第10話

作:薊(超芝村的制作委員会)




1.どんより、どよどよ




「私・・・・・・・一撃で・・・・・・・・・・・」

奈々子さんは、床に座り込んでブツブツとなにかを呟いていた

その姿は、すごく不気味・・・・顔は髪で隠れているし・・・

これで井戸から出てきたら、某映画と同じだね・・・・・って、そうしたら全員七日後に死ぬのかな?

でもこう見ると、奈々子さんって本当に幽霊なんだな〜と思う

普段の奈々子さん見ていると到底幽霊とは思えないけど、今の奈々子さんは一番幽霊らしい!

やっぱり幽霊というのは、こんなかんじでしょ!・・・・・・・・・て、どうでもいいか

「もう次の試合行こうよ〜流花の試合最後だし・・・待ちくたびれた〜」

流花がそんな事を言い出した

「たしか次は朔夜と綾乃だろ? 二人とも準備しなよ あ、レフリーは・・・」

と神楽ちゃん

「あ〜ソレなら流花がやる〜」

めずらしく流花が名乗り出た

流花の奴どうやらだいぶ暇をもてあましてるらしい

「そ・・そうね・・・朔夜くん、準備しようか?」

と、綾乃ちゃん

「うん・・・」

ぼくと綾乃ちゃんは、それぞれの控え室へと向かおうとした

その時、

「・・・・・・」

奈々子さんが、フラフラと起き上がった!

髪は前の方へダラッと垂れている・・・・怖い

「な・・・奈々子さん?・・・・・」

ぼくは恐る恐る声をかける

他のみんなも、緊張した表情で奈々子さんを見ている

奈々子さんは、ゆっくりと綾乃ちゃんへと近づいてきた

「え・・・あの・・・先輩? どうしたんですか?」

綾乃ちゃんが、引き攣った表情で後ずさる

「奈々子さん! なにするつもりですか!」

弥生ちゃんが綾乃ちゃんの前に立ちはだかった

いつでもさっきの続きをするつもりらしいけど、奈々子さんは・・・・・

「・・・・・・・セコンドについてあげる・・・・・・・・・・」

ボソッと、そう言った

「え?・・・」

「セコンド?」

緊迫した空気だっただけに、マトモな答えに少し拍子抜けする弥生ちゃんとぼく

「・・どうか・・・・・した?・・・」

「あ・・・・いや・・・別に・・・奈々子さんこそどうしてまた急にセコンドなんて・・・?」

とりあえず、奈々子さんを無駄に疑ってしまっていたのを誤魔化さないと・・・

すると、

「・・・・だって・・・私・・・もうやる事・・・・無くなっちゃったもの・・・・」

どんよりした空気を醸し出しながら、虚ろな目をコッチに向ける奈々子さん。

しまった・・・・ヤブヘビだった・・・

「・・・やっぱり・・・一回戦負けした私がセコンドじゃ・・・迷惑かしら・・・・・・」

さらにどんよりした空気をまといながら、綾乃ちゃんの方に向き直る奈々子さん・・・

「・・・い・・・いえ・・・・そんな事は決して・・・」

タジタジとなる綾乃ちゃん。

「そう・・・・・・・・・それじゃ、行きましょう・・・・・・・・・」

そう言って奈々子さんは、綾乃ちゃんの肩に触れた

「え?・・・」

キョトンとする綾乃ちゃん

「用具室・・・・・・用意が・・・あるでしょ?」

「は・・・はい」

返事をした綾乃ちゃんを、奈々子さんは用具室へと連行していく

残されたぼくたちは、しばらくその様子を見ていたけど・・・・このままここにいても仕方ないし、ぼくも第二倉庫で準備しようかな

「あ・・・それじゃ、ぼくも準備するから・・・・・」

ぼくはそう言って、倉庫へと向かった

それにしても、なにかありそうな予感がするのは気のせいかな?



 

2.コスプレ入場大会?




コンコン


手早く着替えをすませ柔軟を一通り終えた頃、倉庫のドアがノックされた

「はーい」

「お兄さん、入ってもいいですか?」

「ん? ああ、いいよ」

「それでは失礼します」

弥生ちゃんが入ってきた

「どしたの?」

「いえ・・・さっき私の試合でセコンドについてもらったから、こんどは私がと思いまして・・・」

「そうか、ありがとう ところで奈々子さんあの状態だし・・・向こうサイドに何か変わった動きとか無かった?」

「いえ・・・特には・・・まだ控え室にいるみたいですし、詳しいことは私もわからないです・・・・」

そんな会話をしていると、

「朔夜、準備いいか?」

神楽ちゃんが呼びに来た

「あ、いつでもいいよー」

「オッケー」

大きく手を振ってリングに合図をするか神楽ちゃん。

さてと・・・そろそろだね

「青コーナーより・・・・」

お、来た来た!

今回は美奈子ちゃんがリングアナか

「堀部朔夜・・・・」

よし、行くぞ!!

「・・・なる、下等生物現れる!!」

「どわわっ! あたっ!!」

ぼくはあまりのことに、バランスを崩してドアに頭をぶつけた!

「いたたたた・・・・・」

「お、お兄さん!? 大丈夫ですか?」 

「な・・・なんなんだ、あのコールは・・・・・」

いくらなんでも、あれはないよね・・・・・

「コラー!そこのバカ、早く出て来いっ!!」

・・・・・・・・・・・・

「まったく・・・・・」

仕方なくぼくは第二倉庫を出る


リングへ向かって歩いていくぼくに、

「やっと登場したるは、害虫より劣る最も下等な生物!さっさと綾乃お姉さまにぶち殺されて土に返る事を全人類を代表して切に願います!!」

またまたそんな事言ってくれる美奈子ちゃん・・・・・・・

「ちょっと美奈子ちゃん、それはひねりがないよ〜〜」

と、レフリーとしてリング上にいる流花がそんなこと言い出した!

流花め・・・・帰ったら、おぼえてろよ!

そして、今度は後ろにいる弥生ちゃんが、

「そうよ、美奈子ちゃん! ・・やるならもっと面白くやらないと」

「・・・・・・・・・」

って・・・・弥生ちゃん・・・・・キミはどちらの味方なんだい?

なんか気分が重くなってきた・・・・・けど、まあいいや・・・気を取り直してとりあえずリングイン・・・・・・

「さ〜〜てお次は〜〜♪」

美奈子ちゃんが一転、うって変わった明るい声で、

「綾乃お姉さまの入場です!!」

うれしそうにコールした

・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・

「・・・・・・あれ?」

綾乃ちゃんが、用具室から出てこない

「綾乃ちゃんこないね・・・・・」

「ちょっと様子見て来ます」

弥生ちゃんが席を立つ

すると、用具室のドアが開いた

そして、そこからでてきたのは・・・・・・・

「え?」

ぼくと神楽ちゃんが、思わず同時に声を挙げた

用具室から出てきた綾乃ちゃんは、いつもの格好とは違っていた

いや・・・制服は制服なんだけど・・・この学校のじゃない

あの制服は・・・・・・・もしかしなくても・・・・・・浅上女学院の・・・・


「な・・・なんだ、綾乃のやつ・・・あの制服・・・ウチの学校のじゃないぞ」

「さ・・・さあ〜? しかもよりによってあの格好を・・・まるで遠野秋○だ・・・・」

「なんだそれ?」

「いや・・・・まあ・・・・・それより、後ろにいる奈々子さんが・・・・」

「ああ・・・・・・・あの状態からまだ治っていないんだな・・・・・」


「綾乃ちゃーん、その制服はなんなの?」


流花の声に、

「あ・・・こ・・・これはその・・・・・城之内先輩が・・・・・着ろって・・・・ヘン?」

そう言って、照れながら入場してくる綾乃ちゃん

あ、ご丁寧に白のカチューシャまで付けてる

「よいしょ・・」

ロープをまたいでリングインすると、

「朔夜くん・・・・これ・・・似合う? なんかのゲームのキャラクターの衣装らしいんだけど・・・・」

「あ・・・・う、うん!」

慌てて答えるぼく

確かにこのメンバーの中では、秋○役が似合うのは綾乃ちゃんだ

奈々子さんも、気のきいた事してくれるな〜♪

でも・・・・奈々子さん、絶対なにか企んでいるような気が・・・・・・・・

「朔夜くん・・・・そんなにジロジロ見ないでよ〜〜」


「あ、ごめん・・・・」

でも悪くないよね♪

「それでは、青コーナー 前チャンピオン・・堀部ーーー朔ーー夜ーーー!!!」

流花がコールし、神楽ちゃん・弥生ちゃんが歓声と拍手をする

しかし美奈子ちゃんは、

「ブーーブーー!!」

と、ブーイング

ハイハイ、もう好きにして・・・・・・

とりあえず、次は綾乃ちゃん

綾乃ちゃんはぼくを睨んでいるけど・・・・あの制服を着て睨まれると、なんかこれから試合をするというよりも・・・・これから説教をしようと待ち構えているように見えるのはなぜだろう・・・・

「赤コーナー 最凶の幼馴染・・・・・成瀬ーーー綾ーー乃ーーー!!!」

あ!流花うまいな!!

まさにその通り!!

「・・・・・・・」

でも綾乃ちゃんは、『最強』と思っているらしく・・・・満足そうな笑みを浮かべながらも制服を脱いだ

水着はいつものだった

どうせだったら、水着も同じものだったら良かったのに・・・・



3.一回戦第三試合 朔夜 vs 綾乃




「それじゃ、はじめるけど、いい?」

「いいわよ」

「ぼくも」

ぼくらは頷く

久しぶりの綾乃ちゃんとの試合、絶対にぼくが勝つぞ!

「それじゃ・・・ファィッ!!」

流花の声が響いた


先手必勝!ぼくは綾乃ちゃんに組み付いていく!

「くっ・・・」

ぼくの勢いに、綾乃ちゃんが押される

ぼくはバランスを崩した綾乃ちゃんを抱え挙げると、そのままマットへ叩きつける!

「あうっ!!」

ボディースラムで叩きつけ、ぼくはすぐに綾乃ちゃんの頭を掴みながら立ち上がらせると、フライングメイヤーで投げ飛ばす!

「くう・・・・」

そしてまたすぐに起き上がらせて、フライングメイヤーをもう一発!

これも難なく成功

まさにワレ奇襲ニ成功セリだね

「あれ〜? 綾乃ちゃん、調子悪いみたいだね〜 あのときの大口はどうしたのかな〜?」

ぼくは意地悪く聞きながら、ダウンした綾乃ちゃんにスリーパーをかける

「うく・・・・そんなこと・・・・・・・くう・・・・」

「これでギブしちゃいなよ!!」

ぼくは少し強めに締めていく

「あ!!・・・・く・・・・・・」

振りほどこうとする綾乃ちゃん

「コホ・・・・も・・・・・・・・苦しいわよ!!」

綾乃ちゃんが、ぼくの水月にエルボー!!

「うぐっ!!」

一瞬息が詰まる

そして腕の力が緩んだ隙に、綾乃ちゃんはスリーパーから脱出した

「誰にもの言ってんのよ!!」

立ち上がると同時にぼくに組み付き、大腰をかけてきた!

「うわっ!?」

マットに倒されるぼく

「私が朔夜くんなんかに負けるわけないでしょ!!」

さっきの仕返しに、同じスリーパーをかけてきた!

「うぐ!・・・」

く・・・苦しい・・・・

「あんまり調子に乗らないでよね!!」

綾乃ちゃんはすぐにスリーパーを放し、ぼくを蹴る!

「がはっ!」

けっこう痛い

そして強引にぼくを立ち上がらせると、頭を押さえつけたたまま背後から足を絡めてきた!

そして下半身を固定すると体を密着させヘッドロックの要領で上半身を捻り上げる・・・・・

これは!・・・・コブラツイスト!!


「うわっ!! ぐああああーーーー!!」

古典とはいえ綾乃ちゃんいつの間にこんな技を・・・・・

「朔夜くんこそギブしなよ!! さあ! さあーー!!」

綾乃ちゃんは、グイグイと締めてくる!

でも、

「うぐぐぐ・・・・このっ!!」

ぼくは自分から体を捻って足のロックを外すと、逆に綾乃ちゃんの頭を抱え込んで巻き込むように投げる

「え? きゃっ!!」

綾乃ちゃんはバランスを崩し、前のめりに二三歩よろけマットに手を着いた

よし!

「よくもやってくれたね!!」

振り向く綾乃ちゃんにドロップキックを炸裂させる!!

「きゃああああ!!」

ダウンする綾乃ちゃん

強引に起こしてロープへと振って、戻ってきたところで逆水平チョップ!

「あう!」

綾乃ちゃんは、胸を押さえて動きが止まる

でもすぐに、

「やったわね!!」

綾乃ちゃんも仕返しに逆水平チョップをぼくに叩きこんだ!

「くっ!」

けっこう痛い・・・・

「なんの!!」

ぼくもやり返し、綾乃ちゃんもすぐにぼくにやり返す!

それが何度も続くと、さすがにむねのあたりが真っ赤になっていた

綾乃ちゃんも、水着で見えないけど同じようになっているんだろうな〜

「よくもやったわね!!」

綾乃ちゃんは不意にぼくをヘッドロックで締め上げる!

そして、ガツッ!とぼくの頭を殴った

「あいた!!・・・・痛い!!」

綾乃ちゃんは二回も殴り、コーナーへと連行して行く

そして、

「このっ!!」

「あいたーーー!!」

コーナーにぼくの頭をゴーンと叩きつけた!

か・・かなり痛い・・・・・

そしてもう一回それをやろうとするけど、そんなの二度もくらいたくない

ぼくはコーナーを手で押さえて防ぐと、今度は綾乃ちゃんを逆のコーナーへと振る!

「キャッ!」

いきなりのことに、驚く綾乃ちゃん

「あう!!」

コーナーにぶつかって、今度は悲鳴に変わる

ぼくはすかさずコーナーへと走っていき、体全体を使って綾乃ちゃんを押しつぶ
す!

「うぎゅっ!!」

変な悲鳴を挙げる綾乃ちゃん

でもけっこう効いたみたいだね

ぼくは綾乃ちゃんに後ろから抱きつくと、そのまま中央の方へ連れて行く

「こらーーーー!! お姉さまから離れろーーーー!!」

美奈子ちゃんの野次がきこえるけど、当然無視。

「いっくよ!!」

ぼくは綾乃ちゃんを、バックドロップでマットに叩きつけた!

「きゃああ!!」

ぼくはすかさず、綾乃ちゃんの足を取ってフォールする!

でも、

「ワン・・・・・ツー・・」

すぐに返される

まあ、これで決まるとは思ってはいなかったけど

「そうだよ、まだ始まったばかりだもんね」

つづいてぼくは綾乃ちゃんの腕を掴んで起こそうとした、その時

「のぉ!」

綾乃ちゃんのパンチがボディに入った

「ぐはっ」

息が詰まりながらも畳み込まれ無い様に距離をとる

綾乃ちゃんはその隙に素早く立ち上がった。



4.ヒートアップ




ここは仕切りなおして得意の打撃でいこうと身構えるぼく

しかし綾乃ちゃんは両手を前方に掲げて力比べを要求してきた!

応じる必要は無いけど・・・序盤から逃げの姿勢は見せたくない

ぼくもゆっくりと手を掲げガッシリと組み合った

「ふぬっ!」

「む〜・・・!」

頭上から左右に手を降ろしつつ渾身の力を込め押し込んでていく。しかし・・・

「ぐぐ・・・・」

「んのぉ・・・」

次第に均衡が崩れ押され始める・・・やっぱりパワーじゃ綾乃ちゃんの方が少し上か・・・

とその時

「・・・朔夜君これで本気なんだ・・・」

そう言うと綾乃ちゃんが一気に力を強めて来た!

まだ余力があったなんて・・・・・

振りほどいて距離をとろうにも、手首が反対に押し曲げられ身動きが取れない!

「ぐあ・・・」

綾乃ちゃんの圧力に押され、膝が落ちる

こうなってしまうともうどうしようもない

「・・・わかった?朔夜君 私の方が強いのよ・・・」

見上げると勝ち誇った笑みの綾乃ちゃんの顔が目の前にある、くそぉ・・・なんて力だ

「それじゃそろそろいくわよ!」

綾乃ちゃんは一気に踏み込むと強引に足を刈って、大外刈りでぼくをマットに投げ倒した

「ぐあっ!」

力ずくの投げだったので、後頭部をしたたか打ちつけ目の前に火花が散った

「まだまだ!」

強引に引きずり起こされると、今度はきれいなな大外刈りでマットに叩きつけられる

「ぐっは〜!」

背中を強打し、息ができない状態で呻くぼくをさらに抱え起こす綾乃ちゃん・・・

「えいやっ!」

担ぎ上げられ今度は肩車が炸裂!!

一回転してマットに叩きつけられた!

「ぐあああっ」

なんとか受身は取ったけれど・・・三連続の投げはさすがに効いた・・・

しばらく大の字に寝てたいけど、このまま攻め続けられると危ないので何とか膝をついて体を起こす

立ち上がるのはさすがに無理だ・・・膝をついたままの姿勢でなんとか回復に努める

「さて、次はどうして欲しい?・・・」

そういうと綾乃ちゃんが近づいてくる、これ以上投げを食らうのはごめんだ・・・・・

後ろから髪を掴みに来た綾乃ちゃんのボディに、ノールックで肘打ちを叩き込む

「がはっ!!」

水月にヒット、体をくの字にかがめて怯む綾乃ちゃん、

「でやっ」

ぼくは立ち上がりながら、振り向きざまに回転エルボーを綾乃ちゃんの首筋に叩き込んだ!

・・・筈が慣れない技のせいか、肘はガードされ綾乃ちゃんの手につかまれた

「・・・不意打ちなんて卑怯なマネしてくれるじゃない!」

そのまま頭を押し下げられ前かがみにさせられると、チキンシンクの要領で綾乃ちゃんの太腿がぼくのボディに食い込んだ!

「うぐっ!!」

そしてさらにもう一発!

「ぐええええ・・・・!!」

胃が逆流しそうな衝撃が体を突き抜ける

「・・・まだこんなもんじゃ許さないんだから・・・」

そういうと綾乃ちゃんは、ぼくの頭を押し下げた状態で両腕をとって背中側に固めてくる

「ぐあっ・・・」

両肩が極められ、前のめりの格好のまま悲鳴をあげるぼく、これは・・・一体?


「いくわよ!」

考える間もなくそのまま綾乃ちゃんがぼくの背中に飛び乗ってきた!

「ぐわああっ!!」

綾乃ちゃんはぼくの背中でバランスを取りながら、胴を太腿で絞める要領で脚を絡めてくる

・・・これは(リバース)パロスペシャル・・・ロデオホールドだ!!

綾乃ちゃんいつのまにこんな技を・・・

「さぁギブアップする?」

綾乃ちゃんが背中からグイグイと圧力をかけ締め上げてくる

「うがああああ・・・」


「おにいちゃん、ギブアップ?」

流花が聞いてくる

「・・・ぐぐぐ・・ノーォォ・・・」

こんな曲芸的な魅せ技でギブなんてできるもんか・・・

でもこの技、相当にキツイ・・・
ぼくはきしむ関節の痛みを無視して、闇雲に暴れた!

「え? きゃっ!!」

綾乃ちゃんがバランスを崩し、手のロックが外れた

極められた肩が開放され、普通のおんぶの体勢になる

チャンスだ!

ぼくはそのまま綾乃ちゃんの脚を抱え込んでホールドする。

ヤバイと思った綾乃ちゃんが、ぼくの首に手を回してスリーパーをかけようとするけど・・・

「おおおお!」

ぼくはそんな事はおかまいなしに綾乃ちゃんをおぶったまま対角のコーナーにダッシュ!


                  
                 どかーん!




コーナー手前で体を反転させ体重を乗せてコーナーと背中で綾乃ちゃんをサンドイッチにした!

「ぎゃふっ!」

綾乃ちゃんの悲鳴が背中から聞こえる

二人分の体重と加速度が乗ってるから、かなりのダメージになったはずだ

よし、反対のコーナーにもう一度!・・・・と綾乃ちゃんをおぶり直した時

「がぁっ」

綾乃ちゃんが死に物狂いでチョークスリーパーをかけてきた

「ぐぐぐ・・・は・・なせ・!」

ぼくは絞められたまま、背中側のポストに体重を乗せ綾乃ちゃんを叩きつける!!

一回!二回!三回!

まるで我慢比べ・・・だ・・・

息ができず気絶しそうになりながらも、五回叩きつけるとようやく綾乃ちゃんの力が緩んだ


「げふっげほげほげほっ」

綾乃ちゃんを放し、よろめきながらリングに膝をついてむせるぼく

綾乃ちゃんを見ると、コーナーにもたれかかったままコチラを睨んでげふげふ言ってる

痛みわけと言った所かな・・・

と、綾乃ちゃんの後ろに奈々子さんが立ってるのが見えた・・・ここは赤コーナーだったんだね

「この・・・よくもやったわねぇ」

のそりと綾乃ちゃんがコーナーから出ようとした時、

「待って・・・」

奈々子さんがぼそりと口を開いた



5.夜叉姫降臨




「?」

綾乃ちゃんがコーナーの方に向き直ると、奈々子さんは綾乃ちゃんの額に軽く指を触れた

「先輩?」

きょとんとする綾乃ちゃん。


「駄目だよ奈々子ちゃん セコンドがエプロンに乗っちゃ」

流花が奈々子さんに注意を与える

「試合はちゃんと本気でやらなきゃ・・・ね・・・」

流花に言われたからか、それだけ言って素直にリング下に戻る奈々子さん

流花グッジョブ!

奈々子さん、何かアヤシーから気をつけておかないと・・・


そうこうする間におかげで息もだいぶ回復してきた、仕切りなおしてココからはコッチも本気で行こう

立ち上がって身構えながら、呼吸を落ち着け集中力を高める。

綾乃ちゃんも回復したようで、ゆっくりとコチラを向く

さあこい!

と、思った瞬間、いきなり裏拳が飛んできた!

間一髪かわし、あわてて距離をとる

「どっちが不意打ちだよ!」

ぼくは綾乃ちゃんに抗議する

「・・・・・・・・」

・・・・?・・・・・

・・・なんか様子が・・・・・

よく見ると、髪の奥で怪しく光る目と・・・切れ込みのような薄い笑みを浮かべた口・・・!!!

「っ!?」

そこにいたのは、まぎれも無く夜叉姫と化した綾乃ちゃんだった


「ええっ!?ちょっと・・・・早くない?」

ぼくは、おもわずゾクッとなった

恐れていたことが起きちゃった・・・・・・・・・・・・・・・

「あ・・・・・・・綾乃さん・・・・・」

「夜叉姫だーーー!!」

弥生ちゃんと流花が叫んだ

「おい・・・」

神楽ちゃんも絶句

「・・・ふ〜ん・・・・・・・これが例の・・・・・・・」

美奈子ちゃんは夜叉姫の事は初めて見る筈なんだけど・・・まるで何かに納得したかのようにひとりでウンウンと頷いていた


夜叉姫に関しては、ぼくも慣れているつもりではいたけど・・・・・ついさっきまで普通だったのに、こんなに唐突に豹変するのは初めてだ

たぶん、さっき奈々子さんが何かしたんだとは思うけど・・・

まあ、綾乃ちゃんと戦うなら夜叉姫を倒さなきゃならないのは同じなんだけど

「・・・・・・・・・」

突如、綾乃ちゃんがダッシュでぼくへと向かってきた!

「くっ・・・・」

ぼくも綾乃ちゃんへ向かっていき、ぼくと綾乃ちゃんはガッチリと組み合う!

「く〜〜・・・」

「・・・・・・・・」

綾乃ちゃんが、ジリジリとぼくを押してくる

ぼくは徐々にロープへと押され、ついにはロープに追い込まれた

その途端、

「あいたーっ!!」

綾乃ちゃんが、ぼくの胸板をバシンと叩いた!

一発だけじゃなく、さらにもう一発叩き込んできた!!

「あたーー!!」

・・・・・・このっ!!

バシッ

お返しに、ぼくも叩き返す!

「うっ!!」

綾乃ちゃんがグラッとなる

ぼくは続けて綾乃ちゃんの腕を取って、ロープへと振った!

そしてぼくもロープの反動を使って綾乃ちゃんへと走っていき、戻ってきたところにショルダータックル!!

「くうっ!」

ダウンする綾乃ちゃん

そこでぼくは、すかさず綾乃ちゃんの足を蹴る!

「あくっ!!」

綾乃ちゃんが悲鳴をあげるけど、ぼくは止めたりしない

                      バシッ バシッ バシッ

連続で蹴る!

それに対し綾乃ちゃんは、転がって逃げようとする

でも、

「そうはさせないよ!」

ぼくは綾乃ちゃんの足を掴んだ!

このままアキレス腱固めに・・・・・・

                          ドカッ

「うぐっ!?」

いきなり顎に衝撃が走った! 綾乃ちゃんに顎を蹴飛ばされたんだ!

そしてその衝撃で綾乃ちゃんの足を放しちゃった!

「・・・・・」

綾乃ちゃんは転がって離れると、すぐに起き上がる

ぼくは顎を押さえつつ、綾乃ちゃんを追う!

夜叉姫状態の綾乃ちゃんを相手にするには、短期決戦が一番だ

長引くと、不滅のパワーでやられちゃう

「くらえ!」

ぼくは左ラリアート!

しかし、

「・・・・・・」

「わっ!?」

綾乃ちゃんはラリアートをかわしつつ、ぼくの左腕に自分の腕を絡めて一緒に倒れこんだ!

脇固め!!

「うわっ・・・わあああ!!」

左腕に激痛が走る!

「・・・・・・・・・・」

綾乃ちゃんは、そのままグググッと腕を極めてくる!

もしかしたらぼくの腕を折る気かもしれない・・・・

そんなことさせるもんか!

「くうううう・・・」

ぼくは痛みを堪えつつ、なんとか体を捩って逃げようとする

それに対し、綾乃ちゃんもそうさせないように踏ん張るけど、なんとか隙をついてすこし外すことができた

そして体を捩りながら肘を叩きこむ!!

「っ!!・・・」

それによって、綾乃ちゃんの力が弱まった

逃げるのは今だ!

「このっ!!」

ぼくはもう一回肘を叩きこんで、強引に腕を抜け出した

そしてすぐに立ち上がったけど、

「!!」

綾乃ちゃんが飛びかかってきた!

「うわっ!?」

綾乃ちゃんは首相撲の体勢になり、ぼくに膝蹴りを繰り出してきた!

しかし、ぼくはそれをガード!

打撃ならぼくの方が専門だ

「フッ! フッ!」

連続で膝蹴りをしてくるけど、ぼくはすべてガードして、

「無駄だよ!」

ガードした途端、ぼくはその足を掴んで持ち上げる!

「キャッ!?」

綾乃ちゃんが後ろへと倒れる!

そこですかさずもう片方の足を掴んで、綾乃ちゃんの足を4の字にする!

そして足を絡めて、4の字固め!!

「あぐ!! ぐぐぐぐぐ・・・・・・・・」

必死に堪える綾乃ちゃん

ぼくは、これで終わらせるべく必死に足を締め付ける!

「ギブアップ?」

流花が聞くけど、

「ぐぐぐぐ・・・・・・ノー」

綾乃ちゃんはギブアップしない

「こ・・・・・の・・・・・・!」

体をひっくり返そうとする綾乃ちゃん

ぼくもそうはさせじと堪える

足四の字は、ひっくりかえされると自分が痛くなる

だから、なんとしても堪えないと

「そうはさせないよ! ギブアップしなよ!」

ぼくはそう言うけど、

「だれが・・・・・・・」

綾乃ちゃんはギブアップしそうにない

「このっ!!」

ぼくはさらに足を締めつける!!

「あああああーーーー!!」

悲鳴を挙げる綾乃ちゃん

そして、同時にぼくの足を殴った!

「あたっ!!」

しかし、ぼくは放さない

「くっ! 放せーーーー!!!」

綾乃ちゃんは、叫び声を挙げながら何度もぼくの足を殴る!

「痛いよ! このっ!!」

ぼくも仕返しに、綾乃ちゃんの足を殴り返す!!

「あうっ!! ぐうぅ・・・・」

足四の字の痛みと、殴られる痛みで綾乃ちゃんの抵抗が弱まった

すると今度は、

「ぐううぅう!!」

うめきながらぼくの足を鷲掴みした!!

しかもつめを立てて!!

「ぎゃあああーーーー!!!」

あまりの痛さに、ぼくは絶叫!!

「ぐぬうううーーー!!」

さらに力を込める綾乃ちゃん

「痛いってば!!」

ぼくは苦し紛れに綾乃ちゃんの足を強く殴るけど、綾乃ちゃんの力は弱まらない

これは逃げるしかないね・・・・

「く〜〜〜・・・・・」

ぼくは、足四の字を外そうと試みる

しかし、

「アァ!!」

綾乃ちゃんが、強引にからだをひっくり返した!!

そして、ぼくたちがうつ伏せになった途端、ぼくの足にさらなる激痛が走った!


「うわああああーーーーーー!!!」

絶叫するぼく

これは痛い! 本当に痛い!!

「お兄さん! ロープに逃げてください!」

弥生ちゃんが叫んだ

たしかにロープに近いし、後少し移動できれば・・・・・

「そんなことは・・・・・させないからっ!!」

綾乃ちゃんは、ぼくをロープから遠ざけようとする!

だけど、ロープ掴まないとぼくが耐えられない

なんとしても・・・・・

「ぐううううおおおおおお!!」

ぼくは叫び声を挙げながら、強引にロープを掴んだ!


「ロープ! ロープ!」

流花が足を解く

助かった・・・・

もしロープつかめなかったら、ギブしていたよ・・・・・

やっぱり足四の字は、諸刃の剣だ・・・・これからは、ひかえよう



6.反則合戦




「イタタ・・・」

痛む足を我慢して立ち上がる

綾乃ちゃんも立ち上がったけど、ぼくよりも足にダメージを受けているようだ

よーし、もっと足にダメージを与えてやる!

「いくよっ!」

ぼくは綾乃ちゃんに向かっていく!

そして、

                           バシィ!

ローキックを一発!

「っ!!」

ぼくのローキックで、グラッとくる綾乃ちゃん

ただ、髪で顔が見えにくいからどんな表情なのか良くわからないけど・・・・

とりあえず、ぼくはタックルを仕掛けていった!

蹴った左足を取って、押し倒す!

片足タックルだ!

「くっ!」

ぼくは左足を掴んだまま、もう一度アキレス腱固めをしようと試みる!

だけど綾乃ちゃんもそれに気づいたみたいで、ぼくが脇に綾乃ちゃんの足を抱えたときには、綾乃ちゃんもぼくの足を抱え込んでいた!

「うわっ!!」

「うぐっ!!」

同時にお互いのアキレス腱固めが極まり、ぼくと綾乃ちゃんが同時に悲鳴を挙げる!

ぼくもさっきの四の字固めのダメージが残っているしトーナメントの一回戦から泥沼の消耗戦は避けたい

「せっ!」

ぼくは綾乃ちゃんの足を放し、両手でマットを叩く

そしてその反動で上体を起こして、足を抜くと同時にマウントポジションの体勢になる

さて・・・・なにをしようか・・・・

まさかグーでなぐるわけにもいかないし、掌底叩きこむのもな〜・・・・

あ、そうだ!

「これでどうだ!」

ぼくはマウントポジションの体勢から、綾乃ちゃんの両足を掴んで前屈みになる

そうすることによって、綾乃ちゃんの肩がマットについた

「フォール!」

と、ぼく

流花がカウントを取る

「ワン・・・・・ツー・・・・・」

「ふんっ!!」

綾乃ちゃんが、ぼくの腹を殴った!

「っ!」

それによって、ぼくは少しバランスを崩し、フォールが解けた!

つづいて綾乃ちゃんは、ぼくの腹を殴りまくる!

この体勢から殴られてもあまり効かないけど、やっぱり少し痛い

「このっ!!」

ぼくは少しムキになって、綾乃ちゃんの腕を掴んだ!

すると綾乃ちゃんは、腕を強引に振り解こうとする

「うわっ!? 暴れるな!」

ぼくは前屈みに倒れそうになり、綾乃ちゃんの右腕が抜けた!

「ふんっ! ふんっ!」

綾乃ちゃんが腹へのパンチを再会する

こうなったら・・・・

「これでもくらえ!」

ぼくは左腕を綾乃ちゃんの首に乗せ、体重をかける!

ギロチンチョーク!!

「うぐぅ!!」

綾乃ちゃんからは鈍い悲鳴が挙がった!

「ぐううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」

鈍い悲鳴を挙げながら、ぼくの腕をどかそうとする綾乃ちゃん

「お兄ちゃん、チョークは反則だよ!」

早速流花が警告に来る

勿論わかっているけど、相手はあの夜叉姫。

トーナメントを生き残るには多少の反則も必要悪というものだ、子供はひっこんでなさいと、かまわず力を強めにかかる。

「か・・・はっ・・・」

もがく綾乃ちゃん。

「もうっ!ワン!ツー!スリー!フォー・・・」

流花が猛烈な勢いでカウントを始めた!

ぼくはあわてて手を話す、流花め・・・こんな真面目だったとは・・・お兄ちゃん嬉しいような悲しいような・・・


そのとき、

                        バキィィッ!!


綾乃ちゃんの怒りの鉄拳が、ぼくの顔面に炸裂!!

「ぐはっ!!」

倒れこむぼく・・・


体勢的には、抱き合うかのように覆いかぶさる形になる

「げほっ!! げほっ!! げほっ!!・・・・・・・」

ぼくの耳元で、綾乃ちゃんはむせていた

「くぅ〜〜〜〜〜」

ぼくは殴られた顔が痛くて、まだ動けない

・・・顔面パンチも反則なんだけど・・・やっぱ自業自得?


ぼくは顔を押さえながら上体を起こそうとする・・・・が、

「えっ!?」

綾乃ちゃんが、ぼくの頭に両腕を回してきた

でも、ぼくを抱きしめたわけじゃない!

「うわっ!!」

髪の毛を掴まれて、物凄い力で後ろに無理やり引き倒された!

体勢を元に戻そうとするも、髪を掴まれたまま床にねじ伏せられる

そのまま綾乃ちゃんが上に乗ってくる!

マウントをとられるとヤバイ!

なんとか体勢を入れ替えて・・・・・

「ふんっ!!」

「ぎゃっ!!」

とその時頭に強烈な衝撃が来た!

綾乃ちゃんがヘッドバットをしてきたんだ!

それによって、体を入れ替えるのは失敗に終わった

それどころか綾乃ちゃんがフォールの体勢になり、腕をぼくの右腕に絡めてアームロックの体勢にもっていった!

「やばっ!!」

ぼくは綾乃ちゃんの胸の感触を感じながらも、必死で腕を外そうともがく!

まだ完全には極まっていないから、なんとか抜け出せる

綾乃ちゃんも当然極めようとしてくるけど、ぼくは徐々に腕を外していく!

残念だったねと、綾乃ちゃんの顔を見るけど・・・・あいにくと口しか髪から出ていなかった

そしてその口が大きく開いた

「えっ!?」

次の瞬間、綾乃ちゃんがぼくの肩に噛みついた!!

「ウギャーーーーーーー!!!」

絶叫するぼく

あまりの痛さに暴れるけど、綾乃ちゃんは食いちぎろうとするかのように放さない

「放せーーー!!!」

ぼくは綾乃ちゃんの頭部の急所を圧迫した!

「っ!!」

綾乃ちゃんが口を放した

「このっ!!」

ぼくは両足でマットを蹴って、その反動で跳ね起きる!!

もちろんだけじゃなく、綾乃ちゃんの体の上に覆いかぶさり、仕返しに腕を取りにいく!

綾乃ちゃんも抵抗しようとするけど、それよりも先に右腕を極めてあげた

「さすがに頭来たよ!!」

ぼくは綾乃ちゃんの腕を締め上げる!!

「ぐああああーーーーー!!!」

悲鳴を挙げる綾乃ちゃん

でも、ぼくは放さない! そしてまた鷲掴みされないように左腕は足で挟んでおいた

さっきは酷い目にあわされたからね・・・・・いくら綾乃ちゃんでも容赦はしないよ

「綾乃ちゃん・・・ギブ?」

流花が綾乃ちゃんに確認する

「ああああーーー!!!」

綾乃ちゃんも、さっきのぼくと同様にガムシャラに暴れて外そうとするだけで、ノーという余裕ないみたい

「綾乃ちゃん! さっさとギブしないと折れるよ〜」

ぼくはわざと意地悪く言う

「ぐうううう・・・・・だ・・・だれが・・・・・」

そう言うなり、いきなりぼくの足で挟まれている左手を強引に股間の方へと移動させ、

「!!!!!!!!!」

金的をギュッと握られた!!!


「!@#$%&¥〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

言葉にならない悲鳴を挙げながら、マットをのた打ち回るぼく

「お、お兄ちゃん!?」

流花が慌てて駆け寄ってくる

「大丈夫!?」

ぼくの腰の辺りを叩いてくれる

「〜〜〜〜〜〜〜〜」

でもぼくはまだ痛くて声も出ない

いままで何度か金的に入っちゃったことは何度かあるけど、これほど痛いのははじめてだ・・・・・・

「お兄さん、しっかりしてください・・・・」

「朔夜!!」

弥生ちゃんと神楽ちゃんもリングに上がってきた

「綾乃さん・・・いくらなんでも・・・・・ヒッ!!」

弥生ちゃんが息を飲むのが聴こえた

ぼくは痛いのを堪えて綾乃ちゃんを見てみると・・・・・・・

「・・・・・・・・・」

長い髪の間から、ニヤリと笑っている口だけが見えた



7.雨のち台風




「ぐう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・」

股間を押さえて悶絶しているぼく・・・・・

「お・・・おい、朔夜・・死ぬな!」

「お兄ちゃん、大丈夫!?」

「しっかりして下さい!」

流花と弥生ちゃんが、ぼくの腰をトントンと叩く

そんなぼくの様子を見て、

「クスクス・・・・・・」

冷やかに笑う綾乃ちゃん・・・・

普段の綾乃ちゃんと喧嘩しても、ここまではやられないのに・・・・・・

「わーいこれで綾乃お姉さまのTKO勝ちですねぇ〜〜♪」

綾乃ちゃんに擦り寄る美奈子ちゃん

でも、

「・・・・・・邪魔」

「え?・・・・」

綾乃ちゃんは、ロープとロープの間から美奈子ちゃんを放り投げた!

・・・かに見えたんだけど、美奈子ちゃんはロープをとって段違い平行棒を廻るみたいにくるりと廻るとエプロンにストンと着地した

「あ!・・・・」

「み・・・美奈子ちゃん!?」

美奈子ちゃんのアクロバットな動きに、唖然となる流花と弥生ちゃん

「やーんお姉様コワーイ」

大袈裟なぶりっこポーズをとりながらもまるで夜叉姫状態の綾乃ちゃんを観察するかのような様子の美奈子ちゃん

台詞と態度が全然合ってないし・・・・・

綾乃ちゃんはそんなことお構いなしのようで、美奈子ちゃんに一瞥をくれるとこっちに向き直り、

「・・・・・・・・早く立ちなさいよ。それとももう降参なの?」

ぼくにそう言ってくる

「待ってください、お兄さんはまだ・・・・」

弥生ちゃんがそこまで言ったとき、奈々子さんがふと手を動かすのが見えた

すると、金的の痛みがスーッと消えた

奈々子さんが、痛みを取り除いてくれたようだ

でも、親切じゃなくて・・・・・・ただ単に、試合を続行しろということなんだろうね・・・・・・

もっとも、ぼくだってこのまま終わらせるつもりなんて毛頭無い

さっきからコッチだってムカッ腹が立ってるんだ

「反則で勝ち誇られるとはね・・・」

ぼくはそう言いながら立ち上がる

「さあ、つづきをやろうか」

と、ぼく

綾乃ちゃんは口元に冷たい笑いを浮かべる

「綾乃ちゃん・・・・これ反則! 次は反則負けにするからね!!」

と、流花

そんな時だった

「反則でもなんでもやればいいって。だいたい綾乃ちゃんナマイキなんだよ、反則したぐらいでぼくに勝てる訳ないのにさ」

突然ぼくの声が響いた

うんうん実にその通り! 

イイ事いうね〜さすがぼく・・・・・・ってあれ?

「お、おい朔夜・・・」

「えっ!?」 

「お、お兄さん?」

神楽ちゃん・流花・弥生ちゃんが一斉にぼくを見る

・・・・いや、話の内容に異議は無いけど、ぼくは何もしゃべってないぞ?

どうなってるの、これ?・・・・・・あ!もしかして・・・?

はっとして奈々子さんを探そうとした時、

「・・・・・・・・そう・・・・いいわ、良い機会だから朔夜君なんか逆立ちしたって私には敵わないって事・・・嫌って言うほど体に教えてあげる・・・」

綾乃ちゃんが怒気を込めた声でそう言ってきた

なにおう!ずいぶんフザケタ事を言ってくれるじゃないか!!

調子に乗りすぎだよ!

今日はちょっと痛い目に合わせて、色々思い知らせてやる必要がありそうだね。


「ケンカじゃないんだからルールは・・・」

しゃべりはじめたと思ったら、突然放心したようになる流花

目の焦点があっていない・・・まるで何かに取り憑かれているみたいだ・・・・・・

ふと流花の後ろを見ると、いつのまにか奈々子さんが薄い笑みを浮かべて立っていた・・・ああ、やっぱりね

例のごとく状況を炎上させて楽しんでる訳だ。

琥珀のコスプレをしていただけの事はある


「お互いが良いって言ってるんだから、いいんじゃない?ケンカファイトも」

まるで催眠術のように流花に声をかける奈々子さん

「・・・・えあ?・・・えーとなんだっけ?・・・じゃあスポーツマンシップにのっとり、ルール無用のケンカファイトって事で?」

我に返ったかと思ったら、訳の分からない事を言い出す流花

だいぶ混乱してるみたいだ


「そうそう、ちゃんと決着をつけた方がスッキリして丸く収まるものよ 雨降って地が固まるって昔からいうでしょ?」

・・・・・・・観測史上初の集中豪雨を心から楽しんでそうな人の言う台詞では無いと思うんだけど・・・・・・

まぁ奈々子さんの思惑を抜きにしても、今日という今日は綾乃ちゃんを叩きのめしてゴメンナサイの一つでも言わさないとぼくの気もすまない!

ケンカファイト大いに結構!

そして奈々子さんはフッと微笑み、

「それじゃ、頑張ってね」

そう言って、リングを降りていく

「お兄さん、気をつけてくださいね」

弥生ちゃんも、それにしたがって降りる

残るは、ぼくと綾乃ちゃんとレフリーの流花

神楽ちゃんも荒んだ空気をきにしながら降りて行った


「早くはじめてくれ」

ぼくは、流花にそう言う

「うん・・・・ それじゃいくよ・・・・ファイッ!」



8.ガチンコ、ケンカマッチ




試合再開だ!さて覚悟しろよ綾乃ちゃん!・・・・・

「行くぞ!」

綾乃ちゃんに向かっていく!

そして、掌底の連打!

綾乃ちゃんは両手を挙げて、掌底をガードする

その瞬間、掌底からローキックへと変え、ぼくのローキックが綾乃ちゃんにビシッとヒット!

「っ!!」

グラッとくる綾乃ちゃん

続いて反対の足でローキック!

これも綾乃ちゃんの足にヒット!

両足にダメージを受けた綾乃ちゃんは、今にも倒れそうだ

そこでぼくはとどめとばかりに体を回転させながら足を振り上げ、袈裟に落とす!

後ろ回し蹴りとかかと落としを足して二で割ったような蹴り・・・・袈裟蹴りだ!

「うっ!!」

綾乃ちゃんはガードできずにくらってしまい、うつぶせにダウンする

でもまだぼくの攻撃は終わらせない

ぼくはロープへと走っいき、反動を使って戻ってくる

そして、綾乃ちゃんの背中にエルボードロップ!

「あううっ!!」

ぼくの肘が、綾乃ちゃんに食い込んだ!

「さっきはもっと痛かったよ! あの痛みは男にしかわからないしね・・・・・かなり頭にきているんだよ このっ!!」

ぼくは綾乃ちゃんの足を取って、逆えびをかける!

「あうううっ!!」

綾乃ちゃんの体が反り返る!

そしてぼくはガッチリホールドして、放さない!

「うううううーーーーー!!!」

ガッチリ極められているせいか、動けずにうめいている綾乃ちゃん

得意の怪力で外すこともできず、逃れる術はロープだけ

綾乃ちゃんもそれは理解しているようで、ロープへと逃げようとするけど・・・・そうはさせない

「逃がさないよ!!」

ぼくはさらに力を込める!

「あぐうううううううーーーー!!!」

さらに大きな悲鳴を挙げる綾乃ちゃん

「綾乃ちゃん、ギブ?」

流花が聞くけど、綾乃ちゃんは苦しそうに顔を振るだけ

もう、逃げようとすることすらできないみたいだ

でも、これで終わらせるのはもったいないな

何よりもっと痛めつけて仕返ししないと、ぼくの気がすまない

「ほら」

ぼくは、綾乃ちゃんの足を放す

「え!?」

「お兄さん、なんで放しちゃうんですか!?」

流花と弥生ちゃんが驚く

しかしぼくはそれに答えずに、

「立ちなよ綾乃ちゃん!」

ぼくは綾乃ちゃんの髪を掴んで立ち上がらせる

綾乃ちゃんは、フラフラと立ち上がらせられる

そして、

「弥生ちゃん見てなよ!」

ぼくは綾乃ちゃんをロープへ振った!

「きたきた!」

綾乃ちゃんがロープの反動で戻ってきたところで、カウンターの浴びせ蹴り!

「がっはーーーー!!」

派手にダウンする綾乃ちゃん!!

これは効いたよね〜なにせぼくの得意技をカウンターでくらったんだから♪

「これで終わりかな〜綾乃ちゃん?」

ぼくは彼女のバックを取り、意地悪く聞きながら、

「このっ!!」

バックドロップ!!

「ぐふっ!!・・・・」

鈍い悲鳴を挙げる綾乃ちゃん

しかし、まだ終わらせない

同じく綾乃ちゃんを立たせると、綾乃ちゃんを逆さまにして抱え上げ、ツームストンの体勢になる

ぼくのお気に入りの技の一つだ♪

「覚悟はいいか?」

綾乃ちゃんの股の間から、そう聞いてみる

「・・・・・・・」

綾乃ちゃんは何も言わない

反応が無いのが、ちょっとつまらないな・・・・・

でもいいか・・・

「それじゃ・・・・・せーーーのっ!!」

ぼくは軽くジャンプして、

                                 グボッ!!

「ギャンッ!!」

マットに突き刺さる鈍い音とともに、綾乃ちゃんの鈍い悲鳴も聞こえた

そして、大の字にマットに倒れる綾乃ちゃん

表情は髪に隠れて見えないけど、口が開かれている・・・・・

・・・・・・ちょっと、やりすぎたかな?

これで終わりにしよう

「流花、フォール!!」

ぼくは綾乃ちゃんに体固めで押さえ込み、流花がカウントを取る

「ワン・・・・・ツー・・・・・」

でも、

「っ!!」

綾乃ちゃんがフォールを返した

やっぱりこの程度じゃ、返されちゃうのか・・・・

ぼくは、起き上がって身構える

綾乃ちゃんは、起き上がってもすぐには向かってこないで、クラクラする頭を軽く振る

カウント3は取れなくても、けっこうなダメージを与えられたようだね

「まだまだいくぞ、覚悟しろ!」

ぼくは綾乃ちゃんに向かっていき、一回転するドロップキック!!

「ぐうう〜〜〜!!!」

派手に吹っ飛ぶ綾乃ちゃん!

「あ!すごーい!!」

驚く弥生ちゃん

実はこれ、以前に奈々子さんに勝った際に決め技になったこともあって、けっこう強力なんだ

しかし、そのときなぜか奈々子さんに『サクマ式ドロップキック』なんてふざけた名前を付けられたっけ・・・・・

「くう・・・」

綾乃ちゃんがロープに跳ね返って、ダウン!

ここでフォールしてもいいけど、たぶんまた返されるし・・・・まだ他の技でダメージを与えた方がいい

「起きろ綾乃ちゃん!」

綾乃ちゃんの髪を掴んで起き上がらせると、

                          グボッ!!

ぼくの水月に、綾乃ちゃんの膝蹴りが突き刺さった!!

「うぐぅ!!」

ガクッと膝をつくぼく

油断して腹筋が緩んでいたところに膝蹴りだから、さすがに効いた

「フー・・・・フー・・・・」

綾乃ちゃんは獣みたいな呼吸をしながら、ぼくの体に腕を回してくる

「ううう〜〜〜・・・」

ぼくは苦しくて抵抗できない

「フンッ!!」

そんなぼくを、綾乃ちゃんはぐいっと持ち上げた!

綾乃ちゃんと向き合う形で、頭は下に・・・・・・

さっきぼくが綾乃ちゃんにかけた、ツームストンの体勢だ!!

この技・・・・じつはかけられるのって初めてだったりするんだ・・・・・

普通のパイルドライバーはあるけど、ツームストンはない・・・・

だから、今ものすごく怖い!!

今までぼくにかけられたみんなは、ものすごく怖かったんだな〜

そう考えたとき、綾乃ちゃんが飛び上がり、

「げうっ!!」

ものすごい衝撃が頭に響いた!!


「が・・・・・は・・・・・・・」

ぼくはマットに大の字に倒れた。

頭がグラングランするから、起き上がることもできない

そこで綾乃ちゃんがフォールに来ると思ったのに、押さえ込んではこなかった

それだけじゃなく、頭がくらくらして起き上がれないでいるぼくを膝枕した

「え?・・・・・綾乃ちゃん?」

ぼくは突然のことに、意味がわからない

でも綾乃ちゃんは、ぼくの顔や頭をを優しく撫でていく

すごく気持ちいい

表情は髪で隠れているからわからないけど・・・・・・

「え?」

いや、すぐに見えた

その表情は・・・・・・・・まさに夜叉!!

「っ!?」

ヤバイと感じたときには、もう遅かった

「シッ!!」

綾乃ちゃんが鋭い息をはいたと同時に、ぼくの顔につめを立てた!!

アイアンクロー!!

「あたたたたたたたた!!!!!」

あまりの痛さに、大きな悲鳴を挙げるぼく

なんとか綾乃ちゃんの手を外そうとするけど、普段以上の握力で締め付けられているからなかなか外せない

今の綾乃ちゃんなら、りんごを握りつぶせるかもしれない・・・・・それほどの握力だった

「ぐぬぅ〜〜〜〜〜〜〜」

本気でぼくの顔を握りつぶそうとする綾乃ちゃん


「おにいさん、何とか逃げてー!」

弥生ちゃんが叫んだ

「ぐああああ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・このっ!!」

ぼくは、苦し紛れに綾乃ちゃんの肘の当たりのつぼを押した!

「っ!!」

それによって、綾乃ちゃんの手の力が緩んだ

「くっ!」

ぼくは転がって、綾乃ちゃんの膝枕&アイアンクローから逃げ出す

しかし、綾乃ちゃんはすぐにぼくを捕まえた

「・・・・逃がさない」

低い声でそう言うと、ぼくの足を掴もうとしてくる

「放せ!」

ぼくは綾乃ちゃんを蹴って、逃げようとするけど簡単に足を掴まれちゃった!

そして、そのまま両脇に足を抱えられた!

もしかして、さそり固めをやる気!?

ぼくは抵抗するけど、それは無駄な努力だった

綾乃ちゃんにガッチリと固定されて逃げられない

そして、

「こーーーのーーーー!!」

ぼくを振り回し始めた!

ジャイアントスイングだ!!


「うわ〜〜〜〜綾乃お姉さますごいですぅーーー!!!そのゴキブリを地上から抹殺してーー!!」

美奈子ちゃんが、感極まったように叫ぶ

「うわーーーあああーーーーあああーーーー」

ぼくは抵抗できずに、ただ振り回されるだけ・・・・・・

「ご〜〜〜ろ〜〜〜く・・・・」

流花もうれしそうに回転を数えていく

前にも綾乃ちゃんや奈々子さんにやられたことあるけど、なかなか放してくれないんだよな〜〜〜〜

「じゅう〜〜はち!!」

綾乃ちゃんは、ぼくを18回も振り回してようやく放してくれた

「ぐはっ!・・・」

そして、マットに叩きつけられるぼく・・・・

すぐにでも起き上がりたいけど、18回も振り回されて目が回っていて起き上がれない・・・・

「うう〜〜〜ん・・・・・・」

ただ大の字になって、うなるしかできない

今綾乃ちゃんに攻撃されたら、抵抗できないよ・・・・・・

でも、

「うう・・・・・」

綾乃ちゃんもロープ掴まってうなっている

やっぱり綾乃ちゃんもふらふらなんだね・・・・・・

だったら、はやく元に戻って・・・・・

「く・・・」

ぼくは頭を振って、何とか立ち上がる

まだフラフラだけど、気力で綾乃ちゃんへと近づいていく

「っ!!」

綾乃ちゃんがぼくに気づいた

しかし、まともには動けないみたいだった

今がチャンスだな

「よくもやってくれたな!」

ぼくは綾乃ちゃんに近づいていく

「くっ!!」

綾乃ちゃんも、やばいと思ったらしく・・フラフラのままぼくに殴りかかってき


でも、フラフラで・・・しかも打撃は素人の綾乃ちゃんのパンチなんかぼくには当たらない

ぼくは綾乃ちゃんのパンチをかわして、掌底を叩き込む!

「う・・・く・・・・・」

綾乃ちゃんはガードしきれずに、掌底を連続でぼくに叩き込まれてダウンする

そしてぼくは、綾乃ちゃんの腕を取って中央へ持っていくと、腕ひしぎ逆十字固めにもっていく!!

綾乃ちゃんの得意な関節技の一つだ

「ああああーーー!!!」

綾乃ちゃんの悲鳴が上がる

まだぼくもフラフラだし、ここで変に痛めつけていると反撃を食らう恐れもある
し、極めに行こう!

「あああーーー!!」

「綾乃ちゃん、ギブ?」

と、流花

「ノーーーーーー!!!」

叫ぶ綾乃ちゃん

そして、

「このッ!!」

ぼくの足に爪を立てた!!


「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」

思わず絶叫するぼく

「こ〜〜〜〜の〜〜〜〜」

綾乃ちゃんは、爪を立てたまま放さない

「痛いって!!放せーーー!!」

ぼくは綾乃ちゃんの腕を放して、強引に逃れる!

「くぅ〜〜〜〜〜」

ぼくは綾乃ちゃんに噛まれたところを見ると、しっかりと綾乃ちゃんの爪の跡が残っていた・・・・・

「お兄ちゃん大丈夫?」

流花が、心配そうに見る

「まあ・・・・ね・・・・・くう〜〜〜」

なみだ目で答えるぼく

さっきのホント痛かった・・・・・

「え〜と・・・・まあ〜・・死なないでね・・・」

流花はなにを言ったらいいのかわからないらしく、そんなこと言い出した

もっとマシな言葉はないのか・・・・

「いてて・・・・・」

ぼくが立ち上がると、綾乃ちゃんはいらっしゃいとでも言うかのように両手を広げる

いちいち腹立たしい真似を・・・


さて・・・・・どうしてくれよう

とりあえずは、打撃・・・・・ローキックからだね!

「シュッ!」

ぼくは綾乃ちゃんに右のローキックを放つ!

綾乃ちゃんは、左手でそれを防ごうとする

まさしく、素人が慌てて受ける感じだ

綾乃ちゃんは前に比べて打撃の練習もしているようだけど、正式にやっているわけでもない素人だからしょうがないか

「くっ!」

痛そうな綾乃ちゃん

ぼくはさらに蹴り続ける!

だけど綾乃ちゃんも、ローキックをくらいながらも間合いを詰めて組み付いてきた!

ぼくに払い腰かなにかをかけようとするようけど、ぼくも素直には投げられたりなんかするもんか!

「そうはさせるか!」

腰を落として耐える

それだけじゃなく、親指で脇腹あたりを突いてやる

すると、

「うっ!」

と、綾乃ちゃんの力が抜ける

そこで、

「このっ!!」

逆に裏投げで、綾乃ちゃんをマットに叩き付ける!

でもそれだけじゃ終わらせない

ぼくは綾乃ちゃんの腕を掴んで強引に立たせ、もう一度裏投げでマットに叩き付
ける!!

そしてまた起き上がらせて、今度はボディースラム!

「くう〜〜・・・」

ダウンする綾乃ちゃん

「おらっ」

そこで、一回胸の辺りを踏みつける!

「うぐっ!!」

そうしてから、綾乃ちゃんを引きずり起こして・・・・

              ごーーん!!

頭突きを一発!!

「あぐう!!」

「っ!!」

綾乃ちゃんは、くらっときたらしいけど・・・ぼくもかなり痛い・・・・・・・・

しかし、それを何とか我慢して綾乃ちゃんに抱きついた!

まあ〜・・・大好きな、ベアハッグ!!

「あぐ!ああああーーーー!!」

悲鳴を挙げる綾乃ちゃん

ぼくは徐々にではなくて、一気に綾乃ちゃんの胴体を締め付ける!!

「ああああーー!!」

暴れたって無駄無駄

降参するまで胸のふくらみや、体の柔らかさをじっくり楽しませてもらうから。

「テンメェーーーーー!!!!お姉さまになにしやがるーーーーー!!!」

「ちょ・・・美奈子ちゃん、落ち着いて!!」

「コ〜ロ〜ス〜!!!あのザザ虫をくびりコロスのーー!!!」

「こら、・・・!そんな鉄パイプどっから・・・やめろって・・・暴れるなぁ〜!」

「コーローサーセーロー!!!」

どすん、ばたん!


なんかあっちでもすごいことになってるな・・・・・・でも、そんなことよりもこっちだ

「綾乃ちゃん、ギブ!?」

流花が聞く、しかし・・・

「あああああああああーーーーーー!!!」

綾乃ちゃんは、激しく首を振る  

「はん!だったら!もっと抱きしめてやるよ!」

ぼくは、渾身の力で締め付ける!!

「ああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

綾乃ちゃんは、断末魔の悲鳴を挙げた

そして、綾乃ちゃんの口から白いものがあふれ出てきて・・・・・

「か・・・は・・・・・」

綾乃ちゃんの首が、ガクンッと後ろへ仰け反った



9.強いのはどっち?




どうやら失神したかな?

これで身の程を思い知っただろう

そしてぼくが腕を放そうとしたとき、綾乃ちゃんの頭がすごい勢いで戻ってきた

                       ガーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ

ぼくの頭に、ものすごい衝撃が走った!!

綾乃ちゃんが気力を振り絞ってヘッドバッドをしてきたんだ!

「ぐあああああああああああああーーーーーーーー!!!」

ぼくは綾乃ちゃんから、弾かれるように後ろへダウン!

「おおおお〜〜〜〜〜〜」

あまりの痛さに、ぼくはマットをのた打ち回る。

こんなすごいヘッドバッドは初めてだ・・・・・・

頭がグワーングワーンしていて、起き上がることができない

「う・・・・・・う・・・・・・」

これはしばらく起き上がれない・・・・・・

今攻撃されればおしまいだ・・・・・・でも、綾乃ちゃんも同じみたい

綾乃ちゃんも頭を押さえてダウンしているし・・・・・

もっともさっきのベアハッグのダメージも残っていると思うけど

立たなきゃ・・・・・・

「く〜・・・・・」

ぼくは、フラフラと起き上がっていく

頭くらくらだけど、そんなものは無視する

「お兄さーん! がんばってくださーい!」

弥生ちゃんが応援している

そして綾乃ちゃんも、ロープに捕まりながら立ち上がろうとしている

もしかしなくても、やるなら今がチャンスだ

ぼくはフラフラと近づいていく

そして後ろから組み付こうとしたとき・・・・・・・

               パシィッ!

「あいたー!!」

振り向きざまにビンタされた!

「この!!」

ぼくも掌底のラッシュを叩きこむ!

「あう・・・ぐう!!」

でも綾乃ちゃんも、

「うう〜〜ああ〜〜!!」

掌底をくらい、悲鳴を挙げながらもぼくにクリンチしてきた

やっぱり、何度もくらっているから対処の方法を覚えたんだね

でも、このまま終わらせないぞ!

「朔夜〜〜〜〜〜〜〜」

そんなとき、綾乃ちゃんは怨念めいた声を出したと思ったら、ぼくにベアハッグをかけてきた!!

「あぐっ!!」

そして、ギュウ〜〜〜〜〜〜と締め付けてくる!

「ぎゃあああああ!!」

あまりの苦しさに、今度はぼくが鈍い悲鳴を挙げた

まったく呼吸が出来ず、ぼくは金魚のように口をパクパクさせるだけだ

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

悲鳴も挙げられなくなった

このままだた、確実に絞め落とされる

「っ!!」

ぼくは苦し紛れに綾乃ちゃんに、手刀を入れるけど少し力が弱まっただけで、ベアハッグを外すことは出来ない

「ギブ?」

と、流花

ギブなんて冗談じゃない

だからといって、このままだと落ちる・・・・・

こうなったら・・・・

「っ!!」

今度は肘打ち!

「く・・・」

さっきよりも綾乃ちゃんの腕の力が弱まる

そこで、さらに肘を叩きこむ!

さらに弱まって、ぼくは綾乃ちゃんの腕を振りほどき、マットにしりもちをつい


綾乃ちゃんも、フラフラとロープへとよろけて掴まる

「ハアハアハアハア・・・・・・・」

「ハア・・・ハア・・・・ハア・・・・」

綾乃ちゃんもぼくも、息を切らせている

このベアハッグで、お互いにかなり体力を消耗した

早めに決着付けないと、ぼくもやられる・・・・

ぼくが立ち上がろうとすると、

「オオオ!!」

綾乃ちゃんが突進してきた!

そして、綾乃ちゃん得意のラリアートがぼくに炸裂した!!

「ガハッ!!」

ぼくは派手にダウン!

そして、それだけに終わらず・・・ぼくの足を取ってステップオーバー

サソリ固めだ!!

連続で得意技を出してきた!

「うわっ!? く・・・・」

ぼくは必死で堪える

しかし、綾乃ちゃんもさらに力を加える

そしてぼくは徐々に極められつつある

完全に極まるのも時間の問題だ

「くそ・・・・こうなったら・・・・」

一か八か、ぼくは抵抗をやめる

「っ!?」

急に抵抗無くなったので、綾乃ちゃんはバランスを崩した

今だ!

ぼくは、綾乃ちゃんの足にしがみつく!!

「なっ!?」

そして、一気に綾乃ちゃんの足を引く!

それによって、綾乃ちゃんはズデーンとマットに倒れる

「どうだ!」

ぼくはそのまま片足の逆エビへともっていこうとするけど、綾乃ちゃんは抵抗で仰向けになった

「放せぇ!!」

綾乃ちゃんは空いている方足でぼくの顔面を蹴ろうとするけど、ぼくはそれをかわしてその足もキャッチ!


「くっ・・・」

綾乃ちゃんがしまったと言う表情になる

そしてこの体勢から、綾乃ちゃんを振り回す!

さっきやられたジャイアントスイングだ!!

「ああ!今度はお兄ちゃんが!」

流花が叫んだ

「こ〜〜の〜〜〜!!」

恨みを込めて綾乃ちゃんを振り回す

振り回されながらも綾乃ちゃんは、両手を頭上に放り出し・・・・ジッとぼくを睨んでいた


「く・・・」

ぼくは手を放して、綾乃ちゃんを放り投げた

ダメージが残っているせいで、五回振り回すのが限度だった

「ぐう・・・」

それでも、けっこう効いたようだね

だからといって、このまま攻撃をする力はぼくにも残っていない

本当は攻めて行きたいけど、ここは少し体力を回復させないと・・・・・・・

「ハアハアハア・・・・」

ぼくはコーナーによりかかる

「お兄さん、どうしたんですか!?」

弥生ちゃんが心配そうに、コーナーへ駆け寄る

「いや・・・・・少しでも体力を回復させないと・・・・・」

そして呼吸を整える

その間、綾乃ちゃんも倒れたまま息を切らしていた


「さて・・・・綾乃ちゃん、そろそろトドメをさしてあげるよ」

ぼくがそう言うと、綾乃ちゃんはユラリと起き上がる

そして、ニタ〜と気味の悪い笑みを浮かべる

「それじゃ、行くぞ!」

ぼくは一気に間合いをつめて、上段への突き返し蹴りを放つ!

「がっ・・・・」

綾乃ちゃんは、足の変化についていけずに、見事に決まった!!

でも綾乃ちゃんは倒れない

そのまま堪えてぼくに組み付き、払い腰でぼくを投げた!

「うわっ!!」

マットに倒され、袈裟固めで固められた!

しかし、ぼくもすぐに綾乃ちゃんの首に左足をかけて、袈裟固めを返す!

同時に背中に右足で綾乃ちゃんの背中を固定し、右手で太腿に手をかけ・・・変形弓矢固めのような感じに綾乃ちゃんを反らせる!

でも、

「ぐう!!」

固定が甘いので、簡単に逃れられた

でも、完全に逃がすつもりはない

いい具合に背中向けているし、ここは一気にスープレックスで決めてやる!

「あ・・」

ぼくに後ろから組み付かれた綾乃ちゃんは、しまったという表情になる

ぼくはそのままジャーマンで投げようとするけど・・・・・


ガツッ!

「ぐ・・・」

綾乃ちゃんのエルボーが、ぼくにヒット!

それによって、ぼくは綾乃ちゃんを放しちゃった   

おまけに今度は綾乃ちゃんがぼくのバックを取った!

逆にジャーマンをしかけるつもりだ!

だけど、そうはさせるもんか!

「くぬ〜〜〜〜」

綾乃ちゃんがジャーマンスープレックスをしかけようとするのを、ぼくは必死で堪える

すると、不意に綾乃ちゃんの力が緩んだ・・・・・と同時に、綾乃ちゃんの腕がぼくの首に巻きついた!

そして、そのまま強引にぼくもろとも倒れこむ

胴締めスリーパーをやる気だ!

「く・・・・・そうは・・・・させるか!」

ぼくは必死に抵抗する

今の状態で完全に極まったら、逃れる自信ないし

「おとなしく・・・・・く・・・・・・しなさい!」

綾乃ちゃんも必死で絞めようとする

だけど、ぼくは綾乃ちゃんの腕を外すことに成功した!

とりあえず逃げようとするけど、綾乃ちゃんはそうはさせてくれそうもない

フォールの体勢に持っていこうとする

「この!」

ぼくも負けじと押さえ込もうとする

これによって、ぼくたちは組み合ったままマットの上を転げ回る

そのうち綾乃ちゃんは、ぼくの足を取ろうとする

自分の足と絡めようとするところを見ると、STFでもやる気だな

「そうはさせるか!」

ぼくは手刀を叩きこむ!

それによって、綾乃ちゃんの力が一瞬抜ける

その隙にぼくは綾乃ちゃんを強引にうつぶせにして、足を絡め・・・腕を掴んだ

そして後ろへと自分から倒れていく

そう、前に猫少女を倒したロメロスペシャル!!!

「うう・・・・」

綾乃ちゃんは、そうはさせないというようにジタバタする

ぼくも、外れないように・・そして完全にロメロスペシャルを極めようとするけ
ど・・・・・

「うわっ!?」

ぼくの体力も限界に来ているせいで、ロメロは脆くも崩れた

そして、

「ぎゃっ!!」

ぼくの上に綾乃ちゃんが墜落した

綾乃ちゃんの頭が顔面にあたり目の前に火花が散った

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ」

涙が溢れ視界がぼやける中、頭を振って綾乃ちゃんを探す

「わっ!!」

眼前で綾乃ちゃんの紅い眼がぼくを睨んでいた

綾乃ちゃんは、ぼくが起き上がるよりも早く起き上がり、

「ふんっ!!」

「うぐっ!!」

起き上がろうとするぼくにストレートを叩きこんだ!

ぼくはそこでまたダウンし、綾乃ちゃんはぼくの足を掴んでリングの中央に引き
ずっていく

そしてぼくを起こすと・・・・・・・

「ヤァァァァァ!!!」

綾乃ちゃんのラリアートと大外刈り・・・STAが炸裂した!!

「ぐっはああーーーー!!!」

強烈な一撃に、ぼくの呼吸が一瞬止まる

そして綾乃ちゃんは、ぼくに覆いかぶさって体固めに

「フォール・・・・・」

綾乃ちゃんが、流花に言う

「ワ・・ワン・・・・・ツー・・・」

「くっ・・・」

それでもぼくは何とかフォールを返す

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しぶといわね・・・・・・」

綾乃ちゃんは立ち上がるけど、ぼくはSTAのダメージで起き上がれないでいる

「く・・・・う・・・・」

綾乃ちゃんは、そんなぼくの髪を掴んで起きおこす

「いやぁっ」

さらにSTA!

「があああっ!」

意識が飛ばなかったのが不思議なぐらいの衝撃に視界が定まらない

髪をつかまれ上半身を引き起こされる

「これでわかったかしら?」

綾乃ちゃんが顔を近づけてきて意地悪っぽく囁く

「ぐ・・・の・・・」

なんとか抵抗しようと綾乃ちゃんの腰にしがみつく

「・・・ふん」

そういうと綾乃ちゃんはしがみついたぼくを引きずり起こす

逃げなきゃヤバイ・・・けど体が・・・

「おおおおおっ!」

          バッシーーン!!

「・・・っっは・・!!!」

三度目のSTAが炸裂!!


・・・もう・・・指一本も動かせそうに無い・・・

「クス・・・これでわかったかしら?・・・ってもうしゃべるのも無理みたいね・・・」

綾乃ちゃんはぼくの髪をつかみ顔をあげさせると顔を覗き込んでそう言った。

ちくしょう・・・だめ・・・だ・・・

悔しいがもうどうしようも無い・・・

「それじゃとどめよ」

そういうと、ぼくの胴体に腕を回す綾乃ちゃん

や・・やめ・・・

「おおおおおおおおおおおおお!!!!!」

綾乃ちゃんが吼え、ぼくを振り回す!!

必殺のアヤチャンリフト!!!!


       ドガーン!!!!!


「ぐあああああああああああああ!!!!!!」



マットに叩き付けられた瞬間、体がバラバラになるほどの衝撃を受けた

そして最後に感じたのは・・・・・・綾乃ちゃんがぼくに覆いかぶさる感触だった


×堀部朔夜
(28分52秒 体固め)
(アヤチャンリフト)
成瀬綾乃




10.弱肉強食?




(奈々子)

「ワン・・・・・ツー・・・・・・・・・スリーーーー!!」

あら・・・朔夜くんも・・・・・負けちゃったのね・・・

まあ、どっち勝つかわからない試合だったし、どの道、私にはもう、関係無いけど・・・

ただ・・・・朔夜くんの優勝特典、みんながビキニで試合はお流れになちゃたわね

・・・ちょっと残念かも

「ハアハアハアハアハア・・・・・・・・・・・」

息を切らしながらも流花ちゃんに右手を掲げられ勝利をアピールする綾乃ちゃん

「綾乃ちゃん、強ーーい!!」

流花ちゃんも大はしゃぎしてるわ・・・いいわね・・・まだ先がある子は・・・

「お兄さん・・・・・お兄さん!!」

弥生ちゃんが朔夜くんの頬をパチパチと叩くけど・・・・・・反応ないし、完全に気を失ってるようね

あとで回復させてあげないと

「それじゃトドメはミナが〜♪」

あ、美奈子ちゃんがリング内へと乱入しようとしている!

凶器のバットを担いで・・・ってどこから出してきたのかしら?

「わぁ!馬鹿やめろって!!」

神楽ちゃんが阻止しようとするけど、

「ふんっ!」

ロープを飛び越えようとした美奈子ちゃんに、綾乃ちゃんがラリアート一閃!!

「ぎゃん!!」

派手に場外へ落ちる美奈子ちゃん

「いったーーーい、何するんですのお姉・・・」

美奈子ちゃんは抗議しようとして、一瞬固まった

「あ・・・・・・」

綾乃ちゃんの顔が・・・・・すごく怖かった・・・・・

幽霊の私がみてもゾクッとするくらいに・・・・・

「私の獲物よ・・・」

そう言うと綾乃ちゃんは、朔夜くんをリングの外へ蹴り落とした

そしてリングを降りて、そのまま朔夜くんの足を持って体育倉庫の方へ引き摺って行ったの

「朔夜くん・・・・・さようなら あなたのことは忘れないよ」

みんなで体育倉庫の方へ合掌♪

私もずっと、どんよりしてるわけにもいかないし・・・次の話までには立ち直っておかなくちゃ・・・

それじゃ、このつづきはまた今度。


〜つづく〜


←第9話に戻る   第11話に進む→

目次に戻る