第7話
作:薊(超芝村的制作委員会)



1 デビュー戦



「くっ・・・このっ!!」

オープンフィンガーグローブに、セパレードタイプの水着の神楽ちゃんが、ぼくに大ぶりなパンチを繰り出してくる!
ぼくは、それをかわすと掌底のラッシュを叩き込む!

「うわ・・・く・・・キャ・・」

大ぶりのパンチをかわされて、隙が出来たところを掌底のラッシュが来たのだから、神楽ちゃんもたまったもんじゃないはず。
神楽ちゃんも、スタミナがきれている・・・もちろんぼくもだけど・・・・・

「いくよっ!!」

ぼくはそのまま神楽ちゃんに組み付き、裏投げ!!

「アアアアアーーーー!!」

ダウンする神楽ちゃん。

そろそろ決めさせてもらうよ・・・・・・これ以上はこっちも持たないしね・・・・


今日は神楽ちゃんのデビュー戦兼ぼくの(正式な)復帰戦。
神楽ちゃんに、対戦相手を選んでもらうことになって、選んだのはぼくだった。

神楽ちゃんのパンチは、けっこう重いし・・二回もダウンさせられた。
おまけに、綾乃ちゃんたちからプロレスの技も学んでいるから、かなり苦戦した・・・

でも・・・今日勝つのはぼくだ。

「終わりだよ・・神楽ちゃん・・」

ぼくは、神楽ちゃんの上体を起こし・・・顔を抱きしめる。

「く・・・朔夜・・・」

「ちょっと朔夜くん、なにやってるの!?」

「お兄ちゃんっ!!」

「不謹慎です!!」

「朔夜さんっ!?・・・・・」

綾乃ちゃん・流花・弥生ちゃん・すみれちゃんが叫ぶけど・・・・

「まあまあ〜〜」

レフリーをしている奈々子さんが、みんなを制する。
ぼくはというと、そのまま神楽ちゃんを起きあがらせ・・・・・足を取る!

「く・・・」

ヤバイと感じた神楽ちゃんが、ぼくにパンチを当てるけども・・・この体勢じゃ打たれても効かない。

「いくよーーーー!!!」

ぼくは、そのまま後ろへスープレックス!!
ぼくの得意の、キャプチュードだ!!

「アアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!」

マットに叩きつけられた神楽ちゃんの、断末魔の叫びが響いた!
そしてぼくは、そのままダウンした神楽ちゃんに覆い被さり・・・体固めに!



「ワン・・・・・」

奈々子さんが、カウントをとる。

「ツー・・・・・」

「くっ・・・・・」

神楽ちゃんは動かない。

「スリーーーーー!」

カウントスリーが入った。

激闘の末、神楽ちゃんをマットに沈めることが出来た・・・・・・


堀部朔夜
(08分22秒 体固め)
(キャプチュード)
山本神楽×
2 試合を終えて



「神楽ちゃん、立てるかい?」

ぼくは、神楽ちゃんに手を差し出す。

「ちょっときついね・・・」

神楽ちゃんは、微笑みながらぼくの手を取る。

「よいしょっと」

ぼくは、神楽ちゃんを引き起こす。

その時、みんながリングに入ってきた。

「残念だったね、神楽ちゃん」

「神楽さんの試合、良かったです」

「次は流花とやろうよ」

綾乃ちゃん・弥生ちゃん・流花が、神楽ちゃんに言う。

「あ・・・ああ・・・」

神楽ちゃんは、笑顔で応える。

でも、けっこう辛そうだな・・・・・

「うわっ!?」

「え?・・・おっとっと・・・・」

神楽ちゃんが、よろけ・・・・ぼくが支えた。

ただ・・・・・その体勢が・・・抱き合ってるような感じだった・・・・
これって・・・ちょっと・・・・・・

「か・・神楽ちゃん?・・・」

「ごめん・・・ちょっと体に力入らなくて・・・・・・すまないな・・・」

神楽ちゃんも、かなり辛いようだ・・・・・

「だったら、まだ起きない方が・・・」

「うん、無理はよくないよ」

「神楽ちゃん、もう少しこうしてなよ」

弥生ちゃん・流花・綾乃ちゃんが、ぼくから神楽ちゃんを放して、マットに寝かせた。

「お・・おい、みんな・・・」

神楽ちゃんが何か言うけど・・・みんなには聴こえてないみたいだった・・・・・


3 決定!SWGPトーナメント



「みんな、ちょっといい?」

と、奈々子さん。

「新しい企画を発表したいんだけど〜〜」

「新しい企画!?」
「新しい企画!?」
「新しい企画!?」
「新しい企画!?」

みんなが驚いたように言う。

ぼくは知っているから、驚かないけど〜〜・・・企画と言うのは、

「みんな・・・ぼくは今日で、ベルトを返上するよ」

「ええーーー!?」
「ええーーー!?」
「ええーーー!?」
「ええーーー!?」

「それで、新たにSWGPのトーナメントを開きます!」

と、奈々子さん。

それに、みんなは一瞬黙ったけど・・・・

「おおーーー!!!」
「おおーーー!!!」
「おおーーー!!!」
「おおーーー!!!」

と、拍手。

「いいですね」

「今度は、流花がベルト取ったり〜」

「あら、それは私よ」

「あたしかもしれないぜ!」

弥生ちゃん・流花・綾乃ちゃん・神楽ちゃんの目に炎が灯った。

ちょっと怖い・・・・

「生憎、私もいることをお忘れなく」

と、奈々子さん。

「みんなには悪いけど、ぼくが二連覇するからね!」

ぼくも、みんなにそう言ってあげる。

すると、みんなが一斉にぼくのほうを向く。
と言うよりも、睨んでると言ったほうがいいかな?
そしてその目には、いつにも増して闘志が宿っている。

もちろんぼくも・・・・今回は、いつにも増して気合が入れていくつもりだけどね。

「ぼくは・・・」

ぼくが、そこまで行った時。

「もう一人いますよ!!」

すぐ近くで声がした。
つい最近、聞いたことのある声だ・・・・

「この声は!?」

ぼくは、声のした方を見た。

そこには・・・・

「猫神族のプリンセス! ラ・ガティータ・ビオレタ・・・ただいま参上!!」

コーナーポストの上で、ネコだか虎だかわからないポーズをしたネコ少女がいた。


4 乱入?ラ・ガティータ・ビオレタ



すみれちゃんが現れるのは、予定どうりだけど・・・・・またあんなポーズまでするなんて・・・・
御蔭で、みんな固まっちゃったし・・・・・

とにかく、後はシナリオどおりに・・・・・・がんばってね、すみれちゃん!

「な・・・・・・なんだ・・・・お前・・・・・」

「ネコみたいなコスしちゃって・・・・・・・・なんのつもり?・・・」

神楽ちゃんと、綾乃さんが言ってきました。
どうやら、私の正体はばれていないみたいです。

「で・・・なんか用?」

「いきなり現れて、何をしようというんですか?」

朔夜さんの妹の流花ちゃんとその友達の弥生ちゃんかな・・・が聞いてきます。

そこで私は・・・・・・・・・・・・・アレ?

セリフ考えてきていたんですけど・・・・・・

すみません・・・・・忘れちゃいました・・・・

(えっと・・・・この後どうするんでしたっけ・・・)

私は奈々子さんに、思念を送って聞きました。

そうしたら、

(しょうがないわね。すみれちゃん、私が代わりに話すから・・・ちょっと口を借りるわよ)

奈々子さんはそう言うと、私に軽く憑依して私の口を使って話し始めました。

「わーカワイイ。でもペッタンコの小学生はおうちに帰って寝る時間じゃないかしら?・・・・・・ふぇ?」

一瞬、自分の声で自分の口から出た言葉が理解できませんでした。

「ぐがーーん」
「ぐがーーん」


流花ちゃんと弥生ちゃんは、ショックでムンクの「叫び」みたいになってます・・・

(何て事言うんですかぁ!)

私は、奈々子さんに抗議しました。
だって、こんなセリフは無かったはずですから!

しかし、

(アドリブはパフォーマンスの醍醐味よ、大丈夫。悪いようにはしないから)

と、奈々子さんは続けます。

「ふふ・・それってさ・・もしかしなくても挑戦するってこと?」

綾乃さんが、微笑んで言ってきます。
でも目は笑ってないみたい・・・・・

(あう・・・今度こそちゃんとお願いしますよ)

(まかせて!)

私はなるべくにこやかな笑顔をつくり声が出てくるのを待ちました。

「あなたが成瀬綾乃さんね?・・すぐにわかったわ。噂通りの素敵な・・・柔道体型だから」

「ずがーん!」

ああっ綾乃さんまでムンクみたいに!
綾乃さんは、柔道体系じゃないのに・・・・・酷すぎます!

私は、奈々子さんに抗議しようとしますが・・・・

(ちょっとぉぉぉぉぉぉお!・・・はうっ)

一瞬頭がクラッときて・・・

(いいからっ!!すみれちゃん待ってたら話が進まないから)

(そんな〜〜〜〜・・・)

「ははは、本当の事を言われて怒ってたらキリがないよな」

神楽ちゃんが、おかしそうに笑っています・・・・
火に油を注ぐような事言わないで・・・こっちは笑い事じゃないのに〜〜〜・・・・・

「威勢がいいな・・・面白い奴が出てきてくれて、あたしはうれしいよ・・・・あたしは神楽ってんだ」

と、神楽ちゃんは嬉しそうに自己紹介してきました。

そこで私は、

(すみれちゃん、神楽ちゃんを上から下まで見てくれない?)

と、奈々子さんに言われ・・・・・

(?)

言うとおりに上から下まで見ました。
その後に、私の口から出てきた言葉は・・・

「・・・・・・・女装?

「ガーン!!」

ああっ!ムンクがムンクが・・・・・

神楽ちゃん男の子には全然見えないし、女の子らしい面も沢山あるのに、
以前からボーイッシュな性格で誤解されがちなのを結構気にしてるから・・・・・

(もうっ・・・自分でいいます!)

とりあえず神楽ちゃんをフォローしないと・・・・・
このまま奈々子さんに任せていたら、状況が悪化する一方ですから。

「ちっ違うわ。だって・・・・」
「だって神楽ちゃんマジカルポエミィ(テレビアニメ:魔女っ子シリーズ)のビデオ毎週録画してるし・・・」

くまさんのパンツ履いてたりするし・・・」



(参考資料)


ズボガーン・・・な・・・なんでソレを・・・」

「あ・・・あれ?・・・」

あーー!!!神楽ちゃんの秘密ばらしちゃったーーー!!!
どうしよーーーーそんなつもりじゃなかったのにーーー!!!

「マジカルポエミィ・・・」

「こっどもーーー!」

唖然とする弥生ちゃんに、笑う流花ちゃん。

「ぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」

うなる神楽ちゃん・・・・しかも、顔が真っ赤になってる・・・・
どっどうしよう・・・・・・・・

「なーんだ・・・普段はクールぶってるだけなのね〜〜可愛いわよ、神楽ちゃん♪」

綾乃さんの顔が勝ち誇った笑みになってる・・・・・

「黙れ!重量オーバー!!

神楽ちゃんが怒って言い返しました・・・・・

「なんですって!発育不全の小学生基準で物を言わないでよ、このくまさんパンツ!

「む!....何よ、でかけりゃ良いってものじゃないでしょ!」
「綾乃ちゃんみたいに身体測定の日は朝ご飯抜きにするなんて悲しい事したくないもん!」

流花ちゃんも綾乃ちゃんに怒鳴りました・・・

「そうですよ!大体流花ちゃんなんかと一緒にしないで下さいっ!」

今度は弥生ちゃんが・・・・

私の一言で・・・・ああ〜〜〜〜〜〜〜

「う〜っ!」

「なによっ!」

「なんだよっ!」

「なんですかっ!」

四人で睨み合っています・・・・・・一触即発です・・・・
もう・・・・収集つかないです・・・・・・・

「・・・・・・・・」

朔夜さんは、呆然と見ていて・・・・しかも、さっきよりも距離が離れているし〜〜〜〜・・・・

「あ・・・あう・・あう・・・」

すみれちゃん、オドオドしてる〜〜
まさか自分で地雷踏んじゃうなんてね〜〜

でも、おかげで面白くなってきたし〜私としては感謝してるわよ〜〜

さーてと・・・

「さぁ〜謎のネコ少女の登場により場内俄然ヒートアップしてまいりました!まさに一触即発!」
「これはただでは済みそうにありません!」
「緊迫する体育館から実況は私城之内奈々子がお送りしています!」

(やっぱり悪霊じゃないですかぁ〜〜〜〜!!)

すみれちゃんの叫びが私の頭の中で虚しく響いた。


・・・・・・・・・・・・・

あーあ・・・・この前に続いて・・・なんでこうなるんだよ〜〜〜・・・・
ぼくがいったいなにをしたというんだ・・・・・・
なんで連続して、対抗戦が起きるんだよ〜〜・・・

ハア〜〜〜〜〜〜〜〜


5 神楽おねぇさま〜



「で、トーナメントの組み合わせはどうするの?」

「あたしは、最初に朔夜か綾乃と闘いたいんだけどな」

帰り道、綾乃ちゃんと神楽ちゃんがそう言ってきた。

体育館の中では、険悪な雰囲気だったけど・・・・・
校門で奈々子さんと別れて、みんなで帰路に着いたらいつもの雰囲気に戻っていた。

あの後、ネコ少女は「優勝は必ず私がいただきます」と言って消えちゃったし。

その後、みんなをなだめるのに苦労したんだ・・・・・・
すぐにでもバトルロイヤルが始まりそうだったし・・・・
おまけに奈々子さんは、なだめてるんだか煽っているんだかわからない行動取るし・・・・・

今日は本当に疲れた・・・・・

「それについては、マネージャーのすみれちゃんにお願いしてあるから・・・・・」

と、ぼく。

すみれちゃんは、

「でも、みんなの希望通りには出来ないかもしれないですけどいいですか?」

と、なんか申し訳なさそうに言う。

「いいわよ」

「ああ」

「流花もー」

「私も、相手が誰でも構わないです」

綾乃ちゃん・神楽ちゃん・流花・弥生ちゃんもOKみたいだ。
もちろん、ぼくもそれで構わない。

「とりあえず、来週の本番の時に発表してもらうよ」

「はい、わかりました」

と、すみれちゃん。

「でも、今のメンバーだと誰かが一回戦シードになるね」

と、流花。

たしかにそうだ・・・・ぼく・綾乃ちゃん・流花・弥生ちゃん・奈々子さん・神楽ちゃん・そしてネコ少女・・・・
七人だと誰かがシードになる。

「誰でもいいよね?」

ぼくは、みんなに訊いてみる。
みんなは、それに頷いた。

「だったら、問題は・・・・」

その時、

「神楽おねぇさまーーーー!!」

ドンッ!!

「うわあっ!?」

女の子の叫び声+体当たりを食らう音+神楽ちゃんの悲鳴が聞こえた。


6 恋人?!



「な・・・なんだ!?」

「なになに!?」

ぼくと弥生ちゃんは、神楽ちゃんのほうを見る。
するとそこには、神楽ちゃんに後ろから抱き付いている、金髪で大きなリボンをつけた女の子がいた。

「やめろ美奈ーーー!!」

神楽ちゃんが、背中の女の子を振りほどこうとするけども、

「嫌ですぅ〜〜おねぇさまにこのまま張り付いていたいです〜〜」

しっかり組み付いていて、離れない。

結構力あるんだね・・・・

「やめなさい美奈ちゃん・・・・神楽ちゃん嫌がってるよ」

すみれちゃんが、美奈と呼ばれた女の子をくすぐった。

「キャハハハハ・・・すみれちゃんやめてーーーー!!」

その女の子は、神楽ちゃんの上から降りた。

「ハアハア・・・・美奈!なんでお前がここにいるんだ!!」

「おねぇさまに会うためにきまっているですぅ〜〜〜」

「あたしには付きまとうなと、なんども言っただろっ!!」

「嫌ですぅ〜〜」

「ふざけるなーー!!」

怒鳴る神楽ちゃん。

「・・・・この娘は?」

ぼくは神楽ちゃんに聞いてみる。

「ミナは、神楽おねぇさまの恋人ですぅぅーーー」
「って・・・・あんた誰よ、ミナのおねぇさまに近づかないでよっ!!」

女の子は急に態度が変わった。

「恋人ーーーー!?」
「恋人ーーーー!?」
「恋人ーーーー!?」

綾乃ちゃん・流花・弥生ちゃんが驚いて声をあげた。
ぼくは、あまりの事に唖然としていた。

「ふざけるな!!あたしのダチに変なこと言うなっ!!」

神楽ちゃんは、拳骨を美奈という少女に放った!!

しかし、

「怒ったおねぇさまも素敵〜〜ギュゥ〜」

神楽ちゃんの拳骨をかわすと同時に、神楽ちゃんの背後に回り込んだ。
そして、神楽ちゃんの首に腕を巻きつけてスリーパーホールドの状態になった。

しかも、結構速い!この少女もなにか格闘技を!?

「うぐぐ・・・放せ〜〜」

そこへ、

「ちょっとやめなよー」

「そうですよ!」

流花と弥生ちゃんが、少女を神楽ちゃんから放す。

「ちょっとー!なにすんのよ!!」

女の子が抗議した。

「ハアハア・・・なにすんだじゃないだろーーーー!!」

神楽ちゃんが怒鳴った。

「あ・・あの・・神楽ちゃん・・・大丈夫?」

綾乃ちゃんが、神楽ちゃんの肩にてをかける。

「あ・・ああ・・・それよりも、綾乃・・・それにみんなも、そいつなんか放っておいて行くぞ!」

神楽ちゃんは早足で歩き始めた。

「ああ〜〜ん・・・美奈も行きます〜〜」

「あたしたちはこれから打ち合わせ!!部外者は引っ込んでろ!!」

怒鳴る神楽ちゃん。

なんか・・・怖くなってきた・・・・・・

「なんの打ち合わせですの?」

「お前には関係ないっ!!」

「実はね〜〜」

すみれちゃんが、口を開いた。

「あ、すみれっ!?」

神楽ちゃんが慌てて止めようとするけども・・・・・・・
すみれちゃんは美奈子という女の子に話しちゃったんだ・・・・


7 美奈子、参戦!



「ええーー!?お姉さまって、そういうのやってたんですか!?」

驚く女の子。

「す〜〜み〜〜れ〜〜」

「え!?・・あ・・・・ご・・ごめんなさい・・・・」

恨めしそうな表情で、すみれちゃんに手を伸ばす神楽ちゃん。

「お姉さま、美奈と試合しましょうよ!」

そういい出した。
だけど、

「やだ」

と、神楽ちゃん。

「いいじゃない、参加したい人はいつでも歓迎なんだし」

と、綾乃ちゃん。
だけど、

「ダメだ!!こいつを入れたら・・・・」

「お姉さま〜〜美奈も入れてよ〜〜」

そこでぼくは、

「いいんじゃないかな?、誰の挑戦でもうけるってのがぼくらのやりかたなんだから」

と言ってあげる。

「そうよ、せっかくだし」

綾乃ちゃんも言う。

すると少女は、ぼくを一瞥した後、

「そうですよ〜、あの変なのもそう言ってますし〜」

・・・・・・変なの・・・ね・・・

「ハァ〜〜・・・勝手にしろ・・・・」

ぼくらがそう言ったせいか、神楽ちゃんはため息をつきながら下を向いてしまった。

「わーーい、ありがとうございますーー!!」

喜ぶ少女。

「よかったね」

と、流花。

「で、どういったことやるんですか〜?」

「実はね」

その少女に、弥生ちゃんが話し始めた。

「うわーーおもしろそーーですぅ!!」

少女、美奈子ちゃんが大きな声を出す。

ぼくたちは、すぐ近くの公園に来ていて、そこで美奈子ちゃんにぼくたちのことを話し始めた。
ただ、神楽ちゃんは

「あたし・・・頭痛くなってきた・・・・」

そう言って帰っちゃったけど・・・・・・

「で、いつやるんですかぁ!?」

「今度の土曜日」

と、ぼくが応えると

「あんたには、訊いてない」

・・・・・なんなんだこの娘は?・・・・

「土曜日の私達の中学校の体育館でやることになってるけど、大丈夫?」

「中学校ですか?・・大丈夫なんですか〜?」

「大丈夫、あの中学校は幽霊が出ると言う事で、休日は部活やらないから」
「あ、ちなみに本当に幽霊出ないから安心して」

と、綾乃ちゃん。
まさかその幽霊が奈々子さんだとは、夢にも思わないだろうな・・・・・

「わかったです、格好は自由ですか〜?」

「うん、ただ一応みんな水着だけど・・とくにきまりはないよ」

と、弥生ちゃん。

「わっかりましたぁ! 集合は何時ですか?」

「九時半だけど、いい?」

すみれちゃんが言う。
ぼくが何か言うとうるさいから、ぼくは黙っている事にした。

「はぁい!」

美奈子ちゃんは、元気よく返事をする。

「それじゃ、土曜日九時半に学校前に行くですー!!」

うれしそうに、その場を走り去った。


8 神楽の憂鬱



後日、学校で昼休み・・・・・

ぼくと綾乃ちゃん、神楽ちゃんとすみれちゃんの四人で、屋上で昼食を取っていた。
その後、ぼくは神楽ちゃんに頼まれてパンチングミットを持って、
パンチンググローブをつけた神楽ちゃんのパンチを受けていた。

「しかし、本当にあいつをメンバーにいれるのか?」

そう言ってきた。

「そんなに嫌なの?」

綾乃ちゃんが訊く。

「あたしは嫌だ! あいつは異常だよ」

「異常?、男嫌いな事?」

と、ぼく。

「それもある・・・・・あいつはしょっちゅう待ち伏せしてるし、いきなり抱きついてくるわ・・・気味が悪い!」

と、強烈なストレートをミットに叩き込んだ。
そのときの思い出してか、神楽ちゃんは怖い顔している。

「ええーー!?そうなのーー!?」

と、綾乃ちゃん。

「わたしは被害にあっていないけど・・・神楽ちゃんは、けっこう被害にあってるよ」

と、すみれちゃん。

「あいつといっしょに試合するのは・・なんかやだ・・・・」

そう言って、軽くストレート!

「・・・・・・・・」

なんか・・・・・トンデモない娘を仲間に入れる約束しちゃったな・・・・・
大丈夫かな?・・・・・

「もしかして、私達も同じ目に合うとか?・・・・・・」

と、綾乃ちゃん。

ぼくもちょっと気になるな〜
そうなると、プロレスじゃなくて・・・・・変な方向に・・・・・

「やめといたほうがいいと思うけどな〜〜」

神楽ちゃんは、ワンツーパンチ!

「う〜ん・・・・」

綾乃ちゃんも、考え込んじゃった。

「で・・でもさ、約束しちゃったし・・・・他の人の前だと、いくらなんでも・・」
「・・・・それに年下は嫌いみたいだから、流花ちゃんと弥生ちゃんは大丈夫でしょ?」

と、すみれちゃん。

「わからないぞ〜・・・」

「う〜ん・・・」

すみれちゃんも考え込んじゃった。

でも、いまさら断るのもな〜〜・・・

「でもさ〜、当たらなければ大丈夫じゃないの?」
「・・もしかしたら、ぼく・流花・弥生ちゃんが当たるかもしれないし・・・・・」

と、ぼく。

「ん〜〜〜〜〜・・・たしかに・・・・」

「じゃ、すみれちゃんがうまく決めてよ」

と、綾乃ちゃん。

「うん、それじゃ朔夜くんか流花ちゃんか弥生ちゃんにしておくね」

「ああ、頼むよすみれ」

神楽ちゃんは、そう言って・・また黙々とミットを叩き始めた。


9 神社の密談



〜真明神社〜

「う〜ん・・・・朔夜さんは・・・・・いきなり最初に私っていうのは・・・・・」

御社(おやしろ)の境内で、私・・・・相沢すみれは一人メモ用紙に対戦表を書き込んでいました
御神木の木陰は何か考え事がある時の私の指定席です。

私の家のような小さな神社では、お正月などの特別な日以外は参拝いらっしゃる方も殆ど居なくて、とても静かなので…家業として考えると複雑な気分ですが…考え事をするにはうってつけです。

先日、マネージャーの私が対戦表を作る事になりましたが、今回はいくつかの注文と・・・・・・あとは・・・・
・・・・・・私の個人的な思惑もあって、なかなか思うように作れず、悩んでいました

神楽ちゃんは、美奈子ちゃんとは試合をしたくないという事なので、ブロックを分けて決勝までは当たらないようにしましたが・・・・・
問題は朔夜さんです・・・・・・

個人的には、他の女の子と闘って欲しくないですし・・・だからといって、また私とになって・・・・
う〜〜ん・・・・・でも・・・朔夜さんとだったら・・・・・

朔夜さんと試合をすればいっぱいくっつけるし、この間みたいに抱っこしてもらえるかもしれないし、ドサクサにまぎれて抱きついちゃったりできるし、それに・・・きゃーっ!!

で・・・でもみんな見てるし・・・露骨な組み合わせだと奈々子さんに何を言われるかわからないし・・・恥ずかしいし・・・
・・・・それで朔夜さんに変な印象与えたり、それがきっかけで私がラ・ガティータであることがばれてしまっても困るし・・・・・

・・・・・・・・・・・・・そうなるとやっぱり、流花ちゃんが一番妥当でしょうか?
あの子はブラコンとはいえ、「兄妹」ですから・・・・・・

「やっぱり、流花ちゃんに・・・・・・」

そして私がメモ用紙に書き込もうとしたときです

「っ!?」

私は真後ろにゆらりとした人の気配を感じ、はっとして振り向きました
そして、そこに立っていたのは・・・・・

「ええっ!?・・・・いつのまにっ!?」

陶磁器のような白い肌にふわりと流れるプラチナブロンドの髪、大きなリボン、そして深い色をたたえた蒼い眼。

「こーんにちわ〜〜〜」

そして舌足らずの甘い声……四条美奈子ちゃん・・・

黄昏時は、逢魔ヶ刻などという話もありますが・・・・まさかこの子に逢うなんて・・・・・

夕日に照らされた息を呑むような美しさは…本当に人間とは別次元の存在のような気さえしてきます。

人づてに聞いた話ですが、お母様はフランス人だそうで、しかも有名なモデルさんだと言う事ですが、あらためて美奈子ちゃんを見ると本当に綺麗でまるでフランス人形みたいです。
しかも、お父様はあの「四条グループ」の会長をされているという、正真正銘、完全無欠のお嬢様。

…実は私もおじいちゃんがスペイン人だったりするのですが…なんというか…その…色々違うというか…同じ段上に乗せて比較されても困ってしまうというか…
…そ、そんな事より今は美奈子ちゃんが此処にいるという事がモンダイです

「ど・・・どうしたの急に?・・・・・・てゆうか何時からそこに・・・?」

「え〜と、お話があるんですけどぉ」

美奈子ちゃんは、私の質問に答えずに・・・微笑みながら私に近づいてきました
その微笑みに、なにか嫌な予感を感じました・・・・・

美奈子ちゃんの神楽ちゃんに向けたダイレクトな求愛行動は毎日の様に見ていますが、もしかしたら、私にまで・・・・・・

「な・・・何かしら?」

私は、なんだか恐くなって少し後ずさりしてしまいました・・・・・・
美奈子ちゃん・・・・・なにか企んで・・・・

「猫のマスクの人の事なんですけどぉ〜〜〜」

「!・・・ネコ・・・・・マスク?・・・・・・」

私は、美奈子ちゃんの口から出た言葉に、思わず息を呑みました

「とりあえず、立ち話もなんですから座りませんか〜〜?」


私と美奈子ちゃんは、拝殿の石段に腰掛けました
隣に座る美奈子ちゃんは、あやしげな微笑みを浮かべて私をみています

「・・・・・ネコマスクのこと・・・・・・なんで知ってるの?」

「うふふ〜美奈子は色んな情報ルートもってるんですぅ・・・それでぇ〜皆さん正体知らないって・・・」

膝の上で思わず握り締めていた手に、笑いながら美奈子ちゃんが手を重ねてきました。
あっと思う間もなく、反対の手が背中から撫でるように腰に回され抱き寄せられそうになりました。

「っ!!・・・」

ゾクッとするようなくすぐったさが走り反射的に体が強張ります。
美奈子ちゃんと距離を確保しようと、密着している体の間に右手をいれて押し返そうとした途端、今度は私の左手を握っていた美奈子ちゃんの右手が、太股を撫で始めました!

「そ・・・そうなのよ・・・・・・誰なんだろうな〜・・・・・って、ちょっと・・やめて・・・」

私は、まとわりついてくる美奈子ちゃんから逃れようと、体を捩って押しのけようとしました
しかしふわと受け流され、するりと張り付かれてしまいました・・・・

「・・・実は・・・美奈子その人の正体わかっちゃったんですぅ」

耳元に口を近づけ、耳に息を吹きかけるように小声で囁いてきました

「ひぁっ!!!・・・へ・・・へぇ〜そうなの・・・」

私はそれから逃れようとしながらも、なんとか冷静を保とうとしました

しかし声が震えているのが、自分でもよくわかります
と、美奈子ちゃんの細い指が私の髪にすっと差し入れられ、ふわとくすぐるかのようにまとわりついてきます。

「ちょっ・・・や・・・」

「その人ね〜〜〜・・・」

そして完全に気圧されて、目も合わせられないでいる私の顔を撫で、あごをすくい上げられました・・・・・

蛇に睨まれた蛙・・・・・・・は、こんな気分なのでしょうか?
心の奥まで覗き込むかのようにねっとりと見つめられ、まばたきすらできません

「すっごく意外で〜〜〜身近な人だったんですぅ〜〜・・・」

「っ!?・・・・・・・・」

やっぱり・・・・全部知られている・・・・・・



「・・・そんな事よりも〜〜・・対戦表の事でちょっとご相談があるんですけどぉ〜〜〜」


いきなりいつもの口調に戻ると、胸の前で手を組んで・・なにやらお願いするような目で見上げてきました

「ふ・・・不正な事はできませんよ」

私は戸惑いながらも、服や髪の乱れを直し・・・美奈子ちゃんと少し距離をとって、なんとか冷静を装いました。
・・・しかし、

「あらぁ対戦表に手を入れようとしたのは、お姉様達の方じゃないですかぁ〜・・・知らないとでも思ってるんですか?」


「ううっ・・・」

あう…バレてる・・・・どうしよう・・・・

「でも美奈は別に〜〜意図的にカードを決めろなんて言うつもりはないんですぅ〜〜〜」

「え・・・?」

「公平に・・・くじ引きで決めて欲しいだけなんですぅ〜〜〜」

「え・・・くじ?・・そ・・・それなら・・・」

思いがけない提案に、私はちょっと拍子抜けしました
たしかに、それなら公平ですし・・・・わたしも悩む必要はないです

「くじはもう用意してきましたので・・・コレを使ってください 箱の中に番号を書いたボールがはいってますぅ」

傍らの鞄から、手を入れる穴の空いたくじ箱を取り出して渡されました

「え?・・」

「それからくじを引く順番なんですけど、必ず一番初めに神楽お姉様、その次にミナにしてくださいね」

「え?・・・それって・・・」

「うふふ・・・ボールの表面の細かなデコボコで見なくても〜〜、どれか区別がつくなんて事は絶対ないですからぁ〜」

「なっ・・・!!」

それって・・・やっぱり・・・・・・

「そ・・そんなの・・・」

駄目よと言おうとしたら・・・・

「それだけやっていただければ、ミナ・・・ネコ仮面の正体の話なんて忘れちゃうんだけどなぁ〜」

美奈子ちゃんは、私の言葉をさえぎって言うと、ニッコリ笑いました

「な・・・何の関係が・・・」

「本当の事知ったらみんなびっくりするだろうなぁ・・・特にあの、朔夜とかいう変な生き物なんか」

「!!」

私の言葉を無視して、美奈子ちゃんはそっぽを向いて独り言のように言いました
確かに朔夜さんに知られたら・・・そ・・・それだけは・・・

と突然、美奈子にちゃん抱きつかれました!
悲鳴を上げる間もなく擦り寄られ、美奈子ちゃんが私の耳元に口を近づけて囁きました

「・・・そう言う事なのでよろしくお願いしますね・・・・・ネコのお姉様」

「・・・!!!・・・」

とどめの一言に、打ち据えられ呆然とする私を残して、美奈子ちゃんは楽しそうに帰っていきました



・・・・・この娘には逆らえない・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・神楽ちゃん・・・・・・・」

私はその場にへたり込んでしまいました


次回につづきます・・・


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