第13話

作:薊(超芝村的制作委員会)




1.ノーモア・きぐるみ


「もうぜった嫌ですからっ!!」

ネコアルクの着ぐるみを前に頑なに拒否の姿勢をあらわにするすみれちゃん。

なんでこんなに嫌がるのかしら?

せっかくこの私が、気を取り直して裏方として残りの試合を盛り上げてあげようとしてるっていうのに。

「そんな我侭言わないの!合間にちゃんとこういう演出があってこそ・・・」

「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやーーーーー!!」

耳を塞いでぶんぶんと首を横にふるすみれちゃん。

・・・ちっ・・・さっきはやりすぎだったかしら。

んもう、着ぐるみ用意するのだって楽じゃないってのに・・・こんな面白・・・もとい場を楽しませるネタをみすみすスルーなんてさせるもんですか。

「ああもう駄々っ子じゃないんだからっ!一体何が気に入らないのよっ!」

「ぜんぶーーーー!!!」

「全部じゃわかんないでしょっ!具体的に!何っ!!」

負けじと大声を張り上げる、勢いで押し切ろうたってそうはいかないわよ。

「・・・ぅ・・・す、すっごい重いし、動きづらいし・・・疲れるし・・・」

私の剣幕にやや気おされた感じでどもるすみれちゃん。

「じゃあ重くなくてスムーズに動けて疲れなければいいのねっ!」

「う・・・でも・・」

「でもじゃないっ!コッチは譲歩するって言ってんのよ!良いの悪いの?どっち!!」

ネコとかいいながら草食系のくせして、この私と張り合おうなんて100万年早いのよ!

気弱娘には強気でガンガン押すのが鉄則よね。

「・・・う・・・・それなら・・・いいですけど・・・でもそんなの・・・」

タジタジとしながらも、まだ言葉を重ねようとするすみれちゃん。

「ハァイ、おっけえ!それじゃ決まりっ!こーんな事もあろうかととっておきのを用意してあるから覚悟しなさい!」

「か覚悟って?・・・・・・!!にゃ?ふにゃーっ!」


2.FLYHIGH



粗方準備を済ませ、ステージ脇の用具室のドアから外を覗くと何やら荷物を詰めた段ボールを小脇に抱えた神楽ちゃんが。

「あら。神楽ちゃん、それはなあに?」

白い布らしき物が入りきらずに覗いてるけど何にかしら?

「ああ、コレは、紐と布と断ちばさみと…バケツとか筆とか絵具のセットです。ほら横断幕とか作ったら雰囲気出るかなと思って持ってきたんですけど」

わざわざ、段ボールを開けて説明してくれる神楽ちゃん。なるほどプロレス会場っぽい演出作りのいいアイデアね。

「あらあら良いじゃなーい、なあに神楽ちゃんそういうの得意なの?」

感心してそう聞くと、神楽ちゃんはちょっと照れくさそうに

「いや、あたしはあんまり・・・すみれが絵とか描くの得意だから頼もうと思ったんですけど、あの娘どこいったんだか・・・」

ありゃま、そういう事。でもどこいったも何もこれからネコ仮面として試合だから流石にちょっとそれは無理なのよね。

「すみれちゃんならさっき急用が出来たとかで一度おうちに戻るって言ってたわよ?」

後で辻褄を合わせられるようにフォローを入れてあげる

「あ、そうなんですか・・・どうしたのかな、戻って来れるのかな?」

ちょっと心配そうな神楽ちゃん

「戻ってこれたら来るみたいな話だったけど時間まではちょっとわからないわね」

次の試合とあとは決勝だけだから、すみれちゃんが負けたら戻る事も可能だけど勝ったら無理って感じになりそうね

「そうですか・・・」

ちょっと残念そうな声を出す神楽ちゃん。横断幕はいいアイデアだけどちょっと遅かったかもね。

「それはそうと神楽ちゃんちょっと手伝ってほしい事があるんだけど」

こっちでもちょうど人手が欲しいと思ってた所だったので神楽ちゃんをステージ袖の待機所に招き入れる

「はい?なんですか?・・・あ、でも出来たらあたし、ネコのセコンドやってやろうと思ってて、そういやあいつも何処にいったかのかな」

また心配そうな顔をしてキョロキョロする神楽ちゃん。

「あら、それなら丁度いいわ、だったら手始めに入場のコールがかかったらこのロープを引いてくれるかしら?」

私は天井からぶら下がる紐を指差す。

「いや・・・コールも何も本人が来ない事には・・・って何ですかこのロープ?上からぶらさがって・・・・・・っ!!」

紐先に視線をやり固まる神楽ちゃん

「まぁ、そういう事だから♪」

「そ、そういう事って・・・あれ大丈夫なんですか?」

「まぁだいじょうぶなんじゃない?そもそも本人がやりたいって言うんだし」

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

なんか上のほうから声にならない声みたいな音がしたような気もするけど、気のせいね?

「はぁ・・・そうですか、意外と派手な事好きなんだなぁアイツ」

怪訝そうな顔で上を見上げながらも納得している風の神楽ちゃん

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

また上のほうから身悶えして、何かに抗議するような気配がしたような気もするけど、当然気のせいね。

時間も無いので手短に神楽ちゃんにやってもらいたい事の手順を説明をしちゃう。

慌ててメモをとりながら聞いてるのを見ると、神楽ちゃんってやっぱり真面目なのねえ

さてそれじゃあ、張り切っていきまっしょいか!

バンと扉を開けて外に出る。

「みんな準備おっけー?」

神楽ちゃんの持って来たマイクにスイッチを入れ呼びかけると

リングの上のレフリーの朔夜君から大きくマルのサイン。

「そんじゃぐりぐりいっちゃうわよー!、第2回SWGP準決勝第2試合!赤コーナー成瀬綾乃選手の入場です!」

コールに合わせ入場曲がフェードイン。私は見た事ないけど『空の境界』というアニメの映画の主題歌らしいわ。

一回戦同様「秋葉」制服の綾乃ちゃんに合わせてタイプムーン繋がりって事で、朔夜君のiPodから探してみたの。

なかなかにいい曲で、私も結構気に入っちゃった。

ボーカルに合わせ更衣室の扉が開いて流花ちゃんと弥生ちゃんを引き連れて綾乃ちゃん登場。

しっかりとした自信に溢れた足取りは余裕というか貫禄を感じさせるわね。

「1回戦では前回覇者の堀部朔夜を完膚なきまでに叩きのめし、SYURAの女王の力を見せ付けた最凶のヤクシニー!」

あ、ヤクシーっていうのは女の夜叉の事ね。確かヤクシニーとも言うハズ。

まあ薀蓄はさておき入場コールなんてぶっちゃけそれっぽく聞こえればれなんでもいいんだけどね。

「其の赤き双眸に映るは次なる犠牲者の姿のみ! 己が領地に踏み込んだ外敵を血祭りにあげ、最凶=最強を示すべくSYURAのリングの支配者鬼姫、出陣!!」

思いつきのアドリブで言葉をつなぐ。まあ、雰囲気はそれなりに出てるでしょ

そんな私のコールと皆の歓声に満足そうに片手を掲げて応える綾乃ちゃん。流花ちゃんと弥生ちゃんが開いたロープの間をくぐって―

「猛る鬼神、夜叉の姫君、成瀬綾乃!今リングに降臨!」

わっと歓声に包まれる場内。OKOK、いい感じに会場もあったまってきたわね。さぁて、それじゃいってみましょうか。

「つづきまして青コーナーからラ・ガティータ・ビオレタ選手の入場です!」

ガコンとステージサイドの控え室の鉄の扉が開いたけどだれも居ないわ。・・・まあ予定通りなんだけど。

ティウンティウンティウン!

昔懐かしい電子音に続き流れ出した3トラックのエレクトロポップな入場曲に場内がどよめく。

曲は「思い出は億千万」同じように朔夜君のiPodの中でいちばんコミカルっぽいという事で選んでみたの。

でも原曲は懐かしきファミコンの「ロックマン2」よりワイリーステージのBGM♪

8ビット時代の超名曲だからフツーにカッコいいのよね。

まあリアルタイムで思い入れのある世代の人にしてみれば後付け歌詞とか邪道もいいとこだろうけど、

幸いみんなゆとり世代だし気にしない気にしない♪

ちなみに私は幽霊やって今年で10年目だけど流石にリアルタイムでは知らないもの。

まあ、昔のことは置いておいて・・・・さあ、いくわよ!!

マイクの前でパチンと指を鳴らす。これはさっき神楽ちゃんと取り決めておいた合図。

「し、CQCQ待ってろにゃ、今猫が行く!」

2Fフロアのスピーカーから響くマンガチックな声。まあ諸般の事情で神楽ちゃんの裏声なんだけど。

照れを勢いで隠すかのようなキレのいい発声が良い感じに嵌ってインパクトは上々ね。

そして声につられて皆一斉に振り向いた先には・・・

「ああああああああああ」

みんなの視線の先には宙に浮かぶロケットブースター装備の空飛ぶネコアルク!まあ天井に張ったワイヤーレールから吊ってるだけなんだけどね。

おけおけ中々イイ反応よぉ。掴みは上々仕掛けも万端!作戦決行!、神楽ちゃんにもう一度合図の指を鳴らす。

ガコンと鈍い音がしてブースターからぼっしゅぅーっと仕込み花火の火花が!

「おおおおおおおおおおおおお!!!」

みんなの驚く声が一段とヒートアップ!

「うえええええええ!?ちょ、ななな奈々子先輩!?」

神楽ちゃんがステージ裏から飛び出してきてオロオロしてるわ。

まあスイッチを入れるようには頼んだけど、具体的なギミックの説明はしてなかったから・・・でも驚くのはまだ早くてよ。

「〜〜〜〜〜っっ!!」

なんか熱いとか言いたげな声にならない声が聞こえたような気もしたけど・・・・多分気のせいよね。

さあショータイムよっ!

カチャンと取り付けた滑車がレールにはまりそろそろと転がりだす。はじめはゆっくりとそして・・・

ゴーーーーーーーーーーーーーッ!

火を噴きながらまさに流星のようにリングに向かって飛んでくるネコアルク!

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」

なんか声にならない恐怖に引きつった断末魔の叫び声みたいな音が聞こえた気もするけど完全に気のせいだわね。

「突如SYURAのマットに現れた謎の刺客、ラ・ガティータ・ビオレタ!SYURAの女王を討つべくまさに彗星の如く登場だあ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

場内大興奮!

そしてネコアルクがリング真上のレール終端までくると同時に花火がストップ。どうこの完璧な計算、完璧な演出!

みんな全部私のおかげよね!さあ感謝なさい!!

ガチャンっと仕上げに自動でワイヤーが切り離されて・・・・・・ってアレ?足の方しか外れてないわね

なんかテルテルぼーずみたいになってブラブラゆれてる・・・

(ねえちょっと大丈夫!?)

念話ですみれちゃんに呼びかけると

(〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!)

なんか抗議なのかなんなのか声にならない声みたいな思念が帰ってきたわね。

ああ、そーいえばあんまり聞き分けなく抵抗するから金縛りをかけて着ぐるみに詰め込んで吊るしたんだったかしら

なんかすっかり忘れてたわ。どにみちこのままではらちが明かないので金縛りを解いてあげなきゃね、ほれ。

(なんてことするんですかあああああ!!!)

とたんに大音響の思念が頭に響く、あーうるさいわねえ。

(なによお大ウケだったんだから良いじゃない、軽くてスムーズに動けて疲れなかったでしょ?)

(めちゃくちゃ怖かったんですよ!!)

キンキンした思念が頭にこだまする

(そんなの面白さの為なら多少のリスクは当然じゃないの)

(面白さなんて求めてません!それになんでリスクはなんで全部わたし持ちなんですかぁ!)

やかましいわね全く・・・と、その時

ぼっしゅぅーーーー!

突然着ぐるみの足から火花が吹き上がっちゃった!

「ふにゃーーーーーーっ」

響くすみれちゃんの悲鳴。どうやら点火されずに残ってた花火が今頃着火したみたい・・・・・。

あージタバタ悶えちゃって・・・私が言うのもなんだけど、くらやみ団に火あぶりにされるオシシ仮面みたい。



参考資料:A くらやみ団に捕まったオシシ仮面

参考資料:B

火あぶりにされるオシシ仮面

(フニャ子フニャ夫「ライオン仮面」より抜粋)




あの娘にはコメディリリーフの神が降りてるとしか思えないわねえ。

それともあの娘の家の神社に祀られているのがそうだったりして。

(なんとかしてええええええぇ!!!!!!!)

まあもうちょっと見てたい気もするけど仕方ないわね。地縛霊様の力を見るがイイわ!

「せいっ」

腰溜めから標的に印を切る。これぞ霊刃ノ居合・断神(タチガミ)!

霊刃は自分の結界内に境界を生成して物体を両断する技だから、結界内であれば距離や空間を無視しできるしワイヤー程度ならご覧の通り。

まあ鎌鼬とかポルターガイストの正体みたいな?

どーん!!

「ふぎゃあ!」

すみれちゃんったら着ぐるみのまま頭からマットに刺さってピクピクしてるわね

・・・すみれちゃんが中に入ってるのをすっきりキッパリ忘れてたわ・・・・いやーしっぱいしっぱい

あれっ!?もしかして会場ドン引きしてる!?こ、これはマズイわ!

「流星の如く現れたラ・ガーティータ・ビオレタ、またも前代未聞の垂直落下式リングインで登場だあ!」

あわてて盛り上がった空気に水を差さないようテキトーなコールをつなぐ。

「おい、猫!!大丈夫か!!」

あわててリングに駆け上がった神楽ちゃんが着ぐるみを抱え起こす。

「うう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

目を回してるっぽいわね。んもう・・・ネコだったらパシっと着地しなきゃダメじゃない。

「おいネコ!おい」

軽くて着脱の楽な新型の飛行Ver着ぐるみを取り外すと、すみれちゃんのほっぺをペシペシ叩く。

まあ試合前にダメージを負ってちゃマズいし・・・・・仕方ないわね。

「ふん・・・・」

私が念を凝らすとパキンッと乾いた音がする。

そして体育館内のライトが一瞬強く光ったかと思うと、ふっと暗くなる。

まあ俗に言うラップ現象の一種なんだけど、空間内の霊圧の急激な変化の発露みたいな?霊が出現した時なんかに見かけられる事が多いわね。

簡単に解説すると結界内の対象の周囲の霊圧を変化させる事で、浸透圧の原理みたいな感じで対象のチャクラを無理矢理開いて生命力を引きだせるんだけど・・・・・。

まあ難しい事はさておき、要するにこの場合はすみれちゃんが元気になるって事よ、ほら。

「うう〜〜〜・・・・・死ぬかと思いました」

ジジっという音と共にライトの光が元に戻ると涙目になりつつもあっさり回復して起き上がるすみれちゃん。神鳴る地縛霊様パワーに感謝しなさいな。

・・・んまー結果的に寿命が3日ぐらいは縮むだろうけどそーゆー細かい事は気にしなーい♪

(きにするわああああ!!!)

ものっそい思念波が頭に響く。ありゃま、考えてる事が思念になって漏れてたみたいね、

と、その時

「だ、大丈夫?」

レフリーの朔夜君がすみれちゃんに尋ねる。

「ふぇ?え、あ、あの、へ平気です。」

慌てて答えるすみれちゃん。まったく朔夜君の前だとすぐイイ子ぶるんだから。

(ならいーじゃない)

思念で横から茶々を入れると

「それならよかっ」

「全然よくないっ!!・・・・いうっ」

大声で叫んでからしまったと慌てて口を押さえるすみれちゃん

あらら〜思念と会話がこんがらがっちゃたのねえ

「え、あ、いや・・・すいません?」

困惑しつつも気圧されてあやまる朔夜君

「いや、あのこれはその・・・」

すみれちゃんがどもりながら取り繕おうとしていると

「ちょっと!あんなフザケタ入場したのはあんたの勝手じゃない!何言ってんのよっ!!」

綾乃ちゃんが間に割ってはいってきたわ。ちょっとお怒りはいってるっぽいし、なんだか面白くなってきたかも♪


3.もえろよもえろよ




「まあ怪我が無ければそれで・・・」

険悪な空気を感じ取って朔夜君がとりなそうとするけど、

「朔夜君はちょっと黙ってて!だいたい試合前なのにあんな事やるなんて何考えてるワケ?」

更につっかかる綾乃ちゃん。んまあ朔夜君が擁護しようとすればより火に油を注いじゃうわよねえ・・・もう仕方ないわねぇ。

「う、それは、あの、その・・・・・・だからぁ、ハンデをつけてあげたんじゃないですか。そんな事もわからないの?馬鹿なの?しぬの?・・・・ふえ!?」

驚き凍りつく会場、もっとも一番驚いた顔をしてるのがすみれちゃんだけど。

問い詰められて困ってるみたいだから代わりに口を借りてしゃべってあげたんだけど、問題あったかしら?

(ちょっとおおおお!!!)

ようやく状況を理解したすみれちゃんから怒りの思念が届くけど、何を怒ってるのか奈々子よくわかんなーい♪

「ふうん・・・でもハンデつける意味が良くわからないんだけど説明してくれるかしら?」

綾乃ちゃん笑顔だけど目が全然笑ってないわね。

「おおっとラ・ガティータ・ビオレタ、SYURAの女王に対し格下認定宣言だあ!」

すみれちゃんに代わってリングアナとしてわかりやすい解説を挟んであげる。

火ダネは作って育てるもの。

愛情かけて手間かけて、ガソリンをたっぷり注がなきゃね〜〜〜〜〜やってコイコイ大炎上♪

(ななこおおおおおおおおお!!!)

あーもう巫女の癖にそうやって簡単に心を乱すから取り憑く隙だらけになるのよね・・・

「・・・どうやら朔夜君と同じで誰が一番強いのかを体に教えてあげなきゃいけないみたいね」

ビリビリと怒りのオーラを立ち昇らせる綾乃ちゃん。

おほっほう♪かなーりイイ具合になってきたわあん、よーしよしそれじゃもう一押しよ!

「まったく朔夜さんに勝ったぐらいで、ずいぶんな増長ぶりですね・・・」

そしてフッと微笑んでみせる。

「ちょうどいいわ。私がさくっと優勝してデート権をゲットした後で、手取り足取り腰取り一から朔夜さんを鍛えてあげるから」

(腰取りってなんですか!人をなんだと!!・・・?!・・・ででで、デート権!?)

すっんきょうな思念が返ってくる。

(あら、そういえばあのとき居なかったんだっけ?今回の優勝商品は朔夜君とのデート権になったのよ)

(なっ!!!)

噛み付くようにキンキンしてた思念のトゲトゲがハタと収まっちゃった。わかり易いというか現金というか、でもはじめからこうすれば良かったかしら?

だけどマスクかぶったネコ仮面の姿でデート権をゲットしたところで、すみれちゃんの考えてそうないわゆる一般的なデートは無理だと思うのよねえ・・・。

マスクかぶったまま映画館とか遊園地とか・・・面白そうだけど実際ただの罰ゲームよね・・・。

まあ本人気付いてないみたいだけど誤解したままの方が扱いやすいし、しばらくほっときましょう。

「何を言い出すかと思えば・・・」

綾乃ちゃんはヤレヤレといった感じで首を横に振ると、

「強い弱いは置いておいて朔夜君は昔からずっと私の物なの、あんたみたいなポっと出のイロモノお笑いキャラが入り込む余地なんて1mmも無いんだから」

「誰がイロモノお笑いキャラですか!」

あら、すみれちゃん久しぶりに自分の言葉で物が言えたじゃない。

「幼稚園に入る前からいつもずーっと一緒だったもの。朔夜君の事ならなんでも知ってるし、あーんなことやこんなこと・・・甘酸っぱい思い出もいっぱいだしー」

フフンと自慢げに言う綾乃ちゃん

「うぅ・・・そ、そんなの・・・・」

「もーねー積み重ねた時間の密度が違うっていうかー、繋がりの深さも絆の重さも比べるのも馬鹿馬鹿しいってってゆーか?」

自信に満ちて少し小ばかにした様子で饒舌に言葉を続ける綾乃ちゃん。

「う・・・でも・・・私だって・・・私だって・・・」

「私だってなによ?」

勝ち誇ったように尋ねる。

「わ、私だって・・・私だってこないだ朔夜さんとキスしたんだから!!!」



言葉の爆弾が炸裂し、場内の時間が止まって_____________________




「な、なんだとーーーーー!!!」

「ちょっとまてぇぇぇえええ!!!」

リング下のお子様達から怒号があがる

「ふえ・・・・・・・?あ!!」

ようやく我に帰るすみれちゃん、でも寄りによって自分からそれを言っちゃうとはねえ・・・。

これは、あたしのせいじゃ無いわよ。

「っ!!」

リングに詰め寄ろうとしたお子様達の足が止まる。

ゴゴゴゴゴゴゴ

リングの上で渦巻く瘴気のようなオーラ・・・・うわあコレわ・・・・・夜叉姫ご登場ね。

「・・・・・・・・・本当なの?・・・・朔夜くん・・・・・・・・・・・」

瘴気の渦の中心から綾乃ちゃんが眼に赤い光を宿らせギギギと朔夜くんの方を向く。

二人の争い初めからずっと光学迷彩でも使ってるんじゃないかってぐらい背景に溶け込んでいて、我関せずを決め込んでいた主人公君にとうとうお声が・・・。

「いや・・・あれは・・・その・・・あの・・・」

突然の言葉の爆弾テロに狼狽して取り乱す朔夜君。

「あれ?・・・あれって言う事は何か心当たりがあるって事かしら・・・・・・・・?」

冷静なツッコミをいれながらも、綾乃ちゃんから吹き上がるヤバげなオーラが空気をふるわせる。

「ぅあうあうあ・・・・・」

朔夜くんは顔面蒼白で滝のような汗をながしつつ目が泳ぎまくってて・・・もう溶けて消えかけそうになってるわね。

ゆらりと朔夜君の顔を覗き込むとガシと肩を掴む綾乃ちゃん・・・・・・これはやばいかも、と、

「・・・まあ・・・・時間も押してるし今は早くこのネコちゃんとの試合をやらなくちゃ、だめよね」

にっこりと笑顔を作る綾乃ちゃん。

・・・・・・今の綾乃ちゃん・・・・・・幽霊の私でさえも怖いわ。

「今の話はあとでじっくりたっぷり詳しく聞かせてもらうとして・・・朔夜くんレフリーなんでしょ?早く試合はじめちゃってよ」

「・・・特等席で泥棒ネコちゃんの処刑を見せてあげるから」

朗らかに朔夜君に対しての尋問(拷問?)とネコ少女の処刑宣言をする綾乃ちゃん。

「あ、そうだ、途中で試合を止めたりしちゃダメよ。そんな事したら・・・ほんとうに大変な事になっちゃうんだから、ね?」

砂粒より小っちゃくなっちゃってる朔夜君に、綾乃ちゃんは張り付いたような笑顔で念を押すとすみれちゃんの方にぐるりと向き直る。

「ふぇ・・・」

あらま、折角綾乃ちゃんがヒートしてるのにすみれちゃんったら完全に気圧されてるじゃない、もうコレじゃ盛り上がらないでしょ・・・。

(ちょっと、すみれちゃん!何か言い返しなさいよ!)

念話で呼びかけてみると、

(だ・・・だって・・・)

ああもうへタレなんだから・・・しょうがないわね。

(このままだったら、朔夜君後でボコボコにされてヒーヒー言わされて綾乃ちゃんの奴隷にされちゃうわよ、それでもいいの!)

(!!)

口から出任せでテキトーな煽りをいれてみる、案外当たってるのかもしれないけど。

(朔夜君を助けてあげられるのは・・・あなたしか居ないのよ!すみれ色のネコ仮面は・・・愛と正義の味方なんでしょ!?)

ってそれはピンクのウサミミ仮面だったかしら?基本的に心にも無いテキトー台詞をぶつけてみたけど、さて効果の程は・・・・?

「わ、わ・・・私がっ、あなたみたいな凶暴女を倒して可哀想な朔夜さんを守ってあげますからっ!!」

若干腰が引けてる気もするけど、ビッ!と指差して言い放つすみれちゃん。あらま、なんか響いちゃったみたいねw

「言ってくれるじゃない・・・・この泥棒ネコが・・・・!」

わひゃー♪いいわぁいいわぁ二人の闘気がぶつかりあっておいしそうな空気がぎゅんぎゅん空間に溢れてきてるわ、食べきれるかしらあ♪

「暴発寸前!一触即発!夜叉姫VSネコ仮面、お互いの意地とプライドを賭け激突する女王VSアサッシン!SYURAのリングを墓標にするのはどちらか!!」

嬉しくってアナウンスもノリノリになっちゃう♪

早く早くぅ・・・・・ってはじまらないわね・・・何やってるのよもう

(ちょっと朔夜君!折角ノリノリになってきたんだからスパーンと早く始めなきゃ!)

(あ・・・あうわわ・・・あう)

ありゃりゃもはや前後不覚になってるわ、ああもうへタレなんだから・・・

(大丈夫だって、なんかあったら私が記憶操作とかしてなんとかしてあげるから)

(うあ・・・うう)

ダメだこりゃ。ああもうしょうがないから口借りるわよ

「んんっ、それでは第2回SWGP準決勝第2試合成瀬綾乃VSラ・ガティータ・ビオレタを始めます!」

「レディー・・・ファイッ!」

カーン!

はやる気持ちももどかしく有無を言わさず開戦のゴングを鳴らした。



4.準決勝第二試合 夜叉姫 vs ネコ仮面






「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

綾乃ちゃんが狂気の笑いを浮かべながらすみれちゃんに突っ込んでいった!

「くっ!!」

慌てて転がって逃げるすみれちゃん。

「このっ!!」

「あうっ!!」

転がってよけたすみれちゃんに、綾乃ちゃんの蹴りが入った!

立ち上がろうとしていたところだったから、見事にヒットしてマットに倒されるすみれちゃん。

「ただじゃ済まさないないわよ〜〜〜ネコちゃん♪」

倒れたすみれちゃんに、綾乃ちゃんはストンピングの雨嵐!

「ほらほら〜〜〜!!」

「く・・・あう!」

すみれちゃんは逃げられずに、体を丸くして堪える。

そして散々すみれちゃんに蹴りを入れた綾乃ちゃんは、すみれちゃんの髪をつかんで起こす!

「いた・・痛いって・・・」

「私の朔夜になにをするつもりなのかな〜〜〜?  オラッ!!!」

「ふぎゃ!!」

うわ・・・・髪を掴んで投げるヘアーホイップ!!!

さらに投げた後も、髪を掴んだまま離さずにそのまます引きずり起こす綾乃ちゃん。

結構えげつない攻めね〜・・・・・まさに感情剥き出しって感じ。

「いたあああい!」

悲鳴をあげるすみれちゃんを無視してそのままコーナーにすみれちゃんの頭を叩きつける!

「ぎゃふ!」

ふらついて戻ってくるすみれちゃんを捕まえると、

「こんの泥棒ネコがっ!!」

そのまま一気にすみれちゃんを抱えあげ、ボディスラム!!

「あうっ!!」

「オラオラオラオラーーーー!!」

倒れたすみれちゃんを蹴りまくる!

「いやっ・・・・いたっ・・・・やだっ・・・・」

丸まって何とかこらえるけど、あんまり意味無いわね。

「このドラ猫〜〜〜!さっきの威勢はどうしたのよ!マタタビくらってらりってたの〜〜!?」

ドガッとすみれちゃんのおしりにサッカーボールキック!

「あうううううっ!!」

あらららら・・・・・・あれは痛いわね。

畳み掛けるように悶えるすみれちゃんの髪を容赦なくつかんで引きずり起こす綾乃ちゃん。

「んのっ」

片手で髪を掴んだまま力任せにゼロレンジでラリアットを叩き込む!

「あぐううう!!」

綾乃ちゃんのラリアートをくらって、すみれちゃんは半回転しつつマットに叩きつけられ派手にダウン!!

雑だけどそれを補って有り余るパワーね。

足元で背中を打ってもがくすみれちゃんを見下ろすと、

「らぁ!」

無防備なすみれちゃんのお腹を踏み抜くように綾乃ちゃんのストンプが刺さる!

「げうっ・・・・」

「何寝てんのよっ!」

マットに打ち付けられ、悲鳴を漏らすすみれちゃんのお腹をそのままぐりぐりと踏みにじる綾乃ちゃん。

う〜〜ん、ハンパ無いわねえ

もしかしたら、本当に鬼の末裔なのかしら?

雛○沢出身とか?

それにしてもすみれちゃん・・・・いきなりのラフファイトの展開にフルボッコにされてるわね・・・・・。

やっぱり最初から全開の夜叉姫ってのはちょっと厳しかったかしら?

もしかして、このまま終わっちゃう?

「無様ねえ・・・ほら立て!!」

綾乃ちゃんはすみれちゃんの髪を掴んで立ちあがらせるとそのままロープへ振る!

そして綾乃ちゃんもロープへ走り、ラリアート!!

「はっ!」

瞬間短く叫んで体を流すようにジャンプするすみれちゃん!

そのままラリアートをかわしつつ、綾乃ちゃんの首に左腕を巻きつけると首を支点にして空中で旋廻!

「くっ」

そして遠心力を利用し左腕を離すと同時に、右腕を綾乃ちゃんの喉元にひっかけそのまま体重を乗せてマットに叩きつける!

変形の旋廻式ネックブリーカードロップ、首刈の大鎌、スリングブレイド!

「がふっ!」

しかもカウンター! まさに柔よく剛を制すのネコ仮面スタイルね。

実際あれは相当やっかいなのよ・・・

すみれちゃんは後転して距離をとってパッと立ち上がる。

開幕でかなり攻め込まれた仕切りなおしがしたいのね。

「ふん・・・」

一方何事も無かったようにぽんと跳ね起きると、ゆっくりと首を回す綾乃ちゃん。

「っ・・・・」

どこかが痛むのか少し顔をしかめつつ、乱れた息を整え身構えるすみれちゃんに綾乃ちゃんがゆっくりと近づいていく。

「しゃあっ!!」

間合いに入った瞬間、ノーモーションで掴みかかる綾乃ちゃん

「ふっ」

すみれちゃんは短く息を吐くと、掴み掛かってきた綾乃ちゃんの腕をとりつつ、半身になって突進の勢いを斬るように払う!

ばあん!!

勢いあまって大きく回転してマットに叩きつけられる綾乃ちゃん。すみれちゃんの家に伝わる柔術の投げね。

でも今の派手な音は受身をとってる証だからダメージはなさそう。

「・・・っ」

怒りに満ちた表情で立ち上がる綾乃ちゃん。ちょっとやそっとじゃ、あの勢いは止まらないわね。

それでもすみれちゃんは相変わらず自分から攻め込まず、距離をとって様子を伺ってるわ。

ぽす

様子を伺いながら間合いを取ろうとしたすみれちゃんの背中がコーナーマットに触れる。

「ははっ」

その一瞬を見逃さず弾丸のように突進する綾乃ちゃん。

勢いに押されすみれちゃんが倒れ_________________

「やあっ」

倒れたかに見えた次の瞬間、突進してくる綾乃ちゃんの膝にカウンターで低空ドロップキックが炸裂!

「くああっ!」

なんとか踏みとどまってダウンを回避したものの、思わず足を押さえて屈みこむ綾乃ちゃん。

「っ!!」

と、待ちの姿勢一転、綾乃ちゃんが声を上げる間もなくあっという間にその足を取るすみれちゃん、そのまま体をひねってドラゴンスクリュー!

「ぎゃっ!!」

綾乃ちゃんは連続の膝攻めに、にぶい悲鳴を上げてマットに転がる。

「んのぉおおお」

怒りで痛みを飲み込み、足を投げ出した状態のまま上体を起こすと掴みかかっていく綾乃ちゃん。

「っく!!」

すみれちゃんはとっさに後転してそれをかわすと、その勢いで立ち上がる!

でも、あれじゃ距離がとれないから捕まっちゃうわね。

ところが、すみれちゃんに掴みかかった綾乃ちゃんの方がコテンと後ろに倒れる。

見るといつの間にかすみれちゃんが綾乃ちゃんの足を取ってるわ・・・転がって逃げながら足を取って立ち上がる事で、掴みかかる綾乃ちゃんの重心を崩して捌いたのね!

「んのやろっ!」

手玉に取られて怒り心頭の綾乃ちゃんが再度掴みかかろうとするけど、すみれちゃんはフラと倒れこむかのような動きでかわし、重力に身を任せつつそのまま体をひねって回転する!

その脇には綾乃ちゃんの足を抱えたままで。

「ぎゃああああ!」

響く綾乃ちゃんの悲鳴!

グラウンド式のドラゴンスクリューだわ!

技を掛けられる側が体を回して力を逃がせないぶん、捻る力が全部膝に集中するより凶悪な膝殺し!

「ああああああああ!」

膝を押さえてゴロゴロと転げる綾乃ちゃん。流石の夜叉姫でもこれは堪らないわね。

「まだですよっ」

言うが早いかそのまま、足を絡めて足4の字固め!

「くあああああああああ!!!」

膝殺しのフルコースに絶叫する綾乃ちゃん!

これはに相当エグイ責めね・・・。

「あ、綾乃ちゃんギブアップ?」

朔夜君が綾乃ちゃんに尋ねる。

「だ、誰が・・・」

必死に耐える綾乃ちゃん。

「ならこれでどうですか!」

マットに手を付いて腰を浮かせ、より激しく締め上げる!

「あああああ!」

頭を抱えて絶叫する綾乃ちゃん。

「さあ!折れてもしりませんよっ!!」

叫びつつ締めを強める!

どうやらこのリングに鬼は一人じゃなかったみたい。

ネコを被った鬼もいたようね♪

「あ、綾乃ちゃん、ギ、ギブ?」

朔夜君が恐る恐る尋ねると、

「ふ・・・・・ふざけんなあっ!!」

綾乃ちゃんは絶叫するとに力ずくで体をひっくり返しちゃった!

こうなるとこれは、逆に極めているすみれちゃんが痛くなるわ。

「いやああああっ!!」

「ほらっ!この程度で私に勝てると思ったわけぇ!!」

すみれちゃんの方を向いて叫ぶ綾乃ちゃん。

「ラ・ガティータ、ギブアップ?」

「くううう・・・ノ・・ノーです!」

幸いにしてロープが近いので、必死にロープに手を伸ばしていく。

「くうっ!!」

すみれちゃんがロープをつかんだ!

「ブレイク!」

朔夜くんが、足4を解きにかかる。

「くう〜〜〜」

お互いに蹲っているわね。

綾乃ちゃんだって効いているってことは、さっきのはやせ我慢みたいね。

でも怒りにまかせてバッと先に立ち上がる!

「なにいつまで寝てんのよっ!」

「あうっ・・」

綾乃ちゃんはすれみちゃんの髪を掴んで立ちあがらせる

そして、足元のふらつくすみれちゃんにドロップキック!!

「ぐふぅっ!!」

すみれちゃんは吹っ飛ばされて、コーナーに激突して崩れ落ちる。

綾乃ちゃんはそこへ近づいていき、すみれちゃんを踏みつける!

「あうっ! あうっ! あうっ!」

ドカッ!と何発か踏みつけると、またすみれちゃんの髪を掴んで立ちあがらせ、

「きゃあっ!!」

コーナーにすみれちゃんの頭を叩きつける!!

「まだまだいくぞコラー!!」

すみれちゃんを反対のコーナーへと振った!

「あぐ・・・」

コーナーに激突し、ぐったりともたれかかるすみれちゃん。

「くらえーーーー!!」

綾乃ちゃんが走る!

コーナーでぐったりするすみれちゃんに、ボディアタック!!

・・・・をするけど、寸前ですみれちゃんにかわされちゃったわ・・・・

「げぅ・・」

自爆してお腹から激しくコーナーに激突し、変な悲鳴挙げる綾乃ちゃん。

あーあ、今度は綾乃ちゃんがコーナーでぐったりしちゃった。

「いきますよ!!」

今度はすみれちゃんが、串刺しドロップキックを叩き込む!!

「ぐはっ!!」

これは効いたわね〜。

「さっきはよくもやってくれましたね〜〜〜!!」

すみれちゃん、怒ってるわね〜〜〜♪

綾乃ちゃんを自分の方へ向けて、綾乃ちゃんにエルボー連打!!

「ぐ・・・う・・・・・」

抵抗できない綾乃ちゃん。

そんな綾乃ちゃんをフライングメイヤーで投げ倒し、腕ひしぎへ持っていこうとする!

「む・・・くくく・・・・」

綾乃ちゃんは自分の腕を掴んで堪える!

これはかからないわね。

なにしろ、単純な力じゃすみれちゃんよりも綾乃ちゃんの方が上よ。

すると、

「はいっ!」

「え?・・」

すみれちゃんは、あっさりと掴んでいた腕を放しちゃった。

いきなりのことに、綾乃ちゃんも一瞬キョトンとなる。

その隙に、すみれちゃんは綾乃ちゃんの足を掴んで担ぐように自分の肩へと回し、腕ひしぎの際にひっかけていた足で首を極める!

更に振り払おうと伸ばした綾乃ちゃんの腕を逆手でとってひねる。

あっという間に腕、首、足の3点をロックする、この技は・・・!

「florece!!!」

すみれちゃんが叫ぶと同時に、すみれちゃんの得意の複合関節技が極まった!!

あれはあのとき私もくらった技よね?

たしか・・・・

「La flor de Hades(冥界の花)!!」

そうだった、効くわよこれは〜〜〜。

私も此間の試合の時を思い出しても、ちょっと洒落になってなかったもの。

結局あの時はすみれちゃんが自分から技を解いたから良かったけど、十分フィニッシャーになる威力だったわ。

力ずくでは多分返せないと思うけど、綾乃ちゃんは外せるかしら?

「アアアアアアッッ!!」

体育館に響く、綾乃ちゃんの悲鳴。

ところで、今気づいたんだけど・・・・胸を強調するかのように体を弓上に反らされた上に股裂き大開脚って・・・こうしてみるとHな体勢よね。

なにしろ朔夜くんが、ギブを聞かずに少しばかり食い入るように(?)見ているし。

それはそうと、私もあの時こんな屈辱的な格好させられてたワケね・・・それはそれでなんかムカつくわ。

「さあ、ギブアップしなさい!!」

「いやああああああっ!!」

すみれちゃんが吼え、綾乃ちゃんが叫ぶ。

朔夜くんはようやくそれで気付いたようで、

「綾乃ちゃん、ギブアップ?」

と、慌てて聞いてるわ。

まあ気持ちはわからないでもないけどねえ。

「ノーーー!!」

綾乃ちゃんはギブしない。

でも、一向に逃げられそうにないわね、実際、力ずくでどうこうなる状態じゃないのよね・・・。

「あああああああっ」

「ふんんっ」

綾乃ちゃんの絶叫を無視し、今回はコレで決めるべくより絞めをきつくするすみれちゃん。

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ガブッ!!!」

「きゃあああああああああっ!!!」

うわっ!綾乃ちゃん、すみれちゃんの足にかみついたわ!!

いきなりのことに、技を解いて逃げるすみれちゃん。

あらら、冥界の花しおれちゃったわね。

「うう〜〜・・・痛い〜〜」

涙目のすみれちゃん

見ると、少し跡が残ってるわ。

あれは三日は消えないわね・・・・・。

「綾乃ちゃん、噛み付きは反則だっ!」

その様子を見て朔夜君が綾乃ちゃんに言うけど、

「何?、今何か言った?」

ぐると振り向くと作り笑顔を貼り付け、朔夜君にずずいと詰め寄る綾乃ちゃん。

「は・・・反則なんですが・・・5秒以内なので・・・特に問題ありません」

目が泳いであっさりヘタレる朔夜君。まあこうなるとは思ってたけど・・・・。

「さ、朔夜さん!!」

朔夜くんのあまりのヘタレっぷりに、綾乃ちゃんの肩越しに身を乗り出し悲鳴のような抗議の声をあげすみれちゃん。

まあ、そりゃそうよねえ。

「ふんっ!」

いきなり綾乃ちゃんのノールックの裏拳がすみれちゃんの顔をかすめる!

「きゃっ」

直撃は避けたものの、足がもつれてよろめくすみれちゃん。

「うらあっ」

綾乃ちゃんはその隙を逃さず組み付くと、逃げようとするすみれちゃんを河津落としでマットに叩きつける!

「ふぎゃ!」

流石に柔道やってるだけあってキレのある投げだけど、確か河津掛けって柔道じゃおもいっきり反則技だったわよね・・・。

もう徹底したラフファイトで行こうって感じね。

「おかえしっ!!」

さらに綾乃ちゃんはすみれちゃんの腕を取って、腕ひしぎに持っていく!

しかし、

「なっ!!」

綾乃ちゃんから驚きの声が上がったの。

私もすみれちゃんのとった行動を見て驚いたわ!

すみれちゃんは腕を引っ張られたときに、力で抵抗せずに体を丸め込むように綾乃ちゃんの方へ転がっていったの!

3カウントのプロレスルールならではの返し技ね。

綾乃ちゃんはすみれちゃんの腕を放して逃げようとするけど、完全に抑えつけられちゃった!

エビ固めの体勢よ!

「フォール!」

そこで朔夜くんがカウントをとる。

「ワン・・・・・ツー」

「くっ!」

2で返される

するとすみれちゃんはロープへと走り、立ち上がった綾乃ちゃんにフライングボディアタック!!

「キャッ!」

すみれちゃんが、綾乃ちゃんを押しつぶした!

そしてそのまま片足を取ってフォール!

「ワン・・・・・ツー」

「くっ!」

さっきと同じで、2で返される

「逃がさないわよ!」

立ち上がろうとしたすみれちゃんに綾乃ちゃんがしがみつく綾乃ちゃん

確かに、捉え所の無いすみれちゃんを捕まえるのは大変だからこの方が楽よね。

「うりゃあっ」

スマートな方法とは決して言えないけどながらも無理矢理引きずり倒してテイクダウンをゲット。

「ふっ」

マウントを取ろうと圧し掛かってきた綾乃ちゃんに対して自分からペタンと仰向けに寝てしまうすみれちゃん

そして綾乃ちゃんが膝をマットに付ける寸前、その足の脛辺りを下から掌で受けて支えるようにして少し持ち上げずらす

「あっ」

重心の乗った足をとられバランスを崩し前のめりに倒れる綾乃ちゃんの股の間を、すみれちゃんは事も無げにするりとくぐって背後にまわる

何気にくぐるついでに足を絡めて押さえているわね。実際、あの同時進行する動きが物凄く厄介なのよね・・・

「こんのっチョコマカと!」

綾乃ちゃんがすみれちゃんを捕まえようと頭越しに背後に手を伸ばすけど、待っていましたとばかりにすみれちゃんはその両腕をあっさりと捕まえちゃった

「っ!」

綾乃ちゃんがしまったという顔になる間に背後から首を絞めつつその手で綾乃ちゃんの左手首を掴んで極めてしまうすみれちゃん。

ご丁寧に残った右腕も肘を支点に逆手にして体の間にはさんで動けなくしてるわ

「はなせっ!」

綾乃ちゃんは体をねじって抜け出そうとするけど・・・

「無駄ですよ!」

すみれちゃんはそう言うと絡めていた足を払うようにして開脚させて膝を支点にして抑えこんじゃった。

「がふっ」

苦しそうな悲鳴を上げる綾乃ちゃん。なるほど綾乃ちゃんを開脚させて腰の高さを落とす事で首に回した腕で頚動脈を絞めるているのね

「horca de la estrella!!」

スペイン語の意味は良くわからないけどエストレーリャって確か星の事よね?

肘と膝を曲げて極められている綾乃ちゃんのシルエットは確かにちょっと星っぽいかもしれないわね。

「ホルカ・デ・ラ・エストレーリャ!! ラ・ガティータビオレタ得意の複合関節技はSYURAの女王に死兆星を見せるのか〜!」

星をキーワードにとりあえず適当にそれっぽいアナウンスを入れてみる。これなら違ってても問題ないでしょ

「・・・あぐぐ」

綾乃ちゃんの顔が真っ赤に染まる

これはかなり結構ハードな絞め技ね、これも十分フィニッシャーになりそうだけど・・・あら?


・・・まーた朔夜君ったらギブの確認も忘れて呆けて見いってるわ

まあ、良く見れば、今の綾乃ちゃんって大また開きでボディラインを強調するようなグラビア風ポーズを取らされてるようなものね

「きゃーん最高!!」

リングサイドで美奈子ちゃんが身を乗り出して写メ撮りながら大喜びしてるし・・・

すみれちゃんの複合技は極められる方にとってはどうにもえっちくて屈辱的なのよね、困ったものだわ。

「れ、レフリー!」

不穏な空気を感じ取ってすみれちゃんが朔夜君に叫ぶ

「あ、ああ・・・綾乃ちゃんギブ?」

朔夜君はとりあえずな空気丸出しで綾乃ちゃんに確認するけど、小さく首を横に振って拒否する綾乃ちゃん

「そ、そう・・・」

事務的な確認を終えまた綾乃ちゃんを特等席で凝視する作業に戻る朔夜君、もう男の子ってのは本当に・・・

「・・・うぬぬ」

その様子を見てみるみる不機嫌な顔になっていくすみれちゃん、

「うにゃーっ!!」

と変な声をあげ技を自分から解いちゃったわ、まあ気持ちはわからなくは無いわねえ

「え!あれ?」

突然の事で我に返った朔夜君を完全に無視して

「お次はこれです!」

綾乃ちゃんをヘッドロックで捕らえるすみれちゃん

「ぐぐっ・・・・」

グイグイと綾乃ちゃんを締め上げる!

「こ・・・・の・・・」

強引に外そうとする綾乃ちゃん。

そこですみれちゃんは自分からヘッドロックを、パッとはずしちゃった!

そして___________、

「あれはっ!?」

思わず声がでちゃった!




5.武の技巧






[朔夜]

ネコ少女がいきなりヘッドロックを放したと思ったら、クルクルとすばやく2回転しつつ反対サイドに回りこむとその勢いのままカニ挟みで綾乃ちゃんを倒したんだ!

あの技はライガースピン!!

仮面ライガー・・・ライガーマスクの得意技の一つだ!

ネコ少女はこの技も身につけていたのか!

一瞬、DVDで見たライガーマスクの姿とネコ少女が重なって見えたようなそんな技のキレ味だった。

「くくく・・・・この、ドロボーネコぉ・・・・」

さっきと同じ足をまた極められかなり苦しそうな表情の綾乃ちゃん。

「さあ、ギブしなさい夜叉姫!」

尋常でないスタミナを誇る夜叉姫相手に、関節の一点集中攻めは確かに理にかなっていると思うけど、

「ふ・・ふざけんじゃないわよ・・・!」

綾乃ちゃんがロープへと這っていく。

相変わらずものすごい気力とパワーだ。

やっぱり、夜叉姫からタップをとるのは無理な気がするんだよね・・・・・。

あっ!ロープをつかんだ!

「ブレイク!!」

ぼくはネコ少女に足を放させる、そのまま後転して立ち上がるネコ少女。

「ぐ・・・」

足を押さえ痛そうな綾乃ちゃん。夜叉姫とはいえ一点膝責めはやはり効果的みたいだ。

ラッシュを掛けられるチャンスだと思うんだけど、まだネコ少女は様子を伺っている。

なんというか獲物の弱り具合を観察するハンターって感じだ。

「なめんじゃないわよ!」

その様子に苛立ったのか、綾乃ちゃんはがばっと立ちあ上がる。

と、その瞬間一転して、綾乃ちゃんの正面に走り込むネコ少女。

綾乃ちゃんが虚をつかれた隙にマットに飛び込むと、一瞬反応が遅れた綾乃ちゃんの横をそのまま前転して潜り抜ける。

慌てて振り返ると、


「やっ!」

無防備な綾乃ちゃんのお腹に、ネコ少女のカンガルーキックが突き刺さっていた!

「げうっ・・・!」

まるで後ろに目がついてるかのような見事な一撃に、鈍い悲鳴を上げ前のめりになる!


「っ・・・効かないわよ!」

強がりなのかはわからないけど、綾乃ちゃんが短く吼えて蹴り足を戻したネコ少女の背後から組み付く!

「はいっ」

するとネコ少女は組み付かれた勢いに逆らわず、マットを軽く蹴ってぽーんと足を上げると綾乃ちゃんの背中に背中合わせになるように乗って逃げる。

そして慌てる綾乃ちゃんの首を太股でロック!

綾乃ちゃんは膝立ちになりつつ上体を起こして振り落とそうとするけど、ネコ少女はそれあわせて足を組み替える。

脚で首を絞めつつ重力を利用して体重を乗せてクラッチ。

そして振り払おうと出した綾乃ちゃんの腕を逆手にとり捻ってホールド!


「Arbalesta!!(アルバレスタ)」

技名なのか掛け声なのかよく分からないけど・・・ルチャだからやっぱりスペイン語なのかな?

ネコ少女は叫ぶと同時に見た事もない複合技をガッチリと極める!

技の入り方から極め方までがアクロバテイックでトリッキーなのに、正確で素早くて・・・あれじゃ掛けられる方は対応のしようもないよ!

「がはっ!」

綾乃ちゃんが声にならない鈍い悲鳴を漏らす。肢が首にガッチリ入っているので声は出せなそうだ。

腕も極められてて動かせないから、これじゃタップも出来そうもない・・・。

「綾乃ちゃん、ギブアップ?」

レフリーの職務に沿って聞いてみると、わずかに首を横に振ってノーの意思表示をする綾乃ちゃん。

「そうですか」

ネコ少女はその様子を見て冷静に言い放つと、容赦無く反動を付けて重心を後ろに掛けクラッチを強める!

綾乃ちゃんの体が不自然なぐらい弓なりに反らされ、背骨がギシギシと軋むのが伝わってくる。

ネコ少女はそんなに力は強くないんだけど、重力を利用し全体重を乗せたあのクラッチの威力は力自慢の筋力に頼った技より凄そうだ。

「・・・・・げくはっ・・・」

綾乃ちゃんの口から音にならない鈍い呻きが漏れる、これはもう止めなきゃ駄目だよね?

両手交差させレフリーストップの表明をしようとした時、

「−−−−−−−−−−−−!っ」

ギロ、と夜叉姫がコチラを物凄い形相で睨んでいた!

目が生きているというか、眼光の圧力がハンパ無い・・・・・。

『途中で試合を止めたりしちゃダメよ。そんな事したら・・・ほんとうに大変な事になっちゃうんだから、ね?』

試合前の綾乃ちゃんの言葉が脳内に響く。

「あわわわ・・・」

ぼくは試合を止めることができなかった。

「ちょ!朔夜さん!?」

ネコ少女が怒ったような困惑したような声をあげる、いや気持ちはわかるんだけど・・・・。

実際、綾乃ちゃんの、夜叉姫の眼は死んでない。

レフリーとして止め時を迷うのは保身のためだけってワケじゃない・・・よ、うん。

勿論二人を無事リングから降ろすのもレフリーの仕事だから、それだけは何があっても全うしなきゃならないのはわかってるけど・・・・・・。

「くあっ」

自分に言い聞かせているとネコ少女の悲鳴が耳に飛び込んできた。

見ると綾乃ちゃんの指がネコ少女の腕にメリメリと食い込んでる。

「ぐううっ・・・・」

苦痛に顔をゆがめるネコ少女。あの様子だと相当ツラそうだ。

「くぅっ」

我慢比べになるかと思ったら、ネコ少女は技を解くと蹴って離れる!

つかまれてた腕は鬱血して青くなっていた。

綾乃ちゃん・・・逆手の状態でどんな握力なんだよ・・・。

「げふっごふごふっごふ・・・」

綾乃ちゃんは流石にマットに両手をついてムセている。

「ううっ・・・」

ちょっと涙目のネコ少女。確かに夜叉姫と闘うと生傷だらけになるんだよなぁ・・・。

「やって・・・くれたわね・・・」

ムセながらも立ち上がる綾乃ちゃん。どんな体力なんだろうね・・・ほんとに。

「・・・」

少し驚いた顔をしつつも、黙って構えなおすネコ少女。

「あんたの技なんて・・・」

そんな様子にはお構いなしに近づいていく綾乃ちゃん。

「全然効かないのよっ!!」

捕まえに来る綾乃ちゃんの腕を柔道の組み手争いのようにはじくネコ少女!

それでも気にせず反対の腕で大降りのラリアット

これを咄嗟にダッキングして交わすと、勢い余って半回転して背中を向けた綾乃ちゃんに一歩踏み込んで、膝を伸ばしつつシフトウェイトの勢いを利用して肩で体当たり!!

「がはっ・・・」

中国拳法や柔術で良く見られるタイプのカウンターな当身技に弾き飛ばされてマットに突っ伏す綾乃ちゃん!

「何が効かないんですって?」

4つん這い状態の綾乃ちゃんに対し、後ろからまるで見下ろすかのような言葉を投げつけるネコ少女。

見切り、受け流し、逸らし、理によって力を制する、まるで絵に描いたような武の技巧!

これはひょっとして凄い物を見てるんじゃないだろうか?

夜叉姫状態の綾乃ちゃんの強さは嫌と言うほど知ってるからこそ、それを相手にこんな事が出来るなんて・・・。

これはもうスタイルの相性だけで片付けられるレベルの話じゃないと思う、・・・一体この娘は何者なんだ?

「ぐぐぐぐ・・・・」

息を呑む会場に手玉に取られた夜叉姫の歯軋りの音が響く。

「もう、終わりですか?」

4つん這いで肩で息をする綾乃ちゃんの背中に、追い討ちを掛けるかのようなネコ少女の声が響く。

「ふざけんなあああっ!」

夜叉姫が声に弾かれた獣のように低空タックルで突進する!

「甘いですよ!」

上からガブッて抑え、タックルを切るネコ少女!

まさに教科書どおりの対応だ!

「!」

でも綾乃ちゃんはそのまま突進、柔道の諸手狩り、という程きれいじゃないけど力任せのタックル!

綾乃ちゃん執念のテイクダウン成功!

「ふっ」

と思いきや既に首に手を回し、フロントネックロックの体勢に入っているネコ少女。

必死にテイクダウンをとってもグラウンドはネコ少女の牙城だ・・・もしかしてこれも折り込み済みの展開?

「ぐぐぐぐぐっ」

綾乃ちゃんから濁った悲鳴が漏れる!

「うぐぐ・・・・」

なんとか抜け出そうと膝立ちなって立ち上がろうとする!

「無駄ですよっ」

容赦なく頭を下げさせ抱え込むように引付け締めを強めるネコ少女。

「げうっ・・・」

これだけガッチリ締め上げられれば夜叉姫といえどどうしようもない

「・・・・」

綾乃ちゃんの動きがとまり声が消える、これは落ちたかな?


6.SYURAの女王


確認のために綾乃ちゃんの顔を覗き込むと眼がだんだん上を向いていっていわゆる白目になっていく

ぐるん

落ちた、と思った瞬間、眼球がこちらに戻って眼が合った、ぞっとするような夜叉姫の赤い眼___________

心臓を冷たい手で鷲掴みにされたような感覚が体を突きぬけ思わず後ろに尻餅をついてしまう

「・・・・・ふぐ・・・・・」

ゆっくりと膝立ちの状態から足を伸ばし立ち上がる夜叉姫、その脇にはネコ少女の足をしっかり抱えている

「む、無駄ですよ!」

首にはネコ少女の腕が巻きついているので流石に上体は起こせないんだけど・・・ネコ少女の声も動揺の色は隠せていない

と、ふわとネコ少女の背中がマットから離れる。首にネコ少女をぶら下げたままで上体を起こしはじめる綾乃ちゃん

確かに上体を起こせばネックロックは重心が変わって効果は激減する。でも・・・足を取っているとは言え・・・首に人をぶらさげたまま・・・綾乃ちゃん本当に人間??

「げふげふげふげふげふっ・・・・ぜーぜーぜーぜー・・・」

上体を起こしきると、むせるように息をする綾乃ちゃん

「そ・・・そんな・・・・!」

あまりの事に驚愕するネコ少女。

流石のネコ少女もこの展開は予想外だったようで、足をガッチリ捕まえられているのもあるだろうけど、ただしがみ付いてるだけで固まって動けない!

・・・まあ詰め将棋をやっていたら盤ごとひっくり返されたようなものだろうからね・・・。

とはいえ、この体勢からじゃ綾乃ちゃんにも有効な攻め手は無さそうだけど・・・。

体ごとマットに叩きつけても下手すればまたネックロックに入られる可能性もあるし。

「・・・やっと捕まえたわ・・・」

ゆらりと綾乃ちゃんが動く、一体どうする気なんだ!?

「くっ・・・」

不安定な体勢で重心を保つのもままならないネコ少女を尻目に、ステップを踏みはじめ・・・・いや違う・・・回転?

「んぬうううううう!」

ネコ少女の足を抱えたまま回転しはじめる綾乃ちゃん。これは・・・。

「あっ!」

遠心力に負けネコ少女の手が外れ、上体が大きく伸びるように外に振り出される!

ジジ・・・ジャイアントスイング!?

「おおおおおおおおお!」

場内から驚きの声が漏れる!

「んのおおおおおおおお!!」

「きゃああっ」

綾乃ちゃんの叫びとネコ少女の悲鳴が交錯する!

「キャ〜〜〜〜〜ア〜〜〜〜〜ア〜〜〜〜〜ア〜〜ア〜〜」

「イーチ! ニー! サーン! シー! ゴー!」

ぶんぶんとぶん回す綾乃ちゃんに合わせ場内みんなでお約束のカウントの大合唱!

そして13回も回した後にネコ少女を放り投げた!!

「がっ」

ロープに弾かれマットに落ちる!

でも・・・ジャイアントスイングは派手で盛り上がりはするけども、掛ける側の体力消耗に見合う程の大ダメージを期待できる技じゃない気がするなあ。

「くっ・・・」

案の定ネコ少女はすぐに立ち上がってくる!

もしかして綾乃ちゃんは場外に投げ出すつもりだったのかな?

確かにそれなら一発逆転の大ダメージを狙えたかもしれないけど危険すぎる・・・・。

まあ他に手立てがあったかは置いといて、今の状況ではちょっと割りに会わない技だったような気がする。

「ちっ・・・」

体力消耗もなんのその、綾乃ちゃんは様子を伺うネコ少女の方に無防備に近づいていく。

でもこれじゃ結局さっきまでのリプレイだ・・・。

綾乃ちゃんは大きく振りかぶってベイダーハンマーのように力任せのオープンハンドブローを振るう!

そんな大振りの打撃じゃネコ少女には通用しないよ。

ドガっ!!

「くぅっ・・・」

と、ネコ少女から小さい悲鳴があがる。え?

みると頭を抱えるようなガードごと打ち崩すように打撃が炸裂していた!

ネコ少女だったらあんな大振りの打撃なんて、ガードなんてせずにいくらでも見切って反撃しそうな物なのになんで!?

ドガッ!!

間髪いれず逆の腕が叩きつけられる!

ガードの上から押しつぶすような打撃に体を丸めるネコ少女。

ドガッ!!

ガードにお構いなくさらに逆の腕から打ち上げ気味の打撃が炸裂!

ヨタヨタとよろけてコーナーにぶつかるネコ少女、足元が完全に定まっていない。

・・・・そうか!!さっきのジャイアントスイングだ!

あれで三半規管を揺らされたネコ少女は得意の力の流れを見切って返すような戦い方が出来なくなっちゃったんだ!

あのジャイアントスイングは捕らえどころの無いネコ少女のアクロバティックなムーブを封じる目的だったのか!

綾乃ちゃんが本当にこれを狙っていたかどうかはわからないけど・・・何にせよ大チャンス到来だ!

ゴスッ!バキッ!ドスっ!!

コーナーに詰まったネコ少女に左右から、重いハンマーが次々に炸裂!!

「ぐっ・・・」

ネコ少女はかろうじてサードロープに片腕をかけてぶら下がり、なんとかダウンを免れている。

でもかなり効いている。

「ふん・・・」

綾乃ちゃんはその顔を覗き込むように確認すると、ネコ少女に背を向けてリングの中央の方に歩き出す。

「おい、ネコ!しっかりしろ!」

神楽ちゃんが叫ぶけど、ネコ少女は動けそうに無い。

と、突如踵を返してネコ少女へ突進する綾乃ちゃん!

そのままの勢いで・・・・ショルダータックル!!

「うぐぇっ!!」

コーナーマットでサンドされたネコ少女から鈍い悲鳴が聴こえ、崩れ落ちる。

「・・・散々好き勝手言ってくれちゃってたわよね」

足元のネコ少女見おろしながらボソリとつぶやく綾乃ちゃん。


「オラぁッ!!」

「あうっ!!」

ネコ少女の鳩尾にケンカキック!

「このっ! どろぼう! 猫がっ!」

「ううっ! くうっ! あっ! くうっ!!」

綾乃ちゃんのストンピングの連打を、体を丸めてこらえるけど・・・・これはかなり効いてる。

綾乃ちゃんはひたすらすみれちゃんを蹴った後、髪を掴んで上体を起こした。

ちょっとグロッキーなすみれちゃんに、

「起きろクソネコッ!!」

「きゃうぅぅっ!!」

パシッパシッと往復ビンタ!!

そしてそのままネコ少女の腕を取って勢いよく引き起こす!

「がはっ!」

と、引き起こされた勢いを逆に利用して、ネコ少女のカチ上げ式エルボーがカウンターでヒット!

上手い切り替えしだ。

思いっきり顎を跳ね上げられ、真上を向いた状態になる夜叉姫

これは効いたか!

ネコ少女はその様子を見て取ると、間髪入れずローリングエルボーの体勢に入る!

「・・・・効かないんだよッ!」

吼え声とともにスピンを上から叩き潰すような勢いで夜叉姫のノータッチヘッドバットが炸裂!

「ぎゃんっ」

弾き飛ばされ再度コーナーに叩き込まれるネコ少女!

「ううっ・・・」

夜叉姫は呻くネコ少女を捕まえると

「せやあっ」

そのまま裏投げ!

ばあん!

「ぎゃふっ!」

荒々しいラフファイト一辺倒の今回にしては、久しぶりの綺麗な柔道技がきまった!

「ふん」

綾乃ちゃんはカバーには入らずに立ち上がると、反対側のコーナーに歩いて移動する。

「うぅ・・・」

呻きながらもネコ少女がヨロヨロと立ち上がろうとした時、

「いくぞぉ!」

綾乃ちゃんが吼え、ネコ少女に矢のように突進する!

これは!・・・・ラリアート+大外狩り・・・・必殺のSTA!!

どがーん!!

パワー、スピード、タイミング、全てが完璧な一撃!!

めり込んだんじゃないかというような物凄い勢いでマットに叩きつけられ、ネコ少女は低く呻いて動けない!


僕も何度も喰らった事があるから良くわかるけど・・・これは超強烈だよホントに、多分フォールされても返せないだろう。

綾乃ちゃんは両手を上げてどうだとばかり会場にアピール。

「SYURAのマットを蹂躙する外敵に、女王の怒りの必殺技が炸裂!これは強烈!!」

奈々子さんが合いの手の実況を入れ会場から歓声があがる。

無尽蔵の体力で相手の攻撃を受けきり、ワンチャンスの爆発力で一気に叩き潰す。

綾乃ちゃんの、夜叉姫のファイトスタイルの真骨頂をまざまざと見せ付けられた感じだ。


7.猛る鬼神


「ははん?もう終わり?」

綾乃ちゃんはフォールにいかず満足そうに歓声に応えつつ、足元のネコ少女を見下すように言葉を投げつける。

「ま・・・まだ・・・・」

ネコ少女はなんとか体を返して4つんばいになって起き上がろうとしてるけど、足に力が入らないのか立ち上がれない。

「あたりまえでしょっ!!」

綾乃ちゃんの蹴りがネコ少女の脇腹にヒット!

「げうっ!」

蹴飛ばされてごろごろとエプロンの際まで転がる。

「落ちろオラッ!!」

そんなネコ少女を、場外へ蹴り落とす!

「この程度で終わりにしてもらえるとでも思ってたワケ?」

そう言うと綾乃ちゃんも場外へ下りる。

とりあえずぼくは、場外カウントをゆっくり目に数える。

・・・速く数えて、両者リングアウトにでもしちゃったら、綾乃ちゃんから何をされるかわからないし。

「みんなどいてっ!」

綾乃ちゃんがそう言うと、みんな慌てて椅子から離れる。

そこへ、

「この・・バカネコーーーー!!!」

椅子の方へとネコ少女を振り、ネコ少女は椅子に突っ込んだ!!

「くううううう・・・・」

椅子の上に倒れ、呻くネコ少女。

綾乃ちゃんは椅子を取って畳み始め、ネコ少女の上に置いていく。

三つほど重ねると、

「バカネコ〜〜・・・死ねっ!死ねっ!死ねっ!死ねっ!」

椅子の上から踏みつける!

「ぐっ!・・・ぎゃっ!・・・ぎゃっ!」

踏みつけられるたびに、鈍い悲鳴を上げていく。

このままだと、本当に殺されちゃうかもしれない・・・・・。

「こ〜〜〜〜のっ!!!」

綾乃ちゃんが椅子の上にボディアタックをかました!!

「ぐぎゃっ!!・・・・・」

あ・・・・ネコ少女静かになった・・・・・。

もしかしてやばいんじゃ・・・・・。

ぼくは奈々子さんの方を見ると、「大丈夫」というように微笑みを返してきた。

まあ・・・奈々子さんがそう言うなら・・・・大丈夫・・・・かも。

「ははん!思い知ったぁ?、この性悪のチョロネコが!!」

綾乃ちゃんが叫ぶと

「あ・・・!」

「ホントだあ!色とかもすっごい似てるー」

小学生組みが何やらきゃいきゃいと反応してる・・・チョロネコ・・・ポケモンかな?

綾乃ちゃんは椅子をどかし、ぐったりしているネコ少女を引き起こして、リングへと投げ入れる!

綾乃ちゃんもリングへと上がり、ネコ少女をリング中央へ。

ネコ少女は、意識朦朧としているのか抵抗できない。

ただ綾乃ちゃんがコーナーポストに上っていくのを見ているだけしかできないみたいだ。

「ネコーーー!!起きろーーーー!!」

神楽ちゃんが叫ぶ。

でもネコ少女は大の字になったままだ。

「いくぞーー!!」

綾乃ちゃんがコーナーの上で拳を突き上げ、飛んだ!

フライングボディプレス!!

「おおっ!!」

みんなの声が挙がった。

しかし、ネコ少女はマットを転がってそれを避け、綾乃ちゃんはマットに墜落した!

「く・・・この・・・」

怒りの形相で立ち上がる綾乃ちゃん。

フラフラと立ち上がってきたネコ少女に近づいて、担ぎ挙げた!

綾乃ちゃんは、得意技の一つ「肩車」をやるつもりなんだ。

「そうは・・・させません!」

「あっ!」

担がれたネコ少女は、ポンと跳んで綾乃ちゃんの肩からマットに着地した。

ボコボコにされながらも、ようやく三半規管の揺れは収まったみたいだ。

そして、驚いている綾乃ちゃんの手を取ってひねって投げる!

柔術で見られる投げ技だった

「あうっ!」

思いがけない反撃に、綾乃ちゃんは受け身が取れなかった!

そういえばネコ少女はどこで身につけたか知らないけど、ルチャだけじゃなく古流柔術も使うんだ!

そして綾乃ちゃんを投げたネコ少女は、綾乃ちゃんを無視して古流の呼吸法を始めた。

今のうちに少しでも回復するつもりなんだ

「・・・死にぞこないが・・・やったわね!」

綾乃ちゃんが立ち上がり、ロープへと走る!

でも、その間もネコ少女は突っ立って呼吸をしている

「コノーーー!!」

そして反動つけ、綾乃ちゃんのラリアート!!

その時、ネコ少女が動いた!

「おおおおっ!!!」

体育館にいる全員が声を挙げた!

綾乃ちゃんのラリアートを、倒れこみながら脇固めで返したんだ!

「くくく・・・」

綾乃ちゃんは脇固めが完全に極まっているから逃げられない!

「ギブアップ?」

綾乃ちゃんに聞いてみると、
 
「す・・・するわけないでしょ・・・・・くうう・・・・・」

顔をゆがめながらも堪える綾乃ちゃん。

「・・・・ふー・・・・・ふー・・・」

ネコ少女は固めながらも深呼吸を繰り返し、回復に努めてるみたいだ。

「ふっ!」

綾乃ちゃんがマットを蹴って前転する、脇固めの返し方としてはポピュラーな方法だけど・・・。

「逃がしませんよっ」

腕を取ったままなのでネコ少女がそのままアームロックにに移行する。

「んんんっ!」

ネコ少女の声を無視して伸ばした綾乃ちゃんの足がサードロープにかかる、成程これを狙ってたのか。

しまったという表情になるネコ少女にブレイクを告げる。

仕方なく綾乃ちゃんの腕を放して立ちあがるネコ少女に、

「おらぁっ!!」

綾乃ちゃんが不意に体当たりをしていった!

「ぎゃん!」

マットになぎ倒されるネコ少女。

「調子のってくれたじゃない」

倒れたネコ少女の髪の毛をむんずと両手で鷲掴みにする綾乃ちゃん。

「うあっ」

ネコ少女は綾乃ちゃんの腕を掴んでなんとか逃げようともがくけど・・・

「・・・ふん」

綾乃ちゃんはニヤリと笑うとそのまま力任せに引っ張りまわす!

「いたああい、やっやめ・・・!あうっ!」

強引に引き回され足をもつれさせ、膝をついて崩れるネコ少女。

「・・・・・」

その髪を鷲掴みにしたまま、ニヤーっとまるで切れ込みのような笑みを浮かべる綾乃ちゃん。

綾乃ちゃんの一番怖い顔だ・・・・。

「・・・・ひっ」

ネコ少女の怯えの色にお構いなく、そのまま更に容赦なく引き手に力を込める。

「あははははははははははははははははははは」

「いやああああああ!!!」

狂気の笑い声をあげネコ少女を力任せに引きずり回す!

ネコ少女は必死にしがみついて体勢を立て直そうとするけど・・・

がんっっ!!

「ぎゃうっ」

顔からにコーナーマットにたたきつけられ鈍い悲鳴を上げる!

「はあい、お次はこれでちゅよー」

綾乃ちゃんはケラケラ笑ってネコ少女の顔面をロープに押し付け、そのまま引き摺り始めた!!

「いやあああああああ!!・・・熱いーーーー!!!」

ネコ少女から悲痛な叫びが挙がる!

あ・・・・あれは酷い・・・・。

「あ・・綾乃ちゃん、それ反則! ワン・・・・ツー」

綾乃ちゃんは手を放し、ネコ少女はコーナーで顔を抑えてうずくまる。

「なあに朔夜君・・・・このドロボーネコの味方をする気?」

目が笑ってない笑顔のままぐるんッと振り返る綾乃ちゃん。

動きが怪物っぽくて・・・こわい・・・。

「いや・・・その・・・・そういうわけじゃなくて、レフリーとして・・・・」

慌ててそう答えると、綾乃ちゃんは「ふんっ!」とネコ少女に向き直る。

「このクソネコッ!なに朔夜に庇ってもらってんのよ!!」

綾乃ちゃんはネコ少女の髪をつかんで立ちあがらせ、コーナーにネコ少女の頭を叩きつていく!!

「ギャッ!ギャッ!」

それだけじゃなく、

「ふんっ!」

ガツッ!とネコ少女の頭にナックルアロー!!

「ふぎゃっ!!」

悲鳴を挙げるネコ少女を、今度はヘアーホイップ!!

「ひいいっ!!」

ちなみに、女の子は髪長くて掴みやすいし、ぼくも頭にくると使うけど・・・・・。

「うう・・・うううう・・・・・」

えげつない攻撃の連発に、ネコ少女は涙を流し始めた。

わかるよネコ少女の気持ち。

夜叉姫とやると本当に泣きたくなるし。

「まだ終わんないわよ!!」

また髪を掴む綾乃ちゃん。

「せーーーーのっ・・・・・・ふんっ!!!」

ガンッ!!!

「がっ・・・」

うわっ・・・ネコ少女の後頭部に、強烈なヘッドバッド!!

ネコ少女は後頭部を抑えてもがき苦しむ。

え・・・エグイ・・・・・ここまでやるかふつう・・・・・。

「あははははははははははははははははははははははは・・・・ホント無様♪」

ネコ少女を見下ろし、竜○レナみたいに笑い出す綾乃ちゃん。

まさに鬼いや夜叉か・・・・もしかしたら本当に雛○沢症候群に感染しちゃっているのかもしれない・・・・・。

見ているみんなも・・・奈々子さんですらちょっと引いちゃってるし。

もうフォールして終わらせてあげればいいと思うのは、ぼくだけじゃないはずだ。

「立ちなさいよぉ!!」

ネコ少女を立たせる。

綾乃ちゃん、徹底的にやるつもりだ・・・・・。

「あ、綾乃ちゃんもうそれぐらいで・・・」

「何言ってるの?あたしはネコちゃんの処刑を見せてあげるって言ったじゃない?」

「しょ、処刑って・・・!」

「なんて言っても本当に殺すワケにもいかないしー」

「あ、あはは、そ・・そうだよね、綾乃ちゃん、冗談キツイんだから・・・」

「だから代わりにネコちゃんの仮面を引き裂いてあげる事にしたの、平和的でいいアイデアでしょ♪」

「っ!!」

綾乃ちゃんの宣言にネコ少女がビクリと反応する。

うわっ!!綾乃ちゃん、本当にネコ少女のマスクを引きちぎろうとしているよ!!


「イヤーーーーーーーーーーーーー!!やめてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

破られまいと必死に抵抗するネコ少女!

僕もネコ少女の正体には興味深々だけど・・・それはいくらなんでもあんまりな気がする。

ネコ少女の正体には言及しないというのが、ぼくたちの暗黙の了解みたいなものだし。

でも、プロレス的には定番の展開であって反則じゃないんだよね・・・・・。

「あはははははははははははは!!やめるわけないじゃなああああい!!」

しがみ付くネコ少女の抵抗なんて全く物ともせず、その指に一層の力が加えられる。


「いやあああああああっ!!」

バリバリバリッッ!!

布地が引き裂ける音が響き、ネコ少女がマットに倒れ込んだ。


8.神獣ライガー




「あははははははははははははははははははははははははははははははははは!」

狂気の笑いを上げる夜叉姫の手には、引き裂かれたネコミミとマスクの一部が握られていた。

あの感じだと片耳と片目は完全に剥ぎ取られてるみたいだ。

片側半分はまだ残っているみたいだけどもうマスクの体は成さないだろう

「・・・うう、みないで・・・」

夜叉姫の笑いが響く中で、ネコ少女は顔を押さえて呻く。

裂かれたマスクから髪の毛がこぼれ落ち目元に掛かってるとはいえ、押さえた手をどければ顔は見えてしまうだろう。

ネコ少女の素顔に興味が無いとは言わないけど・・・、流石にちょっと可哀想な気がする。

「ね、ネコっち!」

見かねた神楽ちゃんが横断幕の布のはいったダンボールを抱えて駆け寄る

ばっと布をネコ少女の頭を隠すように被せる神楽ちゃん

「もう大丈夫だからな!」

そう言うとネコ少女の頭を抱えて目隠しすると、自分も顔を見ないように顔を背けながらコーナーに連れて行く。

「なあにやってるのよ!」

コーナーに登って引きちぎったマスクを掲げていた夜叉姫が振り返る。

「おまえの勝ちだ、それでもういいだろ」

神楽ちゃんが振りかえりもせずそう言った瞬間、

ぐいっ!

「あうっ」

綾乃ちゃんは神楽ちゃんのポニーテールを鷲掴みにして、力任せに引き寄せる!

「外野が勝手なことしないで」

ぶっきらぼうに言うとそのまま神楽ちゃんを邪魔そうにマットに投げ捨てる。

「・・・コッチはSYURAの看板背負ってるのよ」

夜叉姫は踵を返しコーナー隅でうずくまるネコ少女に向き直る。

「おい待て!」

神楽ちゃんは起き上がると、後ろから綾乃ちゃんに掴みかかる!

「いたっ・・・ちょ、何すんのよ!」

「もうやめろって言ってんだ!!」

綾乃ちゃんを羽交い絞めにして神楽ちゃんが怒鳴る!

「邪魔すんなぁあああっ!!」

綾乃ちゃんは叫ぶと後ろにヘッドバット!

「がっ・・・」

顔面を直撃され、ひるむ神楽ちゃん。

そして綾乃ちゃんは振り向きざまに神楽ちゃんの襟首を掴む。

ドスっ

そのまま前かがみにさせると神楽ちゃんのお腹に綾乃ちゃんの太腿が深々と突き刺さる!

「げふっ!」

神楽ちゃんの身体が跳ね上がる!

「負けて暇だからって、人の試合を邪魔するのは褒められた趣味じゃないわね」

そう言うとさらにもう一度太腿をお腹に叩き込む!

「ぐぅ・・・」

綾乃ちゃんは腕を放すと、前かがみになった神楽ちゃんの背中に両手を組んで大きく振りかぶるとハンマーを落とす!

ゴスっ

「がはっ」

鈍い悲鳴をあげて神楽ちゃんがマットに沈む。

「まったく・・・心配しなくても糞ネコちゃんの無様な泣き顔を晒ししたらそれで終わりにしてあげるわよ」

ため息をつく綾乃ちゃん。

神楽ちゃんの心情も良くわかるんだけど、ルール的にはマスク剥ぎは反則じゃないけどセコンドの介入は反則なんだよ・・・

「ふざ・・・けんな・・・」

マットに這い呻きながらも神楽ちゃんが綾乃ちゃんの足を掴む。

「人の試合にセコンドが乱入しといて偉そうな事言ってんじゃないわよ!」

怒った綾乃ちゃんが神楽ちゃんの襟首を掴んで強引に引き釣り起こす。

「忘れちゃったなら、もう一度身の程を思い出させてあげるわ」

綾乃ちゃんはそう言うと神楽ちゃんの体を担ぎ上げ容赦なく引き絞る、アルゼンチンバックブリーカー!!

「うあああああっ・・・・・・・・!!!!」

弾けるような悲鳴があっという間に音の無い物に変わる、声も出せ無い強烈な絞めに神楽ちゃんの背骨がきしむ!

以前神楽ちゃんを失神KOさせた荒技だ。

「ほらぁっ!あたしに意見するなんてっ100年早いのよっ!」

今度はゆっさゆっさと神楽ちゃんの体を揺すり、反動をつけ締め上げながら毒づく綾乃ちゃん。

「がっ・・・はっ・・・あっ・・・くん・・・はぅっ・・・」

揺すられ締め上げられる度に神楽ちゃんから悲鳴が漏れる

「ああん綾乃お姉さまぁ!もう許してあげてぇ、さっきミナがいっぱい痛めつけたばっかりだからそれ以上したら神楽お姉さま怪我しちゃうぅ」

エプロンサイドに駆け寄って美奈子ちゃんが悲鳴をあげる、あのドS娘の見立てなんだから確かなんだろう。

「あははははっ!無様ねえ!ほらあ!ごめんなさいはっ?自分で言わなきゃ許さないわよ」

絞めを緩めながらも愉快そうに笑う綾乃ちゃん、まさに鬼、いや夜叉だ・・・・。

「弱っちい癖にでしゃばるからこうなるのよ!」

「・・・・っっっっっっだまれえぇっっっ!!」

怒号が響きみんなが一斉に振り返る!

すくと立ち上がるネコ少女、ばさりと被っていた布がはらい落ちる。

見ると布の一端を噛み裂いて包帯状にし、それで半分に千切れたマスクを補うように巻いていた。

おでこの脇で締め上げるようにがっしりと結び目を作るネコ少女、結び目が角のようにピンとたっている。

そして反対側のあまった布をばっと首に巻きつけるように背中に回す。左右にたなびく布は、まるでマフラーみたいだ。

そして箱に入ってた絵の具を使ったのか、顔には歌舞伎の隈取りのような猛々しいペイントが施されていた

「はん・・・セコンドをけし掛けておいて自分はゆっくりお化粧休憩?・・・全く卑怯な泥棒ネコらしいわね」

神楽ちゃんを放りだすように解放すると、馬鹿にしたように吐き捨てる。

「・・・・そうよ、神楽ちゃんが私を守ってくれたからマスクもしっかり直せたわ」

蔑まれる事を全く意に介さず、神楽ちゃんの介入を全肯定するネコ少女。

「お姉さまぁ・・・・無茶しちゃ駄目ですぅ」

二人がバチバチと火花を散らす隙に呻く神楽ちゃんを、美奈子ちゃんがリング外に連れ出す

「ははん、開き直るんだ、別にいいけどね、・・・だったらその化けの皮も剥いでもう一度あんたの無様な本性を晒してあげるわ」

狂気に満ちた夜叉姫の赤い眼が光る。

「・・・怒りに呑まれてはならない、怒りは両足に込め己を支える礎とせよ・・・」

しずかだけど凛と通る声が響く。

「武の真髄とは、・・・己に克つ事にあり・・・故にただ修練あるのみ」

何かを諳んじるかのように目を閉じたまま言葉を続けるネコ少女。

「なに?」

時代がかった固い言いまわしに怪訝な顔をする夜叉姫。

「武の神獣、獅子虎の眷属に連なる者、心・技・体、その全ては牙無き者を守る為の剣と心得よ・・・」

ネコ少女はまるで勅(みことのり)を読みあげる巫女のような佇まいでそういうと、目を閉じたまま少し上を向いて大きく息を吸い込む。

「私は・・・・力に溺れたあなたなんかにはぜっッッっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったいに負けない!!!」

かっと目を開き、決意に満ちた咆哮と共に今までとは違う構えを取るネコ少女、・・・あの構えは・・・

「神獣ライガーの名において、夜叉の闇を討つ!」

・・・・そうだ間違いない、あれは仮面ライガーの構えだ、やっぱりあの娘は本当にあのライガーマスクの関係者なのか!?

「言ってくれるじゃない!薄汚い泥棒ネコが・・・獅子虎(ライガー)ですって?笑えない冗談だわ・・・」

怒りのオーラを全身に漲らせる夜叉姫に一歩も引かない構えのネコ少女。二人とも本当に凄い。

格闘技を修める者として二人のこの闘志には心から尊敬を覚えるよ。

だけど体力は限界に近い筈、僕はレフリーとして二人とも必ず無事にリングから降ろす義務がある。

例え二人が本当に鬼神と神獣だったとしても、もう尻込みなんかしてられない、

「わかったよ、二人ともまだ続けるっていうなら残り時間10分の1ラウンド、それが限度だ。」

はっきりきっぱりと言いきる。

「セコンドの介入、凶器の使用、反則行為、全て禁止して即時試合終了にするし、それ以外でも危険だと僕が判断したら即座にレフリーストップするよ」

フェアにそして選手の安全を、レフリングの基本大原則。何ら臆する事は無い。

邪魔をするなと言わんばかりの二人の視線がコチラに向く。

「それに文句があるなら、今すぐリングから降りろ!!体力がちゃんと回復した後でならいくらでも相手になってやる!」

確かに二人とも本当に凄い。でもだからこそ僕だって本気でやらなくちゃ。

「ふん、・・・早くはじめなさいよ」

「・・・・」

綾乃ちゃんがぶっきらぼうに答え、ネコ少女も無言でうなずく。

それを確認してふたりを各コーナーに分ける。

「それじゃ二人とも悔いの残らないよう、頑張って!・・・ファイナルラウンド!・・・レディファイッ!!」



9. 鬼神の姫 vs 神獣の巫女





[奈々子]


いやいやいや、この闘争エネルギーは質的にも量的にもすごいわよ

こんなに吸収しちゃったら私、霊格だってどんどん上がっちゃうんじゃなーい?

ちょっと収穫ありすぎて怖くなっちゃうレベルねー♪

悪霊パワーで結界内にアドレナリンを放出を促す波動をだしまくったかいがあったわあ。

でも試合終盤に来てもイケイケな二人の状態は、アドレナリンの働きも勿論あるけどそれだけじゃないの。

まあ霊体の私の目から見たら綾乃ちゃんの夜叉姫は何時も通りのチャクラ全開放状態。ぶっちゃけこれが夜叉姫の力の正体っていうか原理。

ああやって生命力を引き出せば多少のダメージを物ともしなくなるのはわかるけど、やりすぎると数日レベルで寿命が縮んじゃうし一度に引き出せるエネルギーには流石に限りがあるわ。

当然チャクラの開放は精神にも影響を与えるから心の箍が外れて性格もあの通り別人になっちゃうし。

一方のすみれちゃんの方はなんていったらいいかしら、気をコントロールしてチャクラに還流させて練り上げてるみたいな?

練られたエネルギーはどんどん高密度になっていくから、気を昂じさせ五感や身体能力を底上げする効果があるわね。

でもあれじゃ器である身体にかかる負担が大きいし、それに余程の達人でもない限りそんな長くあの状態は維持できるような物じゃないわ。

まあどっちも持ってあと5分、10分がいい所って感じね。

そういう意味じゃ朔夜君の決めた残り10分ていうタイムリミットは結構いい線突いてるかも。

でも綾乃ちゃんの夜叉姫は先天的な特異体質みたいな物だけど、すみれちゃんの方はやっぱり武術の鍛錬の成果かしら?

物心付いた時からずっとお爺様に厳しく仕込まれてきたみたいだし・・・

しかもそのお爺さんがあのライガーマスクだって言うんだからホント驚きよね〜。

でも本人はそれが嫌でしょうがないらしく、神楽ちゃんにすらその事はひた隠しにしてるみたいだけど。

まあライガーマスクの孫娘が子ネコ仮面っていうのはなんか可笑しい話だけど、ネコ科つながりは伊達じゃないって事かしら?


「荒ぶる鬼神、夜叉の姫君と武の神獣、獅子虎の巫女!最終決戦残り10分!」

リングアナとしてそれっぽいコメントを入れてみたり

緊張が走る場内、心臓の鼓動だけがやけにがうるさく聞こえ――、とか言いたいところだけどあたし幽霊だから・・・心臓動いてないのよね・・・・。

まーそれはさておき、お互いがお互いの間合いに入り固唾を呑む場内の緊張が最高潮に達した瞬間・・・・・

ぱぁあん!!!

すみれちゃんが綾乃ちゃんの頬を思いっきりビンタで張ったの!!

横を向いた顔をゆっくり戻す綾乃ちゃん、視線が再度ぶつかり合う。

ぱああん!!

今度は負けじと綾乃ちゃんがフルスイングのビンタ!!

すみれちゃんの顔が揺れ上体が流れる。

それでもすみれちゃんはその場に踏みとどまって間髪入れず思いっきり張り返す!!

「うおおおおおお」

興奮の坩堝と化した場内に乾いた音が響きわたりさらにビンタの交換が繰り返される!

「お互い足を止めてのビンタの応酬!!一歩も引かぬ、まさに女と女の意地と意地のぶつかり合い!」

互角の意地のぶつかり合い、・・・と言いたい所だけどやっぱりパワーに勝る綾乃ちゃんの方が誰の目にも優勢ね。

張られる度によろめきながらそれでも引かないすみれちゃん、いくらなんでも無理があるわ・・・どうしちゃったのかしら?

気づかれない様にそっとすみれちゃんの思念に波長を合わせてみる。

(・・・かぐらっ・・・ちゃん・・・を・・・馬鹿に・・・するなっ!!)

なるほど・・・神楽ちゃんを馬鹿にされた事、・・・そしてそれを招いた自分が許せないのね。

でもあれは売り言葉に買い言葉みたいな物で、綾乃ちゃんも決して本心で言ったわけじゃないと思うんだけどね・・・。

まあ、すみれちゃんだってそれをわかってないわけじゃないと思うんだけど・・・誤解で関係が拗れないように見守ってあげなきゃね。

でも・・・若いっていいわねえ・・・すごく青春だわあ^^

・・・ってなにオバサンみたいな事いってんのよ、あたしは!、違うのよ、あたしも一応15歳なんだから!ホント!

ぱあああんっ!

10発目ぐらいの振りぬくようなビンタでとうとう綾乃ちゃんの顔が大きく揺れ、後ろに少しだけよろめいたわ。

綾乃ちゃんは赤くなった頬に手を当て、すみれちゃんの方を見返す。

すみれちゃんはほっぺを真っ赤にはらし、膝に手をついて肩で息をしつつも必死に睨み返しているわ。

「・・・・・・っ!」

その様子にイラだったのか、途端に猛然と踏み込むと首を刈り取るような夜叉姫のショートレンジラリアットが炸裂!

吹き飛ばされるすみれちゃん!

意地の張り合いはすみれちゃんに軍配かしら?でも形勢は綾乃ちゃん有利よね。

「遊びは終わりよ!」

コーナーマットに叩きつけられ呻くすみれちゃんに突っかかる!

「くっ」

すみれちゃんは綾乃ちゃんの腕をとって裁こうとするけど、

ドガッ

掴まれたままその腕を振り切るようにオープンハンドブローが炸裂!

ゴスっ

よろめくすみれちゃんに更に容赦なく反対の腕で追撃!

「くぅ・・・」

まさにベイダーハンマーを髣髴とさせる猛ラッシュに、コーナーマットに押し込まれるれるすみれちゃん。

「おらぁ!!っ」

執拗にハンマーが振り下ろされ―

「・・・・・シャッ!」

と、思った瞬間指を丸めた猫手のような掌打が綾乃ちゃんの顎を打ち抜いていたの!

よろめいて後退する夜叉姫、カウンターで入ったし、これは効くわよ。

「フシャアアアアアア!!」

怒ったネコみたいな唸り声をあげ飛び掛るすみれちゃん、全身のバネを使っての飛び込みからの掌底!

「がっ」

とっさにガードしようとした綾乃ちゃんの顎にクリーンヒット!

「シャゥっ!!」

更に膝を使って全身で伸び上がり打ち抜くようなアッパー掌底!

ゴッ!!

顎への掌底3連撃!幾ら夜叉姫でもこれは・・・・!

「がふっ・・・」

と、苦しそうな悲鳴をあげたのは・・・すみれちゃん!?

見るといつの間にかすみれちゃんの鳩尾に綾乃ちゃんの拳が刺さってる!

カウンターというより相打ち覚悟で振り回したって感じかしら?

「ぐぅ・・・・」

動きが止まり前かがみになるすみれちゃん。

「まったく・・・」

顎を擦りながら首を回す綾乃ちゃん、そのまますみれちゃんの髪を捕まえ頭を押し下げる。

「言ったでしょ、あんたの技なんて・・・」

そういうと右足を大きく後ろに引いて・・・

「効かないのよ!」

突き上げるように振り上げた太腿が、すみれちゃんのお腹に突き刺さる!!

「げうぅっ」

体が持ち上げられるような勢いの打撃に悶絶するすみれちゃん!


「おらあっ!!」

左手で髪の毛を掴んだまま体を投げ出すように半回転すると首筋に右腕を巻きつけ、そのまま体重を乗せてマットに叩きつける!

変形のブルドッキングヘッドロックというか、首斬りフェイスバスターとでも言ったらいいかしら?強烈な一撃にマットが揺れる。

「ぐぅ・・・」

押しつぶされたような鈍い悲鳴があがる、これは・・・・

「ねこっち!」

神楽ちゃんの悲鳴が響く


立ち上がった綾乃ちゃんは、勝利を確信して両手を突き上げる

と、―

「・・・言ったでしょ・・・・・・」

綾乃ちゃんの背後からすみれちゃんの声が響き、

「・・・絶対負けないって・・・!!!」

力を振り絞って立ちあがるすみれちゃん。

試合を止めようとしていた朔夜君が唖然としてコチラに視線を向ける、

そんなこっち見られても、私の目からだとエネルギー密度のせいか金色っぽく発光してるって事ぐらいしか・・・

「はんっやるじゃない」

綾乃ちゃんはすみれちゃんに組み付くと、髪を掴んで頭を押し下げ胴に腕を巻きつける。

これは・・・!

「いくぞおおおお!」

そのまますみれちゃんの体をぶんまわす、KO率100%、最凶の必殺技アヤチャンリフト!!!

でも、

「うっ!?」

すみれちゃんが、綾乃ちゃんの首に足を巻きつけたの!

「にゃおおおおお!」

そして振り回された勢いを逆に利用し、綾乃ちゃんの首を軸にしてコルバタだっけ?の要領で回転する!

そして翻弄される綾乃ちゃんの隙をつくと、そのまま傍らのコーナーマットに足をかけ一気に駆け上る!

「な・・・・!」

状況が把握しきれていない綾乃ちゃんの頭上で倒立状態になるすみれちゃん、これは・・・・!


「ライガァァ・・・バァイツッッ!!!(獅子虎の咬裂!)」

叫びとともに天上からの重力加速と遠心力の勢いを乗せた大回転膝蹴りが深々と突き刺さる!!!

まさに獅子虎の牙の一撃・・・こんな技を隠してたなんて・・・!

「がふっ・・・」

たまらず弾かれるようにたたらを踏む夜叉姫、それでもまだ倒れないわ!


「にゃおおおおおおおおお!」

途端、すみれちゃんが叫び、宙に舞う!

これは―

ローリングソバット!!

「がっ・・・」

まるでライガーマスクの生き写しのような華麗な一撃に、とうとう夜叉姫が青天で倒れる。

「とっ・・・とうとう獅子虎の牙が夜叉姫を切り裂いたあ!!」

興奮しつつも実況を入れるのも忘れないように・・・でもこれは見入っちゃうわよ!

「くっ・・・」

実況に反応したのか頭を振りながら立ち上がる夜叉姫。その目はまだ闘志の光がともってるわ。

「・・・!?」

・・・でも後ろに回りこんでいたすみれちゃんの姿は見失っていたみたいね。

綾乃ちゃんが立ち上がった瞬間に、後ろから腕を交差してひきつけるすみれちゃん。

「・・・・うっ!」

綾乃ちゃんが反応する前に間髪居れず綾乃ちゃんの股下に頭を入れ、そしてそのまま上体を起こし綾乃ちゃんを背中合わせに持ち上げる。

重心を崩され抵抗できず一気にリフトされる綾乃ちゃん、、すみれちゃんの肩を乗り越える形で頭が真下に向けられる!


まさかこの体勢は・・・・ぎ、逆像の、ライガードライバー!?

「Requiem!」

祈るようなポーズから叫びと共にマットを蹴るように足を跳ね上げるすみれちゃん!

尻餅をつく体制で綾乃ちゃんの腕をロックしたままマットにダイブ!


ばぁあああん!

すさまじい衝撃にマットが揺れる!!

ライガードライバー・・・レクイエム?・・・まさにレクイエム(葬送曲)の名に相応しい技だわ!

大の字の綾乃ちゃんを尻目にカバーには入らずに、よろめきつつ立ち上がると肩で息をしながらも自陣のコーナーによろよろと戻るすみれちゃん。

まあ、確かにカウントアウトなんてしなくても火を見るより明らかなKO・・・よね

「ら、ライガードライバーレクイエム!獅子虎の超必殺技が夜叉の姫君を捕らえた!!・・・25分13秒ついに激闘に終始ふっ!?」

そこまで言った時綾乃ちゃんがむくりと上体を起こしたの・・・あの技を受けてよ、信じられないわ!

あまりの事に実況途中で思わず固まっちゃったわよ。

「・・何・・・言っちゃってんの・・・まだ・・・よ・・・」

髪を振り乱し、搾り出すような声とともに立ち上がる綾乃ちゃん。

ただ、目だけがギラギラと輝いてる

「だめだ、もうこれ以上は・・・」

朔夜君が止めにくるけど、

「そうでしょう!!」

朔夜君の後ろに向かって叫ぶ綾乃ちゃん。

慌てて目を向けたその先には・・・既にコーナーポストに登っているすみれちゃんが!

どうやら試合の当事者同士は、互いにまだ終わってない事がわかってたみたいね。

「にゃおおおおお!!!!」

綾乃ちゃんに呼応するように天を向いて咆哮をあげるすみれちゃん!

「あははははははは!来なさああああい!!」

夜叉姫の笑い声がそれに重なって溶け、すみれちゃんがトップロープを蹴って飛ぶ―

「ライガァァァァァァアア・・・・・!」

―そして空中で一回転、これはあの・・・!

「キイイィィィィィィィィィィィィィッッッッッッッッッック!!!」

仁王立ちの夜叉姫に烈魄の気合を込めた流星のようなキックが突き刺さる!

これはあの仮面ライガーの必殺技!・・・ライガーキック!!

着地したすみれちゃんが立ち上がる背後で夜叉姫がゆっくり崩れ落ちる。

まさに往年の仮面ライガーのそのものの画だわ、あの娘やっぱり本物なのね。

駆け寄った朔夜君が有無を言わさず大きく両手を振る!

カンカンカンカン!!!

「伝説の必殺技ライガーキック一閃!・・・26分42秒、ついに神獣の巫女、鬼神の姫を討ち取ったり!」

私はゴングを打ち鳴らし試合終了を告げる。


こうして夜叉姫VSネコ仮面の死闘は幕を降ろしたの。




×成瀬綾乃
(26分42秒)
KO
ライガーキック

ラ・ガティータ・ビオレタ



10.雨降って地固まる?


[朔夜]


綾乃ちゃんを背負って保健室に向かう。

奈々子さんが大丈夫って言ってたから大丈夫だろうけど、やっぱり心配だしちゃんと休ませないと。

保健室は奈々子さん曰くベッドを中心に特殊な結界が張ってあってキズもみるみる回復するらしいし。肌にアザでも残ったら可哀想だもんね。

それにしてもすごい試合だったな・・・

まあ、ネコ少女がライガーマスクの関係者だなんていきなり突飛な話だったけど。

でもあんな試合を見せられたら信じざるを得ないよ。

全開の夜叉姫相手に真正面から打ち勝って倒すなんて・・・あれがネコ少女の本気なのか・・・あのときぼくはよく勝てたな・・・・。

そんな事を考えながら渡り廊下を歩いていると、

「・・・・・!!」

ようやく綾乃ちゃんが目を覚ましたみたいだ。

「綾乃ちゃん大丈夫?」

おんぶしたまま聞いて見ると、

「・・・ここどこ?」

なんだか逆に質問がかえって来た。

「どこって保健室に向かってる所だよ」

「保健室って・・・・何で?試合は!?」

どうやら記憶が混乱してるっぽいね。

「覚えてないの?・・・僕が試合を止めたんだ、今回は綾乃ちゃんの負けだよ」

そう説明した途端、後ろから髪の毛を掴まれ首を絞められる。

「・・・ふざけんじゃないわよ!止めたら殺すって言ったでしょ!!」

ギリギリと物凄い力で容赦なく首が締め上げられる、ま、まだ夜叉姫状態のままなのか!?

「うぐぐ・・・・いい加減にしろっっ!!!」

力任せに綾乃ちゃんの腕を振りほどくと振り向きざまにおもいっきり張り倒す!

「ぎゃんっ」

綾乃ちゃんが尻餅をついて倒れる。

「死ぬとか殺すとかそんな事、簡単に言うなっ!!」

怒鳴りつけると、そのままきっと睨み返してくる綾乃ちゃん。赤い眼はまだ夜叉姫状態のままだっていう証だ。

「あたしに向かってそんな態度とって只で済むと思ってるの!」

物凄い力で襟首を掴まれ引き付け締め上げられる、

「どっちが強いのか、あんたが誰の物なのか、もう一回体に思い出させて欲しいわけ!」

ぐぐ・・・勝手な事ばっかり言って!僕だって怒る時は怒るぞ!!!

「ふざけんなっ!!」

のしかかるように綾乃ちゃんを床に叩きつけて押し倒して馬乗りになる!

「強いとか弱いとかそんな事、関係あるか!僕が誰の物かなんて事は僕が決める事だ!」

そのまま綾乃ちゃんの腕を押さえつける。

「それに、僕が綾乃ちゃんの物だって言うなら綾乃ちゃんだって僕の物だっ!、意地張って無茶して必要以上に傷つくような真似は2度と絶対に許さないからなっっっ!!!」

綾乃ちゃんの身勝手な物言いにあんまり腹が立ってしまい、我を忘れて大声で怒鳴りちらした!

「・・・・・・・・!」

そのままの姿勢で沈黙が流れる、誰も居ない学校は凄く静かで他の物音一つしない。

感情任せに言いたい事を吐き出したらスッキリはしたけど・・・少し冷静になってみると・・・なんかちょっと怖くなってた。

内心冷や汗な気分で固まっていると、

「・・・・・・重いんですけど」

綾乃ちゃんは横を向いてぼそっという。

「え・・・ああ・・・」

あわてて綾乃ちゃんの上からどく。

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・えっと」

「・・・・・・・・・・」

僕がどいても綾乃ちゃんは床に転がったままでいる。

「あの・・・」

「抱っこ」

「へ?」

あまりにも予想外の返事にマヌケな声が出てしまう。

「抱っこ〜」

腕をのばして足をジタバタさせる綾乃ちゃん。

・・・何それ?さっきまでとは別人じゃないか。

「なによお大事にしてくれるんでしょおおお?」

「いやそれは・・・」

そういえば、綾乃ちゃん赤い眼の光が消えてる、夜叉姫状態が解除されたんだね。

・・・なんだか電化製品みたいでわかりやすい話ではあるけど・・・。

「もー試合であの性悪ネコに散々ボコられてその上朔夜君にビンタされて馬乗りになって怒鳴られてもう歩けない〜っ」

電気仕掛けの綾乃ロボRXは夜叉姫状態になると目が赤く光るギミックを搭載!とか、ツマンナイ事を考えてたら更にジタバタしだす綾乃ちゃん。

「わかったよ・・・」

そういって腰をおろすと、

「ん〜」

ぎゅむと綾乃ちゃんが抱きついてくる、やらかい感触とシャンプーの匂いがなんとも・・・やば・・・反応しそう。

「綾乃ちゃん・・・」

「ん〜なにー?」

耳元で綾乃ちゃんの声がくすぐったい。

「お、おんぶでいいかな?」

おそるおそるそう聞いてみた

「え〜なんでー」

ちょっと不満そうな綾乃ちゃん。

「いや、ちょっと安定しなさそうで・・・段差とか見えにくくて危ないし」

あたりそうとかちょっと重いだとか、そういうホントの事は伏せておく事にする。

「も〜しょうがないなー」

不満げにしつつも背中によじよじとまわる綾乃ちゃん。

それを確認してよっこいしょと立ち上がる。抱きついてくれるのでヒジョーに運びやすい。

なんだか綾乃ちゃんはすっかり上機嫌になってるぽい。

午後の日差しが柔らかい渡り廊下で背中に綾乃ちゃんの甘くて柔らかい感触が・・・って安いラップのライムかい、恥ずかしいわ、もう。

「・・・・ねー」

耳元で綾乃ちゃんの甘えたような声が、

「ん〜?」

「ねえ、もう一回言って?」

いたずらっぽく囁くような声が耳をくすぐる

「え?何を」

何の事か聞き返すと、

「誰が誰の物なのかって話」

なんだかやたら嬉しそうに言う綾乃ちゃん。

「・・・・・」

「ねーもういっかーい」

ちょ・・・背中に胸押し付けて耳元でそんな声だされたら・・・。

しかしそんな所にスイッチがある物なのかー・・・女心はよくわかんないなあ。

まあ結果的に丸く収まりそうだしこれで良かったのかな?

そんなふにゃけた事を考えながら長い渡り廊下歩いていると、

「負けちゃった・・・」

背中でぼそっと綾乃ちゃんがつぶやいた。

「うん、そうだね」

自分でも気の利かない返事だとは思うけど、それ以外かける言葉が出てこなかった。

「これでも一応、SYURAの看板・・・背負ってたつもりだったんだけど・・・」

そういう綾乃ちゃんの言葉は少し震えているように聞こえた。

「そうか・・・そうだよね」

綾乃ちゃんなりに必死になってた理由はそこにもあったんだなと思う。

「・・・あの娘、・・・怒ってたよね」

ふと綾乃ちゃんがそんな事を言い出した。

「うん」

「あれってやっぱり・・・神楽ちゃんの事かな?」

・・・夜叉姫の時の事とは言え綾乃ちゃんも気にはしてたんだね。

「うん、多分・・・そうかな」

確かに神楽ちゃんの事がネコ少女の闘志に火をつけたように僕の目には見えたけど。

「私、酷い事・・・言ったよね、やっぱり」

申し訳なさそうにつぶやく綾乃ちゃん。

「・・・ちゃんと謝れば大丈夫だよ」

「そうかな・・・・」

「そうだよ、あの状況なら仕方ないよ・・・何なら僕も一緒に付いて行って上げるから」

「うん、・・・おねがい」

そういうと綾乃ちゃんがぎゅっと抱きついてきた。

11.正義の味方も楽じゃない


[奈々子]

あらーちょっと目を離した隙にすっかり甘々じゃな〜い。

あんまり煽って仲違いさせちゃったら悪いかと思ったけど、ちょっと二人っきりにしたらこれだもん、気にするだけ野暮だったわね。

でもあの子達は二人っきりと思ってるのかも知れないけど、学校各所に貼り付けてある霊覗の符を通してこうやって監視カメラの映像を受信するみたいに覗けちゃうんだけどね♪

こちとら伊達にこの学校で10年も地縛霊やってないってね

(な・・・奈々子さん・・・)

キャッキャウフフと覗きを楽しんでいたら、なんかヘロヘロな思念が、ん?すみれちゃん?

(何?どしたの)

(・・・・・・・)

試合に勝ったのに、なんか物凄いどんよりしてるわ、どうしたのかしら?

(もしもし?)

(・・・・・・・)

(・・・あ!勝手に私の視界を覗いたわね!)

確かに思念の波長が合わせられるなら、私が受信してるビジョンを横から覗くのも理屈からして可能だわね。・・・んで今の朔夜君達のやりとりも見ちゃったと。

(わ、私勝ちましたよね・・・)

なんかもうへなへなと今にも崩れそうな弱りっぷりだわ。

(んん・・・そうねえ)

ありゃま、困ったわね・・・

(勝ったのに、なんで・・・)

弱りながらも物凄く納得いかない風な複雑な感情の入り混じった思念が届く。

(ん〜?・・・試合に勝って勝負に負けたって感じ?)

今更取り繕ってもしょうがないので直球で応えてみる。

(ま、まけてないもん!)

納得いかない気持ちはわからない事もないけど・・・。

(まあ試合に勝てば全部解決!なんて男と女はそんな単純な話じゃないからねー)

あたりまえの話をすると、

(うう・・・)

あ、へこんでるへこんでる

「まあ、ヒーローってのは昔から報われない物なのよ」

(そんな・・・)

とその時、


「のあああああああああっ」

霊視カメラのビジョンから変な悲鳴が

(さ、朔夜さん!?)

見ると保健室で綾乃ちゃんが笑顔のまま朔夜君をアルゼンチンで担ぎ上げてるわ!

ちょっと!さっきまでの甘々ムードはどうしたのよ!?

「で、ネコちゃんとキスしたってどういう事?」

・・・ありゃま・・・そういやそんな話もあったわね

メキメキと容赦なく締め上げる綾野ちゃん

「ち、ちがっ・・・・あれ、わっ・・・そんなっ大した事っ・・じゃなくて事故・・・みたいなっ・・・」

(大した事じゃない!?事故!?)

朔夜君の言い訳に明らかに大ショックを受けてムンクの叫びみたいになってるすみれちゃん。

あーあもう・・・

「ちょ、ちょまっ、僕はひがいひゃっ・・・やめっ、たったすけてええぇぇぇぇぇ・・・」

プツン

あ、式札に込めていたた霊力が尽きてカメラの映像が切れちゃったわ。

(・・・・・・)

(・・・大した事ない・・・じこ・・・・・)

(・・・ひがい・・・しゃ?・・・)

(・・・・・・)

どうしようもない沈黙が流れる。

(・・・すみれちゃん・・・こういう場合、正義の味方さんは助けに行かなくていいの?)

一応そう聞いてみると、

(せ、正義の味方は来週までお休みですっ!)

あらら、すっかりスネちゃったわ。

まー朔夜君は自業自得な部分も多いしー・・・今回はご愁傷様って事で?


さて・・・第2回SWGPも残すは決勝だけ、

どうなる事やらはまたのお楽しみね、それじゃ次回また、しーゆー






















 


〜つづく〜


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