第6話
作:薊(超芝村的制作委員会)



1 朔夜、復活



綾乃ちゃんと神楽ちゃんの異種格闘技戦も終わり、それから四日後の放課後。
私は朔夜くんが来るのを、いつもの用具室で待っていた。

体育館の中では、すでに部活は終了し・・誰もいない。
しかも、結界を張ってあるから朔夜くん以外は入れない。

今日は久しぶりに朔夜くんと、試合をする事になってるの。

肋骨の怪我は、私が毎日少しずつ回復させていたから、昨日で朔夜くんの肋骨は完治したのよね〜
医者は、かなり驚いていたらしいけどね〜

とにかく、久しぶりの朔夜くんとの対戦だから、私もすっごく楽しみ。
すでにリングも準備済みだし!

早く来ないかな〜


2 猫少女登場



「朔夜くん遅いわね〜〜」

私は用具室の中をふらついていた。
約束の時間よりも、十分も過ぎているし・・・

「どうしたのかしら?」

そのとき、体育館の入り口のドアが開いた。

「あ、やっと来た!」

私は、用具室から出ようと思ったら・・・・足音が、第二用具室へ行っちゃった・・・そして、中に入っちゃった・・・

違うみたいね・・・・・朔夜くんなら、まっすぐにここへ来るはずだし。

でも、おかしいわね・・・朔夜くん以外は入れないのに・・・
もしかして、いきなり現れて脅かそうとか言うつもり?

しばらくして、気になったから用具室から出て、第二の方へ歩いていったの。
そして中を見たけれど・・・・誰もいない・・・

おかしいわね・・・・・この学校には、私以外に幽霊はいないのに・・・・誰だったのかしら?


あら?・・・・でも、このバッグは?


「悪巧みは、そこまでよっ!!」

いきなり、リングの方から叫び声がした。

「ええっ!?」

私は驚いて、リングへ振り向く。

すると、いつのまにかリングのコーナーポストの上に、ネコみたいな水着を着たすみれちゃんが立っていた!
頭にはネコミミの付いたマスクをかぶっていて・・・しかもご丁寧に、尻尾もついている・・・・

そして、

「天に神様、地に神社・・・・・・・災いあるところに、神社あり!!」
「八百万の神より使わされし、可憐なる子猫 ラ・ガティータ・ビオレタ愛する者のため・・・」

「・・・今ここに降臨っ!!」

すみれちゃんは、アニメのヒーローみたいな決め台詞を大声で叫ぶと、指を曲げた手を頭の上にかざし、
ネコだか虎だかわからないポーズを極めた・・・・・・・

そして、その瞬間・・・・・・私は固まった・・・・・・・・・・・

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

固まっている私に、すみれちゃんは闘志を抱くような目で私を見ていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

どのくらいたったかしら?

すみれちゃんは、ポーズを決めてから微動だにせず・・・・・
わたしは、固まったまま動けなかった・・・・・・・・・・・・

そして・・・・なんとか、我を取り戻して・・・・一言・・・

「すみれちゃん・・・・・・病院行きなさい」

そう言ってあげた。

そうしたら、

「わたしは、大マジメですっ!!・・・それに、わ・・・私は・・すみれじゃありません!!」

怒って叫ぶ。

確かに・・・・目を見たかぎりじゃ・・マジメにいってるわね・・・・・
でも、いきなりこんなことされたんじゃ・・・・・・
されたほうは、キ●ガイかと思うわよね・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・

またしばらく、見詰め合ったままの状態が続いた後・・・

「・・で・・・・・すみれちゃん・・・その格好は?」

呆然とした表情のまま訊いてみた。
すると、なんか恥ずかしそうな表情に変わり・・

「だ・・・だから・・・・・私の名は・・・La gatita violeta」

すみれちゃんは、どもりながら流暢なスペイン語でそう名乗った。

でも、どう見たってすみれちゃんってバレバレなのに・・・・
何を考えているのかしら?

「ラ・ガティータ・ビオレタ〜〜〜〜?・・・・な・・なんなのその名前は?」

「約すと・・『すみれ色の子猫です』・・・・それが・・私の・・な、名前です」

「すみれちゃん・・・・自分で言ってて恥ずかしくない?」

ホント・・・よく言えるわよねこんなこと・・・・
私じゃ、とてもいえないよ・・こんなこと。

しかも、幽霊に突っ込みを入れられてる巫女なんて・・・・すみれちゃんて、もしかして電波?

「だから、すみれじゃありません!!」

今度は怒っちゃった。

いくらマスクをかぶっていても・・・目の辺りしか覆われていいないから、誰でもすぐにわかっちゃうのに・・・

「わかったわよ、ラ・ガティータ・・・用件は何かしら?」

とりあえず、すみれちゃんと呼ぶと怒るし・・・話も進みそうも無いから、ラ・ガティータと呼ぶことにしてあげた・・・・・

「朔夜さんに取り付く、悪霊を退治に来ました!」

そう言って、また私を指差した。

「あなたが?・・・・私を?・・・フフフ」

私は思わず笑っちゃった。

「なにがおかしいんです!!」

怒鳴るすみれちゃん。

「だってそうじゃない・・・・・私に簡単に乗り移られた『巫女』が、ネコみたいなコス着て私を退治するって言い出すんだから」

私は、笑いながらそう言ってあげた。

実はこの娘はね・・・こうみえても巫女なの。
家が神社で、結構・・そういった力もあるみたい。
だから、体育館に入ってこれたのね。

なのに・・朔夜くんへの想いで、頭が鈍っていたせいもあって・・私に簡単に乗り移られたの。

もっとも、この娘が巫女だとわかったのは、乗り移った後だったんだけどね。
しかも祖父がメキシコ人で、ルチャの達人で・・他にもその神社には、柔術が伝わっていて・・・
すみれちゃんは、幼い頃から柔術とルチャを学んでいたらしいわよ。

実力は知らないけど〜。

もっとも、その事を知っているのはいないみたい。
親友の神楽ちゃんすらも、知らないみたいだし。

「あ・・・あの時は・・・・・・・・でも、だからこそあなたにリベンジするんです」

ふ〜〜ん・・リベンジね〜〜〜

「それに、あなたは私の親友にも取り付いて、闘わせました!!」

「それって、神楽ちゃんのこと?」

「そうです、彼女はあなたのたくらみであんな目に・・・・しかも、あなたの手駒にまでして・・・」

「でも、彼女も楽しそうだったわよ〜〜〜・・・それに、彼女は自分の意志で私達の仲間になったのよ」

「そんな・・・・嘘です!」

「本当よ、彼女の中には闘志があふれていたわよ〜〜私はそれを開放してあげただけ」

そういうと、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

すみれちゃんが、沈黙した後・・・・・

「わたしは・・・・・全ての元凶であるあなたを倒して、みんなを正気に戻してみせますっ!!」

そう言って、私に指差した。

「どうしてもやる気ね?」

それも、おもしろいわね〜
まあ〜〜朔夜くんが来る前に、準備運動として軽く倒してあげようかしら?

「いいわよ〜〜、すみれちゃんの挑戦を受けてあげるわよ」

私はそう言うと、右手を挙げる。
それによって、体育館に再度結解が張られた。

これで誰も・・・朔夜くんも入ってくる事は出来ない。

朔夜くんには、ちょっと外で待っててもらうことになるけど〜


3 コスプレ巫女さん vs プロレス悪霊?



私は、制服から一瞬にして真っ白な剣道着になると・・リングへと走り・・・・

「ハッ!!」

飛び上がって、リングの中央で着地!

すみれちゃんに背を向けて、膝をついた体勢になる。

そして、ゆっくりと立ち上がりながら、

「・・・・・・無謀なる戦士よ、ようこそ我が領域へ」

そう言ってあげた。

すると、ラ・ガティータはコーナーポストの上から、

「その領域も、今宵で幕を閉じるでしょう」

すみれちゃんは、そういい返した。

そして私は、道着を脱ぎ捨てて競泳用水着になる。
ちなみに、今回の色は黒。

そうしたら、すみれちゃんは、

「トウッ!!」

コーナーから飛んで、空中で華麗に一回転してマットに着地!

「さあ・・始めましょう」

と、すみれちゃん。

「ところで、一つ訊いていい?」

「なんですか?」

「そのコスはどうしたの?・・自作?」

「はい、市販品を改造しました」

なるほどね〜〜、見た感じそういうの得意そうだもんね〜

「さて、ルールなんだけど・・・・ルールいらないわよね?」

「え?」

すみれちゃんが、焦ったような表情になる。

「これは、殺るか殺られるかの真剣勝負なんだから、ルールなんて必要ないでしょ?」

私は冷たい微笑を浮かべながら言ってあげる。

すみれちゃんは、それに戸惑っているようだけども・・・
覚悟を決めたらしく、頷いて・・・・

「・・・・・・わかりました、あなたを倒して・・徐霊します」

そう応えた。

「やれるかしら?」

私は、微笑を浮かべたまま言う。

そんな私とすみれちゃんの視線が、火花を散らした。


4 デスマッチ! 奈々子 vs ラ・ガティータ



そんな私とすみれちゃんの視線が、火花を散らした。

それが、試合開始の合図だった。

「いくわよーー!!」

私はすみれちゃんに、ローキックを放っていく。
すみれちゃんはそれを下がってかわす。

わたしは、かわされても立て続けにローキックを繰り出す。

我流だけど、私だって打撃の練習はしていたんだから。

そして、何発目かのローキックを放った後・・

「えっ!?」

すみれちゃんは、前に出て私の足を押さえて、ローキックを止められちゃった・・・
そして、次の瞬間・・・すみれちゃんは、私の腕と絡めて体を捻った!

アームホイップ!

「キャッ!?」

私はマットに投げられた。
でも、ダメージは大きくないからすぐに起き上がる。

そしたら、起き上がる直前ですみれちゃんは私に蹴りを入れた。

「キャッ!」

私は、またマットに転がされた。

「このっ!」

わたしは、起き上がってすみれちゃんへと走っていく。

今回は楽しまずに・・強烈なラリアートで、決めてあげるわよ!

「くらいなさいっ!!」

私はすみれちゃんに、ラリアートを放った!

しかし、すみれちゃんはそれをしゃがんでかわした!

「くっ・・」

私は、そのままロープへと走っていって反動で戻っていく!
すると、すみれちゃんも同じようにロープの反動で戻ってきていた!

そして、私がラリアートをしようとする前に、ジャンプして両足を伸ばしてきた。
そして、首を挟まれ・・そのまま私は前に・・・・・・

フランケンシュタイナー!!

「キャアアーー!!」

私はすみれちゃんに、マットに転がされて潰された。
でも、カウント制じゃないから、すみれちゃんはすぐに立ち上がる。

「っ!!」

私も、すぐに起き上がった!

やってくれるじゃないの、このルチャ娘が!



「やばいな〜〜遅れちゃった・・・・奈々子さん怒ってるかな〜〜・・・」

ぼくは、急いで体育館に向かう




「捕まえたわよ!」

わたしは、すみれちゃんに組み付くと後ろへ回って抱え挙げる。
そして、そのまま後ろへ!

バックドロップ!!

「キャアアアーー!!」

見事にきまる!

そして、ダウンしたすみれちゃんの上体を起こすと、首に腕を巻きつける!

スリーパーホールド!!

「くあああーーーー!!」

すみれちゃんの悲鳴が、響く。

「ギブする!?」

私は、腕に力を込めながらすみれちゃんに訊く。

「ノーに・・・・決まってるじゃ・・無いですか!!」

その瞬間、すみれちゃんが私の肘を簡単に動かしたと思ったら・・・・・

「え?・・・」

すみれちゃんの顔が、ズルッと下にズレ落ち・・・私の腕から逃れた!
それと同時に、すみれちゃんの足が私の首を挟んだ。

「えっ!?」

そして、私はそのままマットに転がされた!

柔術の動きを使ったのね!?

「キャッ!?」

「まだ、いきますよ!」

すみれちゃんは、足を離さずにそのまま首を締め付ける!

首四の字!!

「うあああああーーーーー!!」

私の悲鳴が、響く。

すみれちゃんの足を外そうとするけど、グイグイと締め上げてくる。
だからといって、ギブなんかしない!

となると・・・・・・・外せないなら・・・・

「こぉぉぉのぉぉぉぉ!!」

私はすみれちゃんを肩に乗せたまま、渾身の力で立ち上がる!

後はすみれちゃんを、マットに叩きつけてやるんだから!

・・・しかし、

「すごい力ですね」

すみれちゃんは、余裕な感じに言うと・・・・

「ハイッ!」

私の右手を取って・・・首を左足を巻きつけて右手固定すると、いきなり転がった!!
それによって、私も転がされて・・・気付いたら、右足を上へ引っ張られて・・股を裂くような感じに固められていた。

「アググ・・・」

私は痛いのと苦しいのを我慢して、何とか外そうと右手を動かすけど・・・・

「florece!(開花)!!」

スペイン語で叫んで、その右手も掴まれて後ろへ・・・・
これによって・・・首・右足・右手が逆方向に捻られて完全に極められちゃった・・・

「アアアアアアアアーーーーーーー!!!」

見たこともない固め技に、私は絶叫!
なんとか外そうともがくけど・・・・三点が完全に極まっているから、外せない!

しかも、すみれちゃんは徐々に力を強めていく・・・・


「どうですか?、私のオリジナル技、La flor de Hades(ラ・フロル・ド・ハーデス)
 ・・冥界の花は?」

そういって、さらに強めた。

「イヤアアアアーーーーーー!!!」

「ギブしますか?・・・脱出は無理ですよ?」

そう言ってくるけど、私はギブしない!

「うあああああああーーーーーー!!」

でも、できるのは悲鳴を挙げるだけ・・・・・このままじゃ・・・いずれは・・・・

しかし、そのとき・・

「・・・・・・」

すみれちゃんは、手や足を放して・・技を外した。

そして、起き上がってコーナーへ戻っていく。

私はダウンしたまま、

「ハアハア・・・何で外したの?・・・外さなければ・・・あなたの勝ちだったかもしれないのに・・・」

そう、訊いた。

すると、

「朔夜さんに取り付いたあなたを、この程度で許してあげるほど私は優しくないんです!」
「あなたは、今以上の苦痛を受けるべきです!!」

そう言い放った。

・・・・・・・・

言ってくれるじゃないの、小娘が・・・・・

「そう・・・・・だったら、私も本気でいこうかしら」

私は気合を入れなおして、立ち上がった。




「ん?」

体育館前に到着したぼくは、なにか体育館がいつもと違う事に気付いた
何が違うかと訊かれても、どこがどうとか応えられないけど・・・・・

それでも、いつもと違う・・・・
なんでだろう?




「このっ!」

わたしは、すみれちゃんを抱え挙げ、そのままマットに叩きつけた!

ボディースラム!!

「キャンッ!!」

まったく・・・私を・・・ここまで追いつめるなんて・・・・
見かけによらず、なんて強さなのかしら・・・・

「このっ、このっ!」

私は、ストンピングですみれちゃんを踏みつける。

「キャッ・・ヤッ・・・」

すみれちゃんは、両腕でガードしながら転がる。

とりあえず・・・手加減なしで、一気に片をつけなきゃ・・・私は徐霊されちゃう・・・・
そうなると、二度と朔夜くんとプロレスできなくなっちゃう・・・・

そんなの、絶対にイヤよ!

「くっ・・」

すみれちゃんが、私のキックから逃れて起き上がった。

そこへ、

「えいっ!!」

渾身のドロップキックを放った!!

「アアアアアアーーーーー!!」

私の、渾身のドロップキックを喰らったすみれちゃんは、ロープまで吹っ飛び・・
その反動で戻ってくると、バタリと倒れた。

そして、すみれちゃんの首にギロチンドロップ!!

「あぐぅーー!!」

くぐもった悲鳴を挙げるすみれちゃん。
それだけには終わらせず、すみれちゃんの体を返す。
そして、両足を抱えて引っ張る!!

ボストンクラブ!!

「くう〜・・」

すみれちゃんは、小さな悲鳴を挙げると指を私の脇腹に這わせてきて・・・

「イタッ!!」

次の瞬間、私の体に激痛が走った!
それによって、足を抱えていた力が弱まり・・・すみれちゃんは、スルッと足を抜け出した。

おそらく今のは、体のツボを押したのね経絡秘孔をつくなんて・・・・朔夜くんみたいね。

さすがは柔術やってるだけあるわね・・・・



ぼくは、体育館のドアのノブに手をかける
その時、中で叫び声のようなものが聞こえてきた

「あれ?・・だれかいるの?」

もしかして、すでに奈々子さんが試合しているとか?

となると・・・綾乃ちゃん・・・・
じゃないな・・・・綾乃ちゃんは、今日は柔道の練習日だし・・・・

となると、神楽ちゃんかな?
でも、彼女のプロレスデビューは来週だし・・・・

とにかく、中に入ってみよう・・・




「くらえっ!!」

私は、すみれちゃんをコーナーへと振った!
そして、そのまますみれちゃんを追う。

すみれちゃんが、コーナーポストに激突したら、必殺のラリアートで終わらせてあげるわ!

でも・・・・

「トォーー!!」

「えっ!?」

すみれちゃんが、コーナーを蹴ってムーンサルトした!!
そういえば、彼女はルチャ使いだったんだ・・・・

もしかしなくても、私って墓穴を掘ったことに・・・・

「キャアアアアアアーーーーーー!!!」

ムーンサルトしたすみれちゃんが、私を押しつぶした!

「カハ・・・・ハハ・・」

私はダウンしながらむせていた・・・・
油断したところをやられたんだから、ダメージは大きいわよ・・・・

「まだいきますよ!」

すみれちゃんが、またトップロープに上って・・・

「とうっ!」

また跳んだ!!
そして・・・・・背中から落ちてくる!!

ドグウーーー

「ガハッ!!!!」

私のお腹に、ダイビングセントーンが炸裂した!!!

「ガハアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

私は絶叫を挙げ・・・・お腹を押さえて、マットを転げまわった!

「どうです?苦しいでしょう・・・でも、朔夜さんはもっと苦しいんです!!」

すみれちゃんは、もがく私をスライディングで場外へ蹴り落とした!

「っ・・・」

私は苦しくて、悲鳴も挙げられない。

そして場外で苦しむ私に、すみれちゃんはロープを飛び越えてブランチャー!!
倒れている私に、すみれちゃんが勢いよく降ってきた!




「ええっ!?」

ぼくは、体育館に入るなり驚いた。

体育館の中央には、既にリングが出来ていて・・・
そこでは、奈々子さんと・・・ネコみたいな、尻尾付きの水着を着た女の子が試合をしていたんだ・・・

今日は、ぼく以外に来るって聞いていないのに・・・・・

「奈々子さんっ!」

ぼくは、リングへ駆け寄った。

そこでは、仰向けに倒れている奈々子さんが、ネコ少女に抱きつかれていた。
・・・・・じゃない、固められていた!


一見すると、抱きついているみたいだけど・・・・・違う。

ネコ少女の左足で、足を腿の下で四の字に固められ・・・
右足で胴体を締め付けられている。

さらに両腕は頭の上の方で固められている。

見たことない固め技だった。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

奈々子さんが悲痛な叫びを挙げた!

そして、ぼくに気付いたネコ少女がぼくを見た。

「ええっ!!朔夜さんっ!?・・・なぜここに!?」

ネコ少女が驚きの声を挙げた。

「奈々子さんっ!!」

リングの傍で、奈々子さんの名を叫んだ。

「アアアアアアーーーーさ・・・朔夜くーーー・・アアアアーーーーー!!」

「さ・・・朔夜さん、今・・あ・・・あなたにとりついていた悪霊を払います!」

ネコ少女が、慌てながらぼくにそう言ってきた。

もしかして、あのネコ少女は退魔師!?

「え!?・・・・キミは奈々子さんのことを知ってるの!?」

「は・・・はい、この悪霊はあなたに・・・悪影響を及ぼしていました」

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ!!」

ぼくは、リングに乱入して奈々子さんに抱きついているネコ少女を、強引に奈々子さんの上からどかした。


城ノ内奈々子
(11分46秒 ノーコンテスト)
ラ・ガディータ・ビオレタ


5 闘いの理由



ネコ少女は、横に転がり、

「朔夜さん、なにをするんですか!?」

と、抗議してきた。

「試合の邪魔したのは悪かったよ・・・でも、奈々子さんを倒したらキミは奈々子さんをどうするつもり?」

「だから、この悪霊を徐霊するんです!!」

ネコ少女は、立ちあがった。
奈々子さんは、倒れて息を切らしていて起き上がれない。

ぼくが来るのが遅かったら・・・・奈々子さんは・・・

「奈々子さんは、たしかに悪霊なんかじゃないよ・・ぼくたちの大切な仲間なんだ」

そして、ぼくは奈々子さんを抱き起こした。

「ハアハアハアハアハアハア・・・・朔夜・・・く・・・ん・・・」

「奈々子さん、大丈夫ですか?」

奈々子さんは、それには応えられず・・・息を切らしているだけだ・・・
大丈夫じゃ・・ないな・・・

「朔夜さん、あなたはその悪霊に騙されているんです!目を覚ましてください!」

と、ネコ少女。

「本当だよ、信じてよ・・・それと、なんでぼくの名前を知ってるの?」

そう訊くと、

「え・・・そ・・そ・・それは・・・・・・・・・・・」
「・・せ・・正義の美少女レスラー、ラ・ガティータ・ビオレタはなんでも知ってるんです!」

なんか、どもりながら名乗った。
名前からすると、ルチャドーラーってことなんだろうけど・・・・

「・・・・・・・・・・・・」

ぼくは無言で近寄ると・・・・

ゴンッ

ネコ少女の頭に、拳骨を喰らわせた。

「はうっ!!?・・・・・な・・なにするんですか!?」

ネコ少女が、頭を押さえて抗議する。

「ん?、突っ込み」

自分の事を美少女レスラーとか言って、ボケをかましてくれたから、突っ込みを入れたんだ。

「私は、マジメに言ってるんですっ!!」

「そうだったのか・・・・てっきりぼくはボケをかましたんだと・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

ネコ少女が、涙目になってぼくをみつめた・・・・

ぼくはさすがに、まずいな〜と思い、

「ご・・・ごめん・・・と・・とにかく、奈々子さんを徐霊しないでほしいんだ・・」

と、言ったけど・・・

「その悪霊を払わないと・・この先さらなる災難があなたを襲うんです!!」

きいてはくれなかった・・・・・・
ネコ少女には、説得するのは無理みたいだ・・・・・こうなったら・・・

「キミが何者かはしらないけど、大切な仲間を失うわけにはいかないんだ!」

そして、

「どうしても、奈々子さんを徐霊するというのなら・・・ラ・ガティータ! ぼくと勝負だ!」

「えっ!?」

「ぼくがキミに勝ったら、奈々子さんから手を引いてもらうよ!」

そう言い放った。

「ちょ・・ちょっと待ってください・・・なんであなたと闘わないといけないんですか!?」

そう言ってきた。

「ぼくだって、こんな感じに闘いをしたくないよ・・・」
「でも、大切な仲間がピンチなら・・・ぼくは仲間を助けるために闘うよ!」

そう言ってあげた。

「どうしよう・・・・・」

「恥ずかしいし、痛い目にあわせたくないし、酷い事して嫌われたくないし・・・」
「でも助けてあげなくちゃいけないし・・・ああもうどーしよぉ・・・」

なんか、小さな声でゴニョゴニョと言ってるな・・・・何を言ってるんだろう?

「でも・・・・この私の愛の力で朔夜さんを正気に戻せば・・・きっとわかってくれる・・・・・それに、うまくいけば・・・」

「おーい・・ラ・ガティータ?」

ぼくは、ネコ少女を呼んでみる。

「え?・・・あ・・・」

やっと気付いたみたい。

「・・・・・・・・・・・・・わかりました・・・どうやら、あなたはこの悪霊の被害が大きいようですね・・・・」

そして、ぼくに指差し、

「あなたを悪霊の手から救ってあげます!!」

そう言い放った。

「わかった・・・・とりあえず、二十分後に試合開始だ・・・・いいね?」

ぼくの言葉に、ラ・ガティータは頷いた。

「朔夜くん・・・あの娘・・・みかけによらず、すごく強いわよ」

いつものコスに着替えて、体育館の床でストレッチしているぼくに、奈々子さんがそう言って来た。

「はい・・・・奈々子さんが、ここまでやられていたんですから・・・・・」

と、ぼく。

ぼくは奈々子さんに勝つこともあるけど、そのときはこっちもフラフラだ。
あのネコ少女みたいに、余裕なんかない・・・・・

あの奈々子さん相手に、わりと余裕に相手をしていたんだから、もしかすると・・・ぼくよりも強いかも・・・・

でも、ぼくが負ければ奈々子さんとは二度と会えなくなってしまう。
だから、今回負けるわけにはいかないんだ!

「大丈夫ですよ、ぼくは負けませんよ」

と、奈々子さんに微笑んでみせる。

しかし、内心はけっこうドキドキしている・・・・・・・

「・・・・・・」

ぼくは、リング上にいるネコ少女を見上げる。
すると、ネコ少女はコーナーで体育座りで俯いていた・・・・・

あの娘も、本当は闘いたくないのかな?・・・・・
ぼくもできればこういった形での試合はしたくないけど・・・・・

でも、半分は、未知なる強敵と闘えることを喜んでいる・・・・・


6 奈々子さんの涙



「朔夜くん、もう時間だけど・・・・・」

奈々子さんが、言って来た。

「わかりました、それじゃそろそろ・・・・」

ぼくは、立ち上がる。

その時、

「朔夜くんっ!」

「えっ!?」

いきなり、後ろから奈々子さんに抱きつかれた。

「奈々子さん?」

「・・・・・・ごめんね・・朔夜くん・・・・あなたを巻き込んでしまって・・・・」

奈々子さんが、申し訳なさそうに言って来た。

「奈々子さん・・・ぼくは、仲間を見捨てたりなんかしないよ・・・・安心して、奈々子さんはぼくが守ります!」

「・・・・・・ありがとう・・・」

奈々子さんは、ぼくをギュッと抱きしめた。

奈々子さん・・・もしかして、泣いてる?

「それじゃ・・・行ってきますよ」

ぼくは、そっと奈々子さんの腕を解いてリングへと向かう。
そのリング上では、さっきまで落ち込んでいそうな感じだったネコ少女が、リングの中央で怒ったような表情で仁王立ちしていた。

どうやら、雑念を振り払ってやる気になったみたいだ。

ぼくも、気持ちを切り替えよう!





「さて・・・・そろそろ始めようか、ラ・ガティータ」

「・・・・・・・はい・・・・」

ネコ少女は、また悲しそうな表情になる。

?・・・どうしたんだろう?

「ところでさ・・・・奈々子さんとはどんなルールでやってたの?」

「あ・・・オンリーギブアップです」

「そうか・・・、じゃ、そのルールでやろうよ」

「えっ!?」

「これは、奈々子さんの生死をかけてだからね・・・・完全決着には、良いルールだよ」

幽霊に生死があるのかは、わからないけど・・・とにかく、完全に決着をつけたい。

「・・・・・・・・・・・わかりました」

ネコ少女も納得してくれた。

「キミの方からは、なにかある?」

「・・いえ・・・・特に・・・・」

「それじゃ、始めるよ・・・・・いいね?」

「・・・・・・・・」

ネコ少女は無言で頷いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ぼくとネコ少女は、無言で見つめあう。

そして・・・・・互いに、同時に動いた!


7 朔夜 vs ラ・ガティータ



「いくよ!」

ぼくはネコ少女に、いきなり掌底の連打を浴びせ掛ける!
今回は、最初から本気で行くしかない。

だけど・・・一発目を放った時、

「え?」

ネコ少女が、体を開いてかわし・・・・ぼくの手を掴んだ!

そして・・・

「うわっ!?」

そのまま、ひょいと投げられて、マットに叩きつけられた!
ぼくの掌底をかわして、投げるなんて・・・・・合気道でもやってるのか!?

「あ・・・・ごめんなさい・・・・」

でもネコ少女は、投げてから関節に持っていかずに・・後ずさっていた・・・・
ぼくは立ち上がりって、

「なんで、攻撃を止めたんだ?」

と、ネコ少女に言った。

「そ・・それは・・・・」

「ぼくたちは今・・・闘っているんだ・・・・・手を抜くのなら、遠慮なく倒させてもらうよ!」

ぼくは、ネコ少女に向かって行った。
ネコ少女は、ハッとなるけども・・遅い。

ぼくは組み付いて、ネコ少女を抱え挙げた。
そして、そのままマットに叩きつける!

「キャンッ!!」

ボディースラムだ。

「まだいくよ!」

ぼくはネコ少女の手首を掴んで、腕ひしぎに持っていく!

・・・・が、

「くっ・・・」

ネコ少女が、腕を抜いた。

そして、転がりながら逃げる。
ぼくも起き上がり、ロープへ走る!

そして、その反動でネコ少女へ向かっていき、

「いくよ!」

レッグラリアート!

だけど、ネコ少女はマットに伏せてかわした。
当然、かわされたぼくはマットに自爆。

ネコ少女は、自爆したぼくを見つめたまま動かない。
でも、ぼくは何も言わない。

ぼくは、奈々子さんを守る為に彼女を倒す。

それだけなんだから・・・彼女が、手を抜いてくれるのなら・・それは好都合だ。

「このっ!」

ぼくは、ネコ少女に組み付いた。

そしてネコ少女が、動く前にロープへと振る。
ぼくもロープへ走り、ネコ少女へ向かっていく。

その時、戻ってくるネコ少女が・・・意を決したような表情をした。

そして、

「トウッ!!」

ネコ少女は・・・ぼくから向かって、体で横に円を描くように跳ぶと両足でぼくの首を挟んだ!

「うわっ!?」

そして、勢いでそのままぼくを投げ飛ばした!

「アタタタ・・・・」

ぼくは、なんとかダウンからすぐに起き上がる。

確かこの技って・・・・人工衛星・・ヘッドシザーホイップだっけ?・・・・
前に流花にやられたことあるな・・・・
だけど、技のキレとかは・・流花以上だ。

気をつけないと・・・・

ネコ少女は、相変わらず立ったままだけど・・・・・

「やはり、あなたを倒さないと・・・・・あなたを救えないんですね」

悲しそうな表情で、そう言っていた。

ぼくとしては、奈々子さんを放っておいて欲しいんだけど・・・・・

「ごめんなさい、朔夜さん!!」

ネコ少女が、向かってきた。

「よーし、来い!!」

ぼくは、やっとやる気になったネコ少女を、正面から迎え撃つ事にした。
そして、ネコ少女に組み付こうとした瞬間・・・・ネコ少女が消えた。

「あれ?」

「後ろです!」

いつの間にかネコ少女は後ろへ回っていて、ぼく胴体に腕を回していた。

そして、そのまま後ろへジャーマンスープレックス!!

「どわああっ!!」

ぼくは、首の後ろをマットに叩きつけられた!
3カウントじゃないから、ネコ少女はぼくを放して起き上がる。

そして・・・ぼくの方はダウン・・・・・・・

「これはどうですかっ!」

ネコ少女は、ぼくの上体を起こし・・・ぼくの左腕を後ろに廻し・・・

「うわああー!」

腕を極められ、顔面にフェイスロック!

チキンウイングフェイスロック!

「朔夜くん!!」

奈々子さんが、叫んだ。

「朔夜さん、ギブアップしてください・・・」

ネコ少女が言うけど、

「ノーー!!」

ぼくは叫びながら、顔面に巻きつく腕を外す!

「あ・・・」

力ならぼくの方が強いから、割と簡単に抜ける事が出来た。
そして、抜けると同時に転がって間合いを取って、立ち上がる。

すると、ネコ少女がぼくの方へ走ってきていて・・・・・・

「トウッ!!」

ネコ少女が飛んだ!

フライングクロスチョップ!!

「ガハッ!!」

ぼくの喉元に、見事にヒット!!
そしてぼくは、後ろへとダウン!

「朔夜さん、どうしてわかってくれないんですか!」

ネコ少女が、ぼくにストンピングを連打!

「くっ・・・」

ぼくは、体を丸めて堪えるけど・・・・
ほとんど、痛くない。

あからさまに、手を抜いている。

「この・・」

ぼくは強引に起き上がると、ネコ少女に組み付いた!
そして、裏投げでマットに叩きつけた!

「キャアアー!」

ダウンするネコ少女。

ぼくは、彼女の上体を起こして・・・そのまま、フライングメイヤー!!

「アアーー!!」

またまたダウンした、ネコ少女。
ぼくは、さっきの仕返しとばかりに、ストンピングを連打!

「キャ・・・・イタ・・・」

体を丸くするネコ少女。

「ネ〜コは、リング〜で丸くなる〜♪」

ストンピングを止めて、同じくさっきやられたチキンウイングフェイスロックに持っていく!!

「なんちゃってね・・・」

と笑うぼくに、

「アアアーーーー!!」

と、悲鳴を挙げるネコ少女。

「イヤアアアアアーーー!!」

「ラ・ガティータ!、ネコ缶あげるから、ギブするんだ!」

ぼくは、そう言うけど・・

「い・・いりません・・・・・アアアアーーーー!!」

ネコ少女はそう言って、なんとか顔をずらして行く。

「くぅ〜〜〜〜〜・・」

ぼくは、必死で締め付けるけど・・・・それでも、どんどんずれていく・・・・
そして、ついに外れちゃった!

「くっ!!」

チキンウイングを外したネコ少女は、転がって間合いを取り・・・すぐに起き上がった。

「よく逃げられたね」

ぼくは、ネコ少女に間合いを詰め・・・足にローキックを放った!
ぼくのローキックが、ネコ少女の細い足にビシッと決まった!

「ああっ!!」

グラッとなる、ネコ少女。
そして、ネコ少女の首を抱え・・・そのまま後ろへ!

DDT!!

「キャアアーーーー!!」

ネコ少女、ダウン!
ぼくは、ネコ少女にドラゴンスリーパーをかけようとする。

しかし、

「わっ!?」

極まる前に、ネコ少女の両足に首を挟まれた!
そして、そのままマットへゴロンと転がされた!

「これで、終わらせます!」

ネコ少女が、ぼくの首を太腿で締め付けてくる!
この技は、首四の字だ!!
「あがががが・・・・」

細い足だけど、やはり力はある。

「さあ、ギブアップしてください!!」

そう言って、ギュッと締め付けてくる。

「の・・ノーー!・・・うぐぐぐ・・・・」

この体勢・・・嬉しいけど、嬉しくない・・・・・・
何とか抜け出さないと・・・・・

「うぐぐぐ・・・・」

ぼくは、ネコ少女の足を強引に開いていく。

「あ・・・・やはり、力強いですね・・朔夜さん・・・」

そう言うなり、ネコ少女は足を開かれる前にゴロリと転がって、うつ伏せにされた。
そして、うつぶせのまま後ろへと体をそらしたネコ少女が・・・
ぼくの背中の上で、首を足で締めたまま背中合わせになる。

「がは〜〜〜〜!!」

ぼくは、あまりの苦しさにかすれた声を挙げた。

だけど、ネコ少女は足をすぐに放す。

「・・・なっ!?」

ぼくが驚いて、うつ伏せのまま振り返ろうとすると・・・・・

「朔夜さんに、この技は使いたくありませんでした・・・・でも!」

ネコ少女は、一瞬でぼくの足を自分の足で固めた!

「え!?」

ぼくは、あわてて逃げようとするけど・・・・

「逃がしません!」

ネコ少女が、ぼくの右腕を掴んで・・ぼくの腰の方へ持っていく!
そして、そのぼくのすぐ脇に座り・・右腕を捻られた挙句、太腿で封じられた!

これだと、逃げるのが無理っぽい・・・

「朔夜さん・・・ごめんなさいっ!」

ネコ少女は、ぼくの顔を胸に抱き寄せた!!

それによって、上体はキャメルクラッチのように反らす体勢になった!
しかも、左腕はぼくの頬にピタリとくっついていて、動かす事も出来ない。

「うぐぐぐぐぐぐ・・・・・・・・・」

見たこともない固め技に、足の痛み・・腕の痛み・・そして苦しさがシェイクされて、くぐもった声を挙げるぼく。
顔面を圧迫する、ネコ少女の胸の感触は気持ちいいけど・・・・・・

でも、それはるかに苦しさのほうが上回っている・・・・


「さ・・・・朔夜・・・さん・・・・・・ギギ・・ギブして・・・ください・・・・」

そのことはネコ少女も気付いているらしく、恥ずかしそうな声で言う。
そして、そう言いながら僕を揺り籠のように揺らし始めた!

そうされるたびに、ただでさえしんどいのに・・・痛みと苦しさが僕を襲う!

唯一マシなのは、プニプニした感触だけ・・・・・でも、なんかコリコリした感触も・・・・

「うぐぐぐぐぐ・・・・・・」

振りほどこうとしても、振りほどけない・・・・・
手は封じられているから、ツボをつくことも出来ない・・・

ギブアップするしかないのか・・・・

すると、ネコ少女はちょっと力を緩めると、

「ギブ・・・して・・・下さい・・・」

恥ずかしそうに言った。

ぼくは、おかげでちょっと楽になった。

そして応えは。

「ノー」

すると・・・また顔面を締められる・・というか抱きしめられた。


8 お姫さまだっこ



「朔夜さん・・・・・こ・・この・・・・La cuna de un angel(天使の揺り籠)は・・・・く・・・・・脱出・・不可能・・・です・・・・」

胸に僕の顔があって、くすぐったくて恥ずかしいからかな?・・・声がどんどん小さくなっていく・・・・

・・・でも、それよりも・・・・・

「うぐ・・ぐぐ・・・」

ぼくの方が、限界に近づいてきている・・・・

このままだと、締め落とされるか・・・ギブか・・・
どちらかしかない・・・・・・強引に脱出は・・・・・・

・・・・・できないことも・・・・・・ないか・・・・・でも・・・・・

「うぐぐ・・・・・・・・ぐぐ・・・・」

「お願い・・・・・・・・く・・・朔夜・・・さ・・ん」

やれない・・・ことも・・・・・・でも・・・

「・・・・・・・・・ぐぐ・・・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・仕方ない・・・・か・・・

カプ

ぼくは、気力を振り絞って口をあけると・・・・・・・そのまま、ネコ少女の胸に噛み付いた!
もちろん・・・・跡がつかないように、軽くだけど・・・・・・・

「っ!!!!!!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ネコ少女は固まった・・・・・・
そして・・・・・・

「い・・・・・・・・・」

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」

もの凄い悲鳴と同時に、ぼくを突き放した!
そして足を解いて・・・・四つん這いのまま、ロープまで離れた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ネコ少女は座り込んで、驚いた表情のまま両腕で胸を隠していた。
そして、固まったように僕を見ていて動かない。

ぼくはこの隙にダメージを回復すべく、倒れたままジットしている。

「・・・・・さ・・・・さく・・・や・・・さ・・ん・・・・・」

ネコ少女が、震える声で言ってきた。

「な・・・・・な・・ん・・・で・・・」

あんなことしたのか、訊きたいんだろうな〜

「ごめんね・・・ロープも遠いし・・・腕も動かせなくて、抜け出すにはこれしかないと思ったんだ・・・」

ぼくは、ゆっくりと上体を起こして、マット上で胡座をかいた姿勢になる。

「だ・・・・・だから・・・・って・・・・・なにも・・・・・ここじゃ・・・・・なく・・ても・・・」

「ごめん・・・すぐ目の前にあったから・・・・・・」

と、ぼく。

「いえ・・・・・・・・・そうじゃ・・・・なくて・・・・・・・・」

「?」

そのとき、リングの外にいる奈々子さんが、クスッと笑った。

「・・・続きをやろうか」

しばらくして、体力もそこそこ回復した後・・・・ぼくは立ち上がった。

ネコ少女も、

「え・・ええ・・・」

立ち上がる。

でも、まだ胸は隠し・・・恥ずかしそうに斜め下を向いたままだ。
・・・・もしかして・・・戦意喪失しちゃったかな?

「・・・・いくよっ!!」

だけどぼくは、それにかまわず向かっていく!

「えっ!?」

ハッとなるネコ少女に、

「このっ!」

左ラリーアートを、炸裂させた!

「キャアアアッ!!」

ネコ少女は、ロープへとダウン。

そして、ロープでぐったりするネコ少女の頭を掴んで走る!
続いて、ジャンプしてネコ少女の顔をマットに叩きつけた!

「アアアーーー!!」

フェイスクラッシャー!

きれいにきまったから、これはかなり効いたはずだ。
ネコ少女は、うつ伏せでダウンしたまま動かない。

そこでぼくは、ネコ少女の腕を取って脇固めへ!

「あうっ・・・アアアアーー!!」

悲鳴を挙げる、ネコ少女。

ぼくは固めながら、

「さあ、ギブをするんだ!」

だけど、

「の・・ノーー!」

何とか逃げようとする猫少女。
だけど、ぼくは放さない。

このままギブアップに、追い込んでやる!

そして、さらに極めをきつくする。

「アアーー・・アアアーーー!!」

「アアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーー!!!」

ネコ少女が、一際大きく悲鳴を挙げた。

その時に、ぼくの脇腹に手の感触が・・・・

「つッ!!」

脇原に、激痛が走る。
ネコ少女に、ツボを攻撃されたんだ!

それと同時に、極めが緩んだ。

「ッ!!」

ネコ少女が、その隙に腕をあっさりと抜いて転がる。
そして、ぼくとネコ少女はすぐに起き上がった。

だけど、ネコ少女の方が立ち上がるのが速かった。
ネコ少女の方が、まだ体力のこってるのかな・・・・

「くっ・・」

ぼくは、そのままタックルをしようとしたけれど・・・・

「無駄です!」

ネコ少女に、タックルの姿勢のまま組み付かれ、胴体に腕を回されて押さえられる!

ぼくは、やばいと思い・・ツボを攻撃しようと、手を伸ばす。
しかし、その手を掴まれ・・反対の手を出したら、そっちも掴まれた!

そして、ぼくの腕を上に持ち上げて固められ、頭は又に挟まれた!

「くううう・・・」

ぼくは腕の痛みを、何とか堪えながらも外そうとする。
でも、やっぱりしっかりと掴まれているから抜け出せない。

これは、どうやって逃げよう・・・・・


「ギブ・・・して・・ください・・・」

又の間にぼくの顔があるせいか、恥ずかしそうにギブを迫る。
同時に、リングの中央までぼくを引っ張る。

しかも歩くたびに、ネコ少女の両足で首を締められて、かなり苦しい。

「ぐぐぐ・・・ノー・・・」

ぼくは、連行されながらもギブは拒否する。

「どうして・・・・・あなたは・・・悪霊を守ろうとしているんですよ」
「このままだと・・・あなたは・・・」

「でも・・くく・・・彼女は・・・」

痛みと苦しさに堪えながら言う。

「目を・・・覚ましてください・・・・・・」

ぼくは、奈々子さんを信じてくれないネコ少女に頭来た。

「どうして、信じてくれないんだよーー!!」

ぼくは、思いっきり頭を上げた!!
ネコ少女の股間に、ぼくの頭突きが決まった!

「あうっ!!」

ネコ少女が怯んだ!
そのときぼくは、強引に手を抜いて・・必殺の浴びせ蹴りを叩き込もうと考えていたんだけど・・・

「朔夜さんのバカーーーーーーーーー!!」

「うわっ!?」

ネコ少女が、ぼくの腕を背中にクロスしたまま押し付けられた。
そのせいで、脱出失敗に終わった。

しかも、ネコ少女はその体勢からぼくの体に腕を廻し腕を掴んで極め・・・自分の体と密着させた!

もしかして・・・この体勢から、パワーボムやる気じゃ・・・・・
この体勢からのパワーボムと言ったら・・・・・

「朔夜さんこそ、どうして信じてくれないんですかーーーー!!!」

「うわっ!?」

ネコ少女が、パワーボムのようにぼくを持ち上げた!

この技・・・やっぱり「ライガードライバー」だ!!

「うわああああああああーーーー!!!」

ぼくは、ライガードライバーでマットに叩きつけられた!!

「ハアハア・・・・・」

ネコ少女は、ぼくをライガードライバーで叩きつけた後、ぼくを放した。

「が・・・・・は・・・・・・」

体中がバラバラになりそうな威力に・・・・ぼくは、もがくことも出来ず・・・・ただダウンしたまま・・・
もし、3カウントだったら・・・これで終わっていただろうな・・・・

かつて・・・アレナメヒコの英雄と謳われた伝説のルチャドール
「ライガーマスク」日本での愛称、仮面ライガーの必殺技・・・こんなに威力あるなんて・・・・・

でも・・・・・なぜ、彼女がこれを?・・・・・

「ハアハア・・・朔夜さん・・今度こそ・・・終わらせます」

ネコ少女は、ダウンしたぼくの足を腿の下曲げて、自分の足と足を絡めると・・ぼくに抱きついた!!
それまでのうごきが、もの凄く速くて・・・ぼくは気付いたら抱きしめられていたという感じだ・・・・

それだけじゃなく、両腕は頭の上のほうに・・・・・・・これは・・・・・

「うわああああああああああああああああ!!」

体中に激痛が走り・・・ぼくは絶叫した。

今気付いたんだけど・・・・・今のぼくの体制・・・・・
ぼくが奈々子さんを助け出したときに、奈々子さんが、ネコ少女にかけられていた技だ!!

「あああああああああああーーーーー!!」

叫ぶ、ぼく。

手は上に極められ・・・足は腿の下で四の字に固められているから、動けない!
体制的には、ネコ少女と抱き合っているから、うれしいけども・・・それよりも、もの凄い苦痛の方が大きい。

「朔夜さんっ!!お願いっ!!、ギブアップしてーーー!!」

ネコ少女が、悲しげに叫んだ。
見ると、目に涙を浮かべている。

「お願いだ・・・・・あああああ・・・クッ・・・・・放っておいて・・・・ううう・・・」

「放っておけませんっ!!」

「な・・・・なぜ・・・・・」

ぼくは、苦痛に耐えながらも訊く。

「だって・・・だって・・・・私・・・朔夜さんの事・・・・好きなんですっ!!」

叫びながらも、ネコ少女はぼくをギューッと抱きしめた!
それによって、さらに苦痛が増し・・・・

「ぐわあああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

ぼくの絶叫が、体育館に響いた。

「朔夜くんっ!!」

奈々子さんが、叫ぶ。

「もういいから・・・・私の事はいいから・・・ギブアップして!!」

「い・・・・いや・・・・だ・・・・わあああああーーーー!!」

「朔夜さんっ!!」

ぼくに抱きつくネコ少女が、悲痛に叫びながらぼくを揺する。

「ぜ・・・たい・・・に・・・・・ギブ・・・・しな・・・い・・・・」

「朔夜・・・・さ・・ん・・」

ぼくを見つめるネコ少女の目から、涙がぼくの頬に落ち・・・・

「だったら・・・・・・この・・・・・El abrazo de un angela(天使の抱擁)で・・・・楽にしてあげます・・・・」

泣きながら、ぼくの処刑を宣言した。


「朔夜さん・・・・私・・・」
「”ラ・ガティータ・ビオレタ”は、この試合が終わったら、二度と現れません・・・」
「でも、私はあなたの為にこうしたことは・・・覚えておいてください・・・・・」

そして・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・ぼくに、ゆっくりと・・・・・・・・・軽い口付けをした・・・・・・


あなたを傷つけてしまった、せめてものお詫びに・・・・
・・・・私の・・・ファーストキスを・・
・・・あなたに捧げます・・・・

そして、ネコ少女が渾身の力でぼくを抱きしめた。

「うわあああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

もうだめだ!!

そう思った瞬間・・・・・・

ガツン

「キャアアッ!?」

「ぐっ!?」

ぼくが絶叫して、頭を振った瞬間・・・・・おでこに鈍い痛みが走った・・・・・・
・・・・無意識のうちに、ネコ少女に頭突きをしたみたいだ。
少女のおでこに、ごっつんこしちゃった・・・・

でも、ネコ少女も痛かったみたいだ。
おかげで、ネコ少女の抱きしめる力が緩んだ!

その瞬間、

「うおおおおおおおお!!」

ぼくは、強引に横に転がり・・・腕や足を外しにかかる。

「ああ!?・・・キャッ!」

ぼくは、外すのに成功した!

でも、体は密着したままだ・・・・・・
本音を言えば、もう少しこのままでいたいけど・・・・・

「くっ・・」

ネコ少女に抱きつかれたまま、強引に起き上がった!

「に・・・逃がしません!!」

ネコ少女は、ぼくの頭を脇に抱える!

ヘッドロックだ!

この体勢から、なにかされる前に・・・・・

「このーーーー!!!」

「キャッ!?」

ぼくは、ヘッドロックされたままネコ少女を抱え上げた!!
というか・・この体勢って・・・・よく流花がぼくにねだる、『お姫様だっこ』だ・・・・

「ささささ・・・さ・・朔夜・・・さん!?」

ネコ少女が、驚いた声で言う。

抵抗して暴れられるかもしれないと思っていたんだけど・・・・
ネコだからか・・・抱えられたままじっとしている。

「・・・・・」
「・・・・・」

ネコ少女と目が合う。

ネコ少女は、紅い顔してぼくをジッと見つめていた。
体勢が体勢だけに、ぼくもちょっと恥ずかしくなったけど・・・・

「いくよっ!」

ぼくは、そのままアバランシュプレスで、ネコ少女を叩きつけ、ぼくとマットでサンドイッチにした!!

「っ・・・・・・・・・・・・・・!!」

ネコ少女は、悲鳴は挙げずに・・苦しそうに息を漏らしただけだった。
そして・・・ぼくは、そのままネコ少女を押さえ込んだ。



私・・・・夢にまで見た・・お姫様だっこを・・・・朔夜さんにしてもらっちゃった・・・・
それに私・・・・・朔夜さんに今・・・抱きしめられてる・・・・・

私・・・・・・幸せ・・・・・このまま・・・時が止まればいいのに・・・・



「朔夜くん、オンリーギブアップだってばー!」

「あ・・・・そうか・・・・」

ぼくはフラフラな状態で起き上がり、ダメージのせいか・・・・トロンとして・・夢見心地なネコ少女をうつ伏せにする・・・・

「・・・・・・朔夜・・・・・さ・・・・ん・・・」

ネコ少女が、なにか呟いたけど・・・・ぼくにはよく聴こえなかった。
そしてぼくは、うつ伏せのネコ少女の足をぼくの足と絡める。

「え?・・・・」

ネコ少女が、正気に戻ってきた・・・・・だけど、そのときには既にネコ少女の腕を掴んでいた。

「ええ!?・・・ああ・・」

ネコ少女に、焦りの表情が現れた。

「終わりだよ」

ぼくは最後の力を振り絞り、その腕を引っ張りながら後ろへと倒れ・・・同時にネコ少女の体を持ち上げる。

「ア・・・アアアアアアーーーーーーーーーーーー!!!」

ネコ少女の悲鳴が沸きあがった!

そう・・・・吊り天井・・ロメロスペシャル!!

今までのルチャの技の仕返しだ!

「イヤアアアーーー・・アアアーーーーー!!」

見事に仰向けに反り返ったネコ少女は、抵抗もせずに悲鳴を挙げるだけだ。
この技は、抵抗できない。

以前、流花に遊びでかけた事あるけど、流花でさえも抜け出せなかった技だ。

ネコ少女はどうだろう・・・・どこまでたえられるかな・・・・というよりも、ぬけだされたらヤバイ・・

ぼくの体力は限界に来ている。
これで返されたりでもしたら・・・・ぼくに勝ち目はない。

これに全てを賭ける!!


「イヤアアアアアアーーーーーー放してーーーーアアアーーーー!!」

「だったらギブするんだ!」

「い・・・ハアハアハア・・イヤ・・・アアアアア!!」

華奢な身体を小刻みに振るわせながら、懸命に堪えるネコ少女。
でも、しっかり絡まった足は離れない。

そして、さらに両手両足に力を込める!

「キャアアアアアアアアアアアーーーーーーー!!」

ネコ少女の悲鳴が、体育館に響き渡る。

絶対に、放すもんか!!

「アアア・・・あああ・・・ハアハアハアハア・・・ハアハア・・・もう・・だめ・・」

徐々に荒くなっていく、ネコ少女の息遣い。
同時に、ネコ少女の声が小さくなっていき・・・

そして・・・・・力を失ったネコ少女の頭が、カクンと下を向き・・・・


「ギブ・・・・・アップ・・・・・」


ネコ少女の、ギブアップという声を聴いた時・・・
足の方から一気に体の力が抜けて、ネコ少女がぼくの上にドスンと落ちた。

「うぐ・・・・・ハアハアハアハア・・・」

「ハアハアハアハアハアハアハアハアハアハアハア・・・・・・・・・・・・・・・」

ネコ少女は、ぼくの上で仰向けに倒れたまま息を切らしていた。

それは、ぼくも同様なんだけどね・・・・・・疲労の方も一気に来たから、このまま動く事が出来ない。

このまま寝ちゃおうかな〜・・・・


堀部朔夜
(19分53秒 ギブアップ)
(ロメロスペシャル)
ラ・ガディータ・ビオレタ×


9 朔夜さんの前には・・・二度と・・・



「朔夜くんっ!!」

奈々子さんがリングへ駆け込んできた。
そして、ぼくの上からネコ少女をどかすと、ぼくを抱きかかえた。

「朔夜くん、大丈夫!?」

「なんとか・・・・・」

「ごめんね・・・・それと、ありがとう・・・・・私の為にここまで・・・・・」

奈々子さんは、泣いていた。

「ぼくは・・・・仲間を見捨てないって・・言ったじゃないですか・・・・」

ぼくは、力なく笑う。

そこで・・・・・・なぜか急に眠くなって・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・

「・・・・・・・・・・朔夜・・・さん?」

すみれちゃんは、朔夜くんを覗き込んだ後、私を疑いの眼差しで見る。

「大丈夫、ちょっと眠ってもらっただけだから・・・・・それと、あなたに言っておきたい事があるの」

「・・・・・」

「たしかに、今回の一件は私が仕組んだ事よ・・・・」
「でも、私は誰かを道連れにしようだとか・・危害を加えるなんて考えてないわよ」

すみれちゃんは、黙って私を見つめる。

「信じてもらえないかもしれないけど・・・・・私は朔夜くんや他の・・あの時の娘達にも取り付いてなんかいないわ」
「同じサークルの仲間として一緒にいるだけよ・・・・・」

「私は『仲間』に危害なんか間違っても加えたりしないわよ」

そう言うと、

「・・・・・・わかりました・・・」

意外な事に、すみれちゃんは私の話を信じてくれたみたい。

「信じて・・・くれるの?」

「・・はい・・・あなたの言う事も・・・朔夜さんの言う事も・・・・嘘は無いみたいですから・・・」

「それじゃ・・・」

「私は・・・・もう・・あなたには、手を出しません・・・・・そして朔夜さんの前には・・・二度と・・・」

すみれちゃんが、涙を浮かべてそう言うと・・・ゆっくりと立ち上がった。

そして、

「朔夜さんに・・・・謝っておいて・・ください・・・・」

すみれちゃんは、ゆっくりと背中を向けてリングを降りようとする。

「すみれちゃん!」

すみれちゃんの背中に向かって叫んだ。

「今度の日曜日、ここで待ってるわよ」

でも、すみれちゃんは・・・

「私には、参加する意味も資格もありません・・・・・」

断ってきた。

「来てくれないの?」

「・・・・・・」

すみれちゃんは、無言でリングを降りた。

「だったら〜・・・・今回の事は、全て私が朔夜くんに話しておくことになるわね〜〜」

そう言うと、すみれちゃんは私の方を振り向き、

「なっ・・・も、もしかして私の正体も!?」

「そうなるわね〜〜」

「そんな!!・・・私、朔夜さんをこんな目にあわせておいて・・・今更・・・」

「大丈夫よ、朔夜くんはそんなこと気にしてないわよ」

「で・・でも・・・やっぱり・・・・」

「じゃ、朔夜くんに話しておくね」

私は、朔夜くんの顔の上に手を置いた。

「ああーーー!?やめてーーー!!」

慌てるすみれちゃん。

「だったら来る?・・・あ、ちなみにそうすれば朔夜くんの近くにいることできるわよ」

ニッコリ笑って、そう言ってあげる。


どうしよう・・・・・
 朔夜さんに合わす顔が無いと言うのに・・・・・

 でも、今回のことがきっかけで・・・・・私と朔夜さんが・・・・
 ・・なんてことになったら・・・・・・キャーー


「すみれちゃん?・・・すみれちゃーーん!!」

なんか、腰くねらせたり・・ニヤけたり・・・・何を想像しているのかしら? 

とにかく・・

「どうしてもイヤなら、いいわよ〜〜私がサキュバスの如く朔夜くんを私のものにしちゃうから」

そう言うと、すみれちゃんは我に帰り・・

「それだけは、絶対に許しませんっ!!」

そう叫んできた。

「なんで〜?、私には手を出さないんでしょ?」

「それとこれは、別です!!」

「関係あるわよ〜」

「・・・・・・・・・・」

すみれちゃんが黙り・・なにか考えてる。

そして、

「わかりました・・・あなたを監視するため・・・そして朔夜さんを守るために、私もそのサークルに参加します」

やっと承諾してくれた。

「だから・・・・私の正体は・・・朔夜さんと他の人たちには内緒にしてくださいね・・・・・」

「いいわよ〜」

と、私。

これでまた、いろいろと「企画」を練る事ができるわね〜
新しい仲間が二人も増えたし〜・・・次は何を企画しようかしら?


でも、そのまえにすみれちゃんと決着をつけないと!


10 めでたし、めでたし?



「ん・・・・あれ?・・・・」

ぼくは、いつの間にか眠っていたらしく・・・・・気付いたら、奈々子さんに膝枕されていた。

「あ、朔夜くん起きた?」

「奈々子さん・・・・・・あれ?、ラ・ガティータは?」

「行っちゃった・・・・・・あなたに、ごめんなさいだって・・・」

「そうですか・・・・って、あの娘もスカウトしたかったのに・・・・」

「そうね・・・でも、今度の日曜に現れるんじゃないの?」

「え!?・・・もしかして、奈々子さんがスカウトしたんですか?」

「フフフ・・・さーねー」

奈々子さんが、いたずらっぽく笑った。

「なんか、怪しいですよ・・・・・なんか企んでませんか?」

「失礼ね、なにも企んでいないわよ〜!」

「ウグッ!!」

ぼくは、奈々子さんにドラゴンスリーパーをかけられた。

「奈々子さん、ギブギブーー!!」

体育館に、またまたぼくの叫びがこだました。


−完−


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