第2話
作:薊(超芝村的制作委員会)



1 タッグマッチ



「このーー!」

弥生ちゃんの回し蹴りが、綾乃ちゃんの胸にヒットした。

「うっ・・」

綾乃ちゃんは痛そうな顔をするけど、弥生ちゃんの足をキャッチしていた。

(やばい!)

ぼくが、そう思った瞬間・・・・・綾乃ちゃんは、そのまま弥生ちゃんの足を刈って倒した。

「きゃああ!?」

弥生ちゃんは、マットに倒れる。

そこへ、綾乃ちゃんのストンピング。

「あ・・いや・・」

弥生ちゃんは、両手でガードしようとする。

「弥生ちゃん、タッチだ!」

ぼくは、手を伸ばして叫ぶ。

が、綾乃ちゃんはぼくに背を向けて弥生ちゃんを蹴っている為に、弥生ちゃんはこっちに逃げることができない。

そして、綾乃ちゃんは弥生ちゃんを起こすと、弥生ちゃんを抱え挙げてマットに叩きつけた。

ボディースラムだ!

「きゃあああー」

響く弥生ちゃんの悲鳴。

だが、綾乃ちゃんはそれだけに終わらず、

「流花ちゃん!」

流花にむかって叫ぶと、再び弥生ちゃんを起こし・・・・今度は弥生ちゃんを肩車をする。

「ええ!?・・・これって・・・」

弥生ちゃんは、驚きの声を挙げる。

そして流花が、コーナーポストの上に立っている。

ダブルインパクトをやる気だ!!

(やばいっ!)

ぼくは、カットに行こうとするが・・・・

「弥生ちゃん、覚悟ーーー」

それより先に流花が宙を飛び、フライングラリアットを放ってしまった!

そして、それがモロに弥生ちゃんに炸裂した!!

「きゃああああああああああああああああーーーーーーーーーー」

ダブルインパクトを食らった弥生ちゃんは、断末魔の悲鳴をあげ、マットに叩きつけられた。


「弥生ちゃーーーーーーーん!!!」

ぼくは、二人を蹴散らして弥生ちゃんを助けようとするが、
綾乃ちゃんに立ち塞がれた瞬間に、横から流花のドロップキックを喰らってしまった。

「うわあああ」

ぼくは、いきなり横から喰らってしまったので、場外まで吹っ飛んだ。

そして、

「そうはさせないよ!」

ダウンするぼくを蹴りまくる。

(ちくしょーー)

ぼくは、なんとか転がって逃げ、起き上がる。


そのとき、リング内では弥生ちゃんが、
綾乃ちゃんにサソリ固めをかけられていた。

ぼく達は四人しかいないから、
タッグ戦のときはオンリーギブアップとなっているんだ。

今の弥生ちゃんでは、返すことができない・・助けないと!


「弥生ちゃん!!」

ぼくは、弥生ちゃんを助けに行こうとするが、

「お兄ちゃんの相手は、流花だよーー」

流花が不敵な笑みを浮かべて、得意のローキックを放ってきた。

ぼくは、それをガードすると反撃の掌底の連打を流花にかます!

「きゃっ・・きゃっ」

流花に、何発かヒットさせるが、

パシイッ

流花の平手も、ぼくにヒットした。

「よくも、流花をぶったわねーーーー」

涙をうかべて、キレた流花がぼくに組み付いてきた。


「いやああああーーーー・・お兄さーーーーん!!」

「無駄よ!、流花ちゃんにやられているから、助けは来ないわよ」


(ちくしょー・・流花に構っていられないのに・・・・)

しかし、ぼくと流花はもつれ合いながら、壁の方まできてしまい・・・余計リングから遠くなってしまった。

「死んじゃえーー」

流花がぼくを壁に叩きつけた。

「ぐっ・・・」

背中に、強烈に激痛が走る。

「この!この!この!」

そして、何度も蹴りつける。

「さあ〜、弥生ちゃん!」

「く・・・・ギブ・・アップ・・・・」

「流花ーーー」


ぼくの突き蹴りが、流花の胸にヒット!

「うぐぅ・・」

胸を抑えて、後ろによろける流花。

しかし、

「コノヤローー!!!」

流花は、ぼくに突進してきて、お互いに首を掴み合った。


「ええ!?・・・あの二人!?」

「お兄さん!流花ちゃん!・・・・止めないと!」


「許せないぞ、流花!!」

ぼくは、流花を抱え挙げた。

「ええ!?・・イヤーーーヤダーーーヤメテーーーーー」

流花が悲鳴をあげるが、許してやるつもりは毛頭ない。


「朔夜くん!、試合終了ーーー!」

「お兄さん、勝負はつきました、やめてーー!」


二人が、駆け寄ってくるけども、ぼくには聞こえていなかった。

「このーーーー!!」

体育館の床に、流花をボディースラムで叩きつけた。

「ぎゃああああああああああーーーーーーーーー」

流花の鈍い悲鳴が、体育館中に響き渡った。


堀部朔夜
×川元やよい
(18分07秒 ギブアップ)
(ダブルインパクト→サソリ固め)
成瀬綾乃
堀部流花


2 兄妹



「う・・・ひぐっ・・・・・ぐすっ・・・・・」

流花がぼくの胸に顔を埋めて泣いている。

「ごめんな・・流花・・・・・ほんとにごめん・・・・」

ぼくは、泣いている流花を抱きしめて、頭を撫でてやっている。

綾乃ちゃんと弥生ちゃんは、心配そうに見ている。

いくら頭にきたからって、床の上にボディースラムはやりすぎたな・・・・・

あれで、流花は泣き出してしまった。

「流花ちゃん、大丈夫?」

弥生ちゃんが、流花の肩に手を置く。

流花は、まだ泣いている。

「流花、とりあえず顔洗ってこよう」

そう言って、ぼくは流花と共に、トイレの方へ歩き出す。

そこへ綾乃ちゃんが、

「朔夜くん、これ使って」

と言って、タオルを貸してくれた。

「ありがとう」

ぼくは、ありがたくタオルをお借りした。


女子トイレ(気は進まなかったが・・・)にあいり、蛇口をひねって水を出してあげる。

「さ、流花・・」

「ぐすっ・・・・うん・・・」

流花は、頷いて顔を洗い出す。

そして、何度か洗った後・・ぼくからタオルを受け取って顔を拭いた。

しかしそれでも、まだ眼に涙が浮かんでる。

「お兄ちゃん・・酷いよ・・・・・床にボディースラムするなんて・・・」

「ごめん・・・・」

「ぐす・・・お兄ちゃんなんか・・・大嫌い・・

そして、また涙が溢れて泣き始める。

仕方なく、ぼくはまた流花を抱きしめてやる。

「うっ・・・ひぐっ・・・・」

まだ泣く、流花。

これでも泣き止まないとなると・・・・・

「流花・・・ぼくが悪かった」

ぼくは、流花の頬に口付けをしてあげる。

「ん・・・・」

そしてさらに、左右の頬・額・目のあたりにキスしてあげて、涙をふき取ってあげる。

すると、

「くう〜ん・・くすぐったいよ・・・お兄ちゃん・・・・・」

流花が泣き止んできた。

昔から、流花はこの方法で泣き止んでいた。

それを何度か繰り返すと、

「キャハハ・・お兄ちゃん・・・いやあ」

笑顔が戻った。

(ふう〜・・・なんとか、治まったな・・・・)

ぼくは、ほっと胸をなでおろす。

そして、

「ねぇ、お兄ちゃん」

「ん?」

「もう一回チューして」

と、言ってきた。

「え?・・・もういいだろ?」

慌てるぼくに、

「あと一回だけ〜」

と、だだをこねた。

「・・・・・仕方ないな〜」

ぼくは、流花の額に顔を近づけた・・・・すると、

「隙あり!」

チュッ

唇にキスされた・・・・・

「・・・・・・騙したな・・・」

「いいじゃない、愛する妹にあんな事したんだから」

と、いたずらっ子のように微笑む。

「・・・・・・・はあ〜・・・・」

また、やられた・・・・

しょっちゅうやられるんだよな〜・・・・

流花はぼくに、兄以上の想いを抱いているのは知ってるけど・・・・喜んでいいやら、悲しむべきなのか・・・・・

「お兄ちゃん、行こう」

と、元気になった流花。

「あ・・ああ」

ぼくと流花は、一緒にトイレから出て、リングのほうへ戻っていく。



3 挑戦者はわたし!



とりあえず、今日の試合はこれにて終了というわけで、これからぼくの家でちょっとした打ち上げみたいな事をやるのが、お決まりのパターンだ。

そして、片付けの前に流花がこう言い出した。

「今回は流花達がお兄ちゃん達に勝ったから、SWGPのタッグ王座は流花達だね」

それに対し、ぼくは、

「ちょっと待てよ、タイトルだったなんて聞いてないぞ!」

と、抗議をする。

しかし、

「言ったわよ」

と、綾乃ちゃん。

「ええ!?、いつ?」

「試合が始まる前・・・小さい声で」

「そんな、無茶苦茶だーー!」

と、ぼく。

「まあまあ、お兄さん・・・・私達が挑戦して、勝てばいいだけですよ」

と、弥生ちゃん。

はあ〜・・・・そうするしかないか・・・・・

仕方ない・・・・・

「・・・わかったよ・・・・じゃあ、来週はぼく達が弥生ちゃん達に挑戦させてもらうよ!」

「いいわよ〜、私たちはいつでも受けてたとうじゃないの」

と、余裕の綾乃ちゃん。

すると、

「ちょっと待って!」

流花が言う。

「その前に、流花とお兄ちゃんのタイトルマッチをやるよ!

「ええー!?」

と、ぼくら三人は同時に声を挙げた。

「流花ちゃん、ちょっと待って・・・・挑戦権獲得の試合は、まだやってないわよ」

と、弥生ちゃん。

「でも、来週は流花がお兄ちゃんと一番に闘いたい!」

それに対し、綾乃ちゃんは、

「もしかしなくても、さっきのリベンジとか?・・・」

と、訊くと、

「うん!」

と、大きく頷いた。

おいおい・・・まだ、恨んでいるのか・・・・

「だったら、わざわざタイトルマッチじゃなくても・・・・」

「いや!・・タイトルマッチじゃないとイヤ!・・・お兄ちゃんからベルト奪ってやるんだから!」

と、流花がわがままを言ってきた。

ぼくは、「どうする?」と、綾乃ちゃんと弥生ちゃんを見る。

すると、二人とも「しょうがないか〜」というような表情をしていた。

ぼくは、流花の方を向くと、

「わかったよ、流花の挑戦を受けるよ」

と、言った。

すると、

「わーい!、ありがとうお兄ちゃん!!、これでベルトは、流花の物だね!」

そう言って、ぼくに抱きついた。

「おっとっと・・・・誰もベルトをあげるとはいってないのに・・・・」

ぼくは、頭を少し掻く。

そして、困ったぼくの背中を突き刺す、綾乃ちゃんと弥生ちゃんの視線が痛かった。



4 決戦までの日々



来週の日曜日。

この日が、ぼくと弥生ちゃんの復讐戦

そして、流花のわがままで、タッグマッチの前に流花とのタイトルマッチが決定してしまった。

ぼくに、強い復讐心を抱いている流花は、やる気満々でいる。

家ではいつもどうり、ぼくに甘えてくるけれど・・・・ときおり挑戦するようなことを言ってくる。

試合の日まで、綾乃ちゃんとトレーニングをするつもりだと言っていた。

恐らく当日には、パワーアップした流花と闘うことになるだろうな・・・・

なにしろ流花は、特に格闘技は習っていないけど、技を習得するのは早いんだ。

あいつは、弥生ちゃんから空手を教わっているけど、弥生ちゃんも流花の上達の早さには驚いていた。

だから、あいつが綾乃ちゃんから柔道の技を教わったら、それこそ厳しくなる・・・

だから、ぼくは流花には骨法の技を教えてはいない。

流花は、よく教えてと言ってくるけど、自分の首を絞めるつもりはない。

ただでさえ、強敵なんだしな〜・・・・



5 スパーリング



午後六時

部活も終わり、体育館の中で活動している部活の人たちはもう全員帰った。

用具室の中には、当然誰もいない。

このぼく・・・堀部朔夜を除いては。

ぼくは授業が終わると、帰るふりして・・・隙を見て、この用具室に忍び込んだ。

そして荷物を隅にかくし、ぼくは跳び箱の中に隠れていた。

その間、ぼくはペンライトでプロレスの雑誌を読んでいた。

でも、途中で電池がきれちゃったから、狭い中で昼寝をしていた。

・・・・で、なんでこんな事をしていたのかというと・・・・

ここで、弥生ちゃんと待ち合わせをしているからだ。

今日は、ここで弥生ちゃんとスパーリングをする約束になっている。

スパーリングをやるには、マットがある方がいい。

となると、小学校か中学校だ。

小学校は流花が使うから、ぼくたちは中学校を使うことにした。

弥生ちゃんは、学校が終わったらここに忍び込んでくる。

そうしたら、この用具室の窓を・・・・

コンコン・・・・

(来た!)

ぼくは、窓をそっと開ける。

「遅くなりました」

ジャージ姿の弥生ちゃんが立っていた。

「大丈夫だった?」

「はい、人も少なくて、簡単に忍び込めました」

「OK、とにかく中へ・・」

ぼくは、弥生ちゃんに手を差し出す。

「はい」

弥生ちゃんは、ぼくの手につかまる。

そしてぼくは、彼女を引き上げてあげた。

弥生ちゃんが中に入ると、ぼくはそっと窓を閉めた。

そして、弥生ちゃんの方を向き直る。

「それじゃあ弥生ちゃん、さっそく始めようか?」

と、ぼく。

「はい!」

と、弥生ちゃん。

そして、中を見回す。

「わりかし広いですね・・これなら大丈夫ですね」

「まあね、いつものリングより狭いけど、ぼくらがやる分には充分だよ」

と、ぼく。

「それにしても、先日のときはしてやられましたね」

「そうだね、まさかあの二人がダブル・インパクトをやってくるなんてね・・・」

「あれ、結構効きましたよ」

「とにかく、あれをやらせないようにしないとね・・・」

「はい!」

弥生ちゃんは、大きく頷く。

「よし、それじゃあ始めよう、準備はいいね?」

「あ・・ジャージ脱いでもいいですか?」

「いいよ、ぼくも脱いでおこーっと」

ぼくも、ジャージをぬいで短パンとTシャツになる。

綾乃ちゃんは、半袖のシャツにブルマーだ。

以前・・まだプロレスごっこの段階だったころ・・・こんな感じだった。

スク水もいいけど、こっちも萌えるな〜

「お兄さん、どうかしました?」

「え?・・・いや・・なんでもないよ」

そういって、あわてて靴下を脱ぐ。

そして、マットの中央で向かい合った。

「さあ来い、弥生ちゃん」

ぼくは、骨法の構えをする。

「いきます!」

弥生ちゃんが、タックルを仕掛けてきた。

ガシッとぼく腰に組み付く。

ぼくは、片足を引いて堪えると、弥生ちゃんの背中に体重を乗せて、押しつぶす!

「きゃっ!」

うつ伏せに倒れる、弥生ちゃん。

ぼくは、すかさず弥生ちゃんの背中に馬乗りになり、弥生ちゃんの顎に手をかけ、軽く引っ張る。

キャメルクラッチ!

「うぐ・・・ぐうううう・・・・」

ぼくの手首を掴み、外そうとする弥生ちゃん。

ぼくは、十秒ほどかけると、キャメルクラッチを外す。

これは、試合じゃないから、ギブを狙う必要はない。

「まだまだ〜」

弥生ちゃんは、ぼくが立ち上がると、すぐに起き上がった。

そして、中段回し蹴り。

ぼくは、ガード。

すると、今度は掌底を連打してくる。

「お、いい掌底だね」

弾きながら言う。

すると、不意にぼくの頭を掴み、

ゴチ〜〜〜ン

ヘッドバットをかまして来た。

「ぐっはーーー」

あまりの衝撃に、クラクラ〜とくる。

ぼくだけじゃなく、弥生ちゃんも痛そうだった・・・・

そして、そのままぼくの腕を取り、丸めて立ててあるマットへと振る。

「おわあああ〜」

ボスッ!

マットに激突してしまった。

そこへ

「こおのーー」

弥生ちゃんの、串刺しドロップキックが背中に決まった。

「ぐぼおおおーー」

息がつまり、そのまま崩れ落ちる・・・・

そして、倒れたぼくの足を掴んで、マットの中央に引き摺っていった。



練習を終え、ぼくたちはジャージを着る。

「今日はどうもありがとうございました」

「いや、こちらこそ」

と、ぼく。

「で、明日はどうする?」

「是非お願いします」

と、弥生ちゃん。

「じゃあ、今日と同じ時間でね」

「はい」

そうして、ぼくたちは窓から外に出た。

「それじゃ弥生ちゃん、また明日ね」

「はい、失礼します」

そして、そっと学校を抜け出して、お互いに帰路へついた。



6 隠れた目撃者



次の日も、ぼくは用具室の中で待っていた。

しかし、六時五分になっても弥生ちゃんは来なかった。

なんかで、遅くなっているんだろうと思っていた時、ぼくのPHSが震えだした。

ぼくは、ポケットから出して出る。

相手は、弥生ちゃんだった。

「あ、弥生ちゃん」

「お兄さん、ごめんなさい・・・・急に親戚の家に行く事になってしまって、今日は無理なんです」

「ええー!?、そうなの?・・・残念だな〜」

「ごめんなさい・・」

「いや・・しょうがないよ・・・・あしたはお互いに道場だよね・・・・明後日は?」

「だいじょうぶです」

「じゃあ、明後日にね」

「はい、それじゃあ失礼します」

そして、ぼく達は電話を切った。

「あ〜あ・・・つまんないな・・・」

ぼくは、そうつぶやくとマットの上にごろりと寝転んだ。

せっかく待っていたのに、結局今日は中止になっちゃった・・・・

でも、急用ができたからしょうがないんだけれども・・・・

これからどうしようか・・・・・

特にする事もないけれど・・・・なんにもする気ないんだよな〜

「どうしようかな〜」

ぼくは、また呟いた。

丁度そのときだった。

ぼくは、ふと何かの気配に気付き、上体を起こして用具室の中を見回した。

すると、いつのまにか跳び箱の上に腰掛けている女の子がいることに気付いた。



7 捕らわれの少女



その女の子は、微笑んだままジッとぼくの方を見つめていた。

「っ!?・・・・・あ・・・あの・・・い・・いつの間に・・・」

ぼくは、慌てて言う。

すると、女の子は座ったまま足を組み、

「ねぇあなた・・きのうここで女の子とプロレスごっこしてたでしょ?」

そう言ってきた。

「見てたの!?」

ぼくは、おもわず大きな声を出してしまった。

すると、女の子はこくりと頷いた。

いつのまに!?・・・・

「す・・すいません!・・あれは・・・その・・・・」

ぼくは、あわてて弁解しようとする。

「いいのよ、べつにあなたを注意するわけじゃないから」

「で・・でも、一体どこから見ていたんですか?」

「ずっと、ここにいたわよ、あなた達が気付かないだけ」

そ・・・そんな・・・・ぼくだけじゃなく、弥生ちゃんまでも気付かないなんて・・・・

「でもしょうがないかな?・・あなた達にも見えるようにしていなかったし」

そう言って、その女の子は跳び箱の上から降りて、ぼくの方へ近づいてきた。

胸の名札を見ると、城之内奈々子と書いてあった。

三年生らしい。

(先輩か・・・)

たしかに、雰囲気からしてそんな感じだ。

「城之内さん・・というのですか?」

ぼくは、訊いた。

「ええ、そうよ・・あなたは?」

「堀部朔夜です・・・一年です」

「そう・・・でも、あたしのことは奈々子のほうで、呼んで」

「あ・・・はい、奈々子さん」

そう言うと、奈々子さんはニコッと微笑んだ。

それは、とてもかわいらしく感じた。

「ところで朔夜くん、昨日の娘って朔夜くんの彼女?」

「い・・いえ、友達ですよ・・・サークルの・・」

ぼくは、あわててそう言った。

「そうなの?・・仲良さそうにしてるからてっきり彼女かと思った・・・・・で、なんのサークルなの?」

と、奈々子さん。

「実は、プロレスのサークルなんです」

ぼくは、正直に答えた。

「プロレス!?」

「はい・・今のところ四人だけなんです・・きのうの・・・川元弥生って言うんですけど、彼女とぼくの妹・・それと幼なじみの女の子でやっているんです」

「え?・・・じゃあ、男の子は朔夜くんだけ!?」

「はい・・・」

「ふ〜ん・・・そうなんだ〜・・・・いいな〜・・私もプロレス好きだったけど、当時はまわりにプロレス好きの女の子や男の子いなかったから、そういうことはできなかったの・・・・・・随分前だけど・・」

奈々子さんは、そう言った。

「随分前?」

ぼくは、訊き返した。

随分前って、なにを言っているんだろう・・・いまだって中学生なのに・・・・

「そうよ、私・・・もうここの生徒じゃないの」

「はあ?・・でも・・」

「朔夜くん、体育館のうわさ聞いたことない?」

奈々子さんは、急に真面目な顔してそう言った。

「うわさ?・・・・・えーと・・・そういえば、用具室にオバケが出るとか出ないとか・・・」

たしか、そんな噂があった。

この用具室に、十何年前に学校の帰りに事故で死んだ女の子の幽霊が出るとか・・・・

目撃者がいるらしく、そのせいで部活が終わるのが早いらしいな・・・・

でも、ぼくは信じていない。

そんなことが・・・・

「それが私よ・・・・」

奈々子さんは、悲しそうにそう言った。

「ええ〜!?」

そんなバカな・・・足だってあるし、目の前にいるっていうのに。

「ほら」

奈々子さんは、ぼくの頬を両手で包んだ。

すると、彼女の手はとても冷たかった。

まるで、体温がないみたいだ・・・・・

・・・・・もしかして・・・・

「・・・・・・・本当・・なんですか?」

そう言うと、奈々子さんはコクンと頷いた。

本来ならば大抵の人はここで悲鳴を挙げて逃げるだろうけど、なぜかぼくは平然とそのことを受け入れていた。

「朔夜くん・・・私が怖くないの?」

「いえ・・別に・・なんかあっさりと遭遇したせいか?、なんかあんまり実感ないんですよね・・・」

と、ぼく。

すると、またクスリと笑い、

「変わってるわね・・・みんな私を見ると逃げていったのに」

「ぼくは平気ですよ、かわいい女の子がそうだったら」

と、ぼく。

「フフフ・・ありがと」

そう言って、また微笑んだ。

「ところで、奈々子さんもプロレス好きだったんですか?」

「ええ、そうよ・・・本当だったら、私が死んだ週の土曜日につきあっていた柔道部の彼氏とここで試合するつもりだったの・・・・まあ、その人も今では結婚しちゃっているみたいだけど・・・」

「そうだったんですか・・・・」

やばいな〜・・・まずい事訊いちゃったな〜・・・・

(なんとか、なぐさめるには・・・・)

そしてぼくは、無礼を承知であることをいいだした。

「奈々子さん!、ぼくと試合をしませんか?」

「ええー!?」

奈々子さんは、驚いてぼくを見る。

「もしかして、嫌ですか?」

「ううん・・・そういうわけじゃないけど、オバケと試合するんだよ?・・・気持ち悪くない?」

「全然!」

ぼくは、首を振る。

「それとも、ぼくと闘うのが怖いですか?」

ぼくは、ちょっと意地悪く微笑んだ。

すると、

「言ったわね〜!」

奈々子さんも、笑いながらそう言った。

「じゃあ、やりましょうよ!」

と、ぼく。

「いいわよ〜、かくごなさ〜い」

「決まりですね、それじゃあ準備しましょうよ」

そう言うと、

「それなら、私に任せて」

奈々子さんは、スッと手を振る。

すると、用具室の中のエアーマットが二枚、宙に浮いて、体育館の中へと飛んでいった。

そして、体育館の中央に置かれる。

これって、俗に言うポルターガイストってやつかな?

「これでいい?」

と、奈々子さん。

「あと、跳び箱を四隅に置いてください、それをコーナーポストに使うんです」

と、ぼく。

「跳び箱?・・・これはどう?」

奈々子さんは、丸めてあるマットを四本四隅に置き、三本のロープを巻きつけた。

かなり、本物に近くなった。

「でも、これじゃあすぐに倒れちゃいますよ」

「大丈夫、私の妖力で固定してあるから」

ぼくは、マットに触れて確かめてみる。

本当だ、押しても叩いても倒れない。

しかも、普通のマットのままだ。

「すごいや、奈々子さん」

「フフ、ありがと・・・ちなみに、結界が張ってあるから誰かが覗いても入ってきても、これにも私達にも気付かないわよ」

そう言った。

「ところで、奈々子さんは自分の服を変えることってできます?」

と、ぼく。

「できるけど」

「じゃあ、水着でやりましょうよ!、ぼく今日は弥生ちゃんとイルミネーションマッチの予定だったんで水着もってきているんです」

すると、

「いいわよ、おもしろそうね」

賛成してくれた。

「じゃあ、用具室で着替えたらリング内でまっててね」

そう言って、奈々子さんはフッと消えた。



8 イルミネーションマッチ 朔夜 VS 奈々子



着替え終わったぼくは、奈々子さんが言ったように、リングの中央で待っていた。

けど奈々子さんは、まだ現れない。

ぼくは出てくるまで、軽く掌底を繰り出す。

こちらは、いつでもOKだ。

そこへ

「待たせたわね」

体育館内に、奈々子さんの声が響いた。

そして、体育館の入り口にボウッと青白い鬼火が二つ浮かんだ。

いよいよ登場だ。

それと同時に、館内のスピーカーからチョーンッと、かんだかい三味線の音が何度かにわけて聞こえ、周りではサーッと風の吹く音が聞こえた。

本来は、怖がるような場面だけど、ぼくは試合が楽しみで全然気にならない。

そして浮かぶ鬼火と鬼火の間に、スゥーっと奈々子さんが現れた。

しかも、入場コスチュームが剣道の防具を着込んでいる。

ご丁寧に袴もはいているし、木刀を持っている。

五秒ほどかな?・・・じっとこちらを見ていた後に、ゆっくりとリングに向かって歩いてくる。

ぼくは、固唾を飲んでその様子を見ていた。

そして、ロープをくぐってリングインした。

面をとると面と木刀がスーと消えた。

「いよいよね」

奈々子さんは、そう言ってニコッと微笑んだ。

「腕が鳴りますよ」

ぼくは、掌底を繰り出しながら言う。

「フフフ・・ちょっとまっててね」

奈々子さんは、胴の肩紐に手をかける。

このとき、ぼくにちょっとしたいたずら心が湧きあがった。

「いくよー!」

ぼくはいきなり奈々子さんに向っていき、組み付いた。

「きゃっ!?、ちょっと朔夜くん!、まだゴングは鳴ってないわよ!」

奈々子さんは、あわてて抗議するが、

「こういう展開だってありでしょ」

ぼくは、構わず剣道着と胴をつけたままの奈々子さんをリングの中央にまで持っていき、そこからロープに振る!

そして、反動で戻ってきたところをラリアット一閃!

「きゃあっ!」

短い悲鳴と共に、ダウン。

ぼくは、奈々子さんの腕を掴んで起き上がらせ、もう一度ロープに振った。

やっぱり、ロープがあるのっていいな〜。

おっと、奈々子さんが戻ってきた。

「くらえ!」

ぼくは、ラリアートを放った。

しかし、

「甘いわよ」

奈々子さんは、ヒョイと身を沈めてかわしてロープで反動をつけて戻ってきた。

「こぉのーー」

奈々子さんは、逆にラリアートをぼくにかました!

「ぐはあー」

今度は、ぼくがダウンさせられてしまった。

ぼくはゆっくりと起き上がっていく。

奈々子さんは急いで、胴をはずしていた。

「まだまだー!」

ぼくは、剣道着だけになった奈々子さんに得意の掌底を連打!

「きゃっ・・やめてやめて」

奈々子さんは、体を丸めて両腕でガードしようとする。

ぼくはお構いなしに、何発か掌底を浴びせると、左腕で奈々子さんの首に巻きつけた。

「いくよー!」

そのままDDT!

ボスンッときまる。

「きゃあああ」

ダウンする奈々子さん。

剣道着を脱いで、水着になりたいだろうけどさせてあげない。

ぼくは、奈々子さんの左腕をとり、腕ひしぎ逆十字固めに持っていく。

が、

「くっ・・・」

奈々子さんは、左腕を右腕で掴んで耐える。

「むむむ・・・」

ぼくは、さらに力を込める。

「くくく・・・」

奈々子さんも、必死で堪える。

これできまったら、奈々子さんは水着になる前に負けたことになる。

奈々子さんも、それは嫌だろうな。

でもっ!

「むむ〜」

ぼくは、さっきよりも力を込めた。

すると、徐々に奈々子さんの左腕が彼女の右手から外れていく。

「く〜・・」

奈々子さんの顔から、焦りの表情が見える。

「さあ〜、後少しで極まるよ〜」

どうする?、奈々子さん。

「このっ!」

奈々子さんがぼくの足に噛み付いた!

「あいたたたたたた」

ぼくは慌てて奈々子さんの腕を放してしまった。

けど奈々子さんは、かみついたまま放してくれない。

「奈々子さん!、反則です反則・・・・ワン・・ツー・・」

ぼくは、反則のカウントを取り始める。

すると、奈々子さんは足から離れ、すばやく起き上がった。

ぼくの方は、足が痛くて起き上がれない。

「何言っているのよ!、朔夜くんから反則をやってきたくせに!」

奈々子さんは、ぼくを蹴りまくった。

「あいた・・あいた・・・」

ぼくは、何とか体を丸めて防御に入る。

そしたら、奈々子さんはぼくを蹴るのをやめて、トップロープによじ登る。

(ミサイルキック?)

ぼくは、足の痛みを堪えながら、起き上がり離れる。

「朔夜くん!、もう許さないわよ」

そう言って剣道着を脱ぎ、水泳部の競泳用の水着になった。

水着になった奈々子さんは、すばらしいプロポーションだった。

ぼく達の団体・・SYURAで一番のナイスバディーの綾乃ちゃんも問題じゃない。

「さあ、かかってらっしゃい!」

奈々子さんは、剣道着を場外へ放り投げ、マットにストンと飛び降りる。

そして、両手を顔の高さに挙げて、ファイティングポーズをとる。

それに対しぼくも、両掌を前にして骨法の構え。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

しばらく無言のにらみ合いが続いた。

やがて、

「このぉ〜」

「おお〜」

ぼく達は同時に動いた。

そしてガシッと組み合う。

「くくく〜」

「むむむ〜・・」

だけど、奈々子さんの方が力が強かった。

ぼくは、徐々に押されていく。

さっきと違って、いきなりピンチだ。

「このぉー!」

不意に膝蹴りをかましてきた。

「うぐぅ・・」

ぼくの水月に、奈々子さんの膝が突き刺さった。

ぼくは膝はつかなかったけど、体がくの字に曲がった。

「さっきはよくもやってくれたわね〜」

ぼくのバックに回った。

そして腕を回し、ぼくを持ち上げ・・

ボコッ!

アトミックドロップ!

「グボッ・・・」

ぼくは、そのまま前のめりに倒れてしまった。

(くぅ〜・・ケツが痛い・・・・)

そこへ、奈々子さんは一発・・蹴りをいれてきた。

「ぐはっ・・・」

しかし、それだけじゃなく・・・ぼくの腰に座り、両足を抱え込む!

ボストンクラブだ!!

「ぐわあああああーー」

ぼくは、悲鳴を挙げる。

猛烈に痛くて苦しい・・・

「さあ朔夜くん、ギブアップしなよ!」

と、奈々子さん

(くぅう〜〜〜絶対にギブしないぞーー!!)

ぼくは何とか返そうとする。

けども・・

「なんの〜!」

さらにキツクかけてくる奈々子さん。

「ぐわあああーー」

ぼくは、悲鳴を挙げながらも苦し紛れに後ろへ手刀を放った。

するとそれが、運良く奈々子さんの首に当たった!

たぶん奈々子さんが、上体を反らしていたからだ。

「きゃっ?」

奈々子さんの力が弱まった。

「うおおおー」

ぼくは、体をひねって脱出しようとする。

「あ、やだ!?」

奈々子さんは、抑えようとするが、ぼくは足を抜いて脱出に成功した。

「ふぅ〜・・あぶないな〜」

ぼくは、余裕の表情をしてやる。

「やるわね、朔夜くん」

と、奈々子さんもニコリと笑う。

(さてと・・・どうしようか?・・・組み合うのは不利だし・・やっぱり打撃だな)

ぼくは間合いを詰めた。

そして、奈々子さんが組み付いてこようとしたところを、ローキック!

バシッときまる。

ガクンと崩れそうになる。

ぼくは、すかさずバックに周り、組み付く。

「いっけー」

ぼくは、奈々子さんを抱え挙げ、バックドロップ!

「きゃああー」

バッスンッ

見事にきまった。

これから反撃だ!

ぼくは、ロープに走る。

そして、反動で戻ってきたところで、奈々子さんにドロップキック!

「きゃああああー」

起き上がるところを、まともに喰らった奈々子さんはまたもダウン。

そこへぼくは、フォールに持っていく。

豊かな胸の感触が、ぼくの胸板に伝わってくる。

すると、篭手が飛んできて・・・・マットを叩く。

1・・・・2・・・・

そこで、奈々子さんは肩を挙げた。

おしいな・・・・

もうちょっと、胸の感触を味わいたいのに・・・・

「やるわね〜、朔夜くん」

起き上がるなり、ぼくに組み付いてぼくを抱え挙げる。

「うわっ!?」

そして、ボッス〜ンとマットに叩きつけられた。

ボディースラム!

奈々子さんは、それだけで終わらせようとせずに、ぼくの足を掴みにかかる。

また関節技を仕掛けるつもりだ。

そうはいくか。

「なんの!」

ぼくは、足をするりと抜け出して、逆に奈々子さんの左足を掴む。

「え?」

驚く奈々子さんに、足を掴んだまま一回転し、ドラゴンスクリュー!

「きゃあああああ!」

不意打ちを喰らった奈々子さんは、そのままダウンしたまま動けない。

幽霊でも、効くんだな・・・・・・

「まだまだいくよー!」

ぼくは、奈々子さんの髪を掴んで引き起こす。

「イタイ!イタイ!」

と、奈々子さんが悲鳴を挙げる。

ぼくは、幽霊が痛がることに疑問を感じながらも、彼女をコーナーに振る!

「きゃあああっ!」

背中からコーナーポストに激突する奈々子さん。

そこへ、ぼくも対角線上に走っていき、ラリアートをかましてあげた!

「うぐぅ!・・」

奈々子さんの喉元に、まともに入った!

そのまま崩れ落ちそうになるけど、親切に支えてあげる。

そして、左腕で首を巻きつけ、左足を右腕で抱える。

「よっ!」

そのまま後へスープレックス!

フィッシャーマンスープレックスだ!

「ああああああっーー!」

まともに炸裂!

(これでどうだ、奈々子さん!)

そしてまたも篭手が飛んできて、カウントをとる。

1・・・・2・・・・・・・

「くっ!!」

ギリギリで、肩を挙げられた。

あと、1テンポ遅ければぼくの勝ちだった・・・・・

(ちくしょーあとすこしだったのにーー!)

ぼくは、悲痛な思いで技を解いた・・・・・

そして、二人してマットに大の字になったまましばらく息を切らしていた。

やがて、二人して起き上がる。

「奈々子さん、もう終わらせていただきたいです」

「何言っているの・・・勝つのは私よ!」

奈々子さんは、そう言って間合いを詰めてくる。

ぼくは、さっきと同じようにローキックを放っていく。

ビシィ!

「きゃっ!」

奈々子さんの足にきまる!

ぼくは、一発だけじゃなく、何度も叩き込む!

「きゃっ・・イタッ・・ああ・・痛い!・・」

悲鳴を挙げながら、何とか両手で受けようとする。

ローキックの防ぎ方を知らないとは・・・・やっぱり打撃に弱いんだな。

しかし・・・

「くううううーー!」

ローキックを堪えながら、組み付いてきた!

「うわっ!?」

ぼくは、ローキックの体制のまま組み付かれたので、バランスが崩れる。

当然、なんとか体勢を立て直そうとするけれども、無理だ。

「朔夜くん、私をここまで追い詰めたご褒美をあげるわよ!」

奈々子さんが、ぼくをギュウッと抱きしめた。

「ぐわああああーーー!!!」

ぼくは、強烈に胴体を絞められて、悲鳴を挙げる。

かつて、旗揚げ戦のとき・・・ぼくが弥生ちゃんをギブアップに追い込んだ技・・・・

ベアハッグだ!


「ぐあああああーーー!!」

ぼくは、奈々子さんに抱き上げられたままだ。

水月に奈々子さんの胸が当たっているけど、それどころじゃない。

気持ちいい以上に、苦しさの方が大きい。

「さあ、朔夜くん・・ギブアップしちゃいなさい!」

「ぐうううううーーー・・・するもんかーーー!!」

ぼくは、苦しさのあまり、足をばたつかせる。

(弥生ちゃんも流花も、あの時はこんなにも苦しかったんだな・・・・)

ぼくは、苦しみながらもそんなことを考えていた。

「まだ堪えるの?」

奈々子さんは、さらに力を込めた。

ぼくは、締め付けがきつくなり・・・・

「ぎゃああああああーーーー!!!」

またも、悲鳴を挙げる。

(なんとか抜け出さないと・・・・・)

もがいても、一行に抜け出せない・・・・

「無理よ!、ぬけだせないわよ!」

「ぐううううーーーー・・・・・」

ぼくは、その時、

「テヤッ!」

奈々子さんの首に、手刀を叩き込んだ!

「うっ・・・」

ボストンクラブの時と同じように、奈々子さんの力が一気に弱まった。

そこで、チャンスとばかりに振りほどき、ベアハッグから抜け出す事に成功した。

「ハアハアハアハア・・・・・・やるじゃない・・朔夜くん・・・」

「ハアハアハア・・・・・奈々子さんも・・・・」

お互いに体力の限界が近づいてきている・・・・

そろそろ極めないと・・・・・

「終わりにしてあげる・・」

「望みどうりに・・・」

またも、ぼく達は同時に動いた。

ぼくは、奈々子さんに必殺の浴びせ蹴りを放った!

ガツンと奈々子さんに、もろに決った!

「きゃあああああああああああーーーー!!!」

奈々子さんは、派手にダウン!

そして、大の字になっている奈々子さんに覆い被さる。

・・・・・・が、篭手がカウントを取る前に返されてしまった。

奈々子さんは、長い髪を振り乱しながら起き上がる。

そして、起き上がれないぼくを強引に起き上がらせた。

「く・・・・・」

ぼくは、抵抗できない。

奈々子さんは、そんなぼくのバックに回ると、フルネルソンの体制に・・・・

(こ・・・これは・・・・・・)

「朔夜くん、勝負ーーー!!」

叫び声とともに、ドラゴン・スープレックスを放った!!

ドッスーーーーンッ!!

「ぐわああああああああああああああーーーーーーーーー!!!」

ぼくは、断末魔の悲鳴とともに意識が遠くなっていく。

奈々子さんは、ドラゴンスープレックスで固める事が出来ず、体勢が崩れる。

そして、二人でダウンした状態になっていた。

ぼくも、奈々子さんも動けない・・・・・

いや・・奈々子さんは、まだ少し動けるみたいだった。

奈々子さんは、匍匐前進みたいに徐々に近づいてくる。

息を切らせながら、這って来る奈々子さんは、バイオ・ハ○―ドのゾンビみたいだった。

でも、ぼくにはそれから逃れる力は残っていない。

「朔夜・・・・・・くん・・・」

奈々子さんは、ぼくに覆いかぶさった。

ぼくの胸に、豊満な胸の感触が広がる。

そして、篭手がカウントを取りに飛んできた。

1・・・・2・・・・

ぼくには、フォールを返す力は残っていなかった・・・・

気持ちいいままで、終わるんだ・・・・

・・・・・3。

カウント3が入った・・・・・

勝者は、奈々子さん。

ぼくは、奈々子さんに敗北してしまった・・・・

それは、サークル設立して以来・・・・初の敗北だった。


×堀部朔夜
(17分05秒 体固め)
(ドラゴンスープレックス)
城之内奈々子



9 強い男の子って好きよ



「朔夜くん、大丈夫?」

ぼくは奈々子さんに抱き起こされた。

「奈々子さん・・・・・」

「朔夜くん、怪我していない?」

「大丈夫です・・・それにしても奈々子さん、強いですね・・・・今回はぼくの負けです」

「朔夜くんだって・・・わたしも危なかったわ・・・」

「次回は、ぼくが勝ちますよ」

と、ぼく。

「そうね、いつでも挑戦受けるわ」

そう言って、奈々子さんはぼくにキスをした。

「私、強い男の子って好きよ」

そう言って、ニッコリと微笑んだ。

ぼくは、流花・綾乃ちゃん・弥生ちゃんだけじゃなく・・・幽霊の奈々子さんにまでも、惚れられちゃったようだ・・・・・



10 タイトルマッチ 朔夜 VS 流花



体育館内のステージ脇のドアの中。

ぼくは、リングコールを待っている。

いよいよ今日が、ぼくと流花のタイトルマッチの日だ。

今日は初の防衛戦だけあって、デビュー戦の時のようにドキドキしている。

ぼくは用意していた、NWOとプリントされている黒いTシャツを着る。

リンコスは、いつもの短パン式の学校の水着だ。

今日は、入場コスチュームを着ようということになり、それぞれが用意することになった。

ぼくは、特になんでもよかったから、このTシャツにした。

ちなみに、あとのみんなが何にしたのかは、ぼくは知らない。

流花にしても、今日の朝・・こっちに来る前に聞いてみたけれど、『本番でのお楽しみだよー』と、言われてしまった。

まあ・・・すぐにわかることだけど。


「それでは、第一試合!SWGPタイトルマッチを行います!」

突如、綾乃ちゃんの声が響いた。

「わあああああーーーーーー!」

弥生ちゃんが、歓声と拍手をする。

(いよいよだな・・・・・おっと、ベルトを巻くのを忘れてた)

ぼくは、急いでベルトを巻きつける。

「青コーナーより、堀部流花の入場です!」

綾乃ちゃんの声が響いた。

そして、持ってきたCDラジカセから、TWO−MIXのRHYTHM EMOTIONが流れ出した。

ぼくは、ドアを開けてこっそりと見てみる。

すると、流花は用具室から体操着にブルマーという萌える格好で入場してきた。

そして、小走りにリングへ向かっていく。

う〜ん・・・あの格好は、流花の性格から考えるとなぜか似合っている気がする・・・・・

そして、コーナーポストに飛び乗ると、宙返り!

ブルマー姿の流花が中に舞った!

そして、リングに見事に着地。

相変わらず派手だな〜・・・

「わーい!」

リングインすると弥生ちゃんをはじめ、四方に両手を振る。

これも、いつものことだ。

そして、曲が止まった。

「流花ちゃ―ん、がんばってねー!」

弥生ちゃんの声がした。

そして・・・・・

「続きまして、赤コーナーより・・・」

あ、ぼくの番だ。

「SWGP王者。堀部朔夜の入場です!」

綾乃ちゃんのリングコールの後、アニメ影技の主題歌、Born Legendが流れ出す。

「ヨッシャー!」

ぼくは気合を入れると、ドアを蹴り開ける。

三人が、一斉にぼくへと視線を向けた。

(弥生ちゃんや奈々子さんとの特訓の成果を見せてやる!)

そして、威風堂々とリングへと歩いていく。

リング上では、流花が不適な笑みを浮かべている。

「お兄さーん!」

弥生ちゃんが声援を送る。

ぼくは、そのまま無言でリングイン。

そして、流花を睨みつけながら、ベルトを外す。

(ベルトは絶対に渡さない!)

ベルトは、弥生ちゃんが受け取りに来てくれた。

「青コーナー、堀部ー流ーー花ーー!!」

綾乃ちゃんの声と共に、流花は体操着とブルマーを脱いで場外に脱ぎ捨てた。

そして流花は、いつものスクール水着になった。

「流花ちゃ―ん!、がんばってねー!」

と、弥生ちゃん。

「がんばるねー!」

そう言って、弥生ちゃんに手を振る。

(相変わらず貧乳だ・・でも・・・)

その時ぼくは、不覚にも流花が入場コスチュームを脱いでる姿にくぎ付けになってしまっていた。

そして、綾乃ちゃんをチラッと見ると・・・・・

「・・・・・・」

やっぱり気付いていたんだ・・・・・睨んでる〜・・・・

「赤コーナー・・・・」

声が、不機嫌だ・・・・

「SWGPチャンピオン・・・堀部ー朔ーー夜ーー!!」

ぼくも、Tシャツを脱いでリングの外へ放り投げた!

「お兄さんも、がんばってくださーい!」

声援を送る弥生ちゃんに、ぼくは親指を立ててみせる。

これで準備OKだ。

「お兄ちゃん、今日こそお兄ちゃんを倒すからね!」

そう言って、ぼくに向かって舌を出す。

「無理だね、流花はぼくには勝てないよ」

ぼくは、余裕の表情でそういってやった。

そう、チャンピオンであり、兄であるから、負けるわけにはいかない。

絶対に、流花を倒す!

「朔夜くん、流花ちゃん・・OK?」

綾乃ちゃんが、聞いてきた。

「うん!」

流花が大きく頷いた。

「いつでも」

と、ぼく。

「それじゃあ、世紀の兄妹対決・・・SWGPタイトルマッチ、レディー・・・・・ファイッ!!」

綾乃ちゃんの開始の合図と共に、ぼくと流花は同時に動いた。

「いくぞ、流花!」

ぼくは、流花に組み付こうとした。

すると、掴もうとした瞬間・・・フッと流花が消えた。

「え?」

ぼくの手は、虚空を掴んだ。

それと同時に、

「ここだよ、お兄ちゃん!」

流花が、ぼくの左足に組み付いていた。

片足タックルをされていたんだ。

「うわっ!」

ぼくは、そのままマットに倒された。

流花は、ぼくの足を掴んだままだ。

そしてぼくの足を抱えて、アキレス腱固めにはいった!

「があああっ!」

アキレス腱が締め上げられ、ぼくは唸る。

「ギブアップ?」

と、綾乃ちゃん。

冗談じゃない、いきなり負けてたまるか。

「なんのこれしき!」

ぼくは、流花の左肩を蹴りつける!

「アアーー!」

流花の悲鳴と同時に、締め上げる腕の力が弱くなる。

(よし、今だ)

ぼくは、足を引っこ抜いて立ち上がる。

流花も、蹴られた左肩をおさえて立ち上がる。

そこへ、左のミドルキックを、流花の平らな胸めがけて放つ!

流花は、それを両腕でガードするが、

「きゃ!、痛い」

悲鳴を挙げて、怯む流花。

組み付いて、抱え挙げた!

「ああ!、また!?」

この前、床の上でかましたボディースラムの体制になる。

「今度はマットの上だからな、遠慮なくやるぞ」

そう言って、流花をマットに叩きつけた!

「きゃあああー!」

かわいい悲鳴を挙げる、流花。

そして、さっきの仕返しをするべく、流花の足を掴んだ。

(なにで攻めるか?・・・・ひっくり返して・・・)

だけど・・・・

スルッ

流花が足を引っこ抜いた!

「あれ?」

「へへーんだ、甘いよお兄ちゃん!」

流花はすばやく起き上がって、ぼくの足に右ローキックを叩き込んだ!

「ぐわっ!」

ぼくの足に、流花のローキックがビシッと決まった。

そしてぼくの頭を掴んで、ぼくをコーナーポストへと振った!

(うわっ!!)

ぼくは、途中で体の向きを変え、背中からコーナーポストの跳び箱に激突した。

「ぐっは〜・・・」

強烈な衝撃が、背中に走る。

おかげでぼくは、うごけない。

「あの時の流花はもっと、痛かったんだよー!」

流花が、走ってくる。

そして、大の字になって飛び込んできた!

「ぐはああー!」

強烈な、ボディーアタックを喰らってしまった!

しかも、顔には流花の胸が当たった。

流花には、クッションになる乳房がないから余計効いた。

ぼくは、そのまま崩れ落ちそうになるけれど、流花に腕を掴まれる。

「まだまだいくよー!」

流花は、さらにぼくを反対のコーナーに振った!

ぼくも、さっきと同様にコーナーポストに激突!

「ぎゃあああー!」

またも、悲鳴を挙げるぼく。

(さっきよりも効いたぞ、おい・・・)

流花って、おもっていた以上に強い。

もしかしたら、やばいかも・・・・

「いっくよー!」

流花が、そう叫ぶ。

流花の方を見ると、あいつが側転しているところだった。

スペース・ローリング・エルボーをやる気だな!

「そうはさせないぞ!」

ぼくは、流花がエルボーで突っ込んでくるのを、さっとよけた。

すると流花は、ドッカーンとコーナーポストに突っ込んだ。

同時に、跳び箱が一メートル以上移動した。

「ああああーーー!!」

湧き上がる、流花の悲鳴。

流花は、床の上でうずくまっている。

よっぽど痛かったんだな。

(ハハハ・・マヌケめ・・)

ぼくは、ニコニコと微笑みを浮かべながら、るかに近づく。

「く〜〜〜・・・」

そして、うめいている流花の腕を掴んで起き上がらせ、リングに連れ戻す。

コーナーは、綾乃ちゃんと弥生ちゃんが直している。

「いくぞ流花ー!」

ぼくは、リングの中央でDDTを放つ!

「きゃあああ」

きれいにきまる。

ダウンする流花を起き上がらせて、流花の体を曲げて持ち上げる。

ツームストンの体勢になる。


 「きゃー、イヤー!」
 
 流花が悲鳴を挙げる。
 
 (さあ、観念しろ流花)
 
 ぼくは、膝を折ってジャンプ!
 
 「きゃああああーーーー!!」
 
 ツームストンパイルドライバーが、強烈に炸裂!!
 
 マットに、流花の頭が食い込んだ!!

そのまま流花は、マットに倒れて動かない。

(終わりだな)

ぼくは、そのまま流花に覆い被さる。

体固めの体制になる。

そこへ、綾乃ちゃんがカウントを取り始める。

「ワン・・・・ツ・・」

そこで流花が、肩を挙げた。

「え?」

ぼくは、驚いた。

(これできまったと思ったのに・・・・)

まだ、闘うというわけだ・・・・

さすがは、ぼくのかわいい妹だな。

「ハアハア・・お兄ちゃん、早くどいて・・・」

流花が、息をきらせながら言う。

「ああ、ごめん・・」

ぼくは、流花の上からどいてあげる。

「まだやれるの?」

ぼくは、挑発するように言う。

「あたりまえだよ・・今日は絶対にベルトをもらうって決めたんだもん・・」

と、流花が立ち上がる。

「とってみろよ!」

と、ぼく。

「じゃあ、いくよ!」

流花が、ぼくにむかって走ってくる。

さあ、どう来る?

「くらえー!」

流花がジャンプして、フライング・ニールキックを放った!

「ぐわっ!」

ぼくは、まともにくらってしまった。

そして、ダウン。

威力は弥生ちゃんの方が上だけど、スピードは流花のほうが上かもしれない・・・

「く・・・これしきの・・え?」

ぼくは、すぐに起き上がったけど・・その時、流花は、コーナーポストの上にいた。

(やばい!・・)

そう感じた時には、流花は飛んでいた。

ミサイルキック!

強烈にぼくに炸裂した。

「うわああああー」

またもや、ダウン。

そこへ、

「さっきの、おかえしー!」

高く飛び上がって、背面落し・・セントーンをかました!

「グッハーーーー!!」

ボディーに強烈な衝撃が来た!

ぼくは、お腹を押えて転げまわる。

そこに、流花のストンピングが、ガシガシッときまっていく。

ぼくは、ガードできず、なすがままにされている。

さっきのセントーンが効いているから、動けないんだ・・・・

これは、大ピンチだ!

「まだまだ、お仕置きは続くよー!」

流花が、ぼくの髪を掴んで引き起こす。

(いててて・・・なにがお仕置きだよー)

そして、ぼくの頭を脇に抱え込む。

(くっ・・・・DDTか?・・)

ぼくは、そう思ったけど違った・・・

流花は、ぼくの水月に膝蹴りを連打で叩きこむ!

「この!この!この!」

「ぐえ!ぐえ!ぐえ!・・・」

悲鳴を挙げるぼく・・・・

そしてそのまま、コーナーのほうへ移動し・・・そこへ向かって突き飛ばされた!

「ぐはっ!・・・」

コーナーにもたれ・・・そのまま崩れ落ち・・・させてくれなかった!

流花が、こっちへ走ってくる!

そして、かわいいお尻を向けて飛び掛ってくる!

ヒップアタックだ!!

ガッツーーンッ!!

ぼくの顔面に、強烈に炸裂した!!

しかも、コーナーポストとサンドイッチになって、痛さは倍増だ。

多少柔らかかったから、少しはマシだけど・・・

「ぎゃああああーーーー!!」

こんどは、ぼくの方が跳び箱を移動させて吹っ飛んでしまった!

「お兄さんっ!!」

弥生ちゃんが叫ぶ。

「ぐおおおおお〜〜」

そして、場外で・・弥生ちゃんの近くで、顔面を押えてのた打ち回る・・・・・

妹にここまでやられて、こんな醜態をさらすなんて、かなりの屈辱だ・・・・

「弥生ちゃん、椅子貸して!」

「ええ!?、ちょっと流花ちゃん!?」

驚く弥生ちゃんを強引にどかして、椅子を取り上げる。

(おおおーい、そこまでやるか!?)

しかし、ぼくの驚きもよそに・・・流花は椅子を振り上げ・・・

「死ねー!」

バシッ バシッ バシッ ドカッ バシッ

「ぐわっ、ぐわっ、ぐわっ・・・」

椅子でぼくを叩いたり、突いたりする。

ぼくは、体を丸めて耐えるしかない。

「やめなさい流花ちゃん!、反則よ!・・ワン・・・ツー・・」

綾乃ちゃんがカウントを取り始めると、流花は残念そうに椅子を弥生ちゃんに渡した。

ぼくは痛さのあまり、ダウンしたままだ。

そしてそこへ、何発か蹴りを入れ、

「さあ、お兄ちゃん!さっさとリングに戻ってきなよ!」

そう言って、リングに戻っていく。

「お兄さん、大丈夫ですか?」

弥生ちゃんが、声をかける。

ぼくは、ふらふらと立ち上がりながら、

「うう〜・・・大丈夫・・」

そう言ってやった。

そして、リングに戻る。

「あはは、お兄ちゃんゾンビみたい、いい気味だね」

からかうように笑う流花。

(ちくしょうー、バカにしやがって〜)

ぼくは、段々腹が立ってきた。

絶対に倒してやる!

「さあ、行くよー!」

流花が走ってくる。

そして、飛び込んでくる。

フライング・クロスチョップ!

だけど、ぼくはそれをかろうじてかわした!

「え、きゃあー」

ボスンとマットに自爆する流花。

「なんどもくらうか!」

ぼくは、倒れた流花にストンピングを連打!

「きゃ、ああ・・ああ・・ああ」

流花は、転がって逃げる。

そして、素早く起き上がる。

多少、体力は回復しているようだ。

ぼくは、呼吸を整えながら間合いを詰めて掌底連打!

「きゃ、きゃ、きゃ・・いやっ・・」

流花はガードしきれない。

何発もの掌底が流花にヒット!

そして、隙を見て組み付いて、裏投げで流花をマットに叩きつける!

ぼくの得意のコンビネーションの一つだ!

「きゃあああ!」

悲鳴を挙げる流花を、ぼくは起き上がらせ、そのままコーナーポストに振って叩きつけた!

「きゃああーーー!!」

流花は、そのままズルッと崩れ落ちる。

ぼくは、倒れた流花に近づいていく。

「ほら!、さっさとおきろ!」

流花の髪を掴んで、引き起こす!

「イヤーーー!」

流花が泣きそうな悲鳴を挙げる。

もしかしたら、泣いているのかもしれないけれど・・・・・

(今は試合だ・・かまうもんか!)

ぼくは、流花の頭を左手で押えるように掴んで、助走をつけてフェイスクラッシャー!

流花の得意技だ!

「きゃあああーーー!!」

流花は、マットにうつ伏せにダウンする。

そこへぼくは、キャメルクラッチをかけてやろうと、流花の背中に馬乗りになる。

そして、そのままマットに流花の頭を両手で押さえて、流花顔面を押し付ける。

「ムグゥーーーームグゥーーーーー!!」

流花が苦しそうにもがく。

だけど、体重差があるから逃れることが出来ない。

少ししてぼくは、流花の顔をあげてやり、呼吸させながら、

「ギブするか?」

訊いてやる。

このまま落ちるまで、こうしていてやろうとも思ったけど、情けをかけてあげる。

が、流花は涙を流しながら、

「ハアハアハアハアハアハア・・・・・・・そんなわけ・・ないでしょ・・・・・」

そう言い返してきた。

まだ、やるつもりだ。

(強情なやつだ・・・・だったら!)

「そうかよ!」

ぼくは、またも流花の顔をマットに押し付けた!

「ムグゥーーーー!!ムグゥーーーーー!!」

苦しむ流花。

ぼくは、それだけじゃなく・・・右手で人差し指を突き出すように握る。

それで、流花の頭に拳骨をくらわす!

「ムグッー!ムグッー!ムグッー!ムグッー!」

ぼくは、ガンガンと拳骨をかましてあげる!

「朔夜くん!、ダメよ!それは反則よ!」

綾乃ちゃんが拳骨を静止しようとする。

「なんだよ!、さっきは流花だってぼくをイスで殴ったんだよ!」

ぼくは、抗議をした。

「お兄さん!、それじゃあただのケンカじゃないですか・・・やめてください!」

弥生ちゃんが、客席から叫んだ。

「朔夜くん・・・」

綾乃ちゃんが、振り上げたぼくの拳と、ぼくの肩に手を触れた。

流花は、顔を横向きにして、荒い息をしている。

「・・・・・・わかったよ!」

ぼくは、拳をおろすとそのまま、流花の顔をマットに押し付けた。

「ムグーーーーーーーーーー!!」

流花が、一際大きな悲鳴を挙げた!

力尽きるのも、時間の問題だな。

しかしそのとき、流花の両側で結んである、リボンの片方が取れそうになっているのに気がついた。

ぼくは、流花の頭を押さえる手を放す。

「ちょっとタンマ、リボン結びなおしてやるよ・・・」

 そう言って、リボンと髪に触れたとき・・・

「ハアハアハアハアハア・・・・・さわるなーーー!!」

流花が体を捻ってる!

それによって、ぼくとの間に隙間が出来て、下にずり下がった。

この体勢から抜け出してしまった!

そして、素早く起き上がった。

かなりのダメージになっているのに、なんて動きだ・・・

「え!?」

振り向いて立ち上がろうとする。

そのとき、

「死んじゃえーーー!」

流花の怒りのハイキックがぼくを襲った!

バシィィンッ!

見事にぼくに炸裂した!

「がっ・・・」

ぼくは、仰向けにダウンしてしまった・・・・・

頭がクラクラする・・・・軽い脳震盪を起こしたようだ・・・・・

「お兄ちゃんなんか・・・お兄ちゃんなんか・・・・」

流花は、泣きながらぼくに馬乗りになった。

マウントポジション!

そして、左右の平手をしてくる。

「うわ・・うわ・・・」

ぼくは、平手を何発かくらう。

しかし、ぼくはすぐに掌底をかえした。

パシィィッ!

「きゃっ!」

流花は、仰向けに倒れた。

ぼくはクラクラになりながら、起き上がろうとするが・・・


それよりも速く、流花にバックをとられた!

そして、ぼくの首に腕をまわし・・・胴締めスリーパー!

「ぐわあああああーー!!」

首と胴に流花の腕・・足が巻きつく。

それだけじゃなく・・・

「くぅーーーーー!!」

ぼくの頭に流花が、泣き叫びながら噛み付いた!

「があああああああーーーああーー!!」

あまりの痛さとくるしさに、ぼくは絶叫!

「反則よ流花ちゃん!、放しなさい!」

すぐさま綾乃ちゃんが飛んでくる!

そして、ぼくの頭から強引に流花を引き離してくれた。

しかし、流花の胴締めスリーパーから解放されたわけじゃない。

「このーーーーー!!」

流花が首と胴を締めつけた!

「がああああーー!!」

ぼくは、なんとか振りほどこうとするけど・・・

流花を背中に背負ったまま、マットをゴロゴロと転がっただけだ・・・・

「ギブアップ?」

「ぐううう〜」

ぼくは、首を振る。

でも、このままじゃ絞め落とされる。

でも、ギブアップなんかしたくない。

絶対にイヤだ・・・・

(でも、どうすれば・・・・・・そうだ!)

ぼくは、胴体に巻きついている流花の足の膝の辺りにある急所を指で圧迫する。

「あ・・イタッ!」

流花の力が、少し弱まる。

そこでぼくは、流花の腕と首との間に顎を入れる。

これで、多少はマシになった。

そして、

「くぅおのぉーーーーーー!!」

ぼくは、背中に流花を貼り付けたまま、根性で起き上がった!

「ええ!?」

綾乃ちゃんと弥生ちゃんが、驚きの声を挙げる。

「え!?・・なに?・・なに!?」

流花も、驚いている。

まさかぼくが、こんなことする力は残っていないと思っていたんだろう。

「くらえーーーーー!!」

ぼくは、ジャンプして背中からマットに倒れる!

「きゃああああーーーーー!」

流花の悲鳴が、ぼくの背中の下から沸きあがる!

流花は、マットに背中から叩きつけられるだけじゃなく、ぼくとマットに挟まれたんだからかなりのダメージを負ったはずだ。

流花は苦しさのあまり、のたうちまわる。

(もう・・終わりだろう・・・)

ぼくは体制を変えて、流花を押さえて覆い被さる。

体固め。

綾乃ちゃんが、カウントを取る。

「ワン・・・・ツー・・・・」

流花は、息を切らしているだけで動けない。

「ス・・」

そのとき、流花が肩を挙げた。

「流花ちゃん!!」

(なにぃーー!?)

弥生ちゃんが驚きの声を挙げると同時に、ぼくも心の中で叫んでいた。

まだ、返すことができるなんて・・・

いつもなら、これで終わるはずだ・・・

「しぶとい奴だ・・・」

ぼくは起き上がって、フラフラと間合いをとる。

あいつが起き上がってきたら、ラリアートでもかまして・・そして、今度こそ終わらせてやる。

そして、流花もフラフラ涙を拭きながら起き上がった。

「死ねー!お兄ちゃん!」

泣き顔の流花が、走ってきた!

「流花ーー!!」

ぼくも、流花にむかって走る!

(ラリアートをかましてやる!)

ぼくは、右腕をラリアートの体勢に・・・

が、しかし!

「このやろーーー!」

流花はお尻を突き出して、ジャンプ!

またも、ヒップアタック!

またしても、流花のおしりがぼくの顔面に炸裂!

「ぎゃはーーーーーー!!」

完全にダウンするぼく。

そこへ、流花が覆い被さり、

「レフリー、フォール!」

体固めに・・・・

そして綾乃ちゃんが、カウントを取る。

「ワン・・・・ツー・・・・」

「くっ!・・・」

ぼくは、なんとか肩をあげて返した!

でも、あぶなかった・・・・・・

「ハアハアハアハアハアハアハア・・・・・・・・・・・・」

「ハアハアハアハアハアハアハア・・・・・・・・・・・・」

流花が覆い被さったまま、二人で息を切らしていた。

少しして、流花が立ち上がるが・・・ぼくは立ち上がれない・・・・・

「グス・・・お兄ちゃん、次で楽にしてあげるよ・・・」

流花が泣きながらそう言った。

そして、コーナーポストに飛び乗る。

(・・・もしや、ムーンサルトを・・・)

「終わりだよ!お兄ちゃん!」

流花が宙に舞った!

やっぱりムーンサルとプレスだ!

これをくらったら・・・・負ける・・・

「うおおおおおー!」

ぼくは、転がってよけた!

そして、

「きゃああああーーー!!」

流花が、マットに墜落!自爆した!

「ぐううう〜〜〜」

苦しさと悔しさと怒りからか・・・・流花はマットを叩いて泣き出す。

「く・・・・・」

ぼくは最後の力を振り絞り、流花に近づくと・・その背中にまたがる。

「い・・・いやだ・・」

流花は、ぼくがなにをしようとしているのかわかったらしく、身を縮ませる。

「このガキ・・・さんざんてこずらせやがって・・・」

ぼくは、強引に流花の顎に両手をかける。

そして今度はリボンを直そうとせずに、そのまま後に流花の顎を両手で引っ張る。

キャメルクラッチ!

「あああああああああああああああーーーーーー!!!」

絶叫する流花。

「あああああーーあん・・ああああーー」

何とか振りほどこうとしているが、体制的にも体力的にも、もう無理だ。

当然、ぼくもこれで決めなければヤバイ。

「流花、ギブアップしろ!」

「ああああーーーいやーーーだ、だれが・・ああ・・・・お兄ちゃんなんかに・・・・・ああ・・・・」
流花は、なんとか抵抗しようとする。

「流花ちゃん・・・お兄さん・・・」

弥生ちゃんが呟くのが聞こえた。

綾乃ちゃんは、固唾をのんで見守っている。

「ああーー・・ああん・・・ああーー!!」

しかし、返すことができない。

「流花ーーーーー!!!」

さらに、引っぱるぼく!

「ああああああああーーーーーー」

さっきよりも、角度がきつくなった。

これでも、ギブしないのか!?

「ぐぐぐぐぐう〜・・・・・・い・・・や・・ああ・・・・・・・・・・・・・・・・・」

流花の抵抗する力が、一気に消えた・・・そして、悲鳴も・・・・・

「流花!?」

ぼくは、キャメルクラッチを解いてやる。

すると、流花はそのままバタリと上体が倒れる。

そして流花は動かない・・・

気を失ったんだ・・・・・

ぼくも、座った状態から横に、コロンと倒れた。

疲労が一気に出て、動けない。

でも・・・

ついに・・・・ぼくは流花を・・・最強の妹を倒したんだ・・・・・


堀部朔夜
(28分48秒 KO)
(キャメルクラッチ)
堀部流花×



11 これだけはあげないもん!



「おいっ流花っ!しっかりしろ!」

ぼくは、流花に道場で学んだ整体術で活を入れる。

「う・・・・・・」

流花が目を覚ました。

「流花!」

「流花ちゃん・・・」

「流花ちゃん、大丈夫?」

綾乃ちゃんと弥生ちゃんも、流花に声をかける。

「うん?・・・・あ・・・お兄ちゃん・・・綾乃ちゃん・・・・弥生ちゃん・・・・・」

流花は目がさめたばかりなので、ボーっとしている。

そして、周りを見回した後、僕の顔を見上げて、

「そうか・・・流花・・お兄ちゃんに負けちゃったんだね・・・」

流花が残念そうに言った。

「うん・・・・でも、流花ちゃんすごかったよ!、お兄さんをあそこまで追い詰めるなんて」

「そうだよ、流花ちゃん次の私達の防衛戦もがんばろうね」

と、弥生ちゃんと綾乃ちゃん。

「そうか・・次は流花たちがベルトをまもる番だね」

と、ニコッと微笑みながら、ゆっくりと立ち上がる。

「おい、流花・・たてるか?」

と、ぼく。

「うん、大丈夫だよ・・・・・ところでお兄ちゃん・・」

「どうした?」

「ごめんね・・・お兄ちゃんを椅子でぶって・・・・痛かったでしょ・・」

と、申し訳なさそうに言ってくる。

「ぼくなら、大丈夫だよ・・試合なんだから・・・ぼくは自分のことよりも流花の方が心配だよ」

そう言ってあげた。

すると、

「お兄ちゃん!」

流花がボクに抱きついてきた。

そして、ぼくの胸に顔を埋めて、肩を振るわせる。

「流花・・・・」

ぼくは、しっかりと流花を抱きしめてあげる。

このとき、綾乃ちゃんも弥生ちゃんも、怒ってはいなかった。

今回は、流花に譲るつもりらしい。

「ぼくがベルトを死守したところで、次は流花と綾乃ちゃんのベルトをもらわないとね」

ぼくは、流花をだきしめて頭を撫でながら、そう言った。

すると流花も顔をあげ、

「やだもん!、こればっかりはあげないもん!」

涙を浮かべながらも、笑顔でそう言った。

「うん、ぼくは誰の挑戦でも受けるよ」

ぼくは、流花だけでなく綾乃ちゃんと弥生ちゃんにもそう言った。 


―完―


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