第3話
作:薊(超芝村的制作委員会)



1 安眠



「う〜〜〜ん・・・・・」

ぼくは、ゆっくりと目を開けた。

頭がボーッとする・・・・・・

思考が正常に働かない。

(そうか・・・ねむっていたのか・・・・・)

ぼくは、それを確信した。

それといまの状況・・・壁に寄りかかって、同じようにぼくに寄りかかって寝ている妹を抱きかかえている。

疲労感と流花の温もりで・・・もう少し寝ていたい気分だ・・・・・

「ク〜・・ク〜・・」

ぼくはまだ寝ている妹・・流花の肩に顎を乗せる。

そして、そのまま瞼を閉じる。

あれほどの激闘だったし、もう少し体力を回復しよう・・・・・

この後はタッグマッチ・・・・・絶対に・・・・・・

・・・・・・・・ク〜・・・


2 かわいい寝顔



「おい!、流花起きろ!」

ぼくは、抱きかかえている流花を揺する。

「う・・・う〜ん・・・・」

流花がゆっくりと瞼を開く。

「あれ〜?・・・流花ねむちゃったんだ・・・」

眠そうな声で言う、流花。

「おはよう、流花ちゃん」

「二人して、かわいい寝顔だったわよ」

弥生ちゃんと綾乃ちゃんがそう言ってきた。

ぼくもさっき起きたばっかりなんだ。

流花との試合の後、ぼくたちは30分ほどの休憩を取ることにしたんだけど、
壁に寄りかかっていたら流花がぼくのまえに、座って寄りかかってきたんだ。

さすがに弥生ちゃんと綾乃ちゃんが怒ると思って、二人の方を見ると・・二人とも笑顔で頷いた。

二人とも流花に今日は譲るつもりらしい。

ぼくはそのまま流花を抱きしめていてやった。

そしたら疲労と流花のぬくもりでだんだん眠くなってきて・・・気付いたら眠っていたんだ。

「ふにゅ〜・・」

流花は眼をこする。

まだ眠いはずだ。

「流花ちゃん、そろそろタッグマッチの方をはじめようと思うんだけど、大丈夫?」

と、綾乃ちゃんが流花に訊く。

「うん・・・いいよ〜」

そう言って立ち上がろうとする。

でも、まだ眠そうだ・・・・大丈夫かな?

「あ、ちょっと待て」

ぼくは流花の肩に手を置く。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

「ほら・・・まだ、流花のリボンを結んでいないから・・」

「あ、そうか・・お兄ちゃん結んでくれる?」

「ああ」

ぼくは、ほとんど外れている流花のリボンを結びなおしてあげた。

これで大丈夫だ。

「ありがとう、お兄ちゃん」

と、流花

「さあ、準備しよう」

ぼく達は準備にかかった。


3 必勝祈願です



入場は挑戦者からが基本だ。
だから最初は綾乃ちゃんがリングアナをやり、ぼくたちが入場する。

ぼくと弥生ちゃんは、先程の流花とぼくの試合のときにぼくが入場してきたステージの入り口にいる。

入場のコスチュームは、ぼくは同じくTシャツ。

弥生ちゃんは、空手着を着ていて黒帯を締めている。
これが弥生ちゃんの入場用のコスチュームだ。

「いつもながら、入場前はドキドキしますね・・お兄さん」

「そうだね、しかも今回はぼくたちの復讐戦だしね」

「はい・・ところで、流花ちゃんとの試合のダメ―ジは・・・」

「うん・・・一応、昼寝したからだいぶ回復したよ」

と、ぼく。

「多分流花ちゃん達も、同じ事をしてくるでしょうけど、先に私がいきますね」

と、弥生ちゃん

「いや、ぼくが行くよ」

「ええ?・・だいじょうぶですか?」

「うん、綾乃ちゃん達を油断させればと思ってね・・・うまくいけば、ぼく達のペースに合わせられるかもしれないからね」

「そうですか・・・わかりました」

と、納得してくれた。

とりあえず、打撃・・・得意の掌底ラッシュ中心で攻めていこう。
綾乃ちゃんと流花もたぶん打撃を警戒しているとは思うけど、とにかくぼくはこれで攻めていく。

向こうのペースにはあわせない事が大切だ。

「あの・・・おにいさん・・・」

「ん?」

「私達の必勝祈願です・・」

弥生ちゃんは、そう言っていきなりぼくにキスした。

「ええ!?・・や・・弥生ちゃん!?」

「フフ・・流花ちゃんと、綾乃さんには内緒にしてくださいね・・・・・」

弥生ちゃんは、顔を真っ赤にしてそう言った。

「・・・・・・・うん・・・」

このとき、ぼくも同じくらい顔を赤くしていたんだろうな・・・・・


4 見慣れた制服



「青コーナーより、堀部朔夜・川元弥生の入場です!」

綾乃ちゃんの声が体育館に響いた。

そして、ぼくのテーマ曲が鳴り出した。

「行こうか、弥生ちゃん!」

「はいっ!」

そして・・・・・

「せーのっ・・・」

二人で声を合わせ・・・・

バンッ

ドアを蹴り開けた!

そして、ぼくの左に弥生ちゃんが並んでリングへと歩いていく。

ぼくたちは、じっとリングを睨むように見つめる。

そして、この前の雪辱を晴らす事を誓う。

「シッ、シッ!」

ぼくはリングに上がると掌底を何発か繰り出す。

そして弥生ちゃんはリングインする前に、

「押忍っ!」

空手式に礼をしてリングに上がる。

ぼくと弥生ちゃんのリングインはこれで終了。

お次は王者組の入場だ。

「それじゃ、わたしがリングコールしますね」

と、弥生ちゃんが申し出る。

「お願いね、準備できたら用具室のドアをノックするから」

綾乃ちゃんは、そう言って用具室の方に走っていく。

綾乃ちゃんは何を着てくるんだろう?

いままで着ていたのはジャージだから、用具室の中で着替えるんだろうな。


五分後。

用具室のドアがノックされた。

ぼくはリングの脇に置いてあるCDラジカセに、綾乃ちゃんのテーマのCDをセットする。

「いいよ、弥生ちゃん」

と、ぼく。

弥生ちゃんは頷いた。

「赤コーナーより、SWGPタッグ王者 成瀬綾乃・堀部流花の入場です!」

弥生ちゃんがコールした直後、ぼくはラジカセのスイッチを入れる。
CDラジカセから、WeiβのVelvet Underworldが流れ出す。

そして用具室のドアが開かれ、中から綾乃ちゃんと流花の王者組が出てきた。

この時の二人のコスチュームの内・・・綾乃ちゃんはぼく達が通っている中学校のセーラー服だった。
いつも見慣れている格好だけど・・・・こうして入場コスチュームで使われると、ぼくとしてもかなりくるものがある。

ぼくは綾乃ちゃんのその姿に、一瞬ドキッとしてしまった。

(いつも見慣れているはずなのに、萌えてしまうのはなぜだろう・・・・)

そして流花の方は、さっきとおなじく体操服なのだけどブルマを履いていなかった。
上着だけをスクール水着の上から着ていて、下はそのまま水着の裾を出していた。

恥ずかしながら、ぼくはこれにもかなりドキッとしてしまった。
ぼくとの試合のときの体操服にブルマも萌えたれども、こちらもグッとくる!

実の妹といえど、これは・・・・

綾乃ちゃんがリングに一礼してリング・イン。

「よろしくね、弥生ちゃん、朔夜くん」

そして朔夜くんのところで、ぼくにウインクした。

「う・・うん」

またも、ぼくはドキッとして顔を赤くする。
ぼくをからかっているのか、それとも弥生ちゃんを挑発しているのか・・・・

「わーーい!」

流花はコーナーポストの上に飛び乗った。

そして、律儀にリングの周りに手を振って、

「とおーー!」

コーナーからムーンサルトで宙を舞い、着地する。

ぼくは、その姿におもわず見とれてしまった・・・・・
なぜかとても美しく思えたんだ・・・。

「どう?・・かっこいいでしょ〜」

流花は、はしゃぎながら言ってきた。

「そ・・そうだな・・」

ぼくはさっきと同じように頷く。
この二人・・・やっぱりぼくをからかっている・・・・

「それじゃあ、はじめましょう!」

と、弥生ちゃんが不適な笑みを浮かべながら言う。

「いつでもいいわよ〜」

綾乃ちゃんと流花が赤コーナーに戻っていく。

二人とも、余裕の表情だ。

同時にぼくと弥生ちゃんも青コーナーに戻る。

「お兄さん・・・本当に先にいくんですか?」

「ああ、ぼくが二人の出鼻を挫くよ」

ぼくは赤コーナーをみつめる。

あちらは、やっぱり綾乃ちゃんが出てきた。

「さあ、どっちが出てくるの?・・・私はどっちでもかまわないわよ!」

と、綾乃ちゃん。

では、こちらも・・・・

「ぼくだよ!」

ぼくがリングの中央に出る。

「お兄ちゃんが!?」

流花が驚きの声を挙げた。
綾乃ちゃんも驚いた表情だ。

二人とも、弥生ちゃんがでてくるものだと思っていたんだろう。

「どうしたの?、なにかマズイ?」

ぼくは意地悪く訊いてあげる。

「ううん・・悪くないけど・・・・」

と、綾乃ちゃん。

「なら、これで始めるよ」

「う・・うん」

そして、ぼくたちはそれぞれのコーナーに戻る。

「それでは、いつものやり方ではじめるね」

流花が500円玉を掲げてみせる。

ぼく達のタッグ戦の場合、試合開始の時にコインを放り投げて床に落ちた音がゴングなんだ。

まあ、これも人数の都合上仕方が無い。

「いくよー・・それ!」

流花が頭上にコインを放り投げた。

ぼくと綾乃ちゃんの間に緊張が走る。

お互いに、ジッと相手を睨む。


チャリーーーン


コインが床に落ちて、軽い音がした!

ゴングだ!

「いくわよー!!」

「おおーー!!」

ぼく達は同時に動いた!


5 タイトルマッチ 綾乃、流花 VS 朔夜、弥生



綾乃ちゃんが、ぼくに掴みかかってきた。

ぼくはここで組み合わずに、いきなり得意の掌底連打を放つ!

「キャッ!?」

ぼくの掌底が、パシパシと綾乃ちゃんにヒット!
そのまま何発も当てていく。

綾乃ちゃんは両腕でガードの体制になる。

そこへ、

「このー!」

ぼくは飛び上がって延髄斬り!
綾乃ちゃんに見事に炸裂!

「ああっ!」

綾乃ちゃんダウン!

(よし、今だ!)

ぼくは倒れた綾乃ちゃんの体を返して、覆い被さる。

「フォール」

体固め!

そして、ここでカウントが・・・・・・・・・・・・・・・あれ?入らない?

「アハハハハハー!お兄ちゃん、馬鹿みた〜い」

「お兄さんっ!、何やっているんですか!!」

え?・・・・・

「ああ、そうだった!!」

オンリーギブアップだったんだ!!

「クスクス・・・」

綾乃ちゃんも、ぼくの体の下で笑った。

「くそっ!」

ぼくは慌てて、綾乃ちゃんの左腕を掴んだ。

狙うは、腕ひしぎ!

しかし、

「甘いわよ!」

綾乃ちゃんは、強引に腕を引っこ抜いた。
そして、ゴロッと転がって離れて起き上がる。

でも、ぼくが追いつく方が少しばかり速かった。

綾乃ちゃんが起き上がったときには、ぼくは綾乃ちゃんの後ろに廻っていた。

「そのとおりだよ、綾乃ちゃん!」

ぼくは後ろから綾乃ちゃんに組み付き、そのまま後ろへ放り投げる!

バックドロップ!!

まともにマットに叩きつけた!

「きゃああ!」

見事に炸裂!

そこで。ぼくは関節にはもっていかない。

起き上がると、そのまま綾乃ちゃんに馬乗りになる。

「く・・・」

綾乃ちゃんは何とか逃げようとする。

・・・が、逃がさない。

「オラァ!」

ぼくはその体勢のまま、綾乃ちゃんに掌底の雨を降らせる。

当然、綾乃ちゃんも掌底をガードしようとするけれども、あまり効果がなくて何発も喰らってしまう。

「きゃっ・・イヤ・・キャッ・・アア・・」

「綾乃ちゃん!!」

流花が叫ぶ。

カットしたくても、入った時点で反則負けになってしまうからカットには来れない。

「さあ!、どうする綾乃ちゃん!!ギブする!?」

ぼくは掌底の雨を降らせながら、綾乃ちゃんに叫ぶ!

「冗談・・・クッ・・じゃない・・・わよ!」

綾乃ちゃんは、なんとかパンチで反撃しようとしてくるが、当たってもほとんど痛くない。

(さて・・・もういいかな?)

ぼくは、綾乃ちゃんの上からどいて立ち上がる。

「え!?・・・・」

綾乃ちゃんが驚く。

このまま、馬乗りからの掌底で終わらせてもいいんだけれども、それだと面白くない。

「ほらほらー!」

さらにストンピングを連打!

「キャ!・・・キャッ・・キャッ!」

悲鳴を挙げる綾乃ちゃんをそのままにして・・・・

「弥生ちゃん!」

ぼくは弥生ちゃんに手を伸ばす。

「はいっ!」

弥生ちゃんとタッチする!

そして、ぼくはリングから出て・・代わりに弥生ちゃんがリングに入る!

さあ行け!弥生ちゃん!!


「くぅ・・・」

綾乃ちゃんが起き上がる。

しかし、そこへ・・・・

「このぉーー!!」

弥生ちゃんの、中段廻し蹴りが決まった!

「ぐぶぅぅぅぅーー!」

モロにヒットして、そのまま綾乃ちゃんはダウン!

「綾乃ちゃーーん!!」

流花の、焦りの叫びが体育館に響く。

そして、弥生ちゃんはこっちのコーナーに戻ってくる。

ぼくはカウントを取り始める。

「ワン・・・・ツー・・・・スリー・・・・フォー・・・・」

打撃によるダウンの場合は、ぼくがカウントを取ることになっている。

もちろん、インチキなどはしない。

「くくく・・・・・」

綾乃ちゃんは、なんとか起き上がってくる。

そして、

「ごほっ・・ごほっ・・」

と、むせる。

「綾乃さん、そのままにしておけばいいのに」

「冗談言わないで!、絶対に負けないんだからっ!!」

そして、すぐに弥生ちゃんに跳びかかっていった!

「くっ!」

弥生ちゃんは掴まれまいと、カウンターの前蹴りを放つ!

・・・が、あらかじめ綾乃ちゃんはガードをしていた。

そして弥生ちゃんに組み付いた。
弥生ちゃんが何かする前に、綾乃ちゃんの大外刈りが決まった!

「きゃあ!」

ドスンと後ろに倒れた!

それだけに終わらず、すぐに起き上がらされる。

「えいっ!」

今度は払い腰でなげられる!

「きゃあ!」

一度、綾乃ちゃんに掴まると、何度も連続で投げをくらってしまう・・・
弥生ちゃんは、五回も連続で投げられてしまった。

「弥生ちゃん、離れるんだ!」

ぼくは叫ぶが、綾乃ちゃんはそうさせてくれない。
弥生ちゃんを起き上がらせて、さらに投げるつもりだ!

・・・・が、

「そうはさせません!」

起き上がった瞬間に、弥生ちゃんの下段廻し蹴りが、ビシッと綾乃ちゃんの左足に決まった!

「ああっ!」

綾乃ちゃんがグラッとよろける!

そして、

「このぉ!!」

弥生ちゃんの左中段廻し蹴りが、綾乃ちゃんの胸の辺りにヒット!

「ぐうぅぅ〜・・・」

かなり効いたみたいだ。

そこへ、弥生ちゃんのドロップキックが炸裂!!

「きゃあああ!!」

綾乃ちゃん、たまらずダウン!

「綾乃ちゃ―ん!、流花と代ってーー!」

流花が、綾乃ちゃんに向かって手を伸ばす!

が、弥生ちゃんはそうはさせじと、ダウンの綾乃ちゃんにアキレス腱固めをかけた!!

「きゃああああああーーーー!!」

髪を振り乱しながら、さらに大きな悲鳴を挙げる綾乃ちゃん。

これで一気に決められるか!?

「綾乃さん!、ギブアップしてください!」

弥生ちゃんは、渾身の力で綾乃ちゃんの足を締め上げる!

「ああああーーー!!、ノ・・ノーーーー!!」

綾乃ちゃんは、弥生ちゃんの肩などをバシバシと蹴りまくる!

「きゃっ!・・くぅ・・・」

弥生ちゃんの顔も、苦痛の色が見えてきた。

けれども、なんとかギブさせようとする。

「いやあああーーーー!!」

悲鳴を挙げながら、綾乃ちゃんはさらに蹴りを出す。

そしてそれが・・・・

ドカッ

弥生ちゃんの顔にモロに当たってしまった!!

「きゃああああーーーー!!」

弥生ちゃんは顔を押えて、後ろへひっくり返ってしまった!!

「弥生ちゃんっ!!」

ぼくは叫んだ!

弥生ちゃんは、顔を押えたままうずくまっている。

もしかして、怪我したのか!?

綾乃ちゃんの方は、心配そうに弥生ちゃんを見ながら流花とタッチした。
少し足を引き摺るようなかんじだったから、結構ダメージはあるみたいだ。

「弥生ちゃん、大丈夫?」

流花が、弥生ちゃんに近づいて聞く。

「うん・・・大丈夫」

弥生ちゃんが、顔を挙げる。

痛そうにしているけど、鼻血などは出ていない。

すると、

「じゃあ、大丈夫だね!、試合続行!!」

そう言って、コーナーに飛び乗る。

(あ!・・・あいつ・・・)

そう思った時、流花が飛んだ!

「行っくよーー!!」

ミサイルキックだ!!

ドカッ

弥生ちゃんは起き上がった瞬間に、まともにミサイルキックを喰らってしまった!

「きゃあああああーーー!!」

弥生ちゃんダウン。

「弥生ちゃん!!」

ぼくは、また叫ぶ。

「弥生ちゃん、起きてね〜」

流花は、弥生ちゃんの髪を掴んで引き起こす。

「ああ!・・痛い痛い!」

弥生ちゃんは起き上がらされ・・フラフラとなっている。
強烈なダメージが立て続けにきたから、当然だ。

「続いては〜・・・」

流花が助走をつける。

やばいっ!!

「よけるんだ!弥生ちゃん!!」

しかし、

「喰らえーー!!」

流花のヒップアタックが、弥生ちゃんの顔面に炸裂した!

「キャーーーーーーーー!!」

弥生ちゃん完全にダウン!

「弥生ちゃ――んっ!!」

ぼくは叫んで手を伸ばす。

しかし、ダウンしている弥生ちゃんにはそれが気付かない。

「よいしょっ!」

流花は、弥生ちゃんの足を取って自分の足に絡ませる。

足四の字だ!!

「キャアアアアアーーーー!!!」

弥生ちゃんが絶叫する。

「さあ弥生ちゃん!、ギブしちゃって!」

流花は、後ろに手をつきながらニコニコ顔で言う。

そして、弥生ちゃんの足を締め上げる!

「イヤアアッ!!・・・ああーーー!!」

長い髪を振り乱して、悲鳴を挙げる弥生ちゃん。

とても、抜けられそうにない。

かといって、カットしに行けば反則負けになっちゃうし・・・・

(・・・・・たしか、この技は・・・・・・・・そうだ!!)

「弥生ちゃん!、体をひっくり返すんだ!!」

ぼくは、弥生ちゃんに向かって叫ぶ。

たしか、これで返せるはずだ。

「は・・・はいっ!」

弥生ちゃんはぼくの助言とおりに、やや強引に体をひっくり返してうつ伏せの状態になる。

「え?・・・きゃあ!」

同時に、うつ伏せになった流花が驚く。

そして、

「ああああーー!!」

今度は流花が悲鳴を挙げだした。

そう、足四の字はこうされるとかけた方が痛いんだ。

「流花ちゃん!、ギブアップする!?」

「いやだーーー!」

流花は顔を歪ませながらも、ほふく前進でリングのはじまで行ってマットのはじに手をついた。

「ロ・・ロープ!!」

くそ・・・・ロープだ・・

それにしても、疲労は残っているはずなのに。見上げた根性だよな・・流花って・・・

「ブレイクだ、弥生ちゃん」

ぼくはそう言って二人の足を解いてあげる。

そして、ぼくはまたリングの外へと戻る。

弥生ちゃんと流花は少しばかりフラフラと起き上がる。

「行くわよ、流花ちゃん!」

先に仕掛けたのは弥生ちゃんだった。

弥生ちゃんは右のローキックを流花に飛ばしていく!

ダメージを負った足を攻撃していくつもりだ。

「きゃっ!」

流花は膝を上げてガードする。

流花は弥生ちゃんから空手の指導もしているから、こういったガードの仕方もしている。

しかし、一回ガードをしても弥生ちゃんは何発も蹴っていく!

「キャッ!キャッ!・・・イタ・・キャアアー!」

ガードしきれずに蹴りを喰らう流花。

そこへ、弥生ちゃんは流花の頭を掴んでフライングメイヤーで投げる。

「きゃああーー!」

倒れた流花を、弥生ちゃんはフェイスロックを仕掛けようとするけど、

「なんの!」

流花はスルリと逃げた。

そして、素早い動きで弥生ちゃんのバックに廻る。

「このぉーーー!!」

弥生ちゃんの頭を掴んで、飛んだ!

得意のフェイスクラッシャー!!

「きゃあああーー!!」

弥生ちゃんはマットに叩きつけられた!

「弥生ちゃ――ん!!」

ぼくは弥生ちゃんに向かって手を伸ばす。

しかし・・・・

「そうはさせないよ〜!」

流花がストンピングを弥生ちゃんの背中に連打!

「きゃっ・・きゃっ・・きゃっ・・イヤ・・・ああ・・ああ・」

何とか体を丸めていくが、ダメージはたまっていく一方だ。

「弥生ちゃん、なんとか逃げるんだ!!」

ぼくはまた叫ぶ!

すると、弥生ちゃんは転がって場外に逃げた。

(!!、よくやった弥生ちゃん!!)

場外の場合は場外に入ることが出来る。

ぼくはすかさずリング内に入って、流花に向かっていく。
流花は、丁度綾乃ちゃんとタッチをしたところだった。

そこへぼくは、流花に後ろから抱き付いた。

「きゃっ!?」

驚く流花を、抱き上げて・・・・

「おりゃっ!!」

ジャーマンスープレックス!!

「きゃああああーー!!」

ぼくは渾身の力で、流花をマットに叩きつけてあげた!

いきなりの奇襲だから、かなり効いたはずだ。

「よし!」

ぼくはダウンした流花を放っておいて立ち上がると、同時に綾乃ちゃんに向かっていく!
綾乃ちゃんは、いきなりのことで怯んでいた。

これはチャンスだ。

ぼくは綾乃ちゃんが身構える前に・・・・・抱きついた!

「ええっ!?」

もちろん驚いたのは綾乃ちゃんだ。

技をかけられるのではなくて、抱きつかれたんだから当然だ。

「ちょ・・ちょっと朔夜くん・・・まだ試合中よ・・・そういう・・・」

真っ赤になる綾乃ちゃん。

しかし、当然それだけじゃない。

ぼくは、そのまま抱き上げたんだ。

「え?」

綾乃ちゃんがキョトンとする。

ぼくは急いでリング中央に、綾乃ちゃんを運ぶ。

「ちょっと!、もしかして!?」

綾乃ちゃんも気付いたようだ・・ぼくたちがツープラトン攻撃をしようとしていることに。

「弥生ちゃん!、早く!!」

ぼくは弥生ちゃんに叫んだ。

流花が起き上がろうとしているし・・・・

「いや!、離して!!」

綾乃ちゃんがもがきだした。
でも、離してあげない。

そして・・・・

「ヤアッ!!」

トップロープの上から弥生ちゃんが跳んだ!!

そして、綾乃ちゃんの頭を押さえつけるように・・・・・・

フェイスクラッシャーー!!

綾乃ちゃんの顔面をマットに叩き付けた!!!

「きゃああああああああーーー!!」

悲鳴を挙げる、綾乃ちゃん。

ここで二人がかりで綾乃ちゃんに攻撃したいけど、それは反則だ。

「ほら、流花起きろ!」

ぼくは強引に流花を立ち上がらせて、場外へ突き飛ばした。

「キャッ!!なにするのよ!!」

流花がぼくに喚く。

しかし、向かっては来ない。

(ふん!、ざま―ミロ!)

そして、ぼくはエプロンサイドに戻って、

「弥生ちゃん、タッチだ!」

と、弥生ちゃんに手を伸ばす。

けど・・

「もうちょっとだけ待ってください!」

弥生ちゃんは、綾乃ちゃんの腕を掴んで引き起こす。

そして、弥生ちゃんが離れてから助走をつける!

(出る!!)

ぼくが確信した時・・

「フライング・ニールキーーック!!」

弥生ちゃんの必殺技・・ニールキックが綾乃ちゃんに強烈に炸裂した!!!

「キャアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!!!」

綾乃ちゃんが大きな悲鳴を挙げた!!

これは、かなり効いたはずだ!

「綾乃ちゃーーん!!!」

流花が叫ぶ。

綾乃ちゃんは完全にダウンしている。

(これは行けるぞ!・・ぼくと弥生ちゃんの勝利は間違いない!!)

弥生ちゃんはとどめのサブミッションに行くべく、綾乃ちゃんの足を掴んだ。

これで決まれば、ぼく達の勝利は・・・・・

「そうはさせないわよっ!!」

「きゃっ!?」

弥生ちゃんのバランスが崩れた。

(なんだっ!?)

よく見てみると・・綾乃ちゃんがそうはさせじと・・足を引いて、弥生ちゃんの体制を崩したようだ。

それだけでなく、綾乃ちゃんの手が弥生ちゃんを掴んでいる!!

ニールキックが効いているはずなのに・・・・なんてタフなんだ・・・

「くっ・・・・」

弥生ちゃんは、なんとか踏ん張ろうとするけど・・・

「だから、無駄って言ってるでしょ!!」

綾乃ちゃんの足が、弥生ちゃんの足を払った!!

「きゃっ!!!」

ドスンと倒れる弥生ちゃん

やばい!!

「きゃっ・・イヤッ!!」

弥生ちゃんがジタバタと逃げ出そうとするが・・・・

「ほらっ!!、覚悟なさい!!」

綾乃ちゃんが寝技に持ち込んでいく!

そうなると空手少女の弥生ちゃんよりも、柔道少女の綾乃ちゃんの方が断然有利だ。

「イヤー・・お兄さん・・・助け・・」

ぼくの方へ逃げようとして、手を伸ばしてくる。

しかし・・・

「そうはさせないわよっ!!」

綾乃ちゃんは弥生ちゃんをうつ伏せに組み伏せて、足と腕を絡めていく。

STFだ!!

「あああああああーーーー!!」

さらに悲鳴を挙げる弥生ちゃん。

完全に決まっていて抜け出すのは無理だ。

「弥生ちゃん!!」

ぼくは弥生ちゃんに向かって手を伸ばす。

しかし距離があって届かない・・・・

「無理だよ!ギブアップしちゃいなよ、弥生ちゃん!!」

流花が勝ち誇ったように叫んでいた。

(ちくしょう〜・・・・本当にそれしかないのか・・・)

カットにいくのは反則だし・・・・・・

くそ・・・・・

「まだ終われないわよ!」

不意に綾乃ちゃんがSTFをはずした。

(え!?)

あのままだったら、おそらくは綾乃ちゃんたちの勝利だったのに・・・・

それなのに途中で外すなんて・・・・

「あれほどやられて・・・反撃もほどほどに終われないわよっ!!」

ぼくの考えを感づいたのか・・ぼくの方を向きながら怒鳴る。

たしかにそうだ・・・最初、綾乃ちゃんをかなり痛めつけたんだ・・・

「さあ、立ちなさい!!」

綾乃ちゃんが、弥生ちゃんの髪をつかんで起き上がらせる。

「痛い・・いたい!!・・」

痛がる弥生ちゃん。

そんな彼女を、体を曲げたまま持ち上げた!

(あの体制は・・・パワーボム!?)

「こぉのぉーーーー!!」

一気に弥生ちゃんをマットに叩きつけた!!

「きゃああああああああああああーーーーーーー!!!」

かなり効いたらしく、一層大きな声で悲鳴を挙げた!

「弥生ちゃーーーん!!!」

思わずぼくも叫んだ。

「逃げろ!!、マットの外へ逃げるんだ!!」

マットの外に出れば、ぼくも乗り込める。

(そうすれば・・・・まだチャンスが・・・)

しかし、弥生ちゃんは大の字にたおれたまま動けない・・・・・

「そんなことさせるわけ無いでしょ!!」

綾乃ちゃんは恐い顔で、弥生ちゃんを起き上がらせる。

そして・・・

「まだ寝るには早いわよ!!」

綾乃ちゃんの得意のラリアートが決まった!!

「ぎゃうっ・・・・」

鈍い悲鳴をあげ、またもダウンさせられた。

これまでか・・・・・

「さて・・・」

綾乃ちゃんが、また弥生ちゃんを起き上がらせる。

つぎは何をする気だ?

「はい」

弥生ちゃんを、ぼくのほうへ放り投げた。

「綾乃ちゃん!?」

流花が驚きの声を挙げる。

驚いたのは、ぼくも同じだ。

トドメもささずに、ぼくと代れというのか?

「出てきなさいよ、朔夜くん!」

「たっぷり、お返ししてあげるから!」

「・・・・・」

ぼくは弥生ちゃんを見る。

弥生ちゃんは、立てずに苦しそうに息切れしている。

「お兄さん・・・」

「弥生ちゃん、しばらく休んでいてくれ・・・・仇はぼくが取る!」

そして、弥生ちゃんの肩に触れた。

「・・・・ごめんなさい・・」

弥生ちゃんはリングの外へ転がりながら出る。

そしてぼくが代りにリングイン!

「覚悟なさい!」

綾乃ちゃんが、いきなり突っ込んできた!

「うわっ!?」

ぼくは、あわてて綾乃ちゃんへと向き直るが・・・

ドガッ

綾乃ちゃんの、水平ドロップキックを喰らってしまった!

「どわっ!」

ぼくは、いきなりダウン。

(やばい・・・早く起きないと・・)

でも、そうする前に・・・

「おそいわよ!!」

綾乃ちゃんの腕が、ぼくの顔に巻きついた!

そしてそのまま起こされて、リングの中央に連れて行かれる。

フロントフェイスロックだ!! 

「あいたたたたたた!!」

「この!この!この!」

ぐいぐいと締め上げてくる!

「ぎゃっ!ぎゃっ!ぎゃっ!」

そのたびに、悲鳴を挙げるぼく。

(くっそ〜・・)

ぼくは、綾乃ちゃんの水月を軽く指で突いた!

「うくっ・・」

綾乃ちゃんの腕の力が、弱まった。

(今だ!)

ぼくは綾乃ちゃんの腕から抜け出すと、綾乃ちゃんの腕を掴んでコーナーへと振った!

「きゃああっ!!」

綾乃ちゃんは、背中からコーナーポストへと叩きつけられた。

そして、綾乃ちゃんに向かってラリアートを放っていく!

「綾乃ちゃん、危ないっ!!」

流花が叫んだ!

「くっ・・・・」

そのせいで、綾乃ちゃんにラリアートをかわされて、コーナーに突っ込んじゃった!!

ドゴォーン

「ぎゃあああああああ!」

情けない悲鳴を挙げるぼく・・・・

「あはははーー、お兄ちゃんバカみたーい!」

流花が、コケにしたように笑う。

(お前が、警告するからだろーがー!!)

と、思ったけど・・口には出せなかった・・・

「あぶなかったわね・・・・ありがとう流花ちゃん!」

綾乃ちゃんに、うしろから組み付かれた!

(ゲゲッ・・・)

「行くわよ〜!!」

ぼくを抱えて・・・・・

バッスーーン!!

裏投げだ!!

「どわあああーー!!」

マットに強烈に叩きつけられた!

「さっきは、よくもやってくれたわよね・・・」

綾乃ちゃんが、ぼくに馬乗りになった!

ちょいとうれしいようだが・・・恐い・・・

パシッ!

「うわっ!」

綾乃ちゃんが、ぼくに平手をかましてきた!

「かなり痛かったわよ!!」

そう言って、何発も平手をかましてくる!

何発かくらったけども・・ほとんどはガードした。

「このっ!」

反撃の掌底が、綾乃ちゃんにヒット!

「きゃっ!」

綾乃ちゃんが、グラッと来た。

ぼくはその隙に、強引に抜け出した!

そして起き上がると、綾乃ちゃんが組み付いてくる。

そこへ、ぼくの得意の掌底連打を浴びせてあげる!

「きゃっ・・イヤ・・キャ・・・イタッ・・・あああ!!」

(よ〜っし・・・・)

ぼくは、怯んだ綾乃ちゃんに組み付くと、体を曲げて持ち上げる。

「いやあああ!」

綾乃ちゃんが悲鳴を挙げるが、許してあげない。

「痛いのいくよ〜!」

そのまま綾乃ちゃんの脳天を、マットに食い込ませた!

パイルドライバー!!

「キャアアアアーーーーー!!」

これは、かなり効いた!!

さあ!、ベルトをいただきに参るよ!!


6 綾乃ちゃん、切れる!



「さて・・・・」

ぼくはダウンした綾乃ちゃんを、髪の毛を掴んで起き上がらせる。

「イターーい!!」

悲鳴をあげながら、起き上がる綾乃ちゃんに、ぼくはその場で飛び上がって仕返しの水平ドロップキック!!

「きゃあああーーーー!!」

まともに食らった綾乃ちゃんは、場外まで吹っ飛んだ!

そして、そのまま場外で完全にダウン!

これで綾乃ちゃんたちも終わり・・・・

・・・いや、

「くらえーー!お兄ちゃーーん!!」

流花が、ぼくに突っ込んできた!

そして、ドロップキックを放ってきた!

「くらうか!!」

ぼくは、それをさらりとかわす!

「あれー!!」

流花は、ドスンと自爆した。

ぼくは、弥生ちゃんに、

「綾乃ちゃんは任せた!!」

と叫ぶと、倒れた流花をお姫様だっこで抱き上げた。

「え?・・え?・・・なに・・なにするのお兄ちゃん!?」

流花にあせりの表情が見える。

ぼくは、やさしい表情を作ってあげて、

「大丈夫だよ・・流花・・」

やさしい声でそう言いながら、リングの端まで連れて行く。

「さてと・・流花・・」

ぼくは、流花の頬に軽く口付けてあげる。

「キャ・・・・お・・お兄ちゃん!?」

顔を赤くして、驚ろく流花。

ハハハ・・かわいいな〜

でもまさかこんなときに、頬にキスされるなんて思ってもみなかっただろうな。

そして、そんな流花を・・・・

「ほい!」

ぼくは、パッと手を離した。

「え!?・・・キャア――――!!」

ドッスーン

流花が、床に墜落した。

「いったーーーーい!!」

お尻から墜落した流花は、お尻を手で抑えながら横にゴロリと転がる。

「ボディースラムよりはましだろ?」

ぼくは笑いながらそう言って、弥生ちゃんと綾乃ちゃんのところへ行く

そして、そこでは場外で弥生ちゃんが綾乃ちゃんに、得意のニールキックを食らわせたところだった

「きゃああああーーーー!!」

綾乃ちゃんが、派手に場外でダウンする。

弥生ちゃんも、腰を打ったのか・・・少しばかり痛そうにしていた。

ぼくは、綾乃ちゃんを起こしながら、

「弥生ちゃん、早く!!」

と叫んだ。

「はいっ!!」

弥生ちゃんも、ぼくの考えがわかったらしく、同じように綾乃ちゃんにしがみついた。

「イヤッ・・!!」

綾乃ちゃんも、何をするか気づいて、ジタバタするけど・・・

ぼくたちに抑えられて、無駄な抵抗に終わる。

「いくよーーー!!!」

ぼくたちは、二人で綾乃ちゃんを抱え挙げる。

そして、豪快にマットに叩きつける!!

ツープラトンのブレーンバスターだ!!

「きゃあああああーーーーーーー!!!!」

綾乃ちゃんの悲鳴が、挙がる!!

これはかなり効いたはずだ。

いくらタフな綾乃ちゃんでも、もう終わりだね!

「お兄さん!、わたしと代わってください!!」

弥生ちゃんが、エプロンサイドに戻って手を伸ばす!

「OK!!」

ぼくは、すぐにリングに戻って弥生ちゃんとタッチした。

そして、ダウンしている綾乃ちゃんへと二人で襲い掛かろうとした!・・・

けど・・・

「そうはさせないからーーーー!!」

流花が突っ込んできた!!

ちくしょう・・また邪魔だ・・・

「流花ちゃーーん!!」

弥生ちゃんが、流花に向かっていく。

そして、二人が同時に飛んだ!!

流花の得意のヒップアタックと、弥生ちゃんの得意のニールキックが激突した!!

「「キャアアアアアーーーーーー」」

二人の悲鳴が、体育館に響いた!!

そして、二人は場外に転げ落ちる。

「弥生ちゃん!!」

ぼくは、叫んで駆け寄ろうとする・・・

しかし、後ろで綾乃ちゃんが起き上がるのがわかった。

「朔夜くん・・・・まだ・・終わってないわよ・・・」

髪が乱れ・・息を切らして顔を真っ赤にした綾乃ちゃんが、ぼくに近づいてくる。

綾乃ちゃんの限界は近い。

でも、実はぼくもう・・体力が残っていない・・・

組んだら、やられる・・・・

「うるさいっ!勝つのはぼく達だ!!」

ぼくは、掌底の連打を放っていく!

綾乃ちゃんを倒すには、打撃しかない。

「ぎゃっ・・・かは・・・きゃっ・・・あぐ・・・」

ぼくの掌底が、綾乃ちゃんに連続でヒットする。

綾乃ちゃんも、体力的に・・すでに防ぐのが無理みたいだ。

(とどめだ!綾乃ちゃん!!)

ぼくは、混信の力で体を回転させながら足を振り上げる。

そして、袈裟に踵を振り下ろす!

骨法の袈裟蹴り!!

綾乃ちゃんは、なんとか手で防ごうとしたけど・・・蹴りの威力を防ぎきれずに、強烈にヒットした!

「あああああああああああああーーーーーーー!!!」

悲鳴と共にダウンする、綾乃ちゃん。

そして、そのまま動けそうにも無い。

「ハア・・ハア・・ハア・・・・」

ぼくは、息を切らして綾乃ちゃんを見下ろす。

カウントを取ろうかとも思ったけど、弥生ちゃんの方が気になって、弥生ちゃんと流花の方を向く。

二人は、場外で組み合っていた。

弥生ちゃんが、組み付いての膝蹴りと肘打ちで攻めている。

流花も、ぼくと同じく体力の限界で・・ガードすることができずに、まともに喰らっていた。

ガシャーン

弥生ちゃんが、コーナーに流花を叩きつけた!

「きゃああああ!!」

流花は、そのまま崩れ落ちる。

「終わりだよ・・・流花ちゃん」

弥生ちゃんが、冷たくそう言った。

流花は、綾乃ちゃん同様に、ダウンしたまま動けない。

ぼくは、勝利を確信した。

後は、ぼくがカウントを取れば・・・起き上がっても、綾乃ちゃんからギブを取るなど問題はない。

だけど・・・

「お兄さん、後ろっ!!」

不意に、弥生ちゃんがぼくの方を向いて叫んだ!!

「え!?・・」

ぼくは、振り向こうとして・・・・

「まだ終わりじゃないわよ・・・」

綾乃ちゃんに、後ろから組み付かれた!

(うそぉー!!)

そして、抵抗する間もなく・・・・・

「うわーーーー!!」

ぼくは、後ろへ放り投げられた!

そして、後頭部からマットに叩きつけられた!!

ジャーマンスープレックス・ホイップだ!!!

「どわあああああーーー!!」

叩きつけられたぼくは、そのままゴロンと転がってうつ伏せにダウン。

意識がフラフラしちゃって・・・はっきりいって起き上がれそうもない・・・・

もう・・・駄目だ・・・・

「お・・お兄さん!!」

弥生ちゃんが、ぼくを助けようと綾乃ちゃんに向かっていく・・・・

しかし・・・

「わああああ!!」

夜叉のようになった、綾乃ちゃんが・・弥生ちゃんに組ついた瞬間に、転がりながら足で跳ね上げるように投げ飛ばした!

(あれは・・・巴投げ!!)

「キャアアアーーーー!!」

弥生ちゃんが宙を舞った!

そして・・・・弥生ちゃんが飛んでいく先には・・・・

(・・・ぼくの上に!!)

そう思った瞬間・・・弥生ちゃんが、ぼくの背中の上に墜落した!!

「ぐっはああああーーーー!!」

「ごふっ!!!・・・・」

ぼくたちは同時に、悲鳴を挙げた。

ぼくは、息が詰まって呼吸ができない・・・・・

綾乃ちゃんも、これを狙ったのかな・・・・

背中の上の弥生ちゃんも、動けないみたいだ。

そこへ、綾乃ちゃんがゆっくりと近づいてくる。

こんどこそ終わりだ・・・・弥生ちゃんが仕留められて・・・ジ・エンド・・

「終わりなのは、あなた達のようね・・・・」

顔を赤くし・・髪を振り乱した綾乃ちゃんが・・さっきの弥生ちゃん同様・・冷たい声でそう言った。

そして、弥生ちゃんの腕を掴んで起き上がらせようとしている。

「・・・・・・弥生ちゃん?」

綾乃ちゃんが、弥生ちゃんに声をかける。

でも、弥生ちゃんからは反応がない・・・・

「クスクス・・・・・・弥生ちゃん・・失神しちゃったのね・・・・」

綾乃ちゃんは、ゾッとするほどの微笑をうかべながら・・弥生ちゃんを場外へ放った。

ドサ

弥生ちゃんが、場外で倒れる音が聞こえた。

(綾乃ちゃん・・・完全にキレている・・・)

こうなっちゃたら・・この状態のぼくじゃ・・・・

「流花ちゃん・・・朔夜くんに、なにかお見舞いしてあげる?」

綾乃ちゃんが、いまだダウンしている流花にそう言った。

すると流花は・・・

「う・・・うん・・」

フラフラと起き上がってきた・・・

(や・・・・やめてくれ・・流花・・・)

ぼくは、そう思ったが・・声が出ない。

そして・・なんとか微かに・・・

「も・・・う・・・・・・・しょ・・・ぶは・・・」

とだけ・・声が出たけど・・・・・

「そうね・・・でも、弥生ちゃんだけでは私の怒りは収まらないの・・・さあ、流花ちゃん!!」

綾乃ちゃんは、絶望的にそう言い放つと・・流花に叫んだ!

「お兄ちゃん・・・覚悟してね・・」

流花がフラフラと助走をつけてくる・・・

そして・・・そのままジャンプ!

流花の両足が、ぼくの背中に思いっきり踏みつけた!

フットスタンプ!!!

「〜〜〜〜〜〜っ!!!」

ぼくは、声にならない悲鳴を挙げた!!

そして、さらに息が詰まる。

気を失いそうになったけど・・・・・

それだけは、何とか持ちこたえた。

流花んも方は、そのままバランスをくずして倒れこんだ。

最後の力を振り絞ったんだろうな・・・

でも・・・ぼくにはもう・・・振り絞る力も残っていない・・・・

(それでも綾乃ちゃんは・・許してくれないんだろうな・・・・)

なぜか、そんな思考が働いた。

動けないぼくの傍で、綾乃ちゃんがそっと正座して座った。

「まだ息があるのね・・・やっぱり朔夜くんは強いね・・・・・私・・朔夜くんのそんなところも好き・・・・」

綾乃ちゃんの手が、ぼくの背中を撫で回す。

それがあまりに気持ちよくて・・・眠ってしまいそうだ。

「だから・・これで終わらせてあげる・・・・」

片膝をついて・・ぼくの胴体に腕を回した・・・

これは・・・・!!

(い・・・いやだ・・・)

「わああああああああ!!」

綾乃ちゃんが、もの凄い雄たけびと同時にぼくを抱え挙げて振り回す!

綾乃ちゃん、必殺の・・・・『アヤチャンリフト』

ぼくは、振り回され・・・マットに叩きつけられるのだけど・・・

マットに叩きつけられた瞬間・・・・・

ぼくの意識も、弾け飛んだ。


×堀部朔夜
×川元やよい
(43分32秒 ダブルKO)
(巴投げ、アヤチャンリフト)
成瀬綾乃
堀部流花


7 いいかげんに!



「朔夜く〜ん・・・・」

「お兄ちゃ〜ん・・・・」

「お兄さ〜ん・・・・」

・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
・・


「あれ・・・・?」

ぼくが目を開けると・・ぼくは正座の状態も綾乃ちゃんに抱きかかえられて、綾乃ちゃん・流花・弥生ちゃんの三人がぼくを覗き込んでいた。

三人とも、不安な表情で・・・とくに綾乃ちゃんは、泣いていた。

「朔夜くん・・・ごめんなさい・・・私・・私・・・」

綾乃ちゃんの涙が、ぼくの顔に落ちた。

「あ・・綾乃ちゃん・・・・・」

ぼくは、ちょっと慌てる。

だって、いきなり泣いているし・・・・

「お兄ちゃん・・大丈夫?」

「痛くないですか?」

流花と弥生ちゃんも、そう聞いてくる。

全身が、痛いけど・・・・口にはしない。

「そういえば、試合の方は?・・・・」

「私と・・お兄さんがKOされてしまって・・・・・」

弥生ちゃんが、残念そうにそう言った。

そうだ・・・・弥生ちゃんが、巴投げ・・・ぼくがアヤチャンリフトでKOされたんだ・・・・

「・・・思い出した・・・・」

すると、

「本当にごめんなさい!・・・・私・・つい・・」

綾乃ちゃんは、キレてぼく達をKOしたことを謝っているんだ。

「いいんだよ、これは試合なんだから・・・・そういったことは、言わない約束だよ」

と、ぼく。

「そうですよ・・・私も・・・お兄さんも平気そうですし」

弥生ちゃんもフォローする。

「でも・・・・」

「大丈夫だよ!お兄ちゃんゾンビみたいに丈夫だから!」

おいおい、流花・・・さっきまで不安そうだったのに、いきなりそういうこと言う?・・・・

まあ、いいや・・

「それにしても、また負けちゃったね・・・弥生ちゃん」

ぼくは、弥生ちゃんに言う。

「ごめんなさい・・また私が・・・・」

「いや・・・今回ぼくだって、あのままだったらぼくが仕留められていたよ・・・」

「でも・・・」

「次は勝とうよ!そして、ぼくたちが王者になろう!」

そう言って、弥生ちゃんの頬にそっと触れる。

「お兄さん・・・」

弥生ちゃんの顔にも、笑顔が戻った。


「ちょっと!!、なに二人の世界つくってるの!!」

綾乃ちゃんの、ぼくを抱きしめる力がさらに強くなった。

「ギャ・・・痛い痛い!」

悲鳴を挙げるぼく・・・

「そうだよ!、弥生ちゃんもなにやってるの!!」

流花も、弥生ちゃんに抗議する。

「え?・・だって、タッグを組んでいる者どうし・・・」

「それとこれは別だよー!」

「関係あるわよー!」

「おいおい・・・二人とも・・・」

また始まったよ・・・・

「朔夜くん・・・・激闘を終えた二人は、敵同士から恋人同士に戻るべきだよね・・」

綾乃ちゃんがそう言いながら、ぼくに顔を近づけて・・・・・

「「そうはさせるかーー!!」」

二人が、飛びかかった!!

「きゃっ!!」

「ぐえっ!!」

今度は、三人に潰された!

「ちょっと、邪魔しないでよ!!」

「それは私のセリフです!!」

「二人とも、お兄ちゃんから離れてよーー!!」


・・・・・・・・・・・
・・・・・・・

ハア〜〜〜〜〜〜

またこの展開?・・・・

「あーーーーーもーーーーー・・いいかげんにしてくれーーーーーーーーーーーー!!」


ぼくは・・・表情とは逆の、うれしい悲鳴を挙げ・・・

それが、体育館中に響き渡った。


―完―


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