から声が・・・

さ・・・さ・・・朔夜さん?!

このままじゃ見つかっちゃう・・・!

「んむ・・む?・・・んー・・・」

コチラに背中を向けた形でのそりと体を起こす朔夜さん


ここ・・・・こんな格好をもし朔夜さんに見られたら・・・私・・・わたし・・・・!!

(朔夜さんごめんなさいっっ!!!)


               
                 ドスッ!バキッ!!




2.ピーチクパーチク





(奈々子)

「ねー奈々子ちゃん早く次行こうよぉー、流花の出番ー」

そう流花ちゃんが言い出した

確かにそろそろ次にいかないとラチがあかないわね・・・

用具質は入場でも使わないといけないし、いつまでも綾乃ちゃんに貸しとく訳にもいかないでしょう

「でも・・・あの猫だかなんだかの変な人は?」

と、弥生ちゃん

そういえばそうね・・・私もすっかりどんよりしてて連絡取るの忘れてたわ・・・

(すみれちゃん、すみれちゃん・・・いるの)

とりあえず念話で話しかける。

近場にいればつかまる筈だけど・・・

(・・・ぱ・・・ふぁ・・・あ!・・・あの・・・ごちそうさまです・・・)

これはまた寝ぼけ倒した答えが返ってきたわね・・・

(ごちそうさま?)

(ああぅ・・・いえ・・・なな何でもないです・・・)

全くこの娘はボケボケなんだから・・・その割りに思念自体には妙なハリと艶があるみたいだけど。

(ちょっとしっかりしてよ・・・今どこ?)

(よ・・・用具室です。)

なんだ、すぐそこじゃない、と用具室の方に目を向けたんだけど・・・

(あれ?用具室ってさっき朔夜君たちが・・・?!もしかかして見つかっちゃったとか?)

(いえ・・・とっさに隠れましたし・・・今は気絶・・・してるので大丈夫です)

どんより落ち込んでた間にまずい事になったかと思ったけど、とりあえず大丈夫そうね

(そう、よかった・・・でも綾乃ちゃんは?)

(・・・えと・・・入ってきてからその・・・力尽きたみたいで・・・)

確かに激しい試合だったものねー・・・後で回復させてあげないと。

(OK、それじゃこれからみんなで用具室行くから、裏口から出てステージ裏に回ってね 例の入場用の衣装も其処にあるから)

みんなの注意を用具室の二人に向ればその隙にすみれちゃんも動きやすいでしょうし。

すると、

(あ!・・・ちょっとま・・・今水着、着ちゃうので・・・んしょ・・・)

慌てて返事が返ってきた。

ごそごそ、やってるらしく思念にブレが入ってるわね

(まだ着替えてなかったの!?)

(いえ、あの・・・あ、終わりました、これから出ます・・・)

まったく・・・時間は結構あった筈なのに今まで何してたのかしら?

まぁいいわ・・・念話を終えてコチラに意識を戻さなきゃ・・・・・・んん?


「・・・・さん・・・奈々子さん!きいてるんですか?」

弥生ちゃんが怒ったような顔で問い詰めてくる。

念話に意識を向けすぎてこっちの話が上の空になっちゃってたのね・・・すると、

「駄目だよ〜弥生ちゃん。奈々子ちゃん弥生ちゃんに負けたのが相当ショックでヘンになっちゃってるんだから」

・・・は?・・・今なんて・・・?

「あー城之内先輩、川元ちゃんに話かけられたりするとやっぱり色々・・・思い出しちゃうのかも・・・」

今度は神楽ちゃんが痛々しそうにコッチを見てる

「あ〜ん、じゃぁお姉さまはミナと話してる時、痛かったり悔しかったり恥ずかしかったり気持ちよかったりした事思い出してるんですねぇ!」

「うわぁ、馬鹿!抱きつくな・・・やめろー」

      ドスンバタン

「そ・・・そんなの奈々子さんが勝手に思い上がって勝手に落ち込んでるだけで、私が悪い訳じゃないし・・・」

・・・あの・・・

「んー・・・確かに負け犬ってかんじだよねー」

まけ・・・・・・・・・

「おねーさまかわいい♪」

「ばかー放せぇー」


・・・・・・・・・・・・・・・こ・・・このクソガキども!・・・好き勝手な事いってくれちゃって・・・・・・・・・


「シャラーップ!!!」

烏合の衆に一喝を入れる

「はいはい無駄話はいいからみんな、用具室に行くわよ!」

間髪いれず、仕切りモードにチェンジ

「えーでもぉ〜〜・・・」

「正直あんまり関わりたくないていうか・・・」

床の上で絡み合ったままの百合娘と、その被害者からはなんだか腰が引たような返答が帰ってくる

「ふーん・・・じゃぁ綾乃ちゃんが朔夜君に何しててもいいの?」

すかさず焚きつける言葉を投入。

「え?」

「ナニって・・・」

案の定小学生のお子様どもはいまいち理解してないわね・・・

「薄暗い密室で二人っきりで相手は失神中・・・あんな事やこんな事だって思いのままよね〜」

しょうがないのでわかりやすい言葉で再度説明してあげる



色めき立つ場内。ちょっと刺激が強かったかしら?


「こらー!!」

用具室に駆け出す流花ちゃん

「そんな・・・ふ・・・不潔ですっ!」

弥生ちゃんも続く

「やっぱりぃ・・・害虫は徹底的に息の根を止めなきゃ駄目ですよね〜〜〜」

神楽ちゃんを放し傍らにあった竹刀を担ぐと、美奈子ちゃんも続く

「いや・・・ほら・・・まずいって・・・なぁ・・・」

神楽ちゃんもアワアワと困った様子で後に続く


まったく、やっぱり私が仕切らないと話が進まなくてだめってことね・・・




3.入場コント




そんなこんなで、みんなが用具室に踏み込んで気絶してた二人引っ張り出し回復させて一段落・・・

そこでいろいろあったけど、めんどうだから割愛させていただくわね


「それじゃ、流花ちゃんは試合の準備準備〜♪」

「えーでも猫の人は〜?」

心配そうな流花ちゃん

「それなら大丈夫。さっきケータイにメールあったしもうそろそ向こうに来てる筈よ、ほら、入って入って」

開けたばかりの用具室に流花ちゃんを送り込む

「あ、流花ちゃーん 私セコンドつくね」

弥生ちゃんが流花ちゃんを追う

と、タイミング良くすみれちゃんから思念が届いた。

(奈々子さん・・・あの・・・)

(何?準備できた?)

(はい・・・でも・・・ホントにコレで入場するんですか?)

私の取り計らいに色々不満があるみたいね・・・

(当たり前でしょ、朔夜君喜ぶわよ〜)

打ち合わせの時と同じ口説き台詞を繰り返す。

(あの・・・それ・・・ホントに本当の話ですか・・・?)

現物を前にして怖気づいてるのかしら・・・まぁわからなくは無いけど。

(ゴチャゴチャ言わない、色々ばらされたいのかしら?)

アメがだめなら鞭。これが交渉の鉄則♪

(うう・・・わかりましたよぅ・・・)

ハイ、説得完了。これでよしっと♪

「ん〜それじゃぁ美奈があの猫のおねーさまのセコンドについてあげるですぅ〜」

パタパタと楽しそうにステージ方向に向かう美奈子ちゃん

あの・・・?おねーさま・・・??

あれ・・・美奈子ちゃんラ・ガティータに逢った事あったかしら?

相変わらず何を何処まで知ってるのかわからない、油断のならない娘ね・・・

私の邪魔さえしなければ良いけど、もし邪魔するようなら・・・っとそうそう

「あ、そうだ! 流花ちゃーん」

私は流花ちゃんを追って用具室へと移動する

「お邪魔するわねー」

私は用具室へと入ると、

「はい、入場用コスチューム」

どこからともなく衣装を取り出して、流花ちゃんに渡す

「奈々子さん、いったいどこから・・・って、これはなんです?」

と、弥生ちゃん

「だから、流花ちゃん用の入場コスよ これ着てね」

「ふ〜ん、チャイナ服にショートデニム?・・・あー!これあの・・・なんてゆったっけ?・・・格闘ゲームのキャラクター!?ほら、こーんなやつ!」

その場で地団駄を踏んでみせる流花ちゃん

「あら、知ってたんだ。流花ちゃんに似てるかもって思ってね」

「うーん詳しくはないけど友達の家でちょっとやった事あるし、けっこうかわいいからいいよー♪」

流花ちゃんはすんなりOKしてくれた

「ありがとね♪ それじゃ、もう少ししたら呼ぶから待っててね」

私は急いで更衣室を出る

これで準備はできたし、後は楽しむだけね♪


「それではみんなお待たせ! これから第2回SWGP一回戦第4試合!流花ちゃんとネコ娘の試合をはじめるわよ」

そして私はマイクを取ってリングに上がると

「赤コーナーより、堀部流花選手の入場です!」

流花ちゃんをコール

すると、勢いよく用具室のドアが開き、

「わーーい!!」

流花ちゃんが飛び出してきた

後ろに続くは弥生ちゃん

地団駄アピールをその場ですると、もう待ちきれないと言った様子でリングへと小走りに移動する

そしてリングイン!

「やっほー!!」

手を振る流花ちゃん

「流花が都古かぁ・・・・・・るか〜〜・・・・・・しっかりな〜〜〜・・・・・・」

朔夜くんが力無く応援する

「はーい!」

さて、次はすみれちゃんね

「奈々子先輩、あいつ本当に来ているんですか?」

神楽ちゃんが心配そうに聞いてくる

「大丈夫よ、神楽ちゃん みてなさいって」

そして、

「さぁ青コーナーからは、今回より初参戦! ラ・ガティータ・ビオレタの入場です!!」

ラ・ガティータをコールする

すると、

「あああああああっ!!!!」

みんなが一斉に驚きの声を挙げて、舞台の方を見る

そこにいたのはでっかい、ぬいぐるみ、というか身長180cmはありそうな・・・ネコアルクの着ぐるみ!

「な・・・・・・なんだあれ・・・?」

「・・・・・・なんかのキャラクター?」

「ね・・・ネコアルク・・・・・・」

当然みんな唖然

(な・・・奈々子さん・・・これ・・・かなり重いんですけど・・・・・・)

フラフラとステージの階段を降りながら、思念で語りかけるすみれちゃん

(がまんしなさい、朔夜くん喜んでいるわよ!)

(・・・唖然としているようにしか見えませんけど・・・)

そういいながらも、階段を下りるすみれちゃん

ところが・・・

「あ・・・あああ!!」

階段を踏み外し、そのまま顔面からダイブ

「ふぎゃあああああ!!!!」

ズザザザと階段をずり落ち・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・」

またも唖然とする一同

『い・・・痛いーーーーーー!!』

きぐるみの中から、すみれちゃんの悲鳴が聞こえてきた

しかもきぐるみ着ているし、階段で斜めに倒れているから起き上がれないでいるし

「大丈夫ですかぁ〜?」

すみれちゃんの後ろにいた美奈子ちゃんが、すみれちゃんを抱き起こす

「あ・・・・ありがとう・・・」

美奈子ちゃんの手を借りて、なんとか起き上がったすみれちゃんはフラフラとリングへと進んでいくんだけど・・・・

『うー・・・ううーー・・・』

『あう・・・・・・あう・・・』

ヨタヨタした動きと洩れてくるうめき声でなんかバイ○ハザードのゾンビみたいになってる・・・

「こ・・・怖っ・・・」

横を通り過ぎるネコアルクを見て神楽ちゃんが素直な感想を漏らす。

確かにやたらデッカイし動きはゾンビだしぬいぐるみ特有の視点のあってない感じとか・・・ちょっとしたホラー映画の空気ねこれは

(・・・大丈夫?)

自分で着せておいてなんだけど、一応聞いてみる

(お・・・重い・・・くるしぃ・・・前が見えな・・・)

「あのぉ〜〜〜本当に大丈夫ですかぁ〜?」

と、美奈子ちゃん

そんなとき、ネコアルクが壁の方を向いた

「あ、そっちじゃ・・・」

しかしフラフラと前へよろけ・・・

              ガンッ!!

「はうっ!!」

壁に激突!

そのまま後ろへとよろけていき・・・

「ちょっとねこさん・・・」

美奈子ちゃんが支えようとするけど・・・

「きゃん!」

美奈子ちゃんを跳ね飛ばし・・・また前へとよろけていく

              ガンッ!!

「あうううーー!」

今度は横へとよろけていき・・・・・・

壁に激突し大きく弾かれると足がもつれて

「ふぎゃっ!!」

              ボデッ

あ、転んだ・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・」

そんなすみれちゃんに、朔夜くん達はいまだ唖然として動かない

「あ〜〜〜〜う〜〜〜〜」

なんとか起き上がろうと、またまたもがいているすみれちゃん

そのうち、

「しくしくしくしくしく・・・・・・」

あ〜あ・・・泣き出しちゃった・・・

そうそう、忘れていたけどこのネコアルクのきぐるみ、かなりの重さで総重量30Kgオーバー!!

自衛隊の行軍などで背負っている背嚢と同じくらいの重さよ、さすがに女子中学生にこれは酷だったわね♪

しかも視界・エアフローは最悪だし、円筒状の体や無駄に大きいブーツは超歩き難いし

自分で作っていてなんだけど、冗談みたいな代物よね

「仕方ねーな〜」

あ、見かねた神楽ちゃんが救援に行った

そして倒れて泣いているすみれちゃんを起こす

「大丈夫か? うわっ!!重たっ!!何だこりゃ?」

「うう〜〜〜〜〜〜ありがとうございます・・・・・・」

「なんでこんな重いモン用意したんだ? これじゃ、試合やる前につかれるだろ?」

「それは・・・・・・私もヤダったんですけど・・・・・・グス・・・いろいろあって・・・・・・」

すみれちゃん神楽ちゃんに支えられながらリングへと歩いていく

美奈子ちゃんも、

「本当に大丈夫ですかぁ〜〜?」

反対側を支える

そしてリングの前に来たけど・・・・・・どうやってリングインさせようかしら?

脱がせるしかないかしら?、とおもっていると

「折角こんなん用意したのにリングに入る前に脱ぐのもなぁ・・・」

と、神楽ちゃん

オットコマエというか結構面倒見がいいタイプね

「さくやー、あやのーちょっと手伝ってくれー」

「ああ・・・うん」

「そ、そうね」

神楽ちゃんに呼ばれて綾乃ちゃんと朔夜くんも手伝うべくリング下へ

「おーい、朔夜 そっち持ってくれ」

「りょうかーい」

「コラー!お姉さまに話しかけるなーー!!」

「それじゃ私は体を支えるわ・・・」

「いいから美奈そっちの足の方持てって」

わいわいと4人がかりで、ネコアルクのきぐるみを担ぎ上げてエプロンに登る

シュールな絵だわ・・・

「だめだロープの間は頭通らないや」

「どうしよっか・・・」

「しょうがないな・・・トップロープの上から担いだままいれよう」

「あ〜〜ん♪ 生足が素敵〜」

「ふにゃぁ〜〜〜やめてーーー」

・・・なんだかんだで楽しそうにやってるわね

「さぁ〜〜!ラ・ガティータ・ビオレタ!前代未聞!担ぎ込まれ式のリングインで登場です!」

私も負けじとリングインの実況

「流花ちゃん、・・・ネコさん大変ね・・・」

「うん・・・」

汗ジトでみる弥生ちゃんと流花ちゃん

「うわっ」

と、その時神楽ちゃんが手を滑らせて・・・

「ふぎゃ!」

頭からマットに落ちるすみれちゃん

「うわ・・・ご・・・ごめん」

謝る神楽ちゃん

「だ・・・大丈夫?」

覗き込む昨夜君

「うう・・・み・・・見ないでください・・・」

流石にちょっと哀れねぇ・・・まぁ、面白いからいいけど♪

なんとかみんなに起き上がらせてもらってようやくリングに立ったネコアルク

さて役者も揃ったし準備いいわね・・・




4.コメディリリーフ?




「それでは、赤コーナー! リングの妖精・・・堀部ーーー流ーー花ーー!!」

私がコールすると、

「YESっ!!」

そう言って右拳をつき上げる

うん、ちゃんとわかっているようね♪

このネタ、メルティーブラッドやったことある人じゃないと解らないけど・・・まあいいか

「流花ちゃん、がんばってーーー!」

「しっかりなーー」

綾乃ちゃんと朔夜くんが声援を送る

「で、お次はっと♪」

私はコーナーにもたれて疲れたオーラを出してるすみれちゃんに向き、

「青コーナー! 謎のお笑い担当鉄砲玉仮面、スーパーギャグキャラクター・・・ラ・ガティータ・・・ビオレターーーー!!」

そうコールすると、

「誰がギャグキャラですかっ!!」

ヨタヨタとよろける着ぐるみの中から怒ったような抗議の声がかえってくる

私が言うのもなんだけど、そのカッコで言われても説得力まるでないわね〜

「ハイハイ、御託はいいから早く着替えて着替えて」

そう言って着ぐるみの頭を外そうとすると

「あれ・・・外れない・・・わね?」

「あ・・・頭がひっかかっちゃって・・・うまく・・・ぬ・・・抜けないです・・・」

すみれちゃんの困った声が返って来る

もうちょっと余裕を見て作っとくべきだったかしら・・・

「うーんそれじゃ、力ずくで強引に引っこ抜くしかないわね」

がっしりと着ぐるみの頭を捕まえる

「ちょ・・・ちょまっ!・・・奈々子さっ・・・」

問答無用!せーのっ

「ふにゃーっnoiedlkpo○×△!!!」

響くすみれちゃんの悲鳴。さてこれでよしと・・・あれ?

「とれない・・・なんで?」

と、良く見ると着ぐるみの手をほっぽり出してまで必死に頭にしがみついてるすみれちゃん。

「ちょっと・・・何やってるのよ!」

すみれちゃんに文句を言うと

「・・・く・・・首が抜けちゃうでしょっ!!」

すみれちゃんが悲鳴に近い声をあげる

「取ろうとしてるんだからしてるんだからそんなのあたりまえじゃない」

「そうじゃなくて!ホントの首が抜けちゃうって言ってるんです!」

きーきーとやかましいわねこの子は・・・

「そんなの大丈夫だって、それっ」

「うにゃーっ!!」

・・・・・・ちっ

ぶんぶん振り回してもしっかりしがみ付いて離れないわね・・・

「ねーまだー?早くして〜よー」

さっさとコスチュームを脱ぎ終えてストレッチをしながら文句を言う流花ちゃん

「ああ、ハイハイもーすぐだから、ちょっと待っててねー」

あーもうめんどくさいわねぇ・・・よーしみてなさいよぉ

「セコンドの美奈子ちゃーん、この子を、脱・が・す・の・・・手伝ってくれる?」

「ぃい?!!」

時間も無いしコッチも手段選ばないわよ

「きゃ〜ん!!!そーゆー事なら美奈子におまかせですぅ〜」

エプロンサイドからスワンダイブ式に飛んできてすみれちゃんに抱きつく美奈子ちゃん

「ふにゃぁああああ!!!」

すみれちゃんが悲鳴をあげて逃げようとする、隙ありっ

「そりゃぁぁああああ!!」

間髪入れずに着ぐるみの頭を思いっきり引っぱる!!

「ぅうぅぅううにゃぁああh@s‘&%!!!」

             
          ポンッッ!!



いかにもな音と共に着ぐるみの頭が抜け反動で後ろに転がるすみれちゃんと美奈子ちゃん

ふーやれやれっと

「じゃ美奈子ちゃん、あとはヨロシクね」

「はいですぅ!」

「ふぇ?や・・・やめ・・・にゃぁああ!!!」

・・・餅は餅屋というべきか、瞬く間に着ぐるみを剥ぎ取っていく美奈子ちゃん

これはもはや立派な特殊技能だわね・・・・・・関わり合いにはなりたくないけど

「じょ・・・城之内先輩っ!」

リング下からの神楽ちゃんの声にふと我に返ると、すでにネコアルクの着ぐるみを全部剥ぎ取り終わった美奈子ちゃんが

すみれちゃんに馬乗りになって水着に手をかけている姿が飛び込んできた。

「うふふ〜脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」

「ひぃいっ・・・」

・・・・・・

まーなんてゆーか予想通りの見事なお約束っぷりだわね・・・

「ハイそこまで!」

「ぎゃんっ!」

とりあえず美奈子ちゃんを場外に蹴り落とす

「ふぇぇ・・・」

「ハイハイ泣かない泣かない」

半泣きのすみれちゃんの外された肩紐を直してあげていると

「あ〜んもうちょっとぉ」

性懲りも無く昇ってこようとする美奈子ちゃん

「いいかげんにしろっ!!」

                      ガンッ!!

「きゃんっ!!」

神楽ちゃんの鉄拳制裁が炸裂

「痛いですぅ〜〜〜なにするんですかぁ〜〜〜〜」

涙目で訴える美奈子ちゃん

「うるさいっ少しおとなしくしてろっ!」

神楽ちゃんが美奈子ちゃんを取り押さえる

「あ〜お姉さま・・・またヤキモチやいてるぅ♪」

「うわっ・・・ばっ・・・はなせっ!」

「や〜んカワイイ!」

「ああっ、へんなとこさわ・・・あっむぅ・・・」

どすんばたん


・・・あーもう・・・

まぁ神楽ちゃんには悪いケド今のうちに進行しちゃわないとまた収集つかなくなるわね

とりあえず、美奈子ちゃんには神楽ちゃんを「アメ」として与えておく事にして、と

「あーそれじゃ始めたいんだけど・・・大丈夫?」

「・・・あ・・・はい、大丈夫です」

ベソかいてたすみれちゃんもなんとか落ち着きを取り戻したみたい

「オッケー。じゃあそっちは・・・」

流花ちゃんは、待ってましたとばかりに元気に立ち上がる

聞くまでも無いみたいね。それじゃいきますか


「さーて、第2回SWGPトーナメント一回戦最終試合!流花ちゃんVSネコ少女!!それじゃーいくわよーーー!  レディー、ファイッ!!!」

私は試合開始の合図をした




5.一回戦第四試合 流花 vs ラ・ガティータ・ビオレタ




「流花、油断するなよー 彼女は強いぞ」

朔夜くんが流花ちゃんに言う

「りょうかーい♪」

不適な笑みを浮かべる流花ちゃん

ラ・ガティータも、リング内を回る

「ネコさん、いっくよーー!!」

流花ちゃんがしけけていった!

いきなり間合いを詰め、回転して後ろ回し蹴り!!

「えっ!? きゃああ!」

いきなりの打撃技に、あわててかわすすみれちゃん

わたしもこれはちょっと驚いた

まさか、いきなりこんな蹴りで来るなんて思わなかった・・・しかもけっこうきれいな蹴りだし・・・・

「シュッ!」

続いて左ハイキック!

「くっ!」

すみれちゃんは後ろへと下がって、さらに間合いを取る

流花ちゃんはそれ以上追い込まないで、不敵な笑みを浮かべ、軽くステップを踏んだ

「流花ちゃん、いつのまにそんな動きを?」

と、綾乃ちゃん

「んー?これでも弥生ちゃんから空手の基本を教わったこともあるからね〜」

「それだけ?・・・」

美奈子ちゃんに抱きつかれた状態で観戦してた神楽ちゃんが驚く

たしかにそうね、流花ちゃんって格闘センスすごいのかも・・・

すみれちゃんは仕切りなおしと、両手を顔の高さに掲げて構えつつ、しっかりと流花ちゃんを見ている

「さあ、覚悟してねネコさん!!」

流花ちゃんは左手を開いて前へ突き出し、右の拳は腰に

伝統的な空手の構えね

「やあっ!!」

流花ちゃんが一気に間合いを詰めて、すみれちゃんの胴体に正拳突きを放った!

「くっ・・・」

すみれちゃんはギリギリで捌くと同時に、流花ちゃんの腕を取る

そのまま流花ちゃんの手をひねって投げる!

柔術の技ね

「あうっ!」

マットに叩き付けられる流花ちゃん

そしてそのまま腕ひしぎへともって行くすみれちゃん

しかし、

「え?」

流花ちゃんの腕が、するりと逃げ出した

そして、


                           ガツッ!


「あうっ!!」

すみれちゃんに流花ちゃんの回し蹴りがヒット!

そして、ダウンしたすみれちゃんに馬乗りになる流花ちゃん

「ネコのお姉さまーー逃げてくださいですぅ〜〜〜!!」

美奈子ちゃんが叫ぶ

しかし、

「くらえーーー!!」

流花ちゃんはすみれちゃんに掌底の連打!

「きゃああ!! ちょっと・・・まって・・・」

いきなりの展開に、あせるすみれちゃん

両腕でガードすることしか出来ないようね、入場の疲労と焦りでいきなりのピンチ?

「あう!・・・あぐぅ・・・」

あ、掌底が入ってきた


6.一進一退



(すみれ)

「痛いってば! ちょ・・・あう・・・」

あーもーーあんな重たいかっこうさせられて、疲れているところにこんなめにあうなんて・・・

おまけ流花ちゃん、私より身軽だしチョコマカしてとらえ所がないし・・・こういうタイプは慣れてないのでやりにくいかも

「このっ!」

私は流花ちゃんのお腹のツボを親指で押しました!

「うっ!」

私を殴ろうとする手が止まりました

その瞬間、

「せいっ!」

私は流花ちゃんの腕を掴んで、体を捻りました

「あっ!?」

流花ちゃんのバランスが崩れると同時に、私は足を流花ちゃんの首に引っ掛けます

そして再び腕ひしぎにもっていこうとするのですが、やはり同じように腕を引き抜こうとしてきます

ならば!

「やっ!」

足で流花ちゃんの首を挟んだまま体をひねり、

「きゃっ!!」

流花ちゃんをマットに転がしました!

しかし、私が起き上がると同時に流花ちゃんも起き上がってきました!

そして、

「やるね、ネコさん!」

そのまま組み付いてきて、驚く私をロープへと振りました!

「いっくぞーー!!」

流花ちゃんも走ってきて・・・

「ヤーーーー!!」

流花ちゃんのボディーアタック!

「ああああっ!!」

私は流花ちゃんに押しつぶされちゃいました!

「ワン・・・ツー」

奈々子さんがカウントをとりますが、私はすぐに返しました

流花ちゃんは特に武術の訓練はしていない筈ですが基本的な動きがとてもいいです

身体能力とセンスの高さのなせる業でしょうか

「このー!」

起き上がった私に、流花ちゃんが掴みかかって来ました

「ハッ!」

私は流花ちゃんの腕を絡め、首を掴んで投げ倒しました!

「きゃん!」

フライングメイヤーに酷似した技ですが、古流柔術などにはよくある投げ技です

そしてそのまま流花ちゃんを三角締めにもっていきます

勝ち抜きトーナメント戦ですし、早くに勝負をつけるに限ります

「あうう〜〜〜」

もがく流花ちゃん

しかし私の三角締めからは逃れられません

逃れられたとしても、次があります

「ギブアップ?」

「ううう〜〜〜ノーだよー!」


                     ずる

え? 抜けてきた?

「ううう〜〜」

強引に流花ちゃんが引っこ抜こうとします

このままでは、逃げられてしまいます

だったら・・・

「このっ!」

私は流花ちゃんの体を返し・・・・・・

えーっと・・・すみません、説明長くなるので省略しますが、「La cuna de un angel(天使の揺り籠)」を流花ちゃんにかけました!

詳しい説明は第6話の、私と朔夜さんの試合を読んでいただければ・・・解説図もありますので参考にしてください

〜閑話休題〜

「いやああああああああああ!!」

流花ちゃんが悲鳴を挙げました

「さあ、流花ちゃん! この技から逃れる事はできませんよ!!」




7.怪奇たこちゅー娘




(朔夜)
あの三角締めからの動き・・

あれは以前ぼくとネコ少女が闘ったときに、ぼくがくらったやつだ!

あれはやばい!

「流花、逃げろ!」

ぼくは流花に叫ぶ

しかし、叫んだときにはすでにあの技が極まっていた

「いやああああああああああ!!」

流花が悲鳴を挙げる

「あああーーーー!!流花ちゃん、なんてうらやましいことを!!!」

・・・・・・美奈子ちゃんがなんか言ってるケド・・・

くらったことあるぼくとしては、うらやましいとは流石に思わない

確かに胸が顔に当たるけど、その感触を楽しむ余裕なんて・・・あの苦しさは半端じゃない

しかしいきなりあれをだしてくるなんて・・・ネコ少女はさっさと勝負を付けるつもりだ・・・

「流花ちゃん、ギブアップ?」

奈々子さんが聞くけど、

「ノーーー!!」

流花は揺られながらもギブしない

でも、このままだといずれ耐え切れなくなるよ・・・

「さあ、流花ちゃん!!」

「うううう!!」

そのとき、

               ぐにゃ


流花の体が気持ち悪いぐらい反り返った

「うわ!・・・お・・・折れた?」

神楽ちゃんが青ざめた声をだす

そう見えるけど・・・いや・・・違う、流花が自分から極められてる方に体を反らしたんだ

それによって、ネコ少女のホールドが緩んだ!

「う〜っ!!」

開いた隙間を利用して思いっきり頭振る流花


          ガンッ!!

「あうっ!!」

流花の頭が、ネコ少女の顎をヒットした!


「今よ流花ちゃん!」

と、弥生ちゃん

「うが〜っ!!」

ネコ少女の隙をついてにゅるりと抜け出す流花。あいつは軟体動物か・・・

「ああ!」

ネコ少女が、顎を押さえながら心底残念そうな声を出す

流花は・・・まだダメージが残っているみたいで、ネコ少女から離れて身構えている

顔をしかめながら間接のチェックをしてるけど、基本的には大丈夫みたいだ

「あんな・・・無茶な抜け方をするなんて・・・」

フラフラと立ち上がるネコ少女

そのとき流花はロープへと走っていた

「え?」

ネコ少女が気づいたときには、流花はすでに飛んでいた

「くらえー!!」

流花のフライングボディーシザースドロップが炸裂!!

「あうぅ!!」

マットの押しつぶされるネコ少女

そして流花はそのままフォール!

「はい、ワン・・・ツー」

「くっ!」

なんとか返すネコ少女

すると流花はすぐに起き上がり、まだ倒れたままのネコ少女にストンピング連打!

「きゃっ! あうっ! く・・・」

ガードして耐えるネコ少女

流花じゃ相手にならないかと思ったけど・・・なかなかどうして良い試合になってる




8.てつざんこー!




(奈々子)

「さっきのお返しだぁー!」

流花ちゃんは、素早くすみれちゃんの首に足を絡める

あら、これは首四の字ね

さっきの三角締めのお礼ってところね

「うく!・・・くくく・・・」

流花ちゃんの細い足が、すみれちゃんの首を絞める

「ううううう・・・」

「ギブアップ?」

「の・・・ノーです・・・」

がんばるわね〜すみれちゃんは

「さあさあ、どうするの?」

「くううう!!」

苦し紛れなのか、すみれちゃんが流花ちゃんももろとも転がりだした

それによって、流花ちゃんの足が外れた

「あ〜もうっ!」

流花ちゃんが残念そうな声を挙げる

そしてすみれちゃんは急いで離れる

「ハアハアハア・・・」

息を切らすすみれちゃん

「ハア〜〜〜〜〜!!」

流花ちゃんが空手の構えを取る

「ふう〜〜〜〜」

その間にも、なんとか呼吸を整えるすみれちゃん

でも自分からは攻めていかない

それがすみれちゃんのスタイルではあるけど、それ以前にかなり警戒してるみたいね

ファイトスタイル的に相性が良くないのもありそうだけど

流花ちゃん前よりもかなり打撃が上がっているしウェイトの問題もあるけど、私でも流花ちゃんの打撃は油断できないわね〜

「・・・む〜〜」

流花ちゃんがジリジリと間合いを詰めていく

「シッ!!」

流花ちゃんの右足が動いた!

膝を前に出しているところを見ると、前蹴りね

しかし、

「えぐっ!?」

流花ちゃんのミドルキックが、すみれちゃんの左脇腹にヒットしていたの!

膝を突き出して前蹴りと思わせ、ミドルキックに変化させるなんて

この蹴り方・・・・朔夜くんの骨法だわ!

朔夜くん、いつもこんな蹴り方していたわ

私を含め、みんなそれで蹴りをくらっていたし・・・

「シュッ!シュッ!」

続いて流花ちゃんの左右の掌底連打!

ビシビシとすみれちゃんの顔にヒットする

「シュッ!!」

「あぐっ!!」

流花ちゃんの掌底フックがきまった!

ふらふらとよろけるすみれちゃん

そこへ下から潜り込むように懐に入る流花ちゃん、これは?

「ハアアアアッ!!」

              ドゴオオオオン!!


マットを踏み抜くような鋭い踏み込みと共に背中から流花ちゃんの強烈な体当たり!!

「うあああぁあああぁああ!!」

すみれちゃんが吹っ飛び・・・

「あぐううっ!!!」

コーナーに激突して崩れ落ちちゃった・・・

「これって・・・・八極拳の・・・」

「うん、えーとなんだっけ・・・そう、てつざんこー!。はっきょくけんだって言うからゲームの真似してみたの」

ゲームの真似って・・・そんなみよう見真似でうまく行く訳が・・・

でもすみれちゃんは起き上がって来れないみたいだし

流花ちゃんのKO勝ち?

「ダ、ダウン!」

とりあえず私はダウンを宣告し、カウントを取り始めることにしたの

「ワン・・・ツー・・・スリー・・・」

「ウウ・・・う〜〜ん・・・」

ぐったりとしているすみれちゃんだけど、なんとか動き出した

「フォー・・・ファイブ・・・」

「ま・・・まだですよ・・・」

すみれちゃんがロープを掴んで、フラフラと立ち上がる

「ふ〜〜〜ん、まだ立てるんだ〜〜」

「あ・・・当たり前です・・・ハアハア・・・負けるわけには・・・」

すみれちゃんはあんまり打たれ強い方じゃないとは思うけど、今のは相当な破壊力があったみたいね。

「空手や骨法それに・・・中国拳法までつかえるなんて・・・」

フラフラしながら言うすみれちゃん

「う〜ん、いつも弥生ちゃんやお兄ちゃんとか見てるし、格闘ゲームも良くやるから・・・流花なんか負けが多いから色んな人のマネしてみようかなーって練習したの」

「・・・・・・・・・・・・」

唖然とするすみれちゃん。確かに気持ちは良くわかるケド。

「あー信じてないな〜流花、マネするの得意なんだから!」

信じないも何も、技の威力はすみれちゃんが身を持って実感してるって感じよね

流花ちゃんもしかして天才系?

「だからネコさんのルチャの飛び技も見たかったけどそんなフラフラじゃあ使えないよね〜〜」

流花ちゃんが挑発する

「そ・・そんなことないです!!」

と、すみれちゃん

でも、結構無理っぽいわよね・・・

脚、カクカクしているし・・・

「まぁそんなの見なくても飛び技は流花も得意だからマネする必要なんてないけどね〜」

勝ち誇る流花ちゃん

「誤解があるようですがルチャ・クラシコの本質は決して飛び技にあるのでは無くて・・・」

「くらしこ?」

クラシコ・・・古典的なルチャって事かしら?まぁどっちにしろ流花ちゃんに理解しろっていうのは無理があるわよね

「いえ、いいでしょう・・・代わりに私は古流の柔術を見せてあげますよ」


そう言ってすみれちゃんは、自然体になると、右足を前に半身になる

「こりゅう?なんだかよくわかんないけど、それじゃあ、見せてもらおーかなっと♪」

そう言いながら流花ちゃんは、ぴょんぴょん跳ねて、両手を開いて顔の前にもっていく

骨法の構えね

「・・・・・・」

すみれちゃんは静かに呼吸をしている

呼吸法によって、気持ちを落ち着かせて体力も回復させているってところかしら?

詳しくはよくわからないけど・・・

「えいっ!!」

流花ちゃんが動いた!




9.修練vs才能




(朔夜)

流花のやつ、いつのまにあんなに打撃技がうまくなっていたんだろう?

骨法だって、こんな感じにやるんだくらいしか教えていないのに

しかも、さっきのは鉄山いや貼山靠、だっけ?たぶん八極拳の技だ・・・

確かにあいつは何か武術をやってる訳でもないのに他のみんなと普通に戦えちゃってたし

運動神経や格闘センスがズバ抜けてるのはわかってたけど・・・実の妹ながら恐ろしい奴だ

「あうっ!!」

「え?」

見ると、流花が宙を舞ってマットに叩き付けられている所だった

しかし流花はすぐに起き上がる

「えいっ!!」

ネコ少女にローキックを放つ!

それに合わせ、ネコ少女も前に踏み出すと同時に両手を重ねて打ち出す!

「あうううっっ!!」

流花が吹っ飛んだ!!

「流花っ!?」

ぼくは思わず叫んだ

「ダウン!!」

奈々子さんがダウンを宣告

「ワン・・・ツー・・・スリー・・・フォー・・・」

「立って、流花ちゃん!!」

弥生ちゃんが叫ぶ

「ううう〜〜〜〜・・・」

ダウンして唸っている流花

「あ〜んお姉さまステキ〜、早くそのペタン星人をやっつけて〜」

セコンドから野次と一体となった声援が飛ぶ。ペタン星人・・・

「誰がペタン星人だぁっ!」

ピョコンと跳ね起きる流花

あんまりダメージくらっているようには見えない・・・・・・もしかしてさっきの演技か?

「大丈夫?」

と、やよいちゃん

「大丈夫だよ あれくらいじゃまだまだやられないもん」

どうやら本当に大丈夫みたいだな

「流花ちゃん、気を付けて ネコの人、本当に古流の柔術を使うみたい」

確かに以前対戦した時もそれっぽい技を使っていたような・・・

「いくぞーー!!」

流花が動いた!

こんどは前蹴り!!

しかし、ネコ少女は体を半身にしてかわすと同時に、流花の脚を掬い上げ、胸元に逆水平チョップ!!

「あうっ!!」

流花、派手にダウン!

「くうう〜〜〜」

でもすぐに転がって逃げた

「柔術は打撃技に弱いと思ってましたか? 古流の技は合戦の場で培われた物、様々な動きにも対応できるんです」

まぁ戦国時代の武術なんてルール無用の実戦で生き残る為のものだったんだろうし当然なんだろうな・・・

「だったら・・・」

流花はロープへと走る!

そして反動で戻ってくると、

「くらえーー!!」

ドロップキック!!

「甘い!」

              バタンッ!!

「きゃう!」

かわすと同時に叩き落とされた・・・

「くっそーー!」

素早く立ち上がって、ボクシングのワンツーパンチ!!

けっこうサマになっているな・・・神楽ちゃんから動きを盗んだんだな

「無駄です!」

「あれえ〜〜〜」

今度はその手を掴まれて、ロープへ振られる流花

そして戻ってきたところで、ネコ少女が飛んだ!

「ハッ!!」

ネコ少女は流花に抱きつくように飛びかかると、体を捻って遠心力で流花を投げ飛ばす!!

「わあぁ〜〜〜〜〜」

派手にダウンする流花

まだ派手なルチャ技をやる余裕があったなんて・・・

いや・・・どうやらネコ少女は、さっき柔術で流花の技を受け流しながら、体力を回復させていたっぽいけど、流花に挑発されたのを気にしてたのかな?

「ううう〜〜〜〜やるじゃないのネコさん! あれ?」

起き上がった流花の前には、ネコ少女がいない」

「流花ちゃん、後ろ!!」

弥生ちゃんが叫ぶが、その前に

「これはどうですか?」

後ろにいたネコ少女が、流花に組みついて絡みつく!

チキンウィングフェイスロックだ!!

「あぐううぅぅうう・・・・・・」

「流花ちゃん、ギブ?」

奈々子さんが聞くけど、

「ノーノー!!」

首を振る流花

「何とか逃げろ流花!」

と、ぼく

軟体タコ娘の流花ならできるはずだ

「うううぅぅ〜〜〜」

                ズル・・・

「え?」

ネコ少女が、流花の体が少しずつ抜けている事に気づいた

恐るべし、たこちゅー!

「く・・・」

するとネコ少女は、自分から技を解いた

「あうう・・・」

フラフラとよろける流花

そこへ、

「終わりです!!」

ネコ少女が、流花の背後から組みついてきた

あの体勢は、タイガースープレックスをやる気だ!!

しかし、

「うがーっ!!」

「うあっ」

      ガンッ!!

流花のがむしゃらな頭突きがネコ少女の顔面に炸裂

流花がするりと抜け出した!

そして顔を押さえるネコ少女の後ろへと回り込んでいた

「よくもやったなー!」

流花はネコ少女の頭を押さえて飛ぶ!

あいつの得意技の一つ、フェイスクラッシャーだ!!

「あうううう〜〜〜〜」

マットに顔を叩きつけられ、可愛そうな悲鳴をあげるネコ少女

「この! この!」

流花は倒れたネコ少女をストンピングで蹴りまくる!

「あう! や・・・やめて・・・」

ネコ少女は、流花にされるがままだった

「さあ〜〜もう一回♪」

ネコ少女の髪を掴んで立ち上がらせる

そして、ネコ少女の背後に回る

「そうはさせません!」

流花の腕を取るネコ少女

しかし、

「うあぅうぅ!!!」

悲鳴を挙げたのはネコ少女だった!

ネコ少女が捻ろうとした瞬間、流花の足刀蹴りがネコ少女の鳩尾に炸裂していた!!

「ダウン!!」

奈々子さんがダウンを宣告した!

「YES!!」

流花が拳をつきあげた。まだそんな余裕があるのか

「いいぞー流花ちゃーん!」

弥生ちゃんが声援を送る

「流花、油断するなよー」

と、ぼく

「ワン・・・ツー・・・スリー・・・フォー・・・」

まだネコ少女は起き上がれない

これはKOいける?

「ファイブ・・・シックス・・・セブン・・・」

「うう・・・」

ネコ少女が起き上がってきた

「まだですよ・・・」

必死の形相で、構えるネコ少女

でもさっきの足刀蹴りのダメージは取れていないね

「チャンスよ!流花ちゃん!!」

弥生ちゃんから流花に激が叫ぶ!

「OK!!」

流花が動いた!

「やっ!!」

流花のローキック!!

「あうぅ!!」

ヒットした!

「やっ!!」

さらにもう一発!!

「いたああい!!」

よろけてコーナーにもたれるネコ少女

「よ〜〜し!」

流花は反対のコーナーへと走ると、

「いっくよーーーーー!!!」

反対側のコーナーから、ネコ少女めがけて走る!

そして側転し、

「ヤアッ!!」

スペースローリングエルボーが、ネコ少女に突き刺さった!!

「あぐっ・・・」

コーナーでぐったりするネコ少女




10.画竜点睛を・・・




(奈々子)

しかし流花ちゃんがここまですみれちゃんを追い込むなんてね・・・

すみれちゃんは流花ちゃんみたいなタイプが相性的に苦手なのは間違い無いみたいね

私にしてみれば流花ちゃんはパワーとウェイトの差でがんがん押していけるから割とやり易い相手なんだけど

逆にすみれちゃんみたいな力押しの通じにくいタイプはどうにも苦手。

ただ、そうはいっても今日の流花ちゃんは打撃もリニューアルされてるし格段に手強いと思うけど

まあ、朔夜くんの妹だし・・・格闘センスが高いのは認めざるえないわね

「もう一丁ーー!!」

流花ちゃんがすみれちゃんを、反対のコーナーへと振る!

そして、コーナーに背中から激突したすみれちゃんに向かって走る!

こんどはヒップアタック!!

しかし、

「くっ!!」

とっさにコーナーのトップロープを軸に後転してエプロンに逃げるすみれちゃん

「ギャンッ!!!」

そしてかわされた流花ちゃんは、コーナーポストにヒップアタックしちゃった・・・

流花ちゃん・・・・痛そう・・・

「流花ちゃーんしっかりー」

「う〜〜〜ん・・・痛いよぉ〜〜〜」

お尻を押さえ、泣きそうな流花ちゃん

そこへ、

大車輪の要領でトップロープを軸に回転するとそのままふわりと飛ぶすみれちゃん

「えっ?」

流花ちゃんが顔を上げようとした瞬間、流花ちゃんの首を太腿にに挟み込むように着地

[わぁっ!」

あわてて逃げようと出した流花ちゃんの腕を捕まえるすみれちゃん

「よくもやってくれましたね・・・さあ、踊りなさい、La Marioneta!!」

そう言うなり、流花ちゃんの首を太腿で絞め上げ、腕ごとひねって肩を極める

あれは、以前朔夜くんがくらっていた技よね。マリオネータってマリオネットの事かしら?

「が・・・は・・・」

流花ちゃん、苦しそうね

しかも腕も極まっているし・・・

「跪き懺悔なさい!それとも力尽きるまで踊るのがお望み?」

すみれちゃんはそういいながら、流花ちゃんをマットの中央へとも連れて行く

「流花ちゃん、ギブ?」

と、聞いてみる

「ノーッ!!」

怒鳴る流花ちゃん

絶対にギブしそうにないわね〜

「これならどうですか?」

すみれちゃんが、さらに腕を極める

「イヤアアアアアアアア!!!」

殆ど泣き声の流花ちゃん

でも絶対にギブはしないみたい

「さあ、ギブしなさい!!」

「嫌だーーーーーーーーーーーー!!!」

ホント根性あるわよね

「ならば仕方ありません・・・今楽にしてあげます!!」

すみれちゃんがそう言い放った

もしかして、この体勢からだと・・・

「終わりですよ流花ちゃん・・・」

やはりライガードライバー出す気ね!

「させるかーーーーーーーー!!」

すみれちゃんがライガードライバーの体勢に入ろうとした瞬間、流花ちゃんは一瞬の隙をついてその場で回転した!

「ガハッ!!」

すみれちゃんは弾けるように倒れる

今の瞬間、ライガードライバーの体勢から脱出すると同時に、すみれちゃんに浴びせ蹴りを放ったんだわ!

「流花ちゃん、今よ!!」

弥生ちゃんが叫ぶ

そして流花ちゃんは、倒れたすみれちゃんをうつ伏せにして、足を絡めてブリッジ状になって首も極める!!

流花ちゃんの「レインボーブリッジ」!!

「あああああああーーーーーー!!!」

体育館にすみれちゃんの悲鳴が響く!

これはマズイわね

すみれちゃん、体力的にも限界に近いし・・・ギブしちゃうかしら?

「ラ・ガティータ、ギブ?」

「ノ・・・ノーです!! くううううう!!」

まだまだがんばるすみれちゃん、手をだしてなんとかロープに逃げようとする

「む!そうはさせるかぁーー!!」

そう叫ぶと流花はすみれちゃんの足と首をクラッチしたままロープから離れるように横に転がった!

「新兵器はつこーかいっ!」

背中に乗せたすみれちゃんを弓のように絞り上げる流花ちゃん。こ、この技は・・・レインボーブリッジの逆バージョン??

「ぅあああああああああ!!!」

ロープエスケープを許さない荒技に悲痛な悲鳴を上げるすみれちゃん。

必死に流花ちゃんの手を外そうとするけど

「無駄だってば!!」

流花ちゃんも外されないように、さらに締め上げる、

「あ〜んお姉さま悶える姿もステキ・・・ああ、でも負けちゃだめ〜」

セコンドからどっちを応援してるんだかしてないんだかわからない声が

「ギブアップ?」

もう一度すみれちゃんに確認

「・・・の・・・ノー・・・」

なんとか拒否をするけどこれじゃ時間の問題ね・・・

「あきらめちゃダメェ!!戻ってこれたらミナがすっごいイイコトしてあげるからぁ!」

セコンドからこれまた応援する気があるのか無いのか良くわからない声が

「いや、それ逆効果だろ・・・」

神楽ちゃんが冷静なツッコミを入れる。

とその時

「ふにゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

狂ったのか、すみれちゃんがネコみたいな叫び声を上げた!!

同時に、流花ちゃんのレインボーブリッジを強引に外しちゃった!!

「は・・・外した!?」

驚く弥生ちゃん

「ああ〜んミナの愛のパワーが届いたんですねぇ」

きゃいきゃいとはしゃぐ美奈子ちゃん

「ぐ、偶然だ偶然!」

ヨコシマな応援との関連性を必死に否定する神楽ちゃん

まぁ偶然とはいえ嫌なタイミングだったわね・・・そんな事よりアレを外すとはね

優勝特典デートへの執念かしら?どのみちマスクしたままじゃデートは無理だと思うけど・・・

「ハアハア・・・ハアハア・・・」

でも、さすがに限界ね

「ハアハア・・・ネコさん・・・・しぶといよ」

ゆっくりと立ち上がる流花ちゃん

「流花・・・・お兄ちゃんのかわりに優勝するんだから・・・いい加減、やられて!!」

流花ちゃんは、すみれちゃんの背中にセントーン!!

「げうううっ!!!」

鈍い悲鳴を挙げ、苦しさのあまりマットを転げまわる

流花ちゃんは、そんなすみれちゃんを背に、コーナーへと向かう

「今度こそ、終わりにするんだから!」

コーナーへと登る流花ちゃん

マット端では、

「ぐふ・・・・ぷぷ・・・はふ・・・」

仰向けになってむせているすみれちゃん

「くらえーー!!」

流花ちゃんのフィニッシュアーツ、ムーンサルトプレス!!

華麗なアーチを描いて必殺の月・面・水・爆!・・・・・・着弾!!

「・・・・・・っっは!!!」

これ以上無いくらい完璧に決まったムーンサルト、すみれちゃんは声にならない悲鳴を上げたまま動けない

「フォール!!」

そのままフォールに入る流花ちゃん。・・・これは完全に決まりね。



・・・・・・あら?



「ちょっとぉ!奈々子ちゃん早くカウントォ!!」

流花ちゃんが怒ったような声をあげるけど

「・・・えーとね、ブレイク」

私は状況を見据えてそう告げる。

「なんでぇ!・・・あーっ!!」

私の視線の先を追って、サードロープにかかっていたすみれちゃんの足に気づく流花ちゃん。

「・・・いつもツメが甘いんだよな流花は」

「でもそこが流花ちゃんらしいけどね・・・」

苦笑する朔夜君と綾乃ちゃん。

「うがーっ」

流花ちゃんはすみれちゃんの足をロープから引き剥がすとそのままリングの中央よりにひきずっていく

「うう・・・」

すみれちゃんがなんとか上体を起こして逃げようとするけど

「ねてろー!!」

髪を掴んでマットに頭を叩きつけるとビンタを一発

「・・・くぅ・・・」

すみれちゃんが大人しくなったのを確認し鼻息も荒く再度コーナーへ向かおうとする流花ちゃん

何としてもムーンサルトで決めたいみたいね

と、体をまたいで通ろうとした流花ちゃんの足をすみれちゃんの手が掴む!

「流花ちゃん!!」

弥生ちゃんが叫ぶのと同時にすみれちゃんは流花ちゃんの股の間から手を回し背後から足を抱える!

「わ!」

「・・・っっん!」

驚く流花ちゃんの足を取ったまま掬い上げ流花ちゃんもろとも後転するすみれちゃん

これは・・・変形のスクールボーイ!?

「わわっ!わぁっ!!」

何が起きたか把握できてない流花ちゃんが叫ぶ

「・・・ふ・・・フォール・・・」

流花ちゃんを丸め込むと力なく呟くすみれちゃん

即座にカウントに入る私

「ワン・・・ツー・・・」

「・・・や・・・ちょ待って!何これ!!」

叫びながらバタつく流花ちゃん

「うわぁ〜放せ〜〜!」

そして

「スリーーーー!!!」

流花ちゃんの悲鳴と重なるようにカウント3が入った

  

×堀部流花
(13分21秒 アルージョ・ラナ)
ラ・ガティータ・ビオレタ




11.トーナメント一回戦終了!


「もうだめ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

カウント3を聞き終えると、そのままマットに倒れこむすみれちゃん

「ずるい〜〜〜っっっ!!今のなし〜っ!!!」

変わりに跳ね起きて抗議に来る流花ちゃん

「ずるいって言われても・・・」

何がどうずるいんだか・・・まぁ混乱してるだけみたいだけど

「だってだってぇさっきまであたし勝ってたし、ネコさんなんかあんなだし、」

見るとまだマットに這いつくばったままのすみれちゃん

「ハアハアハアハア・・・・・・」

まぁ確かにこれだけ見たらどっちが勝者だかわからないわね

「それにあんな地味な技でフィニッシュなんて・・・」

うーんその派手好きな所がツメの甘さに繋がってると思うけど

逆にあのピンチでも一瞬の隙をついてあの職人技を決めるすみれちゃんは流石としか言いようが無いわね

「流花ちゃん・・・もうよしなさい」

見かねた弥生ちゃんが流花ちゃんに声をかける

「弥生ちゃん・・・だってだって・・・弥生ちゃんはちゃんと勝ったのにぃ・・・」

・・・まーどーせ私はちゃんと負けたわよ・・・

「流花ちゃん・・・」

「・・・うう・・・ふぇぇ・・・」

流花ちゃんが泣き出しそうになったとき

「おねーさまーん♪」

「わにゃぁ!」

場の空気なんて一切お構い無しに美奈子ちゃんがすみれちゃんに飛びついた

「おめでとうございますぅ」

「・・・あ・・・ありがとう・・・」

美奈子ちゃんの祝福にたじろぎながら答えるすみれちゃん。

「怪我とか大丈夫ですかぁ?あのペタン星人が酷い事するからミナ心配で心配で・・・」

胸の前で手を組み心配してたアピールをする美奈子ちゃん

「いや・・・お前、やられてるのみて喜んでたじゃん・・・」

神楽ちゃんがぼそりとツッコミを入れる

「うがー!またペタン星人ってゆったーっ!!」

「お、落ち着いて流花ちゃん」

掴みかかろうとする流花ちゃんを制止する弥生ちゃん

「・・・怪我はたぶん・・・、うん、大丈夫」

体をチェックしつつ答えるすみれちゃん、まぁ怪我が無くてもあとで回復させてあげなきゃね。

「やーんよかったぁ〜ん♪・・・んふふふふ・・・」

身を乗り出してじっとすみれちゃんを見つめる美奈子ちゃん

「あ・・・あはは・・・はは」

引きつった笑いのすみれちゃん

「それじゃあ、やくそくのイイコト・・・シ・テ・あ・げ・る」

「へ?・・・やくそくって何の事ぅ○×&$#!!!!」

言うが早いかすみれちゃんを押し倒してガバと覆いかぶさる美奈子ちゃん・・・全く・・・やっぱソレが目的なのね

「・・・んっく、うふふぅ照れなくてもいいんですよぉ、ほぉーら」

「にゃあああああ!!!」

「だーかーらー!お前はいい加減にしろっ!!」

神楽ちゃんの鉄拳制裁!!・・・を読んでいたかのように、すみれちゃんにまたがったままでヒョイとよけると、その腕を取って組み伏せる美奈子ちゃん

「も〜お姉さまったら本当にヤキモチ焼きなんだからぁ・・・しょうがないなぁ」

舌なめずりする美奈子ちゃん

「ばっばか・・・おまえこのパターンこれで何回目だと・・・」

もがく神楽ちゃん

「繰り返しのお約束はギャグの基本ですからいーんですよぉ、お姉さま♪」

またわけのわからない事を言う美奈子ちゃん

「んふふ〜・・・それじゃ二人ま・と・め・て・・・」

「うわぁあああああむぅ○%’#!*△!!!」

「ふにゃぁああああ!!!」

どすんばたん

そのまま絡まりあってリング外に落ちる3人

「・・・・・・」

ドン引きの小学生と汗ジトで唖然とする朔夜綾乃ペア。あーもうツッコムのもめんどくさいわね


「一回戦も終わった事だし・・・そろそろお昼ご飯にしましょう」

深いため息をついて私はそう呼びかけた。

さて第二回SWGPトーナメント一回戦はこれにておしまい

2回戦の準決勝はこの次って事で

そうそう、次回は弥生ちゃんにコスプレして貰わないとね♪



 


〜つづく〜


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