第1話
作:薊(超芝村的制作委員会)
今日は、ぼくと幼なじみの綾乃ちゃんと妹の流花と一緒に、プロレスのビデオを見ている。
これは、綾乃ちゃんが父親が最近購入した、女子プロレスのビデオだ。
ぼくも、綾乃ちゃんも流花も食い入るように画面を見ている。
画面では、空中技やスープレックス系など派手な技が炸裂して、そういった技が、決まるたびにぼく達は拍手や声援をだす。
やっぱり、いつ見てもプロレスはいいな〜
「ねえ、朔夜くん・流花ちゃん・・私達でプロレスのサークルをやらない?」
ビデオを見終わった後、綾乃ちゃんがぼくたちにそう言い出した。
「え?、それってどういうの?」
と、流花の問いに綾乃ちゃんは、
「私達で、試合をするの」
そう言い出した。
「プロレスごっこだったら、よくやるじゃないか」
「今度は、本気で」
「ええっ!?」
ぼくは驚いた。
「それって、それっていままでのプロレスごっことは違うの?」
とぼく。
「当然よ、いままでのはただのじゃれあい・・・これからは、本気で勝負するのよ」
こぶしを握って、力説する綾乃ちゃん。
それに流花が、
「うわー、おもしろそ〜」
手を叩いて賛成した。
そして、ぼくの方を向き、
「お兄ちゃん、やろうよっ!」
と、言ってきた。
「え?・・ぼくも?」
「当然でしょ、朔夜くんがやんないと私と流花ちゃんだけになっちゃうもん」
と綾乃ちゃん。
どうしようか・・・・。
本気のプロレスか・・・。
たしかに、いままでプロレスごっこといっても、技の掛け合いって感じだったし。
真剣勝負なんてやった事無い。
・・・・・・・。
流花はともかく、綾乃ちゃんの頼みだし・・・それに、綾乃ちゃんとプロレスするのは、好きだし・・・
・・・・。
やってみたいな・・・・
「うん、いいよ。やろう」
ぼくは、その申し出をひきうけた。
「じゃあ、決まりね」
綾乃ちゃんは、ニッコリと微笑む。
「やったー」
と、喜ぶ流花。
「で、試合っていつやるの?」
とぼくが訊くと。
「来週の日曜日でどう?、みんなそれぞれでトレーニングやって、日曜日に試合するの」
一週間か・・・まあいいか。
その間、しっかりとトレーニングをしようっと。
「綾乃ちゃん・・・場所は?」
と、流花。
「う〜ん・・・そうねぇ・・・いつもどうり、朔夜くんの部屋でいいんじゃない?」
「でも、それじゃあ本気でできないよ」
「こっそり、うち等の中学校の体育館に忍び込むのは?」
とぼく。
あそこだったら、エアーマットもあるから思いっきりできる。
けど、
「だめよ、バレー部やバスケ部が練習やっているから」
「あ、そうか〜」
となるとどうしよう。
「だったら、流花の通ってる小学校は?」
と流花。
そうか・・その手があったか。
あそこだったら、誰か来るなんてことはないな。
「だいじょうぶなの?」
「うん、以前にも放課後にこっそりトイレの窓のカギを開けておいて、休日に忍び込んだ事あるんだよ」
と流花。
「じゃあ、そこで決定ね」
場所も、日にちも決定した。
「うん、それとさ・・もう一人つれてきていい?、流花の友達で弥生ちゃんって娘がいるんだけれど、その娘も、プロレス好きなの」
「別に構わないよ」
と、ぼく。
「ええ、仲間は一人でも多いほうがいいからね」
と綾乃ちゃん。
あとは、試合日を待つのみかな?
「あとは、また当日に説明するね・・それと、水着を忘れないでね」
「うん、わかった」
それからぼく達は、一週間の間各自で練習をした。
マラソン・打撃の練習・友達などの協力を得て投げ技の練習などをやった。
日曜が、旗揚げ戦であり第一回めの試合だからぼくも、流花も綾乃ちゃんも気合が入り、一緒にあそんでいない。
ちょっと寂しいけれど、日曜までの我慢だ。
そして、ぼくは必ず勝つ。
日曜日になった。
朝の十時に、僕達は学校の校庭に集合することになっている。
流花は、友達の家に行ってから行くということで、九時に家を出た。
ぼくは、九時四十五分に小学校に到着した。
他のみんなは、まだ来ていない。
ぼくは、バッグを置いて花壇に腰掛ける。
来るまで、ここで待つことにした。
五分後に、流花とその友達・綾乃ちゃんが来た。
「お待たせっ」
と綾乃ちゃん。
「これで、全員揃ったね」
ぼくは、三人を見回す。
全員が、同じようにバッグを持っている。
「そうだ、紹介するね・・・流花の同じクラスの弥生ちゃん」
流花が、友人を紹介する。
「はじめして、川元弥生です・・流花ちゃんと同じこの学校の五年生です」
と弥生ちゃんが、自己紹介をする。
ストレートな長髪が似合う、なかなかかわいい子だ。
「ぼくは、流花の兄の朔夜、中学一年生・・よろしく」
ぼくも、自己紹介をする。
「私は、成瀬綾乃・・朔夜くんと同じ中学一年生・・よろしくね」
と、綾乃ちゃん。
「じゃあ、行こう」
と流花。
僕達は、体育館の方へ歩き出した。
体育館のトイレの前に来ると、ぼくは窓ガラスを開ける。
そこから、ぼくは中に進入する。
トイレから出ると、体育館の入り口のカギを開ける。
そこから、他の三人が入ってくる。
そして、ぼく達は用具室に入る。
「ここでやるんですか?」
と弥生ちゃん。
「そうだよ」
「どうせだったら、エアーマット体育館内に出しませんか?」
「これを?」
「はい、そのほうが広くて思いっきりできるじゃないですか」
と弥生ちゃん。
「でも、大変だよ」
「いいじゃない、そうしよう」
「流花も賛成」
と、綾乃ちゃんと流花。
「じゃあ、みんなでマットを出そう」
ぼくたちは、四人でマットを出し始めた。
エアーマットは大きくて重い為、二枚出すのに十分以上かかった。
ようやく出し終わると、ぼくたちは水着に着替える為ぼくはトイレの方へ行き、綾乃ちゃんたちは用具室へと入る。
ぼくは、学校指定の短パン式水着に着替える。
着替え終わると、ぼくは鏡の前に立って何度か掌打を繰り出す。
去年から始めた骨法・・いつもは使わないけれど、今日は使うかもしれない・・。
「さてと、いこうか・・・」
ぼくはトイレから出ると、マット・・・もとい、リングへと進む。
そして、一番最初にリングインして、三人が出てくる用具室のドアをじっと見つめた。
二分後、用具室の扉が開いた。
そして、流花・弥生ちゃん・綾乃ちゃんの順に出てきた。
三人とも、スクール水着を着ている。
その順番は、不思議とプロポーションの良い順になっているのは、気のせいかな?
順番どうりに、まずは流花がリングイン。
流花は、リングの中央で、
「わーいっ」
喜びながら、周りに両手で大きく手を振る。
誰も居ない観客に手を振っているんだな・・・・・。
次は、弥生ちゃん。
「押忍っ」
リングインする前に、腕を交差して開く、空手式の礼をする。
そして、リングの中央でも四方に同じように空手式の礼をする。
最後は、綾乃ちゃん。
綾乃ちゃんは、リングインする前に一礼しただけだった。
これで、選手は全員リングインした。
「では、これより・・プロレスサークル・・・・えーと・・・」
綾乃ちゃんが、挨拶の途中で詰まった。
そういえば、サークル名を決めていなかった。
「そういえば、決まっていなかったんですよね・・・」
と弥生ちゃん。
「何にする?」
と流花。
ぼくは、
「全員の頭文字を使ってみれば・・」
と、提案した。
「えーと、A・S・R・Y・・・Uをいれて、SYURA(シュラ)でどう?」
と、綾乃ちゃん。
「まあ・・・それでいいと思うよ」
「私も、異議ないです」
「流花も賛成」
「じゃあ、・・・これより、SYURAの旗上げを宣言します」
綾乃ちゃんが、改めて言う。
「わあ〜〜〜」
ぼくたちは、三人で拍手。
「でわ、早速第一試合・・・・」
「第一試合・・・」
と、流花。
「・・・・・これからジャンケンで決めます」
綾乃ちゃんの一言で、僕達は三人ともその場で崩れ落ちた。
「綾乃ちゃん・・・それは、ないでしょう・・・・」
とぼく。
「二度もはずしてくれたよね・・・・・」
と流花。
綾乃ちゃんは、両手を合掌し、
「ごめんなさい・・・勝手に組み合わせしたら怒るかな〜って・・・」
と言った。
・・・・・・ハア?。
「とりあえず、決めませんか?」
弥生ちゃんが、苦笑いしながら言う。
「そうだよ、早く決めよう」
と流花。
ぼく達は、グーとパーだけのジャンケンをして、同じのを出した者が試合をすることになった。
その結果・・・・
「流花と綾乃ちゃん・・お兄ちゃんと弥生ちゃんというカードになったね」
そうなった。
「最初は、どちらから?」
とぼく。
「同じく、ジャンケンで決めましょう」
と綾乃ちゃん。
ぼくと綾乃ちゃんがジャンケンをすることになった。
結果ぼくが勝ち、第一試合は 「堀部朔夜 VS 川元弥生」に決まった。
リングの中央で、ぼくと弥生ちゃんは向かい合った。
ジャージを着た綾乃ちゃんがレフリーを務め、流花はステージの下からパイプイスを出して座っている。
同じようにジャージを着ているけど、セコンドではなくて観客のつもりらしい。
「弥生ちゃーん、がんばってー」
流花が、弥生ちゃんに声援を送る。
弥生ちゃんは、手を上げてそれに応える。
「弥生ちゃん、遠慮はいらないよ・・空手の技も使ってかまわないよ」
ぼくは、弥生ちゃんに手を差し出す。
「はい、全力で闘わせてもらいます・・・お兄さんも、骨法の技を遠慮なく使ってください」
と弥生ちゃんも握手に応じた。
「それでは、いいわね・・・・・・ファイッ!」
綾乃ちゃんの掛け声と共に、試合が始まった。
ぼく達は同時に動き、ガシッと組み合った。
弥生ちゃんの力は思った以上に強く、ぼくと同等ぐらいだった。
すると、弥生ちゃんがぼくを引きつけ、膝蹴りを出そうとしてきた。
ぼくは、弥生ちゃんの体を崩して、膝けりを回避。
しかし、
|
「甘いです」
弥生ちゃんの、ヘッドロックが決まった。
「うわっ」
ぼくの顔が締め付けられる。
弥生ちゃんの小さな胸の感触を楽しみたいけど、そうも言ってられない。 |
ぼくは、弥生ちゃんの腰に腕を回すと、そのまま持ち上げてバックドロップ!
「きゃっ」
見事に炸裂。
ぼくは、弥生ちゃんの腕をつかんで引き起こすと、組み付いて裏投げ!
「きゃあっ」
弥生ちゃん、ダウン。
「弥生ちゃ〜ん、がんばれ〜」
流花が、弥生ちゃんに声援を送る。
(悪いけど、さっさと終わらせるよ!)
ぼくは、弥生ちゃんの左足を掴むと、弥生ちゃんをうつ伏せにする。
「ええっ!?・・なに!?」
弥生ちゃんが悲鳴のような声を挙げる。
ぼくは弥生ちゃんの背中にすわり、そのまま彼女の足を後方へ絞り上げる。
片逆エビ固め!
「きゃあああああああっ!!」
「ギブアップ?」
レフリーの綾乃ちゃんが聞く。
「ノォー、・・・」
まだ耐えるつもりだ。
ぼくは、もう少し力を込める。
「ぐうう〜」
弥生ちゃんは、唸り声を上げながら、腕立てのようなしぐさをする。
そして、強引に片逆エビ固めをはずした。
(しまった)
そして、弥生ちゃんは少しふらつきながらも起き上がる。
「やりますね・・・」
そう言って、立ち上がったぼくに右ローキックを放ってきた。
ぼくは、ひざを上げてガード。
すると今度は、ハイキック。
(いい蹴りをしているな)
そう思いながらも、ぼくはしっかりガードをする。
そして、弥生ちゃんが足を下ろした瞬間に、ぼくは間合いを詰めて彼女のおでこに軽く掌底を当てた。
「きゃん」
かわいい悲鳴をあげる弥生ちゃんに、ぼくはタックルを仕掛ける。
しかし、ぼくが弥生ちゃんの両足を掴んだ瞬間、弥生ちゃんは片足を引いてぼくの首に腕を巻きつける。
そして、そのまま強引に後ろへもっていく。
(DDTだっ!)
そう思ったときには、ぼくは投げられていた。
「うわあ」
ぼくは、そのままダウン。
「いくわよ〜」
弥生ちゃんの反撃が始まった。
弥生ちゃんは、起き上がると助走をつけるために間合いをとり、ダッシュ。
そして、ジャンピングエルボードロップ!
ぼくの水月に決まる。
「ぐぼおお・・」
普段、鍛えているとはいえ・・・結構効いた。
「いいぞー、がんばれ弥生ちゃ〜ん」
流花の声援が飛んだ。
ピンチの時だと、それがやたら腹立つ・・・。
そして、ぼくを一回踏みつけると、腕を取って起き上がらされた。
弥生ちゃんは、さっきと同じに間合いをとって、ダッシュ。
「必殺! フライング・ニールキーック!」
弥生ちゃんの、フライング・ニールキックが見事に炸裂!
「ぐわあああっ」
ぼくは、たまらずダウン。
さすが空手少女・・・威力はかなりのものだ。
「フォール」
すかさず、体固めに入る弥生ちゃん。
本来なら、うれしい状態だけど・・・・今はうれしくない。
|
「ワン・・・」
綾乃ちゃんのカウントが入る。
ぼくはヘッドロックの時と同じように、弥生ちゃんの小さな胸の感触を味わいたいけど、
「ツ・・」
カウント2が入る直前で、ブリッジ。
弥生ちゃんは、残念そうな表情で起き上がった。
「なかなかやるね、弥生ちゃん」
「お兄さんも・・」
ぼく達は、軽く微笑む。
そして、
「ハッ」
ぼくは、掌底を放つ。
弥生ちゃんが、それを弾く。
ぼくは、さらに掌底を連打。
彼女は、弾ききれずに両腕を前にしてガードの態勢に入った。
そこへ、すかさずバックに回り込み、弥生ちゃんの腰に腕を回し抱え上げる。
「おりゃっ」
再び、バックドロップが弥生ちゃんに決まる。
「きゃああっ」
弥生ちゃんダウン。
まだまだ。
さっきの弥生ちゃんと同じように、ぼくは彼女の腕を掴んで起き上がらせる。
そして、弥生ちゃんの体を曲げて持ち上げる。
パイルドライバーの態勢だ。
ぼくは、膝を曲げて弥生ちゃんの頭をマットに食い込ませた。
「きゃああっー」
弥生ちゃんは、完全にダウン。
「や・よ・いっ、や・よ・いっ」
流花が弥生コールをする。
しかし弥生ちゃんも、もう終わりだ。
ここで、フォールもしくはサブミッションにもっていこうかと考えたが、あと一発なにか喰らわす事にした。
そして、髪を掴んで弥生ちゃんを引き起こそうとした時、弥生ちゃんの正拳がぼくの水月に炸裂した!
「ぐぼおおおおっ!」
ぼくは、水月を押えそのまま前にダウンしてしまった。
「ワン・・・ツー・・・スリー・・・フォー・・・」
綾乃ちゃんのカウントが入る。
このまま、逆転KO負けなんて冗談じゃない。
ぼくは、なんとか根性で起き上がった。
が起き上がると、弥生ちゃんは両拳を前にするフルコン系の構えを取る。
それに対し、ぼくは顔の前で開いた手を前に構える、骨法の構え。
こうなったら、もう少し本気になるしかない。
弥生ちゃんが動いた。
それと同時に、ぼくはマットの上を転がって、遠心力で弥生ちゃんに踵を叩きつける!
ぼくの、一番の得意技「浴びせ蹴り」だ。
「きゃっ!」
弥生ちゃんはガードをしたけれど、ぼくの浴びせ蹴りの威力に耐えきれず、後方へ倒れた。
けれど、すぐにまた起き上がる。
「今のは・・かなり効きましたっ!」
そう言って、右上段廻し蹴りを放ってきた。
(チャンス!)
ぼくは、その足を左手でキャッチして右手を弥生ちゃんの首に廻す。
「あああ、あれはっ!?」
流花が叫ぶ。
そう・・・・ぼくの必殺技。
「くらえっ!、キャプチュードッ!!」
ぼくは、そのまま後ろにスープレックスで投げた。
「きゃあああああああーーーーーー」
キャプチュードが、弥生ちゃんにモロに炸裂した!
弥生ちゃん、完全にダウン。
そして、そのまま弥生ちゃんの片足を抱えてフォールに入る。
「フォ・・フォール・・・」
綾乃ちゃんのカウントが入る。
「ワン・・・ツー・・・ス」
そこで、弥生ちゃんは右手を上げた。
2・99か・・・・・・
あと、少しだったのに・・・
「やるね・・・弥生ちゃん・・・」
ぼくは、上体を起こしながら言うとフラフラと立ち上がった。
「ハア・ハア・ハア・・・・お兄さんも・・・」
弥生ちゃんは、かなり息が切れていた。
恐らく、弥生ちゃんは限界にきている・・・・。
当然ぼくも限界じゃないけど、かなりきている・・・。
早くきめないと・・・
「けど・・・絶対に負けませんっ」
弥生ちゃんは、強引に立ち上がるとドロップキックを放ってきた。
ぼくの胸板に、見事にヒット。
「どわああああっ」
ぼくは、たまらずダウン。
が、弥生ちゃんもマットに倒れたままだ。
今が、チャンスだ。
ぼくは、悲鳴を挙げる体を、渾身の力で起き上がらせる。
そして、フラフラと倒れたままの弥生ちゃんに近ずくと、正拳を警戒しながら起き上がらせる。
「ハアハアハアハア・・・・」
弥生ちゃんは、動けない。
ぼくは、そんな弥生ちゃんを抱きしめ・・・・もとい、両腕で抱え上げ、ベアハッグ・・さば折へ。
「きゃああああっ!」
弥生ちゃんの悲鳴が挙がった。
ぼくは両腕を廻した弥生ちゃんの胴を、渾身の力で締め上げる。
「ああ〜、お兄ちゃんのHっ!!」
流花がブーイングをする。
たしかに・・女の子にかけるには、うれしい・・・じゃない、Hな技だけどそんな事言ってられない。
これで、ギブアップを奪えなければ、ぼくも反撃するのは無理だろうから・・・。
|
「あああああっー」
弥生ちゃんが、足をバタバタさせる。
「ギブアップ?」
綾乃ちゃんが聞くが、
「あああー、ノ・・ノーッ!!」
こらえる。
(ならば)
ぼくは、腕にさらに力を込めると、
「弥生ちゃん、降参してくれ!」
と、叫んだ。
「や・よ・いっ・・や・よ・いっ」
流花の弥生コール。
たのむ、弥生ちゃん・・・
「ギ・・ギブアップ・・・・」
|
弥生ちゃんが涙を浮かべ、ついにギブアップをした・・・・・。
「ストップ・ストップ」
と綾乃ちゃん。
ぼくは、力を抜いて弥生ちゃんを下ろしてやる。
すると弥生ちゃんは、大きく息を吸って吐き、その場に崩れ落ちた。
「弥生ちゃん」
「弥生ちゃん、大丈夫?」
綾乃ちゃんと、流花が駆け寄る。
「ちょっとまって」
ぼくは二人をどかし、弥生ちゃんに活を入れた。
弥生ちゃんは、ウッと小さくうめいた後、普通に呼吸をし始めた。
しばらくして、弥生ちゃんが立ち上がり、
「お兄さん・・・強いですね」
微笑みながらそう言った。
「弥生ちゃんも強かったよ・・・どっちが勝ってもおかしくはなかったよ」
とぼく。
たしかに、やばかった。
つぎやって、勝てるという保証はないな。
「次は、私が勝ちます・・・・だから・・」
弥生ちゃんが、頬を赤くしてうつむく。
「また、闘ってくださいね」
そう言って、ぼくの胸板におでこをくっつける。
「弥生ちゃん・・・・」
ぼくは弥生ちゃんと同様、顔を赤くしながらも、さっきとは違ってソッと抱きしめた。
だけど、次の瞬間。
「どさくさにまぎれて、なにやってんだーーー!!」
綾乃ちゃんと流花のチョップが、ぼくの頭に炸裂した。
|
○堀部朔夜
|
|
(15分42秒 ギブアップ)
(ベアハッグ)
|
|
川元弥生×
|
ぼくと弥生ちゃんの試合が終わり、ぼくたちはジャージに着替えた。
そして、次の対戦カ−ドは「成瀬綾乃VS堀部流花」
今、この二人はウォ−ミングアップをしている。
柔道をやっている綾乃ちゃんと、体操をやっている流花・・どっちが勝つだろう。
ぼくとしては、綾乃ちゃんに勝ってもらいたい。
決勝で綾乃ちゃんと闘いたい。
「それじゃあ、私がレフリーを務めさせて頂きます」
と、弥生ちゃん。
「弥生ちゃん、ぼくがやるよ」
「大丈夫です、お兄さんはこの次試合ですから、少しでも体力を回復しておいてください」
と、弥生ちゃん。
「いいの?・・悪いね・・」
「はい・・・だから、お兄さん・・・絶対にチャンピオンになってくださいね」
弥生ちゃんが、頬を赤くして言う。
「ありがとう」
「朔夜くん、私のセコンドについてくれない?」
いきなり、後ろから綾乃ちゃんが言ってきた。
ぼくが振り返ると、綾乃ちゃんは手を腰に当てて、機嫌悪い顔をしている。
・・・これは、言う通りにしておいた方がいいな・・・。
「うん、いいよ」
ぼくは、作った笑顔で承知する。
嫌な顔しようものなら、どんな目にあうかわからないからな〜。
でも、嫌じゃないけどね。
「ねぇ、ちょっといい?」
と、流花。
「流花、コーナーポストがあった方がいいな〜って思うんだけど・・・」
「コーナーポスト?」
ぼくは聞き返す。
「うん」
そうか・・・流花は空中殺法やるつもりか・・・・
「でも流花ちゃん、コーナーポストになる物なんかないよ」
と、弥生ちゃん。
「あるよ、跳び箱を使うの」
「跳び箱?」
ぼくらは、一斉に聞き返す。
「あ、そうか・・・つかえるな・・」
「綾乃さん、どうします?」
「いいわよ、早速用意しましょ」
と、綾乃ちゃん。
ぼく達は、四人で八段の跳び箱を運び、格コーナーに置いた。
これで、いいのだけど・・・・流花ももう少し早く気付いてほしかったな・・・。
そうすれば、ぼくと弥生ちゃんの試合のときも、また別の闘い方ができたのに・・・
でも、決勝でつかえるからいいか・・・。
「それでは、両者リングへ」
と、弥生ちゃん。
綾乃ちゃんと流花は、ジャージのズボンだけ脱いでリングに上がる。
そして、各コーナーへ。
「綾乃ちゃん、絶対に勝ってね」
と、ぼく。
「うん、決勝で闘おうね」
そう言って、ぼくにウィンクした。
そのときの表情は、とてもかわいくて・・・ぼくは、おもわずドキッとした。
「う・・うん」
ぼくは、少し顔を赤くして頷いた。
「赤コーナー、成瀬・綾〜乃〜」
弥生ちゃんが、リングアナウンスをした。
そして、綾乃ちゃんがジャージをバッと脱ぎ捨てた。
「綾乃ちゃん、ファイトー」
ぼくは、綾乃ちゃんに声援を送る。
綾乃ちゃんは、笑顔で応えてくれた。
「続きまして、青コーナー、堀部・流〜花〜」
同じように、流花もジャージを脱ぎ捨てた。
そして、二人は中央へ行く。
向かい合う流花と綾乃ちゃん。
綾乃ちゃんに比べ、流花の胸がいかに洗濯板なのかが一目でわかった。
「流花ちゃん、今日から手加減なしよ」
「大丈夫だよ、流花負けないから」
そう言って、二人は握手。
「よろしいですか?・・・それでは・・・・・・ファイッ!」
弥生ちゃんが、試合開始を合図した。
「えいっ」
流花が、いきなりローキックを繰り出した。
綾乃ちゃんの左の腿に、ビシッときまる。
しかも、空手の蹴り方だ。
「いたっ」
綾乃ちゃんは、ちょっとクラッときた。
そして、流花は水平ドロップキック!
これも、綾乃ちゃんの胸にヒット。
「きゃあ」
綾乃ちゃんダウン。
「このぉ、このぉ」
流花は、隙を与えずストンピングの連打。
まずは、打撃でダメージを与えるつもりだ。
綾乃ちゃんは、両腕でガードしようとする。
「きゃっ、いたい、痛いってば!」
「当たり前でしょ、蹴ってんだもん」
流花は、さらに蹴り続ける。
「綾乃ちゃん、逃げろ」
と、ぼく。
綾乃ちゃんは、転がって逃げる。
それを追う、流花。
が、ふたたび流花が蹴る前に、綾乃ちゃんは起き上がる。
「よくもやったわね〜〜」
顔を真っ赤にして怒った綾乃ちゃんは、流花に組み付いてボディスラム!
流花が、マットに叩きつけられた。
「キャンッ!」
子犬みたいな悲鳴を挙げる、流花。
(やった!)
ぼくは、小さくガッツポーズ。
さあ、これから綾乃ちゃんの反撃が始まるか?
「まだまだ行くわよー」
綾乃ちゃんは、流花を起き上がらせると渾身の払腰!
「きゃあ!」
またも、マットに叩きつけられる流花。
が、流花は素早く転がって起き上がると、綾乃ちゃんから間合いを取る。
相変わらず、すばしっこいヤツだ
「綾乃ちゃん、流花に間合いを取らせちゃダメだ、組んでいくんだ」
ぼくは、綾乃ちゃんにアドバイスする。
綾乃ちゃんは、コクリと頷く。
すると、流花がダッと綾乃ちゃんにダッシュしてきた。
「なんのっ!」
綾乃ちゃんも、流花に向かってダッシュ。
左腕で、ラリアットをするつもりだ。
だが、
「えーいっ!」
今度は、ヒップ・アタックを仕掛けてきた。
流花のおしりが、綾乃ちゃんの顔面に炸裂した!
「キャッ・・」
短い悲鳴と共に、フラフラとよろける綾乃ちゃん。
そこへ、流花が綾乃ちゃんの頭を肩越しに担ぐと・・・
「えいっ!」
フライングメイヤーで、綾乃ちゃんを投げた。
「きゃっ」
投げられた綾乃ちゃんは、仰向けにダウン。
そして流花は、綾乃ちゃんを丁字座りにして、腕を綾乃ちゃんの顔面に巻きつける。
フェイスロックだ!
「あああっーーー」
綾乃ちゃんの悲鳴が挙がる!
「ギブアップ?」
と、弥生ちゃん。
「ノ・・ノオ・・・」
「さあ、ギブしちゃいなよ綾乃ちゃん」
と、流花。
「綾乃ちゃん、なんとか流花の腕をずらすんだ!」
と、ぼく。
すると、流花はそうはさせじと、絞める右腕に力を込める。
「ああああーーーー」
さらに悲鳴を挙げる、綾乃ちゃん。
だが、流花の腕に手がかかっている。
そして、強引に腕をずらす。
綾乃ちゃんの方が、腕の力が強いから当然だ。
流花の腕がはずれると、綾乃ちゃんはその腕を掴んで、流花を担ぐ。
一本背負いの体制だ。
「え・・え?・・」
「いけぇ、綾乃ちゃん」
ぼくは叫んだ。
「とりゃああっ!」
綾乃ちゃんの、一本背負いが流花に炸裂!
「きゃああああっ」
「流花ちゃん、よくもやったわね〜」
綾乃ちゃんは、そのまま腕ひしぎ逆十字固めに持っていった!
「あっ!・・やだ・・・」
流花は、左手で右手を掴んでこらえる。
「こぉの〜〜」
「むむむむ〜」
綾乃ちゃんが引っ張り、流花がこらえている。
でも、このままだと綾乃ちゃんの力に負けて、腕ひしぎ逆十字固めが決まるな。
ところが、綾乃ちゃんは掴んだ手を放した。
「あれぇ?」
ちょっと驚いている、流花。
綾乃ちゃんは、流花の腕を掴んで起こす。
そして、組みつこうとするが・・・流花はその腕をかわして、綾乃ちゃんのバックに回り込んだ。
「えっ!?」
綾乃ちゃんが、「しまった」というような表情になる。
|
そこへ、流花は綾乃ちゃんの頭に手をまわし、
「ふふ〜んだ、いくよ〜!」
助走をつけ、ジャンプして綾乃ちゃんの顔をマットに叩きつける。
フェイスクラッシャー!
「きゃあああっ」
まともに喰らった、綾乃ちゃん。
|
くそ、またしても流花にやられた・・・・やっぱり、スピードや柔軟性では流花のほうが上だ・・・。
どうする・・・。
「綾乃ちゃん、動きが遅いよ!」
流花は、うつぶせに倒れた綾乃ちゃんに馬乗りになり、綾乃ちゃんの顎を自分の身体の方に引っ張る。
キャメルクラッチだ!
「キャーーーーーーっ」
再び綾乃ちゃんの悲鳴が、体育館に響き渡る。
「綾乃ちゃん、がんばれーーー」
ぼくは、綾乃ちゃんに向かって叫ぶ。
綾乃ちゃんは、なんとか振りほどこうとするけど、急角度にしなっている状態では難しい・・・
いや・・・無理かもしれない・・・
「ギブアップ?」
と、弥生ちゃん。
「ノ・・・ノー・・・・」
綾乃ちゃんは、目に涙を浮かべながら言う。
「しぶといな〜」
流花は、そういうとキャメルクラッチを外して、立ち上がった。
他に何かやる気だ。
「ハアハアハア・・・」
綾乃ちゃんは、うつ伏せでマットに顔を沈めたまま、息を切らしている。
綾乃ちゃんは、完全に流花の術中にはまっている・・・・
まさか、流花がこんなに強いなんて・・・・
「それじゃあ、こんどは・・・」
流花は、綾乃ちゃんの長い髪を掴んで、途中まで引き起こすと、跳び箱・・・・いや、コーナーポストに飛び乗った。
いよいよ出す気だ・・・得意の空中殺法・・・今の綾乃ちゃんが、あれを喰らったら・・・・・
「綾乃ちゃん、離れろっ!」
ぼくは、綾乃ちゃんに叫んだ。
しかし、綾乃ちゃんは立っているのが精一杯という感じだ・・・・・
そしてそこへ、
「フライング・ショルダー・タックルッ!」
流花のフライング、ショルダータックルが綾乃ちゃんに炸裂した!
「きゃああああーーー」
綾乃ちゃんは、派手にダウンした。
ダウンした綾乃ちゃんは動けない・・・・ここでフォールされたらもう、終わりだ。
だけど流花はフォールには行かず、綾乃ちゃんの足を掴んでマットの中央へ持っていく。
「くぅ・・・あ・・」
綾乃ちゃんは引きずられるままだ・・・・
流花のヤツ、どうする気だ?
「とどめいくよ〜」
再び、コーナーポストに飛び乗る。
・・・・・・・まさか!?
「トォーッ」
流花が、華麗に宙を舞う。
ムーンサルトプレスだ!
流花の全体重をかけた、無重力爆弾が綾乃ちゃんに、これでもかと炸裂した!
「きゃああああああああああああああああああああああっーーーーーーーーーーーー」
綾乃ちゃんは、絶叫した。
「綾乃ちゃあああああああああんっ!!」
ぼくも、悲痛な叫びをあげた。
流花は、そのままフォール。
さすがの綾乃ちゃんも、もううだめだろう・・・・・
これを返す力は、もう残っていないはず・・・・・
(ちくしょう・・・決勝で、綾乃ちゃんと闘いたかった・・・・)
「綾乃ちゃんっ、決勝で闘おうって約束したでしょっ!」
ぼくは、綾乃ちゃんに叫ぶ。
綾乃ちゃんの表情に、ピクリと変化があった。
そこへ、弥生ちゃんがカウントを取ろうとする。
「ワンッ・・」
「がんばれ、綾乃ちゃんっ!」
「ツー・・」
綾乃ちゃんは、動けない・・・・・
もうだめか・・・・
「ス・・・・」
その時、綾乃ちゃんの肩があがった。
弥生ちゃんの、手が止まる。
カウント2・99か・・・・・
「綾乃ちゃん・・・・」
ぼくは、安堵のため息を吐く。
「ええ〜、今のはいってないの〜?」
流花は、不満のようだ。
「いいもん、だったら・・・・」
流花は、綾乃ちゃんの腕を掴んで、起こそうとする・・・・
が、綾乃ちゃんが流花の両足を掴んで、担ぎ上げた。
「ええ?・・・」
「よくもさんざん、やってくれたわね〜」
綾乃ちゃんは、涙で目を赤くしながら言う。
そして、そのまま後ろへ落とす。
「きゃあ」
ボテンと落ちる、流花。
「流花ちゃん、悪いけど勝つのは私よ」
そして、綾乃ちゃんは流花を起こして、抱え挙げる。
ボディスラムだ!
綾乃ちゃんは、流花をマットに叩きつける。
「きゃああっ」
これは、結構効いたらしい。
綾乃ちゃんは、まだまだ怒りが収まらないらしく、流花の両足を抱えた。
そして、そのまま流花を振り回した。
ジャイアントスイング!
「きゃあ〜〜〜ああ〜〜〜ああ〜〜〜ああ〜〜」
振り回される流花。
「いいぞ〜、綾乃ちゃん!」
と、ぼく。
今度こそ、綾乃ちゃんの反撃だ!
「そぉ〜れえ〜」
綾乃ちゃんが十回目で、流花を放り投げた!
「あああああああっ〜〜〜〜〜」
またも、マットに叩きつけられる流花。
流花ダウン。
だけど、綾乃ちゃんも目が回ったようだ・・・・
「綾乃ちゃん、たたみかけろー」
と、ぼく。
綾乃ちゃんは、フラフラと流花に近づき、髪をつかんで引き起こす。
「痛い、いたい・・」
「流花ちゃんもさっき、わたしにやったでしょ!」
綾乃ちゃんは、流花の体をくの字に曲げて、胴体に両手を回す。
これは・・・
「くらいなさいっ」
流花を持ち上げた!
パワーボムの体制だ!
「あ・・・いやあ」
嫌がる流花を、綾乃ちゃんはボスンッとマット投げ捨てた。
「ぐうううう・・」
うめく、流花。
「まだ、楽にはさせてあげないよ」
そう言って、流花をよいしょと持ち上げると、コーナーポストに座らせると、
綾乃ちゃんは、左の腕を流花の首に巻きつけて、右手で流花の水着を掴んだ。
「これは!」
ぼくは、これから出す技に気付いて、驚いた。
「行っくぞー」
雪崩式ブレーンバスター炸裂!!!
「きゃああああああああああっーーーーーー!!!!!」
マットに叩きつけられた流花は、完全にダウン!
打たれ弱い流花には、かなり効いただろう。
「綾乃ちゃん、とどめだ!」
「オッケー」
綾乃ちゃんは、笑顔で応える。
そして、半分ノビている流花を起こすと、両腕で流花の胴体を締め上げた!
ぼくが弥生ちゃんにやったときと同じ、ベアハッグだ!
「ギャアアアアア」
綾乃ちゃんに、渾身の力で締め上げられた流花は、にぶい悲鳴を挙げた。
「流花ちゃん、ギブ?」
弥生ちゃんが、聞く。
「ギブ・ギブ・・・」
流花は、即座にギブアップ。
「ハイ、ストップ・ストップ」
弥生ちゃんが割ってはいる。
綾乃ちゃんは、力を抜いて流花をおろしてあげた。
綾乃ちゃんの、勝利だ
「やったね、綾乃ちゃん!」
ぼくは、すかさずリングに入る。
「勝ったよ、朔夜くん」
綾乃ちゃんと、ぼくはうれしさのあまり、ヒシッと抱き合った。
もっとも、弥生ちゃんの視線が怖いから、すぐに離れたけど・・・
「あ〜ん、負けちゃった〜」
と、流花。
「でも、もうすこしだったね」
弥生ちゃんが、フォローを入れる。
「ホント・・もう少しで、やられるところだったわ」
と、綾乃ちゃん。
「二人とも、すごい闘いだったよ」
ぼくは、二人にそう言った。
「綾乃ちゃん、今度は負けないよ」
と、流花。
「返り討ちにしてあげる」
そういって、微笑んだ。
「ところで、綾乃さん・・・フィニッシュのベアハッグ・・・あれってもしかして・・・」
と、弥生ちゃんが言うと・・・
「そう、朔夜くんに対する挑戦状ってところね」
と、綾乃ちゃん。
「受けてたつよ、綾乃ちゃん」
と、ぼく。
なるほど・・・・やっぱりそうか。
「次は、いよいよ決勝戦ですね」
「綾乃ちゃんと、お兄ちゃん・・・・どっちが初代チャンピオンになるのかな・・・」
「私ね」
「いや、ぼくだ」
そうして、同時に微笑んだ。
さあ、次はいよいよ決勝戦。
やっと、綾乃ちゃんと闘うときが来たんだ。
絶対に・・勝つ!!
|
×堀部流花
|
|
(12分15秒 ギブアップ)
(ベアハッグ)
|
|
成瀬綾乃○
|
綾乃ちゃんと流花の激闘が終わり、次はいよいよぼくと綾乃ちゃんの決勝戦。
ぼくたちは、30分ほどの休憩を取っている。
綾乃ちゃんは試合が終わったばかりだし、なによりあれだけの激闘をしたのだから、ぼくよりも疲労度は高いはず。
だから、多めに休憩時間をとることにした。
綾乃ちゃんは、10分でいいと言っていたけど、なるべく体力は回復させてあげたい。
どうせだったら、なるべくベストの状態で闘いたい。
さすがに、次回までお預けというのは嫌だ。
それに、誰もそんな事は言おうともしなかった。
「それにしても、流花が綾乃ちゃんにムーンサルトプレスを決めたときは、勝ったとおもったんだけどな〜」
流花が、スポーツドリンクを飲みながら言う。
「「そうね・・・・私も、もうだめだと思ったわよ」
と、綾乃ちゃん。
「ぼくも、そう思ったよ・・・」
と、ぼく。
さっきは、ヒヤヒヤさせられたな〜
まあ、結局は勝てたからよかったけれど・・・・
「でも、よく返すこと出来ましたね」
と、弥生ちゃん。
「そうね・・・本当は返す力はなかったんだけど、朔夜くんの叫び声が聞こえたとき、急に力が湧いてきたの・・・・
いわゆる、愛の力ってやつかしらね」
綾乃ちゃんは、いたずらっ子のような微笑を浮かべた。
「えっ!?」
ぼくは、一瞬動きが止まった。
まさか、綾乃ちゃんがこんなことを言ってくるとは思わなかった。
そして、弥生ちゃんと流花のほうをチラリと見ると、少しばかりぼくを睨んでいた・・・。
「と・・・ところでさ、今回は用意しなかったけど・・・・入場用のコスチュームもあったほうがいいかな?」
ぼくは、誤魔化すようにそういうと、慌ててスポーツドリンクを飲んだ。
すると、
「あ、それは盲点でしたね」
「なんか、味気ないように感じていたのよね」
と、弥生ちゃんと綾乃ちゃん。
「ついでに、テーマ曲も用意して、入場からやろうよ」
と、流花。
「そうね、そうしましょうよ」
と、弥生ちゃん。
よかった、何とか場の雰囲気を変えることができた・・・・
後は、試合を待つだけかな?
いよいよ、試合開始5分前になった。
ぼくと、綾乃ちゃんは10分前になったときから、ストレッチをしていた。
いつでも、準備はOKだ。
綾乃ちゃんは、
「じゃあ、あれを出すね」
といって、自分のバッグから何かを取り出そうとしている。
「なにを出すんですか?」
と、弥生ちゃん。
「それはね〜」
そう言って、出した物は・・・・・
「ジャ〜ン、チャンピオンベルト!!」
以前、綾乃ちゃんがプロレスのグッズを売っている店で父親に買ってもらったという、チャンピオンベルトだ!
「おおおお〜〜〜っ!!」
ぼく達は、三人揃って驚きの声を挙げた。
なんて、すばらしい物を持ってきてくれたんだ。
ぼくは感動した。
「優勝者には、これが授与されまーす」
と、綾乃ちゃん。
「それじゃあ、お兄さんか綾乃さんが巻くことになるんですね」
と、弥生ちゃん。
「そういうことだね」
と、ぼく。
いや、絶対にぼくだ。
「それじゃあ、朔夜くん・・・始めましょうか?」
「うんっ!」
ぼくは、力強くうなずいた。
ぼくと綾乃ちゃんは、それぞれのコーナーに立った。
すでに、ジャージは脱いでいる。
レフリーは、弥生ちゃん。
流花は、また観客になるつもりらしく、椅子に座っている。
しかもベルトを抱きかかえながら・・・・・
「それでは、王座決定トーナメント・決勝戦を行います」
弥生ちゃんがそう言うと、
「わあーー」
と、三人で拍手。
「赤コーナー・・堀部〜・朔〜〜夜〜〜」
ぼくは、掌底をシュッシュッと繰り出す。
「お兄ちゃ〜ん、がんばれ〜」
めずらしく、流花から声援がきた。
「つづきまして、青コーナー・・・・成瀬・綾〜〜乃〜〜」
綾乃ちゃんは一歩前に出て、ぼくに一礼。
「綾乃ちゃんも、がんばれ〜」
と、流花。
綾乃ちゃんは、手を上げて応えた。
そして、弥生ちゃんがルールを説明する。
ぼくと綾乃ちゃんは、じっと見詰め合う。
綾乃ちゃんの目からは、絶対に負けないという強い意志が感じられた。
ぼくも同じだ。
絶対に綾乃ちゃんに勝って、チャンピオンベルトを巻くんだ。
「負けないわよ」
綾乃ちゃんが、手を差し出した。
「ぼくだって」
ぼくは、握手に応じる。
そして、コーナーの方に戻る。
「それでは、決勝戦・・」
ぼくの鼓動が、速くなっている。
「ファイッ!!」
体育館に弥生ちゃんの声が、高く響いた。
(さあ、はじまった)
ぼくと綾乃ちゃんは、リングの周りを回り始める。
綾乃ちゃんの鋭い視線が、ぼくに突き刺さる。
まるで、獲物を狙う鷹のようだ。
(どう動く・・)
ぼくは、綾乃ちゃんが動くのを待つ。
五週ぐらいしたとき、ぼく達は同時に動いた。
しびれをきらしたのも、同じだったらしい。
ガシッとぼく達は互いに組み付いた。
そして、お互いの肩を掴んだまま力比べになる。
「むむむむ〜」
綾乃ちゃんが押してくる。
「くっ・・・」
ぼくは、じわりじわりと押される。
力じゃ、綾乃ちゃんの方が上だ。
(ここは、一度離れて掌底から・・・)
ぼくが、そう思った時、
「このぉ」
ぼくは、弥生ちゃんの時と同じようにヘッドロックをかけられた。
綾乃ちゃんの胸の感触が、ぼくの右の頬に広がる・・・・が、一瞬だった。
「どわっ」
ぼくは、綾乃ちゃんに投げられてマットに叩きつけられた。
払い腰だ。
「まだまだー」
ぼくは、強引に起き上がらされ、同じく払い腰をかけられた。
ドッスン
「ぐは〜」
ドッスン
「どわあ〜」
ドッスン
「ぬわああ〜」
計三回つづいた。
そして四回目は・・・・払い腰ではなく・・・ぼくを抱え上げた!
「え?、え?・・ちょっと・・」
「すごーい、綾乃ちゃん・・お兄ちゃんを抱え上げたー」
流花が驚きの声を挙げる。
ボディスラムの体制だ。
「いけー」
綾乃ちゃんが、ぼくをマットに叩きつけた!
「ぐっはーーー」
ドックーンと息が詰まる。
ぼくは、マットに大の字にダウン。
そこへ綾乃ちゃんは、ぼくの左腕を右腕で抱え、首を左腕で抱えて押さえ込む。
袈裟固めだ!!
そして綾乃ちゃんは、ぼくの首を絞めつけてきた!
いや、自分の胸に押し付けてきたと言った方がいいかもしれない。
ぼくの顔に、ムニッと柔らかなものが押し付けられたのだ。
「むに〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
ぼくは、悲鳴を挙げた。
滅茶苦茶うれしいけれど、滅茶苦茶苦しい。
「お兄さんっ、ギブしますかっ?」
怒ったように言う弥生ちゃんに、
「お兄ちゃんの変態っ!!、そのまま死んじゃえっ!」
強烈に酷い事を言う流花。
ぼくの気も知らないで〜〜。
「朔夜くん、ギブしちゃいなよ・・・じゃないと落ちちゃうよ・・・・でも、私の胸で落ちるんだから、うれしいかな?」
勝ち誇ったように言ってくる、綾乃ちゃん。
「むむーーーーー!」(ノーーーーー)
生憎、そんなうれしい・・じゃない、屈辱な負け方は嫌だ!
ぼくは、なんとか手を伸ばして、綾乃ちゃんの耳の近くにある急所を親指で圧迫した!
「あっ、いたい・・ちょっと痛い・・」
綾乃ちゃんの腕の力が抜けていく。
(いまだ)
ぼくは腕を引っこ抜くと、首に巻きついている綾乃ちゃんの腕を外した。
「あっ!」
綾乃ちゃんが、しまったと言うような表情になる。
ぼくは、そのまま離れて起き上がる。
「はあはあ・・・う〜ん、危なかった・・」
と、ぼく。
「今度こそ、仕留めてあげるから」
と、綾乃ちゃん。
(そうは、行くか)
ぼくは、骨法の構えを取る。
綾乃ちゃんは、両手を開いて顔の前に持っていく。
今度はこっちの番だ!
「ハッ!」
ぼくは、間合いを詰めると、掌底を連打。
「きゃっ、痛い痛い・・やめて・・」
やっぱり綾乃ちゃんは打撃に弱いらしく、体を丸めて防御の体制になる。
そこへ、ぼくの掌底が綾乃ちゃんの頭・肩・腕に次々とヒットしていく。
(さーて、お次はっと・・)
ぼくは、綾乃ちゃんの頭を脇に抱える。
DDTの体制だ。
「でやあああ!」
そのまま、うしろにもっていく。
DDT炸裂!
「きゃああ〜」
まともに喰らい、ダウンする綾乃ちゃん。
「さっきは、よくもやったな〜」
ぼくは、綾乃ちゃんを起き上がらせると、
コーナーまで連行し、
「この〜」
綾乃ちゃんの頭を、跳び箱のマットの部分に叩きつけた。
初の反則技だ。
「きゃあああーー」
マットに頭をぶつけ、フラフラになる綾乃ちゃん。
「ブ〜〜〜〜〜」
流花がブーイングをする。
しかし、ぼくはかまわずに綾乃ちゃんのバックに回り、綾乃ちゃんを後ろから抱え上げ、後ろに叩きつける。
バッスーーーンッ
バックドロップが炸裂!
ドッスンと、綾乃ちゃんがマットに叩きつけられた。
「きゃああああーー」
ダウンする綾乃ちゃん。
ぼくは、すかさず綾乃ちゃんに覆い被さり、フォールに入る。
「ワン・・・ツー・・」
弥生ちゃんが、カウントをとる・・・が、綾乃ちゃんはそこまでしか胸の感触を味わせてくれなかった。
「くっ!」
綾乃ちゃんは、ブリッジして返した。
仕方なく、ぼくは起き上がった。
「あまいわよ、朔夜くん」
綾乃ちゃんが、起き上がりながら言う。
やっぱり、そう簡単には勝たせてくれないんだな〜。
「まだまだ〜」
ぼくは、再び掌底を放っていく。
すると今度は、
「そう何度も、喰らわないわよっ!」
綾乃ちゃんは、ダッキング・・・いや、ぼくの両足に組み付いてきた。
タックルと言うよりも、柔道の諸手刈りだ。
「うわっ」
ぼくは、マットに倒されてしまった。
「さっきは、よくも鉄柱攻撃してくれたわね〜」
ぼくの足を交差させ、ぼくの体を返そうとする。
サソリ固めをかける気だ!
「くくく・・・」
そうはさせじと、綾乃ちゃんの足をつかんで堪える。
綾乃ちゃんは、強引にかけようとするが、ぼくも必死で堪える。
「いいわよ・・だったら・・」
諦めたのか、足を放す綾乃ちゃん。
そして、ぼくは腕を掴まれ起き上がらされた。
そこへ、
「くらえーーー」
綾乃ちゃんが、腕を振ってくる。
至近距離からのラリアットがぼくの顎に炸裂した。
「グッ・・・・」
顎に衝撃を受けて、ダウンするぼく。
続いて綾乃ちゃんは、ぼくの水月にエルボードロップ!
「うぐぅ〜・・」
ぼくは、息が詰まった。
しかし、綾乃ちゃんの反撃はまだ続く・・
「まだよ、朔夜くん」
ぼくは、また起き上がらされる。
「もういっぱーつ」
またも、至近距離からのラリアット炸裂!
「ぐわああああー」
派手にダウンさせられた。
これはさっきのよりも効いた・・・。
ぼくはそのまま、大の字に倒れたままだ。
「はい、フォール」
綾乃ちゃんは、ぼくの片足を持って覆い被さってきた。
弥生ちゃんが、カウントに入る。
「ワン・・・」
胸に、二つの柔らかいものが当たって気持ちいいけど、
「ツー・・・」
そうも言っていられない。
ぼくは、おなじくブリッジで返す。
「おおおおーーー」
流花から歓声が挙がった。
綾乃ちゃんが立ち上がり、ぼくもフラフラと立ち上がる。
(綾乃ちゃん・・・本当に強い・・流花と激闘を繰り広げた後なのに・・・)
どうやら、かなりやばい状況になってきた。
「朔夜くん、しぶといわねー」
と、綾乃ちゃん。
「当たり前だよ、絶対に勝つんだから」
ぼくは、そう言ってあげた。
「このSYURAの女王に勝てると思ってるの?」
勝手にSYURAの女王を自称する綾乃ちゃんに、
「思ってるさ!」
そう言って、ぼくは綾乃ちゃんに向かっていく。
そして、
「ハッ!」
今度は、浴びせ蹴りを放った。
不意に放ったため、綾乃ちゃんはかわすことができずに、ガードした。
「くう・・・」
綾乃ちゃんはよろけたけれど、なんとかふんばった。
ぼくは、そのふんばった足を掴んで、さっきの仕返しに諸手刈りをかけた。
「え?、きゃああ」
バス〜ンと倒れる綾乃ちゃん。
ぼくは、右腕で綾乃ちゃんの左足を抱え、アキレス腱固めにはいった!
「きゃあああああーーー」
頭を振り、悲鳴を挙げる綾乃ちゃん。
(どうだ、袈裟固めの仕返しだ)
この、アキレス腱固めというのは、かなり効くんだ。
「綾乃ちゃん、ギブアップしな!」
と、ぼく。
「綾乃さん、ギブアップ?」
弥生ちゃんも訊くが、狂ったように頭を振り、
「ノー・ノオーーー」
叫びながら、ぼくの右腕を蹴りまくる。
「いてて・・・・そんな蹴らないで・・・ギブしちゃってよ」
ぼくは、さらにアキレス腱を締め上げる。
「いやあああ、いやああーーーー」
綾乃ちゃんも、さらに強く蹴りつけてきた。
どっちが先に根をあげるか・・・・・
「お兄ちゃ〜ん、綾乃ちゃ〜ん・・どっちもがんばれーーー」
と、流花の声援がまたも挙がる。
が、
ぼくの腕の方が、先に限界を感じ・・・・
(・・・・もうだめだ・・・)
ぼくは、綾乃ちゃんの足を放してしまった。
綾乃ちゃんは足が外れたとたん、足を抱えるようにうつ伏せから横になる。
よっぽど痛かったんだな・・・・・
「おおおおおおおーーーー」
流花が、床をドドドドドドドーと踏み鳴らす。
「ちくしょう・・・・」
ぼくは、痛む腕をさすりながら起き上がる。
綾乃ちゃんの方は、足のダメージが酷いのか起き上がれないでいた。
(今のうちだ)
ぼくは、腕を掴み途中まで強引に立ち上がらせ、そこからは抱えあげる。
「きゃっ!」
そして、マットの中央まで運ぶ。
「ちょ、ちょっと下ろしてよー」
と、悲痛な叫びを挙げる綾乃ちゃん。
「うん、すぐに下ろしてあげるよ〜」
ぼくは、ニヤリと笑う。
ここで、ボディースラムでもいいんだけれど・・・
「う〜ん、よっと!」
ぼくは右ひざを出して、そこに綾乃ちゃんの腰をそこに落とした。
バックブリーカーだ!
「ぐっふううううっ」
綾乃ちゃんの鈍い悲鳴があがった。
これは、かなり効いたはずだ。
しかし、一発では許してあげない。
「せ〜の・・・」
もう一回、綾乃ちゃんを抱き上げ、
「よっと!」
またも、綾乃ちゃんの腰をぼくの膝に落としてあげる。
「ああああああっ!」
さらに悲鳴を挙げる、綾乃ちゃん。
ぼくは、そのバックブリーカーをもう一回くらわせ、綾乃ちゃんを完全にダウンさせた。
そして、
(よし、とどめだ)
ぼくは、コーナーポストによじ登った。
そこから、ダウンしている綾乃ちゃんをみると、悶絶しながらも・・ええっ?と言うような表情をしていた。
そう、愛する綾乃ちゃんにはこれで、マットに沈んでもらう。
「終わりだ、綾乃ちゃん!!」
ぼくは飛んだっ!!!
フライングボディーアタックだ。
ムーンサルトもできるけど、これがやりたかった。
が、しかし・・・・
「くっ・・」
綾乃ちゃんがころりと転がってよけた。
「え?」
となったけど、飛んでいるのだから、もう遅い・・・・
「どわわわわわーーーーー」
ドッスーーーーーンッ・・・・・
ぼくはマットに墜落・・・自爆した。
「あはははは・・・お兄ちゃんマヌケ〜」
流花の笑う声が聞こえる。
「クスクス・・・」
レフリーの弥生ちゃんも、笑ってる・・・。
すごく、情けない・・・・・・。
絶妙(?)で放って、かわされるなんて・・・・
「ううううう〜」
そして当のぼくは、そのままマットにうつ伏せになったままうめいていた。
そこへ・・・
ドカッ・ドカッ・ドカッ・ドカッ
背中に重い衝撃が走る。
起き上がった綾乃ちゃんが、ぼくの背中にストンピングをしてるんだ!
「ぐは、ぐは、ぐは、ぐは・・・・」
ぼくは、綾乃ちゃんにされるがままになっている・・・。
そして、髪をつかまれ・・・引っ張られた。
「いたたたたたた」
ぼくが起き上がると、綾乃ちゃんはぼくをくの字に曲げて、胴に腕を回す。
流花と同じように、パワーボムをやる気だ!
綾乃ちゃんが、持ち上げようとするのをぼくは必死で堪える
・・・・が、
「朔夜くんのバカーーーーー」
綾乃ちゃんがさらに力を込めると、ついにぼくの足が宙に浮いてしまった。
そして綾乃ちゃんは、ぼくを肩に担ぐように持ち上げた。
(これって・・・ただのパワーボムじゃない・・・・サンダーファイヤーパワーボムだ)
「こぉのぉーーーーーー」
そのままぼくを、マットに叩きつけた。
「ぐっはああああーーーー」
もの凄い衝撃が来た。
息が詰まる・・・・。
しかし、そのままフォールされるのかと思いきや、左腕をつかまれすごい力で起き上がらされた。
「許さない・・・」
綾乃ちゃんは怖い声で言うと、腕を引きながら左腕でラリアット・・ついでに大外刈り!
「S・T・Aーーーーーーー」
綾乃ちゃんの得意技の一つ 『S・T・A』だ!
本来はSTO・・Oがオガワの意味だけど、この場合は「綾乃」のAだ。
「どわあああ〜〜〜」
これがまた効くんだ〜〜〜。
ぼくはまたも、派手に大の字にダウン
(まったく〜、かわいい顔して、すごい力なんだからーーー)
ダメージが酷くておきあがれないぼくに綾乃ちゃんは、まだまだかます気らしく、
「まだまだーーーー」
またも抱えあげられてしまった。
もしかして、バックブリーカーをやる気か?・・さっきの仕返しに・・・
だが・・・
「いくわよぉーーーーーーーー」
綾乃ちゃんは雄叫びを挙げ、ぼくを抱えたままコーナーポストに突っ込んでいく。
「綾乃ちゃん・・・・こわい・・・」
流花が呟くのが聞こえた。
「わっ、わっ、わっ」
ドッカーン
コーナーポストに背中を思いっきりぶつけられてしまった。
「ぐえええーーー」
それも一回だけでなく。
ドッカーン
「ぐえええーーー」
ドッカーン
「ぐえええーーー」
ドッカーン
「ぐえええーーー」
ぼくは、全部のコーナーポストに背中を叩きつけられてしまった。
そして、
「イヤーーーーー」
気合と共に、ぼくを抱えたままマットにジャンプして倒れこむ。
オクラホマ・スタンピート!!!
「ぎゃああああああああ」
強烈に決まった!
痛いわ苦しいわで、胸の感触なんか考えていられない。
しかし、綾乃ちゃんはそのままフォールに入ってこない。
すぐに立ち上がって、ぼくをまた起き上がらせた。
「ヤッ!」
綾乃ちゃんが飛び上がり、フラフラになったぼくに延髄斬りを放った!
「がっ・・・・・」
延髄を蹴られたぼくは、そのまま前にダウン。
そして、またもうつ伏せのぼくの胴に、腕を回す。
(こんどは・・・・まさかっ!?)
「ああーーーー、綾乃ちゃんアレをついに出すの!?」
流花が叫んだ。
流花戦では使わなかった、綾乃ちゃんの必殺・・・
「ぬぬぬぬぬ・・・」
綾乃ちゃんは、ぼくを左脇に抱えて持ち上げようとする。
ぼくは、抵抗しようとするが・・・・それは、無駄な努力だった。
ぼくは持ち上げられ、グルングルン振り回され・・・
「とどめーーーーーーっ、アヤチャンリフトーーーーーーーー」
(やっぱりーーーーーーー)
綾乃ちゃんの奥義、カレリンリフトの変形版・・・アヤチャンリフトだ!!!
ぼくは、マットに後頭部から叩きつけられた!!!
(いったい、どこにそんな力がのこっているんだーーーー)
綾乃ちゃんが、完全にノビているぼくにのしかかり、体固めになった。
「ハアハア・・・朔夜くん・・・・・・勝つのは私よ・・・・」
綾乃ちゃんが、ポツリとそう言った。
(もうだめだ・・・・返すだけの力は残っていない・・・・)
弥生ちゃんが、カウントを取るため近づいてくる。
そして一度、悲痛な表情でぼくを見た。
(ごめん・・弥生ちゃん・・・・期待に応えることはできそうもない・・・)
「ワン・・・」
「ツー・・・」
弥生ちゃんが、カウント2まで数えたとき、流花が持っているベルトが目に入った。
(ちくしょう・・・あれが、欲しいイーーーー)
ぼくは、ベルトに向かって手を伸ばした。
「ス・・」
弥生ちゃんがそこまで言うのと、ぼくが手を伸ばすのが動じだった。
弥生ちゃんのカウントが止まった。
どうやら、ギリギリだったらしい・・・・
カウント、2、99999ぐらいかな?・・・・
「おおおおおおおおおおおおおおーーーーーー」
またも、流花が床を踏み鳴らした。
とりあえず、助かった・・・・・
「ハアハアハアハアハアハア・・・・・・・・」
「ハアハアハアハアハアハア・・・・・・・・」
綾乃ちゃんが、覆い被さったままぼく達は息を切らしていた・・・・
お互いに、汗びっしょりだ・・・・・綾乃ちゃんの胸が当たって呼吸をするたびに胸が上下して、
ムニムニした感触を楽しめるのはうれしいけれど、暑苦しい・・・。
「なんで・・・・」
「え?」
「どうしてよ・・・・」
ぼくに覆い被さったまま、言う綾乃ちゃん。
「どうして、やられないの・・・・・朔夜くんしぶとすぎ!」
ゆっくりと起き上がる綾乃ちゃん。
「ぼくだって・・・・キミに・・・・勝って・・・・王者・・に・・・なりたいんだ・・・・・・」
ぼくも、息を切らせながら起き上がる。
綾乃ちゃんは涙をため、目も顔も真っ赤にしてぼくを睨んでいる。
完全にキレている・・・勝利への執念か?・・・・
「絶対に許さないっ!!」
バシィィィィ
ぼくに、張り手をくらわせた。
「くっ」
バシィィ・バシィィ・
さらにかまして来た。
(綾乃ちゃん・・・ぼくも、最後まで全力で闘わせてもらうよっ!)
ぼくは、綾乃ちゃんの掌底をくらいながら、そう心の中で誓い、
バシィィ
掌底を、綾乃ちゃんにくらわせた。
「キャンッ!」
綾乃ちゃんは、一度短い悲鳴を挙げると、再びぼくを睨み張り手を放ってくる。
ぼくは、それを受け流しながら、突き蹴り(・・・足の裏全体で蹴り出す技)を、綾乃ちゃんの胸にヒットさせた。
「うぐううう・・・・」
綾乃ちゃんは、2.3歩後ろによろけた。
一瞬息が詰まったようだ。
が、今度は、
「うわああああああ」
ぼくに、右のミドルキックを放ってきた!
独自で、打撃の練習をしていたらしく、少しは様になっている。
しかし、ぼくは無情にもそれをキャッチ・・・・
そして・・・綾乃ちゃんの首に腕を巻きつける。
この時、流花と弥生ちゃんが息を呑むのが聴こえた。
そう、これがこの試合最後になる技・・・・ぼくの奥義・・
「綾乃ちゃーーーーーーーーんっ!!」
ぼくは、叫びながらキャプチュードを放った。
バッスーーーーーーーーーーーーンッ
強烈に炸裂した!!!
「きゃああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーー」
キャプチュードが炸裂し、綾乃ちゃんが断末魔の悲鳴を挙げた!
|
ぼくは、最後の力を振り絞り、動かなくなった綾乃ちゃんに覆い被さった。
いや・・・・・倒れこんだ・・・・
ややおいて・・弥生ちゃんが、カウントを数え始めた。
「ワン・・・・・ツー・・・・・スリーーーーーー」
カウント3がはいった。
|
激闘の末・・・・・ぼくは・・・綾乃ちゃんに勝つことが・・・・・・できた。
|
○堀部朔夜
|
|
(24分31秒 体固め)
(キャプチュード)
|
|
成瀬綾乃×
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「グス・・グス・・」
泣いている綾乃ちゃんを抱き起こし、
「ごめんね綾乃ちゃん、大丈夫?」
と、謝るぼく。
綾乃ちゃんに勝てたのはうれしいけど、なんか後味悪いな・・・・。
「大丈夫・・・・やっぱり、本気の朔夜くんは強いね」
「綾乃ちゃんだって・・・どっちが勝ってもおかしくはなかったよ」
ぼくは、ぼくは綾乃ちゃんをギュッと抱きしめてあげる。
弥生ちゃんと流花の顔が、一瞬険しくなったが・・・すぐに戻る。
しかたないと思ったのだろうか?
まあ、いいや。
「こんどやったら、ぼくが負けるかもしれないね」
「当然よ、次は私が王座を奪うんだから」
綾乃ちゃんが、甘えた声で言った。
試合中の殺伐とした感じが抜けて、元の綾乃ちゃんに戻っていた。
綾乃ちゃんって、以前のプロレスごっこの時からそうだったからな・・・・
「それよりも、朔夜くんの表彰式をやりましょ」
そういって綾乃ちゃんは、ゆっくりとぼくの腕の中から起き上がった。
「それでは・・・・・SWGP王者のベルトは、堀部朔夜が勝ち取りましたーー」
綾乃ちゃんの司会で、
「おめでとうございます・・はい、お兄ちゃん」
流花が、ぼくにベルトを手渡した。
「うおおおおおーーー」
ぼくは、両手で持ち上げて叫んだ。
「おめでとうございます」
弥生ちゃんが、拍手をしてくれた。
流花と綾乃ちゃんも、拍手をしてくれた。
「おめでとう」
「おめでとう、でも次は私が王者だから」
と、二人。
「ありがとう」
と、照れながら言った。
「ねぇ、お兄ちゃん・・ベルト巻いてみて」
と、流花。
「いいよ」
ぼくは、ベルトを腰に巻く。
その時、綾乃ちゃんがとめるのを手伝ってくれた。
そして、巻き終わった時、
「お兄さん、すごく似合ってますよ」
と、弥生ちゃんが言ってくれた。
そして、
「私から初代王者へ・・・・・お祝いと挑戦の意味を込めた・・贈り物です」
弥生ちゃんが、顔を真っ赤にして、
チュッ
ぼくの右頬にキスをした。
「え!?」
ぼくは、一瞬固まった。
「ややや弥生ちゃん!?」
ぼくも顔を真っ赤にして、どもる。
「ああー、弥生ちゃんぬけがけー」
チュッ
こんどは、流花が左の頬にキスをした。
「おおおおいっ!」
さらに慌てるぼくに、
「じゃあ、私はおでこかしら・・・・」
いたずらっ子のような微笑をうかべた綾乃ちゃんが近づいてきて・・・・
「やっぱり、ここね!」
チュッ!
綾乃ちゃんにキスされた。
「っ!?」
「っ!?」
弥生ちゃんと流花が同時に息を呑んだ。
なぜなら、綾乃ちゃんがキスした場所は・・・・・
「綾乃さん・・・お兄さんの・・・・」
「唇にチューしたーーーー!」
流花が叫んだ。
ぼくはというと、はじめてでは無いにもかかわらず、頭が真っ白になってしまった。
「ずるいです、私もーーー!」
「流花もーーー!」
「朔夜くんは私のよーーー!」
3人が、一気にぼくを押し倒した!
ぼくは、三人にもみくちゃ・・・・というより袋叩きにされながら、今後の女難を予感した。
(・・・・・・・前途多難だ・・・・・・でも、悪くないな・・・・・)
―完―
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